大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)73号 判決

大分市長浜町三丁目六番三号

上告人

葛城啓三

右訴訟代理人弁護士

内田健

大分市中島西一丁目一番三二号

被上告人

大分税務署長

阿南治夫

右当事者間の福岡高等裁判所昭和五八年(行コ)第一二号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人内田健の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例に抵触するところもない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田條次郎 裁判官 髙島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖)

(昭和六二年(行ツ)第七三号 上告人 葛城啓三)

上告代理人内田健の上告理由

第一点 原判決(原判決が引用する第一審判決を含む、以下同じ)が、昭和四〇年三月三〇日付をもって大分県に道路敷地として買収された「天神島の土地」が上告人の販売目的をもって取得したたな卸資産である旨認定し、昭和四四年法第一五号による改正前の租税特別措置法第三一条の適用はないと判断したのは証拠の取捨選択を誤り事実を誤認し且つ審理不尽の違法を犯し、ひいては所得税法第二条一六号、同第三二条、前記措置法第三一条の解釈適用を誤った違法があり、これは原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 上告人は、昭和三八年六月一九日訴外村山亀生から本件天神島の土地を含む一二〇坪を取得した。

しかし、本件天神島の土地は、不動産売買のための商品、すなわちたな卸資産として取得したものではない。すなわち他に売却する意図で取得したものではない。

原判決は、「昭和三八年以降は不動産売買業の実体を備えていたと認めることができる」としたうえで昭和三八年に取得し、昭和四〇年に買収された本件天神島の土地についてはこれをたな卸資産の譲渡とみるべきであるとした。

しかしながら、上告人は、昭和三五年までは大分市上戸次で酒造業を経営しており、不動産を購入しこれを転売する業態にはなかった。

上告人は、昭和三八年以前にも大量の土地取得を行っているが(甲第九号証同第一一号証)、取得した土地の売却はほとんどない。

原判決が昭和三五年に取得したとする訴外牧弥六から購入した黒野地の土地(被上告人第三準備書面別表一の(1)ないし(19)の土地)は上告人の山林経営のために取得した土地であり、さらに昭和三六年に取得したとする別府市北石垣および南石垣の土地は昭和三六年三月、同年五月に国に売収された酒造業のための大分市上戸次の土地の代替地として取得した代替資産である。

上告人は、昭和三八年当時には未だ不動産業を営んでいたことはないのに土地の購入が多いことを理由として不動産売買業を営んでいたとする原判決の認定は証拠にもとづかない独自の見解である。

ところで、所得税法上の事業所得の発生の基因となる「事業」とは、

営利を目的とする継続的行為であって社会通念上事業と認められるもの

とされ(昭和四三年二月二八日名古屋高裁、行集一九・一・二号二九七頁、三八年二月一九日名古屋地裁、行集一四―二―二六五頁)、また、「事業所得」とは、

自己の計算と危険において対価を得て継続的に行われる業務から生ずる所得と観念すべきである。

とされ(昭和五一年一〇月一八日東京高裁、訟務月報二二―一二―二八七六頁)ている。

このような観点からしても、昭和三八年当時に上告人は不動産業の実態をなしていなかったものであるのに、本件天神島の土地をたな卸資産でありその売却による収入は事業所得であるとした原判決は右判決にも反するといわなければならない。

二 仮に、不動産業だとしても、不動産の取引きを営業とする者の有する不動産の譲渡による所得のすべてが、譲渡所得に該当しないとすることはできないのであって(東京国税不服審判所法規審査部監修、最新所得と資産の税務要覧八五四頁)、その不動産をきわめて長期間(概ね一〇年以上)保有していた場合は、その譲渡による所得は事業所得でなく譲渡所得とされている(所得税基本通達三三―三)。取得した一二〇坪のうち、本件を除いた土地は、昭和五一年一月まで昭和三八年から実に一二年余にわたって保有していた(甲第一二、一三号証)。

本件土地を昭和四〇年三月三〇日に大分県に譲渡したのは、強制収用の対象となる道路敷地として買収されたもので、このことをもって、上告人が本件土地を転売目的で取得したとすることはできない。

上告人は、右土地の大分県知事の収用対価補償金一七五万八〇円で買収され、その代替資産として、

大分市上戸次 黒尻至

別府市南石垣 弥田トミエ

の各土地を買い受けたもので、租税特別措置法三一条一項に該当する。

原判決が、本件天神島の土地の買収にともなう代替資産として右各土地を買受けたのに、租税特別措置第三一条一項に該当しない旨判示したのは証拠にもとづかないで本件天神島の土地をたな卸資産であると認定した誤りがあり、その誤りのために右特別措置法第三一条一項を適用しなかった違法がある。

第二点 原判決が、上告人が訴外湯布院町に売り渡した大字川西字ユム田の土地の売買に関して負担したマイクロバス一台(一二七万円相当)と借入金利息(一〇九万一二一〇円)の販売経費について、昭和四〇年中にはその負担が確定しておらず昭和四〇年分の必要経費とはならない旨判示したのは、所得税法第三七条一項の解釈適用を誤ったものである。

原判決は、

「右の事実に照らすと、昭和四〇年中には、上告人は湯布院町に売渡した別表(四)の土地の対価を全額金銭で取得するか一部は土地、一部は金銭で取得するかはいまだ確定していなかったものであり、それが確定したのは昭和四一年七月であり、右の収入の確定とともにマイクロバスの代金一二七万円及び利子負担金一〇九万一二一〇円の出損も必要経費として確定するに至ったものというべきである。そうすると右必要経費を昭和四〇年中に確定したものではないとしてなした、被上告人の更正処分は適法というべきである。」

旨認定し、右マイクロバスの寄付と銀行利子負担が必要経費である旨判示したが、その発生は昭和四一年であるとした。

しかし、右マイクロバスは、乙第三七号証の一の本件ユム田の土地の売買契約書作成時の昭和四〇年一一月一〇日ころに、上告人と湯布院町長との間で、本件土地の売買の条件としてマイクロバスの寄付をすることに合意していたものであることが甲第四四、四五号証によって認められ、これに反する証拠はない。

原判決は、マイクロバスの寄付は、作成日付が昭和四一年七月二日付の乙第三七号証の二の特約事項と題する書面の四項に記載されていることだけをもって、右寄付は四一年に発生したとするにすぎない。

昭和四〇年に契約した土地代金支払に関して右マイクロバスの寄付が決められており、収益及び経費対応の原則からして昭和四〇年分の本件土地の売上に対応する四〇年分の販売経費となるべきことは当然のことである。

右マイクロバスの寄付は、上告人の不動産業の事業所得として認定されている本件ユム田の土地を湯布院町に売却した売上代金四〇〇〇万円を得るために直接要した費用すなわちユム田の土地の売上原価または販売費であり、昭和四〇年一一月一〇日ころには本件マイクロバスの寄付という債務は確定しているのに原判決が所得税法第三七条一項の必要経費でないとしたのは同法の解釈適用を誤った違法がある。

第三点 原判決が認定するように仮に、マイクロバスの負担および銀行利子負担金が昭和四一年七月に必要経費として確定したものであれば、右土地の譲渡による所得も昭和四一年分の収入というべきであるのに、この収入を昭和四〇年分の所得であると判示したのは、所得税法第一〇条一項の解釈適用を誤った違法がある。

所得税法第一〇条第一項にいう収入すべき金額とは、収入すべき権利の確定した金額をいいその確定の時期は、事業所得にかかる売買代金債権については法律上これを行使できるようになったときと解するのが相当である(最高裁判所昭和四〇年九月八日第二小法廷判決刑集一九巻六号六三二頁)。

そこで、原審の認定したところによれば、

昭和四〇年中には、上告人は湯布院町に売り渡した土地の対価を全額金銭で取得するか、一部は土地、一部は金銭で取得するか確定していなかったものであり、それが確定したのは昭和四一年七月であり、右収入の確定とともにマイクロバスの代金、利子負担も必要経費として確定するに至った。

というのであるから、昭和四〇年中には、本件ユム田の土地の売買代金債権はその内容が金銭で支払われるのか代替地が一部提供されるのが確定しておらず、湯布院町が法律上これを行使することができる状態になっていなかったことになる。

それなのに原判決が昭和四〇年分の収入になるとしたのは、所得税法第一〇条一項の解釈適用を誤り、その誤りは最高裁判所の前記判決とも相反するものである。

なお、所得税基本通達三六―八(1)のたな卸資産の販売による収入金額についてはその引渡のあった日をもって収入の時期とするとの定めは、収入となる売買代金債権の内容が確定しているときに適用されるべきものであって、本件のように代金が金銭で支払われるのか代替土地の交換になるのか確定していない場合に適用されるはずがない。

第四点 原判決が、訴外小野寿鋼機株式会社に対する貸倒金二一六〇万円について、貸倒金の前提となる前途金のみならず、前途金の前提となる不動産売買の契約の成立も認められないとしたのは、証拠の取捨選択を誤って事実を誤認しかつ審理不尽の違法を犯し、所得税法第五一条第二項の解釈適用を誤った違法がありこれは判決に影響をおよぼすことが明らかである。

この点に関し、第一審判決の認定したところは、

別表五の不動産は、もと訴外小野寿市の所有であったが、昭和三一年に同訴外人の長男訴外小野淳一郎が経営していた訴外合資会社小野寿機材店の負債整理のため訴外住金物産株式会社に売却されたこと、その際右訴外小野寿市と右訴外住金物産株式会社との間に、将来買戻資金の調達ができたときは、右物件を買戻す旨の約束がなされたこと、昭和三八年に至り、右訴外小野寿市の次男で小野寿鋼機の実質的な経営者であった訴外小野金二郎は、右約定に着目し、右訴外住金物産株式会社から右物件を低廉な価格で買受け、大半は売却して差益を得ることを意図し、買受資金の調達について訴外小野寿市の二女の夫である上告人に相談したこと、その結果昭和三八年七月一八日上告人と訴外小野金二郎との間に、同訴外人は右物件を訴外住金物産株式会社から買受けてこれを上告人に代金二一六〇万円で売り渡すこと、上告人は右売買代金を前渡しすることの合意が成立し、右の合意に基づき上告人は右訴外小野金二郎に、同年七月二〇日金一〇〇〇万円、同月二五日金三〇〇万円、同年八月八日金一五〇万円、昭和三九年二月二八日金四〇万円、同月二九日金五〇万円、同年八月二二日金八〇万円、昭和四〇年二月二二日金九〇万円をいずれも現金で支払ったほか、右訴外人の金融業者からの借入金を上告人が弁済するという方法で昭和三九年一二月一二日金二五〇万円、昭和四〇年一月二二日金二〇〇万円を支払ったこと、訴外小野金二郎は昭和三八年九月二三日訴外住金物産株式会社との間に、別表五の不動産を含む土地一〇筆、建物八筆を代金一一〇三万二三八〇円で、訴外小野寿市の長女の夫である訴外加藤真一郎名義で買受ける旨の契約を締結し、右代金を支払い、別表五のイないしヘの物件は右訴外人名義に、同ト・チの物件は訴外小野金二郎名義に所有移転登記をしたことが認められ、右の事実に照らすと、上告人が別表五の不動産の売買代金の前途金として訴外小野金二郎に支払った金二一六〇万円は、上告人と同訴外人との間に締結された売買契約に基づく売買代金の前途金であると認められる。

としたのである。

すなわち第一審判決は小野寿鋼機(株)の常務取締役であり実質上の経営者であった訴外小野金二郎に対し不動産売買の代金の前途金として金二一六〇万円を支払った旨認定しているのは極めて当然であり、原審がこれに反して本件土地売買の契約ならびに前途金の支払そのものを否定したのは、証拠の取捨選択に重大な誤りを犯したからにほかならない。

右前途金二一六〇万円は、小野寿鋼機がかねて訴外住金物産株式会社に譲渡していた土地を同社から買戻すにあたって、その買戻し資金が無かったため、訴外住金物産から買戻して、上告人に譲渡することにし、その土地代金の前途金として支払われたものである。

この点に対し、小野寿鋼機の常務取締役小野金二郎は国税局係員の質問に対し、つぎのとおり答えている(乙第三一号証質問応答書)。

一 問 住友物産会社に支払った土地の買戻し資金はどのように調達したのですか。

答 葛城啓三に対して、買戻した土地の売却を委任しその売却代金から当該借入金を相殺してもらうことにして、当初一〇〇〇万円次回に三〇〇万円を借入、住友金物に二回にわけて支払った。

二 問 葛城啓三から貴方が借入れた二一六〇万円は事実ですか。

答 借入したことは事実ですが二一六〇万円が正しいか否か不明です。私に記録がないから何ともいえないが、私の覚えでは現在利息も含めず一三〇〇万円程度であると思います。

三 問 利息のとりきめはありましたか。

答 土地売却代の前途金として受け取ったのであるから私としては利息の計算をしていないと思います。

このように小野金二郎は、住金物産から本件会社が買戻した土地を上告人に譲渡するための前途金として少なくとも一〇〇〇万円及び三〇〇万円の合計一三〇〇万円を上告人から支払いを受けたことをきわめて明白に名古屋国税局係員に供述している。

しかも留意されたいのは、上告人の本件所得税更正処分の審査請求事件の審査を担当した証人岩本靖の第二二回口頭弁論における証言である。

同証人は、乙第三一号証の質問応答書の信憑力について

175 これの、質問応答書の信憑力といいますか、これは当時どのように判断されましたか。

私も小野さんに伺う前に拝見しておりまして大体内容的にはかなり重複する分もあったと思います。おっしゃることが名古屋国税局の調査官に話されたことと私に話したことから付け合わせてみますとかなり一致している分があってその信憑性というのはかなりあるんじゃないか、このように思ったのであります。

176 そうすると一番信憑性があるというふうに関係者の供述の中ではその部分があるというふうに考えたということですか、葛城さんや外の関係者の供述の中でも小野金二郎さんの顛末が一番真実に近いものだというふうに考えたというんですか。

私うかがいまして一応もっともだと思ったからです。

177 三一号証の問の所を見て下さい。

この葛城啓三からあなたが借り入れたのは二一六〇万円は事実ですか。

という質問に対して答えの最後の方に私の覚えでは現在利息を含めず一三〇〇万円程度であると思います。

その下に問三で利息の取り決めはありましたかという問がありまして、答として土地売却代の前受金として受け取ったのであるからという答がありますね。

はい。

ところで、右小野金二郎供述の一〇〇〇万円および三〇〇万円は、上告人が

三八・七・二〇 大分信用金庫 一〇〇〇万円

三八・七・二五 西日本相互大分支店 三一〇万円

を調達して本件会社に前途金として支払ったものであり、少なくとも前記住金物産の土地の買受代金の前途金として一三〇〇万円が支払われたことが認められ、右認定を覆すことはできない。

したがって、すくなくとも一三〇〇万円については、前途金としての支払を否定することができないはずである。

そして、第一審判決が認定するように売買契約の当事者が小野寿鋼機ではなくて小野金二郎個人であっても、いずれにしても昭和四〇年中には右前途金が回収不能となっていることが明らかであるので、右金員は貸倒金として認定されるべきである。

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