大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(あ)1699号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松下照雄、同斉藤正和の上告趣意は、憲法三一条、三七条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、所論にかんがみ、職権により判断する。原判決の認定によれば、空手三段の腕前を有する被告人は、夜間帰宅途中の路上で、酩酊した水島幸子とこれをなだめていた播磨安年とが揉み合ううち同女が倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻もちをついたのを目撃して、播磨が水島に暴行を加えているものと誤解し、同女を助けるべく両者の間に割って入った上、同女を助け起こそうとし、次いで播磨の方を振り向き両手を差し出して同人の方に近づいたところ、同人がこれを見て防御するため手を握って胸の前辺りにあげたのをボクシングのファイティングポーズのような姿勢をとり自分に殴りかかってくるものと誤信し、自己及び同女の身体を防衛しようと考え、とっさに播磨の顔面付近に当てるべく空手技である回し蹴りをして、左足を同人の右顔面付近に当て、同人を路上に転倒させて頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ、八日後に右傷害による脳硬膜外出血及び脳挫滅により死亡させたというのである。右事実関係のもとにおいて、本件回し蹴り行為は、被告人が誤信した播磨による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとし、被告人の所為について傷害致死罪が成立し、いわゆる誤想過剰防衛に当たるとして刑法三六条二項により刑を減軽した原判断は、正当である(最高裁昭和四〇年(あ)第一九九八号同四一年七月七日第二小法廷決定・刑集二〇巻六号五五四頁参照)。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷厳)

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