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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)432号 判決

上告人(控訴人・原告) 河合権三郎

被上告人(被控訴人・被告) 富山県農地委員会

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告人河合権三郎の上告理由は別紙記載のとおりである。

上告理由第六点の(イ)について。

論旨は、山田村農地委員会が、本件農地について、昭和二三年三月一五日買収計画を定め、同年四月一六日右計画を取り消しながら、同二四年六月一二日再度本件買収計画を定めたのは一事不再理の原則に反するというのに帰する。

しかし、行政庁がその処分をひとたび取り消したからと言つて、再び同じ処分をすることが常に違法であるとは断定できないのみならず、本件の場合は、原判決の確定するところによれば、右農地委員会が、さきの買収計画を取り消したのは、上告人と小作人たる訴外吉江彌三郎との協定によつて、上告人の自作を相当と認めたためであるから、右計画取消後上告人が右協定に違背したものと認められる以上、右農地委員会が再び本件農地について買収計画を定めたからと言つて、これを所論のように違法とすべき理由はない。(論旨の引用する自作農創設特別措置法四七条の二は処分の取消を求める訴の出訴期間の規定であつて、処分行政庁の処分取消の権限を制限した規定ではない)

右説明のほか、論旨は、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。(上告理由第六点の(ロ)で大審院の判例を引用するけれども、本件と場合を異にし、適切な先例ではなく、また第七点で憲法三二条違反を主張するけれども、要するに、本件買収計画の違法を主張するのであつて違憲に名を藉りるに過ぎないものと認められる。)

以上の説明のとおり、論旨はすべて理由がないから、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告理由

経過の概要(他に類例なき特異の事実等)

本件に於て表面の理由とするところは甲第一号証和解契約に対し上告人に不履行ありとの虚構の申立に基因するものである。

原審第三回弁論に於て上告人に不履行なく却て訴外吉江彌三郎に不履行あること、本件は不履行に基因するものにあらざる事実等を立証する為め、上告人代理人より証人三名を申請せしが二名は留保と為り、昭和二十六年四月十九日の第四回弁論に於て留保の証人を却下し、前回に上告人代理人より提出の準備書面に対する答弁もなく結審に付何等の予告もなく突如結審して言論を封じ、右証人に於て立証せんとする立木の点に不履行ありとして敗訴の判決を言渡されたものである。

五月一日の判決言渡は一週間延期になり五月八日の判決言渡期日に、

裁判官書記官一同列席の上、

裁判長は判決書を手にし判決言渡を為さんとするに当り突如上告人を呼上げ、本件は和解出来ぬかと告げ、代理人の弁護士に相談して見よと申され判決言渡を中止された。

閉廷後観田主任判事は上告人を自室に呼入れ即時判決言渡を受けては如何と勧め、上告人の不利な点を告げ強硬に勧告された。

斯くする内裁判所の了解を得て上告人代理人より和解の為め判決言渡一週間延期願の書面を提出した。

上告人は和解に付関係各方面の御方に交渉せしに当時農耕の最盛期なる関係上短時日に纏まり兼ぬる情勢にありと申され、止むを得ず五月十二日弁論再開の申立を為せしが、之を容れられず五月十五日判決言渡と為つた。

本件の真因は契約不履行にあらず、和解条項以外に新な田圃を出さしめ呉れと不当の要求を為せしことに基因するものである。

其次第は昭和二十三年三月十五日の第一回遡及買収に対し四月十六日和解契約成立(甲第一号証)し買収に係る農地の内上告人の自作すべき田に付自作許可申請書(甲第二九号証)を出さしめ、五月十六日の山田村農地委員会に於て先ず自作を相当と認むる旨決議して遡及買収取消の決議(甲第二〇号、二一号証)を為し許可の副申書(甲第三〇号証)を添付して許可申請を県に進達され官憲の承認の許に同年四月より改めて自作せしものである。

然るに昭和二十三年十月二十六日の山田村農地委員会に吉江彌三郎夫妻出頭し同人妻発言して曰く、口実を設け和解条項以外に新なる田圃を出さしめ呉れと申出で其間に第一審証人坂上吉政が介在し、吉江彌三郎に関係なき第三者所有の田圃迄も提供せよと不当の要求を為せしことに基因するものである。詳細の事実は原審弁論再開申立書に記載してある。

此要求を充たさんとして同年十一月九日昭和二十二年法律第二百四十号に依る賃貸借復活の申立を為し山田村農地委員会は同月十九日之が裁定(甲第一二号証)を決議せしものである。

右裁定に対し富山県農地委員会へ訴願せしが、三ケ月を過ぐるも裁決を与えざるに依り止むを得ず処分庁たる山田村農地委員会を相手取り賃貸借復活裁定取消の訴を提起し訴訟審理の結果、裁定の維持困難となるや訴提起に反感を抱き山田村農地委員会長西井謙吉は昭和二十四年六月十二日の委員会に於て上告人より賃貸借復活裁定取消の訴の提起があつたので、上告人が法律的に出ずるならば当委員会としても法律的に出て再度遡及買収を為す必要ありとの提案理由を述べて再度の買収を提案決議し相容れざる二個の行政処分を重複して決議し、七月十四日に至り自ら賃貸借復活裁定を取消したものである。

以上再度買収の直接原因は賃貸借復活裁定に対し取消の訴を提起せしことの反感に依るものであり、全く職権濫用である。

因に左記の四点は当事者間に争なき事実である。

(一) 本件の農地は昭和十九年に初めて吉江彌三郎との間に一作卸即ち一年毎に契約更新の定めにて賃貸借せし事実。

(二) 上告人は昭和十八年八月高岡の官庁を辞職し、其後同市に於て何等職を求めず、翌九月より現住所に於て自作農を開始し住宅の都合上高岡より通勤して耕作に従事し其間多年使用せざる畑を改作整理して昭和二十年四月には畑の耕作面積を一反七畝以上に増加し、同年十一月二十三日の指定期日当時は現住所に於て確実に専ら農業に従事し住宅新築解禁と共に住宅の新築に取りかかり、昭和二十一年三月完全に高岡を引揚げた事実。

(三) 甲第一号証は上告人対賃借人吉江彌三郎、北島精治間の和解契約にて北島精治対の田畑は賃貸借解約に付既に知事の書面許可を受け居る事実。

(四) 上告人は食糧不足し主要食糧の三分の一は配給を受け居る事実。

以上

上告理由の詳細に付以下八項目に分ちて陳述する。

第一点 上告人申請の証人二名を却下し証人に依て立証せんとする点に敗訴を言渡された違法

理由 再度の遡及買収の表面の理由とする所は甲第一号和解契約に対し上告人に立木二本及畑四畝二十歩の不履行ありとの虚構の申立に基因するものである。

依て昭和二十六年二月十三日の原審第三回弁論に於て上告人に不履行なく、却て吉江彌三郎に不履行あること、本件は不履行に基因するものにあらざる事実等を立証する為め証人大井庄太郎、河合とよの両名を又県農地委員会の承認ありたること等を立証する為め証人打尾忠治を申請せしところ打尾忠治のみを採用し、他は留保と為り、次回四月十九日第四回弁論に打尾忠治の訊問を終り其際上告人代理人より留保の証人二名訊問さるる様申出で之に対し被上告人代理人は然るべくとの意見を述べたるに拘わらず、前回に上告人代理人提出の準備書面に対する答弁もなく別席合議の結果、再度列席の劈頭留保の証人却下と告げ、裁判官の過半数が更迭新に列席されたに拘わらず訴訟関係の表明、証拠調の結果等に付最終弁論の機会を与えず証人却下に継いで間髪を入れず結審五月一日判決言渡と宣告し結審に付何等の予告もなく言論を封ぜられたものである。

上告人申請の証人河合とよの訊問事項中第五乃至第十三及関連事項の訊問に依て上告人に立木及畑に付不履行なきこと、上告人の自作すべき田に付吉江彌三郎に不履行あること、本件の真因は和解条項以外に新なる田圃を出さしめ呉れと不当の要求を為せしことに基因する事実等を立証せんとし、

証人大井庄太郎の訊問事項中第二乃至第九及関連事項の訊問に依て上告人に不履行なき事等前同様に立証せんとせしが之を許されず、急遽結審し上告人の立証せんとする立木の点に付不履行ありとて敗訴の判決を言渡されたものである。

尚右の外に証人及書証準備書面を用意して居たが、不意に結審された為め如何とも致し兼ねたのである。上告人申請の証人二名迄も却下し上告人の準備書面に対する答弁をも求めずして結審された事故上告人の主張が容れられたものと見るのが訴訟審理の常道である。斯くありてこそ審理の公正が保たるるのである。然るに判決の結果は全く之に反して居り審理不尽の違法あることは極めて明瞭なるに付、原判決破毀を求むるものである。

第二点 立木の伐採に季節的制限あることの一般社会人公知の顕著なる社会常識的経験法則に反した不履行の認定

理由 和解契約に於て上告人より訴外吉江彌三郎に無償譲渡せる杉立木二本に付甲第一号契約証第三項に「直に採伐引渡するものとする」とあるも用材の伐採には自ら季節的制限ある関係上直に伐採出来なかつたものである。

然るに原審は直に伐採の意味を頗る厳格に解し用材の伐採に季節的制限あることの顕著なる事実を無視し、此文言のみを捉え判断の基礎としてある誤れるの甚だしきものである。契約証に直に伐採とあるは何時迄も立木の儘で置かれては困ると云う意味で記載された例文である。

凡そ用材の伐採は晩春より晩秋に掛け樹液の上昇せる時季に伐採せるものは材質軟弱、腐朽、虫害に罹り易く此季間に立木を伐採することは大禁物であり、右以外の季間即ち樹液の下降せる時季に伐採するのが古来不変の原則であり一般社会人公知の顕著なる社会常識的経験法則である。

昭和二十三年四月十六日の和解契約以後に於て本件の立木二本を直に伐採すると云うことは前記季節的の障害ある関係上徒らに資材を損傷するのみである。

右立木二本は交通至便の平地山林に生立し目廻り五尺五寸百年内外を経た大木であり、一本万円以上に値し樹皮迄も使用され利用の範囲頗る広きを以て夏季に際し直に伐採すると云うことは材質の損傷を償うても尚余りある等非常特別の事情あるならば格別、大量に木材を取扱い居れる業者と雖も前記禁伐時季に用材の伐採を避け居ることは一般社会人公知の顕著なる社会常識的事実である。

判示事実中吉江彌三郎の催告に応ぜず右立木の引渡を拒み云々とあるも、同人は夏季立木伐採禁物の時季に於て伐採に依て生ずる材質損傷価格減殺の不利を招くが如き催告を為す道理がない。従て伐採に関し何等の申入れを受けて居ないことは偽らざる事実である。其証拠は直接の当事者たる吉江彌三郎の証言に大凡何時頃如何なる方法に依り催告したかに付ては何等具体的の陳述がない。

直に伐採せなかつた事は資材保護の関係上同人の利益の為めである。然るに直に伐採せなかつた事を奇貨とし直に伐採云々の文言を捉え之を逆用して虚構の申立を為せしところ裁判所は之を採用されたものである。

原審は此重要なる事項の認定に付判決の説明に何時頃催告したか大凡の月旬すら示されてない。大凡の月旬すら示すことの出来ないのは虚構の申立を採用された証拠である。

上告人は立木伐採可能の時季に入らんとするに当り同年十月中旬和解に付斡旋の労を執られた居村の宮島孫八を介し吉江彌三郎に対し立木二本の伐採引取方伝言を依頼し宮島孫八は原審に於て証人訊問の際其通り伝言したと証言して居る。尚念の為め同年十一月四日城端局内容証明郵便を以て立木二本至急伐採引取下さる様通告し甲第十一号証を以て立証しあり上告人に不履行なきことは極めて明瞭である。

原審は立木伐採に季節的制限あることの一般社会人公知の顕著なる社会常識的経験法則に反し上告人の前記催告を無視し直に伐採せざりし事実を以て上告人に不履行ありとの認定を為し、之を理由として上告人敗訴の判決を言渡されたものである。

一般社会人公知の顕著なる社会常識的経験法則に反した不履行の認定並に不履行を唯一の理由として上告人の一切の主張を排斥した原判決は此点に於て破毀さるべきものである。

第三点 甲第一号証第三項契約事項に「の上」の二字を加え変造判示せる不法

理由 立木の伐採引渡に関し伐採の責に任ずべきものは引取者であることは古来不変の慣行であり、資材保護の関係上斯くあるべき筋合のものであり、是又一般社会人公知の顕著なる社会常識的事実である。

原審は上告人を不利に導かんが為め甲第一号証第三項に「直に伐採引渡するものとする」とあるを判決理由の説明に於て直に伐採の下に「の上」の二字を加え「直に伐採の上引渡すること」と変造判示し上告人に伐採の責任ある様認定してある。

証拠資料中訴訟の勝敗に直接関係ある契約事項の説明に当り重要の点に於て契約事項になき「の上」の二字を加え、変造判示するが如きは裁判官の為すべき行為ではない。伐採の上引渡すと云うことは被上告人に於ても主張せず、又一件記録の何れの部分にもない証拠資料の変造判示に依て初めて現われた事である。之は主任判事の頭が一方に偏して居る証拠であり単なる過失ではない。

以上証拠資料変造判示の不法あり、上告人に於て伐採の上渡すと云うのと先方が伐採すると云うのとは訴訟の勝敗に直接影響する事項であるから、此点に於ても原判決破毀を求むるものである。

第四点 同時履行の抗弁に対し何等の説明がない。

理由 本件和解契約は第一回遡及買収の対象と為つた田の内比較的優等の田七畝余(原審は六畝十九歩とあるも第一審判示の七畝余が正当)を上告人より吉江彌三郎に公価にて売渡し其余の田即ち本件農地は上告人に於て自作することとし、尚其外に上告人所有の相当大なる杉立木二十一本密生の山林一畝四歩を土地のみは吉江彌三郎が公価にて買受け、右地上の立木及其外に上告人所有の他の山林に生立せる目廻り五尺五寸の杉立木二本を同人に無償譲渡すると云う契約であり、所謂双務契約なる事は被上告人に於て争なき事実である。

上告人が和解条項を完全に履行せること本件和解契約が存続せることは第一審以来主張の通りである。

東礪波郡山田村吉江字上島千七百八十四番の一田十八歩は右契約の其余の田の内に含まれて居り、甲第二十九号証自作許可申請書の目録に記載してある、一面許可の副申書に吉江彌三郎は本件農地に離るるも生活に支障を来さない旨の具体的事実並に其賃貸借は一作卸即ち一年毎に契約更新の約定なる旨を記載し許可の意見を附した副申書甲第三十号証を自作許可申請書と共に県に進達してある。

吉江彌三郎が右千七百八十四番の一田十八歩を引渡さざることに付訴状中吉江彌三郎の契約不履行と題する部に又控訴状中控訴理由の第三和解契約履行と題する部に同人の右不履行の点を指摘してある同人の第一審第一回証人訊問調書に右土地に対し苦しい弁解の下に之を引渡さないことを認めて居る。又原審宮島孫八の証人訊問調書に右不履行の点は明確になつて居るに拘わらず此点同時履行の抗弁に対し何等の説明がない。

以上審理不尽理由齟齬の違法あるを以て此点に於ても原判決破毀を求むるものである。

第五点 自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号適用の申立に対し何等の説明がない。

理由 控訴状中控訴理由の第二に於て

本件和解契約は其当時に於ける双方の事情に照して適法正当であるとの主張の下に法規裁量処分としての判断を求め、

次に和解契約に伴う賃貸借解約に付県農地委員会に於て適法正当と認められたものであると主張し、

二様に分けて判断を求め、其理由は控訴状及原審第三回弁論に陳述の準備書面に詳細記載してある。原審は此準備書面に対する答弁なくして急遽結審されたものである。

又此点に付当時の富山県農地部長打尾忠治を証人として喚問を求め、同人は証言して曰く、

其当時富山県農地部長の職にあつたこと、農地部長の職務権限は農地事務に関しては知事の代行機関であること、其当時富山県農地委員会の幹事長を兼務して居たこと、幹事長は委員会の事務処理に関し最高責任者であること、甲第一号和解契約証は県庁にも一通保存しあること、同証人は該和解契約証を調査しこれなら良いだろうとの意見を述べた。

と各証言して居る。

控訴状並に準備書面の記載及右証言等に付審理された結果に付何等の説明がない。

訴訟審理の結果、県農地委員会に於て適法正当と認めた事実ありと認定さるる場合は勿論法規裁量処分として其当時に於ける双方の事情に照して適法正当なりと判断さるゝ場合は買収の是非に関しては此方が優越し特別の事情なき限り再度の遡及買収を為すべきことを定めること出来ないと云うことは自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号の規定に徴し極めて明瞭である。

原審は此重要なる申立に対し判断を遺脱せる失当がある。此点に於ても原判決破毀を求むるものである。

第六点 (イ) 再度の遡及買収は一事不再理の原則に依り当然無効である。

(ロ) 本件契約の解除約款は極めて苛酷なるに解除の認定に特別事情の説明がない。

理由

(イ) 行政関係に於ても公の議決機関が為した決議が一旦確定した以上は所謂一事不再理の原則が行われ権限ある機関から再議に付せらるる等特別の事情なき限り決議に反する行政処分を為し得ないのが原則である。

本件は昭和二十三年三月十五日の第一回遡及買収に対し四月十六日和解契約成立し買収に係る農地の内本件土地を上告人が自作することとなりたるに付上告人より自作許可申請書を出さしめ、五月十六日の山田村農地委員会に於て先ず上告人の自作を相当と認むる旨決議し自作を理由として第一回遡及買収の取消決議を為せしものである。(甲第二〇号二一号証)

被上告人代理人は自作に伴う賃貸借解約に知事の許可なしと主張するも、右取消決議は自作農創設特別措置法第四十七条の二に依り二ケ月の経過、即ち同年七月十五日を以て確定し該取消決議に対し権限ある機関より再議に附する等の命令なかりし以上該取消決議は確定不動のものである。然るに其後に至り該取消決議に反する再度の遡及買収は一事不再理の原則に依り当然無効である。

原判決は其理由に取消決議の取消理由も亦欠如することになるから云々と説明されあるも、一旦確定せし取消決議は偽造変造等の如き特種の事情ある場合の外は動かない。又仮りに取消が無効に帰したものとすれば第一回遡及買収は復活することになるから続行の手続を執らるべきものであり、第一回遡及買収が効力を発生し居れるのに同一物件に対する再度の遡及買収は是亦一事不再理の原則に依り当然無効である。

以上の点に於て原判決破毀自判を求むるものである。

(ロ) 原審が甲第一号和解契約の解除約旨を約定解除権と認め、解除等の意思表示を必要とせないとの見解ならば本件の如き解除約旨の極めて苛酷なる場合は解除の認定に特別の事情あることの説明を必要とすることは従来屡大審院判例の示さるるところである。

本件の解除約旨は和解契約の四反余の田は一物も残さないと云う極めて苛酷なる約款なるに原判決は特別の事情あることを説示せず虚構の申立に因る形式一片の理由を以て解除と認定せしものであり、審理不尽理由不備の違法あるを以て此点に於ても原判決破毀を求むるものである。

第七点 憲法違反

(イ) 憲法第三十二条の保障を蹂躪して提案決議せる不法

(ロ) 三権分立の根本精神に反する不法

理由

(イ) 再度の遡及買収を決議せる山田村農地委員会会議録甲第二十四号証には提案理由として

上告人が昭和二十四年四月十四日本委員会を相手取り賃貸借復活裁定取消の訴を提起したから之を速に解決する為め本案を提出する。

と記載してある。

又当時の村農地委員会長西井謙吉の第一審第一回証言に、

上告人より賃貸借復活裁定取消の訴の提起があつたので、上告人が法律的に出ずるならば委員会としても法律的に掌理する方妥当と思うて買収計画を樹立し吉江彌三郎に売渡したものである。

と述べて居る。

右は会長自らが賃貸借復活に関する法律を悪用し不法に行政処分を行い法律的に出たからである、思わざるの甚だしきものである。

前記賃貸借復活は和解条項以外に新な田圃を提供せしめんが為めの一種の威嚇手段であつたから、会長自身は裁定処分を法律的処置に出でたものでないと考えて居るかも知れないが、かりそめにも一旦決議せし以上は強力なる法的効果を発生するものである。

之に対し救済の途を講ずるのは当然であり、法律に許された正当なる訴提起を不法行為同様に看做し訴提起を理由として再度の買収を提出決議せることは憲法第三十二条の保障を蹂躪するものであり、本件の買収は当然無効である。

(ロ) 行政処分は行政法規の直接規定に基ずいて為すべきものである本件の如き民法上の契約に付其履行不履行、同時履行の抗弁其他契約解除に関する約旨は約定解除権なりや否や等司法権の範囲に属する法律上の問題に付農地委員会独自の見解を以て契約不履行との認定を為し之を理由として再度の遡及買収を決議すると云うことは行政権の範囲を超越した不法処分であり、如何に農地に関する問題と雖も明かに憲法違反である。

占領目的に関する国家政策の必要上農地改革の当初に於て買収価格補償の点に付憲法の規定を超越して判決された実例はありましたが、右は憲法の規定に従い補償するとせば財政上国家の存立を危くする等国策の遂行に支障を来す事情があつたからである。之に反し本件は憲法運用の実際に於ける単なる法律上の問題であり、其解釈の如何に依て農地改革に影響する訳でもなく、国策等には何等の関係なく夫れと之とは全然其趣を異にするものである。

山田村農地委員会は上告人に不履行ありとの虚構の申立に対し上告人の自作すべき田、即ち上告理由第四点記載の千七百八十四番の一田十八歩に付吉江彌三郎に不履行あることを不問に付し片言事を断じ独自の見解を以て上告人に不履行ありとの虚偽の認定を為し甲第一号証第八項の解除約款即ち

「将来関係者の一方に於て本協定を履行せざる時はこの不履行者は関係土地の一切の権利併に耕地を無償で離るることを確約する」

との約旨を楯に取り之が執行方法として所有権移転手続を行政処分に依る強制力を用い一物も残さず全部の買収を決議せしものである。

右は司法裁判の専権に属する法律上の問題に付独自の見解を以て不履行と認定し解除約旨の執行方法として行政処分に依る買収を為せしものであり、行政権の範囲を超越し権限なきものの為したる不法処分なることは極めて明瞭であり其行政処分は当然無効である。

法律上無効の行為は追認等に依て其効力を発生するものではない。若し憲法の規定を無視して有効と認められんか他の裁判先例となり裁判に現われざるものは其儘効力を発生し、勢い行政権の濫用となり、情実と運動に支配されて各種の弊害百出し其裏面に暗躍し漁夫の利を得んとする特種人物の跋扈跳梁を許すことになり、憲法に保障された法的秩序は蹂躪され不安極まるものである。

本件の行政処分は三権分立の根本精神に反し当然無効である。

以上(イ)(ロ)憲法違反の点に於て法律の適用を誤れる失当あるを以て民事訴訟法第四百八条第一項第一号を適用し原判決破毀自判を求むるものである。

第八点 判決関与の部の構成が妥当性を有せざる違法

理由 原審第一回弁論は被上告人の欠席に終り双方対立の弁論は第二回乃至第四回の三回のみであり、其間陪席判事の更迭頻繁にて第三回と第四回は陪席判事全部更迭され、調書に審理更新の記載なきものは一回もない。主任の観田判事は第一回の被上告人欠席の期日に列席された儘其後ながらく闘病の為め静養され双方対立の弁論は結審の第四回のみ、又本間判事も結審の第四回のみに列席されたものである。

判決関与の本間判事は大地主であり、指定期日当時は大垣の現職判事である。其後野に下りて農業に従事され、其俄かに変られた態度に付新聞に大なる標題の下に出て居たこともあり、其後相当農地を確保し仮装自作の目的を達し再度任官敦賀に赴かれたものである。其巧妙な遣り方に付世人の話題に上つて居ることは公知の事実である。

又本件に付ては高岡より臨時出張された当日代理の補助判事である。

同判事に於かれては自己の執りたる処置に想を致され世人の疑惑を避くる為め、本件判決に関与することを回避さるるのが訴訟審理の常道である。

民事訴訟法に除斥回避の規定を設けある立法趣旨に鑑みない判決関与の部の構成が妥当性を有せざることは自ら明かである。論より証拠夫れが為め次に記載する特異の事態を発生し観田判事の独裁振を発揮せるものである。

昭和二十六年五月一日の判決言渡を一回延期し五月八日の判決言渡期日に裁判官書記官一同列席の上、

裁判長は判決書を手にし判決言渡を為さんとするに当り突如上告人を呼上げ、本件は和解出来ぬかと告げ代理人の弁護士に相談せよと申され、判決言渡を中止された。

閉廷後観田主任判事は上告人を自室に呼入れ発言して曰く、即時判決言渡を受けたらどうだと告げ、且つ判決書らしきものを挙示し判決書は已に出来て居るのに裁判長は俺れに相談せないで和解云々と申さるるのは怪しからぬ。行政訴訟其ものには和解はないと申され、遂には怒気を含み判決は勝つか負けるか判らぬではないか、判決言渡を受けたらどうだと勧告された。勝敗の鍵が他にあるのならば格別判決書を手にせる裁判官の言としては実に穏かならぬ言葉である。更に語を継いで曰く、契約証には立木は直に伐採引渡するとあるではないか、農地改革はポツダム制令に基ずくものである、本件に付県の執つた処置は疑問に値する、俺れの親戚に百町歩も開放したものがある杯と告げ、興奮の余り敗訴の理由迄も告げられたものである。

右はながの闘病より出勤され神経のいら立ちて居らるる証拠である。判決起案作成の責に関し裁判長に対する不満を敗訴の当事者に転嫁されたものであり、裁判長の訴訟指揮に反対し部の不統一を曝露し判決言渡前に敗訴の理由を告ぐる杯独裁振りを発揮し、裁判の神聖を汚すものである。

尚右勧告の際判決書は已に出来て居るとの権幕であつたが、事実は之に反し其後一週間を経五月十五日に言渡した判決を五月二十日に至り漸く書記官に交付五月二十七日に送達を受けて居る其言行は一致せない。

裁判官は訴訟当事者を叱り付け判決を下すのが能事ではない。

多年の経験を有せらるる斎藤裁判長に於かれて判決言渡期日に判決書を手にし判決言渡を為さんとするに当り突如上告人を呼上げ和解を勧告し判決言渡を中止されたのは唯事ではない。判決が自己の信念に反するからである。

以上他に類なき特異の事態を発生したのは自由なる立場に於て意見を吐き得る御方と然らざる御方と相寄つて一時凌ぎの部を構成し判決に関与された為めであり、部の構成が妥当性を有せざる証拠である一面覆審合議制の本旨に悖戻せることも自ら明らかである。

民事訴訟法に除斥回避の規定を設けある立法趣旨に鑑み民事訴訟法第三百九十五条第一項第二号に則り原判決破毀を求むるものである。 以上

第一審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「別紙目録記載の農地に対し、被告が昭和二十四年八月二十日附を以て為した原告の訴願を棄却する旨の裁決、並に訴外富山県東礪波郡山田村農地委員会が同年六月十二日附を以て樹立した遡及買収計画は、孰れも之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、其の請求の原因として、「訴外山田村農地委員会は昭和二十四年六月十二日原告所有の別紙目録記載の農地に対し再度の遡及買収計画を樹立したので、原告は之に対し右農地委員会に異議の申立を為したが、同年七月十五日同委員会は之を却下したから、原告は更に被告富山県農地委員会に訴願した処同年八月二十日附を以て原告の右訴願を棄却するとの裁決が為され、右裁決書は同年九月一日原告に送達された。然し乍ら本件農地買収計画には次のような違法がある。即ち(一)原告は昭和十八年八月末高岡区裁判所を辞職後高岡市に在住していたが、何等の収入もなかつたので同年秋から本件農地の所在する郷里富山県東礪波郡山田村に於て畑八畝歩の耕作を始めたのであるが、早速帰村居住する考であつたところ戦時中で資材の入手不可能なため住宅の建築が出来ず、已むを得ず高岡市より通勤耕作し乍ら漸次引越準備を進め、昭和二十一年三月三十一日に至り漸く完全に山田村に引移つたのである。その間昭和二十年九月には同村農業会理事及び監事の各改選の際その選挙投票を行い、又同村に於て公租公課を負担納入し、村内にある神社の当番を勤め、本件買収計画樹立の基準日である昭和二十年十一月二十三日当時に於ては原告の生活の本拠は右山田村にあつたにも拘らず、原告を不在地主と認定して為された右山田村農地委員会の本件農地買収計画は明かに違法である。(二)本件農地は昭和十九年原告が当時耕作反別を増加すれば戦時工員の徴用を免れうる事情にあつた訴外吉江彌三郎に対し、原告に於て自作の必要を生じた場合は何時でも返還する約の下に賃貸し、其の後昭和十九年度及び昭和二十年度は右訴外吉江彌三郎単独で耕作し、昭和二十一年度は同人主宰の下に、昭和二十二年度は原告主宰の下に各共同耕作してきたが、昭和二十二年三月二十二日に至り原告と同訴外人との間に昭和二十三年以降は原告が単独で耕作する契約が成立した。然るに同年三月十五日訴外山田村農地委員会は右吉江彌三郎の請求により同人耕作に係る原告所有の農地につき強制買収計画を定めたので、原告は之に対し被告に右強制買収計画取消の訴願を申立てたところ、同年四月十六日訴外坂上吉政、宮島孫八、河合豊之助、河合甚九郎四名の斡旋により原告と右訴外吉江彌三郎との間に、原告が山田村に於て祖先を継承し農業に従事するため最小限度の耕地を保有することを必要と認め、右強制買収計画の対象となつた田の内比較的優等の田七畝余を右訴外吉江彌三郎に売渡し、その余の田即ち本件農地は原告に於て自作することとし、他に相当大なる杉立木二十一本等密生した山林一畝四歩を土地のみについて公価を受け、右立木は他の山林に生立せる身廻り五尺五寸の杉立木二本と共に之を無償で譲渡する旨の和解契約が成立した。而して右和解契約締結直後同月二十日富山県主事直江重三、富山県農地委員山崎茂之両名が原告宅に来り、原告が被告富山県農地委員会に対する前記訴願を取下げることを条件として右和解契約を認めた。依つて原告は右両名の言に従い被告委員会に対し同年五月十一日附を以て右和解契約によつて原告に本件農地の耕作を認めることを条件として訴願の取下書を提出したところ、同年七月二十二日附を以て右条件を認容する旨の回答書が被告委員会長より訴外山田村農地委員会長を経由して原告に送付された。叙上の事実に依れば、原告と訴外吉江彌三郎間に於ける本件農地賃貸借の解約に付富山県知事の許可があつたことは明白であるのみならず、被告委員会も亦右解約を適法且つ正当と認めたことは明瞭であるに拘らず、之を看過して定めた訴外山田村農地委員会の同年六月十二日附本件農地買収計画は違法である。(三)本件農地に対しては既に昭和二十三年三月十五日最初の遡及買収計画が定められ、その後昭和二十四年五月十六日訴外山田村農地委員会に於て右買収計画を取消し乍ら、最初の遡及買収の後約一年半を経過した昭和二十四年六月十二日に至り同一目的の下に同一人に対し同一不動産につき遡及買収計画を樹てたけれども、右再度の遡及買収計画は行政行為に於ける一事不再理の原則に反する違法なものである。従つて以上何れの点からも本件農地買収計画は違法であり、之を是認した被告委員会の本件裁決も亦違法であると言わなければならないから、被告委員会に対し本件裁決並びに訴外山田村農地委員会が同年六月十二日樹立した本件農地に対する再度の遡及買収計画の取消を求める為本訴請求に及ぶ次第である。」と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め答弁として、「原告主張の事実中、昭和二十四年六月十二日訴外山田村農地委員会が樹立した本件農地買収計画に対し原告が異議の申立を為したが、同年七月十五日同委員会が右申立を却下したこと、更に原告が被告委員会に訴願を為した処同年八月二十日被告委員会が該訴願を棄却するとの裁決を為し、該裁決書が同年九月一日原告に送達されたこと、及び昭和十九年以来訴外吉江彌三郎が本件農地を原告から賃借小作していることは認めるが、爾余の事実は之を否認する。原告が指定期日に山田村農地委員会の管轄地域内に住所をもたなかつたことは顕著な事実であり、又住所が原告の意思によつて決定すべきものでないことは昭和二十二年八月十九日附農林省農政局長の地方長官宛通牒によつても明白であるから、原告は、昭和二十年十一月二十三日の基準日に本件農地の存する山田村に生活の本拠を有しなかつたことは明らかである。次に昭和二十二年三月二十二日本件農地について原告と訴外吉江彌三郎との間に締結された昭和二十三年以降原告が本件農地を単独耕作する旨の返還契約は原告の一方的不当取上げであるのみでなく、富山県知事の許可を得ていないから無効である。更に原告主張の昭和二十三年四月十六日右両名間の和解契約は、原告が訴外吉江に対し立木を譲渡すること等を条件として同訴外人より原告に本件農地を返還すること、若し当事者双方が即時履行しないときは此の契約を解消することを内容としたものであり、且つ村内の平和のため無益なる争訟を避ける目的で訴外山田村農地委員会が斡旋に努力した結果成立するに至つたもので、右和解条項の線に副い原告に於て訴願を取下げると同時に右山田村農地委員会も本件農地に対する最初の買収計画を取消し以て円満に農地改革の完遂を期しつつあつたが、原告の和解条項不履行の為右訴外吉江彌三郎に於て止むなく約旨に従い原告主張の和解契約を解消するに至つたものであるから、最早右和解契約は存在せず、仮に存在するとしても、農地の賃貸借の合意解約は地方長官の許可又は農地委員会の承認を必要とするに拘らず、本件賃貸借契約については富山県知事の許可も、被告委員会の承認も得ていないから右解約は効力を生じない。従つて解約が有効に存在することを前提とする原告の主張は失当である。尚原告は訴外山田村農地委員会が昭和二十四年六月十二日定めた本件農地に対する再度の遡及買収計画は一事不再理の原則に反すると主張するが、最初の遡及買収計画は未だ自作農創設特別措置法第八条第九条の手続を経ず、その効力の確定しない間に右述の如き事情によつて右山田村農地委員会が自発的に取消したものであるから、何等原告の利益を侵害せず、本件農地に対する再度の買収計画樹立は毫も法律に牴触しない。以上本件農地の遡及買収計画には何等原告主張のような違法の点はないから原告の本訴請求は失当である。」と述べた。(立証省略)

第二審判決の主文、事実および理由

一、主  文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人が昭和二十四年八月二十日附を以て為した控訴人の訴願を棄却する旨の判決並に訴外山田村農地委員会が別紙目録記載の農地に対し同年六月十二日附を以て樹立した遡及買収計画はいずれもこれを取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

控訴代理人は昭和二十三年三月十五日山田村農地委員会は別紙目録記載の農地につき買収計画を樹立したけれども控訴人と売渡申込人との間に和解の成立したことを理由に右農地委員会は同年五月十六日右買収計画を取消し、右取消の決議は不服の申立なくして二箇月を経過し確定したにも拘らず、右農地委員会が翌年六月十二日になつて本件再度の遡及買収を決議したのは一事不再理の原則に背き違法であると述べた外当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるからここに引用する。(証拠省略)

三、理  由

昭和二十四年六月十二日訴外山田村農地委員会が控訴人所有の別紙目録記載の農地につき再度の遡及買収計画を樹立し、控訴人が異議の申立を為したが却下せられ、更に被控訴人に訴願をしたが同年八月二十日棄却せられ、右棄却の裁決書が同年九月一日控訴人に送付せられたことは当事者間に争のないところである。

控訴人は右買収計画の基準日である昭和二十年十一月二十三日現在本件農地の所在する山田村に住所を有していたと主張するが、その援用する甲第九、十号証によるもこれを認め難くその他これを認めるに足る証拠なく、却つて成立に争のない甲第九、十号証乙第一号証に証人西井謙吉の証言によれば控訴人は当時高岡市東下関千八百六十七番地にその家族と共に居住しその頃時々山田村へ往復したことがあるが、山田村には住宅なく同村で生活必需物資の配給を受けた事実もなく同村の衆議員選挙人名簿にも登載されておらず、同村の村民税も負担していなかつたことが明らかであるから、昭和二十年十一月二十三日現在控訴人の住所は右山田村になかつたものというべく控訴人の本主張は採用し難い。次に控訴人は昭和十九年に訴外吉江彌三郎に本件農地を賃貸したが、昭和二十三年四月十六日右両者間に成立した和解により本件農地の賃貸借を合意解約し、右解約に付富山県知事の許可があり被控訴人も右解約を適法且つ正当であると認めながら買収の対象となしたのは違法であると主張するからこの点を審究するに、当審証人宮島孫八の証言並に同証言により真正なりと認める甲第一号証成立に争のない甲第二乃至第四号証、第二十、二十一号証によれば本件農地を含む控訴人所有の土地に付昭和二十三年三月十五日山田村農地委員会は第一回の遡及買収の計画を立てこれに対し控訴人は被控訴人に対し右買収計画取消の訴願を為したが、同年四月十六日控訴人と右土地の売渡申込人である吉江彌三郎間に協定成立し右買収計画が取消されるときは吉江彌三郎は本件農地についての控訴人の自作を認めること、控訴人は控訴人所有の六畝十九歩の田並一畝四歩の原野を吉江彌三郎に公価で売渡し、且つ山田村吉江字上島所在の見廻り五尺五寸の杉立木二本を無償で譲渡し直ちにこれを伐採の上引渡すこと、契約当事者に於て右の条項に違背するときは協定はその効力を失う旨約定し、同年四月十六日山田村農地委員会は右協定の成立を理由に右買収計画取消の決議を為したことが明らかである。然るに原審証人西井謙吉、吉江彌三郎(各第一、二回)坂上吉政の各証言によれば控訴人はその後吉江彌三郎の催告に応ぜず右立木の引渡を拒み前記協定の条項に違背したことが認められるから前記協定はその効力を失い、吉江彌三郎の本件農地についての前記賃借権は依然存続するものというべく、右賃貸借が適法に解除されたことはこれを認むべき証拠がないから控訴人の本主張は理由がない。

次に控訴人の一事不再理の抗弁につき案ずるに、本件農地に対する第一回の買収計画を昭和二十三年四月十六日山田村農地委員会が取消したのは前段認定の如く控訴人と吉江彌三郎間の協定の成立によるものなるところ、前記協定の効力が喪失した以上その取消の理由も亦欠如することになるから、本件農地につき昭和二十四年六月十二日山田村農地委員会が再度の遡及買収計画を樹立したことは正当の理由によるもので何等違法でなく本抗弁も採用できない。従つて控訴人の訴願を棄却した被控訴人の裁決は違法でなく原判決は結局相当であるから本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し主文の通り判決する。

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