大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)39号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人川添清吉の上告理由は、末尾に添えた別紙記載の通りである。

(一)論旨第一点は、本件第一審の口頭弁論における証人剣持正命の訊問調書に後に訊問すべき証人の在らざる所に於て訊問した旨の記載のないことを攻撃する。よつて記録をしらべて見ると、本件第一審昭和二二年七月一日午後一時の口頭弁論期日において、証人三浦兵造同市村辰甫同剣持正命の訊問がされ、証人三浦兵造および市村辰甫の調書にはいずれも、後に訊問すべき証人の在らざる所において訊問した旨の記載があつて、証人剣持正命の調書にはその記載がないが、右の期日に出廷した証人は右の三名だけだつたのであつて、剣持が最後に訊問されたことが明かであり、従つて剣持の訊問に際しては後に訊問すべき証人がなかつたのであるから、剣持の調書に所論のような記載がないのは当然であり、論旨は理由がない。

(二)論旨第二点は、被上告人が本件土地の引渡を受けたという事実につき、原判決は「当事者間に争のないところ」と判示しているが、右事実は上告人の極力否認したところであつて、原判決には当事者間に争ある事実を争なきごとく誤解して事実を認定した違法がある、と非難する。なるほど原判決には右の欠陥のある疑があるが、原判決は結局本件土地が被上告人の所有であることを確定し、被上告人の所有権に基づく本件請求を容認したのであつて、被上告人が予備的に主張した占有妨害排除の訴については判断を下さなかつたのであるから、原判決にたとい所論のような瑕疵があつても、それは原判決の結果に影響を及ぼさないものであり、上告の理由になり得ない。

(三)論旨罪三点及び第四点は、本件土地の転貸借について土地所有者の暗黙の承諾が認められないとする原判決の事実認定を争うものである。すなわち原判決は、本件土地の転貸借について土地所有権の明示の承諾がなかつたのはもちろん、暗黙の承諾もなかつたと認定したのであるが、論旨は原判決が「本件の場合には上告人に対し転貸借を承諾する内心的効果意思が暗黙に…………表現されたものと認めることはできかねる」と判示しているのをとらえて、暗黙の意思表示は内心的効果意思が現存しそれが暗黙に外部に表現されることを要するものでなく、外部的行為によつて内心的効果意思の存在が推測されることを以て必要にしてかつ十分とするものであるから、原判示は意思表示の異議を誤解したいものである、と非難する。しかし明示というも暗黙というも結局は意思表示と見られ得る外形が存在するか否かの問題があつて、原判決はその認定した本件の外形的事実によつては地主がわに転貸借承諾の意思表示があつたとは認められないと結論したのである。ところで上告人がわが転貸借の承諾があつたことを推測せしめる外部的事実として指摘するものが二点ある。第一は、地主がわが、地上建物の売渡がありその買主が上告人であることを推測しながら、借地人剣持に対して土地の明渡を求めず依然剣持方に賃料の取立に行つていた、というのである。しかしながら、もしこれが地主がその後は家屋の買主たる上告人方に地代の取立に行つたというのならば、転貸借承諾の暗黙表示と見られるであろうが、上告人を無視して依然従来の借地人方に地代を取りに行つたというのであつては、転貸借禁止違反に対する制裁的態度に出なかつたというだけの話で、かえつて転貸借承諾の意思がなかつたものとも考えられる。第二は、昭和一九年ごろ上告人がその買受けた建物の手入をしようとして建築許可願を提出するにつき地主の土地管理人三浦兵造がこれに承諾を与えたらしいことがうかがわれるということである。しかしながら、原判決はその事実を認めつつも、地主若尾家ではこれより先、甲府市所在の多くの所有地が日本銀行の特別融資の担保になつているのを順次売却して整理する計画を立て、借地人剣持に対し、建物を第三者に譲渡した場合には土地賃貸の継承を肯じない旨を通知する等、後日土地売却に支障を来さないよう手筈をととのえていたのであり、すなわち地主がわとしては本件土地売却に主眼を置き転貸借というようなことは問題外にしていた事情から、たとい前記第一第二のような事実があつたにしても未だ以て本件土地につき転貸借の暗黙の承諾があつたとは認められない、と判示しているのであつて、その判断は相当と思われる。所論は結局右の認定を非難するにほかならず、原判決に意思表示の意義を誤解しまたは経験則に反して事実を認定した違法があるとは言い得ないのであつて、論旨は理由がない。

(四)論旨第五点は、罹災都市借地借家臨時処理法第二条は罹災建物が滅失した当時所有者としてその建物に居住した者にも類推適用せらるべきである、と主張するのであるが、法律の明文に「建物の借主」とあり、これが所有者に類推適用せらるべき何等の理由もないことは、原判決が判示した通りであつて、所論は原判示をくつがえすに足りない。

よつて、民訴法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、主文の通り判決する。

以上は小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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