大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(あ)538号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人末永汎本の上告趣意のうち、憲法二一条違反をいう点については、本件「高麗人参濃縮液」は、被告人らによつて標ぼうされた効能、効果の点を除いても、客観的に薬事法二条一項の医薬品に該当することが明らかであるから、所論はその前提を欠き、憲法三一条違反をいう点は、薬事法二条一項の医薬品の定義は所論の主張するように不明確ではないので、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 中村治朗 谷口正孝)

弁護人末永汎本の上告趣意

一、本件に関する昭和五四年九月二八日付山口地方裁判所徳山支部判決(以下「原判決」と略称する)及び昭和五五年二月二六日付広島高等裁判所判決(以下「広島高裁判決」と略称する)には判決に影響を及ぼすべき法令解釈の誤りが存し、これを破棄しなければ著るしく正義に反すると思料する。

原判決及び広島高裁判決は、薬事法第二条第一項にいう「医薬品」の定義について、結局のところ昭和四六年六月一日付厚生省薬務局長通知第四七六号を踏襲し、例え食品であつても、医薬品的な効能効果を標ぼうすれば「医薬品」として薬事法の規制の対象となるという誤まつた結論に到達しているように窺われる。しかし右は到底是認し難い誤謬であるといわねばならない。

そもそも一つの食品が「医薬品」とされるべきか否かは、一つの時代の特定の時期における法の制定や解釈のみによつて決せられるべきものではなく、民族の、ひいては人類のもつ当該食品に対する依存度、信頼性等の歴史を通じて、いわば先人からの遺産として評価しうるか否かにかかつているといつても過言ではない。いわゆる朝鮮人参についていえば、古来より数千年にわたつて食品ないしは薬効食品として重用されてきたものであつて、一片の通達や法令によつて容易にこれを国民の手から奪い去されるものではない。したがつて、この種の食品ないしは薬効食品を「医薬品」の概念のもとに薬事法の規制の対象としようとする発想からして問題とされなければならないのであるが、少くとも現行薬事法の解釈としても、朝鮮人参等古来から食用に供せられてきた食品や現に食品として使用されているものは「医薬品」の概念から除外すべきであると思料する。

なお、前記厚生省薬務局長通知によれば、通常の食生活において食品としても使用されるものであつても、

① 医薬品的な効能効果を標ぼうするもの

② 形状及び用法用量が医薬品的であるもの

のいずれかに該当すれば医薬品と認定されることになつていたところ、広島高裁判決によれば、

その物の成分若しくはそれが本来的に有する薬理作用だけでなくその物の形状(剤型、容器、包装、意匠等)、名称、その物又は添付文書に表示された使用目的や効能、用法用量、販売の際の演述等をも参酌して、その使用目的性の有無を総合的に判定すべきもの

と判示しており、厚生省薬務局長通知の不当性を認識し、単に「医薬品的な効能効果を標ぼう」したのみでは医薬品に該らないと解釈しているようにみえないではないが、かりにそうだとすれば上告審においてその旨宣明されたいと希望する。

二、原判決及び広島高裁判決は憲法第二一条、第三一条に違反している。

右両判決のいうように単に「効能効果を標ぼう」するのみであつても「医薬品」と想定されるというのであれば、物のもつ効能効果を正確に演述しても法に触れるという結論に到達する。

特に広島高裁判決は、

かかる制約は薬事法の趣旨、目的に照らし、国民の健康な生活の確保等の見地からまことにやむを得ない合理的な規制というのであるが、その物のもつ食物としての効用を正確に他人に伝達することを何故に禁止しなければならないのであろうか。

偽薬を「医薬品」と称し、効能効果の存しないものをこれある如く装うというのであれば当然に規制の対象となりえようが、真実を真実として伝えることを「公共の福祉」の観点から禁止することは憲法第二一条に違反する。

また薬事法第二条第一項の「医薬品」の定義は原判決がいうような、

幾分抽象的なきらいがないわけではない。

の程度を越えて著しく抽象的かつ不明確であり、罪刑法定主義に背馳し、憲法第三一条に違反する。

よつてさらに適正な判決を求めて上告に及んだ次第である。

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