大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)231号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡本尚一、同永田旭上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

第一点について。

記録に徴するに被告人は原審第一回公判期日において第一審判決事実摘示第一を読み聞けられ其通り相違なき旨供述している外被告人は所論詐欺の事実を自白している、従って原判決が挙示した被告人の原審公判廷における供述と他の証拠とを綜合すれば判示事実を認定し得る、従って論旨は理由がない。

第二点について。

原判決は綿糸一梱半を騙取した旨を判示して居り所論スフ混入の綿糸とは認定していない、そして原判決挙示の証拠により判示事実を認めることができるものである、論旨は原判決の採用しない証拠に基いて原判決と異る事実を想定し其事実を根拠として原判決を非難するのであるから採用しがたい。

第三点について。

前点において説明した通り原判決は本件綿糸をスフ入の市販綿と認めたものではない、従ってスフ入りのものであることを前提とする所論は理由がない。なお被害者が本件綿糸を処分したことが統制法規に違反する所謂闇行為であるとしてもそれによって被告人の詐欺罪の成立に消長を来たすいわれはない、けだし欺罔手段によって相手方の財物に対する支配権を侵害した以上、たとい相手方の財物交付が不法の原因に基いたものであって民法上其返還又は損害賠償を請求することができない場合であっても詐欺罪の成立をさまたげるものではないからである。論旨は、採用しがたい。

第四点について。

論旨は闇取引については取引当事者の財産的利益は刑法の対象にはならないものであるから、原判決は刑法の放任した範囲に法の効力を及ぼした違法があると主張する。しかし詐欺罪の如く他人の財産権の侵害を本質とする犯罪が、処罰されたのは單に被害者の財産権の保護のみにあるのではなく、かかる違法な手段による行為は社会の秩序をみだす危險があるからである。そして社会秩序をみだす点においては所論闇取引の際に行われた欺罔手段でも通常の取引の場合と何等異るところはない。従って、闇取引として経済統制法規によって処罰される行為であるとしても相手方を欺罔する方法即ち社会秩序をみだすような手段を以て相手方の占有する財物を交付せしめて財産権を侵害した以上被告人の行為が刑法の適用をまぬかるべき理由はないから論旨は採用できない。

よって旧刑訴法第四四六条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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