大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)470号 判決

守山市二十軒家六の二三四番地

上告人

浅井美雄

名古屋市北区八坪町二丁目四六番地

中島佐治郎

愛知県碧海郡高岡村大字若林字柵田二の四四番地

井上耕平

名古屋市昭和区車田町二の四〇番地

赤川広治郎

守山市二十軒家字長栄五の三九九番地

加納善生

名古屋市中川区小本町高畑三九五番地

小島泰夫

右六名訴訟代理人弁護士

西村美樹

天野末治

白井俊介

桜井紀

森健

名古屋市中区御幸本町一丁目一番地

名古屋郵政局長

被上告人

大塚茂

東京都港区赤坂葵町二番地

東海電気通信局長承継人

日本電信電話公社総裁

梶井剛

右当事者間の免職無効確認請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和三〇年三月二日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人西村美樹、同天野末治、同白井俊介、同桜井紀、同森健の上告理由について。

論旨一及び二は、結局行政機関定員法(昭和二四年法律一二六号)附則五項の規定は憲法二八条の団体交渉権を侵害するものであるから無効であるという主張に帰する。けれども、右規定が右憲法の法条に違背するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二五年(オ)第三〇九号、同二九年九月一五日判決、集八巻九号一六一二頁)の趣旨に照し明白である。(論旨は、国家公務員法八九条乃至九二条の不利益処分に対する審査請求権は右附則五項の規定により剥奪されるから、右規定は憲法二八条に違背すると主張するが、憲法二八条の保障する勤労者の団体交渉権も公共の福祉のために制限を受けるのはやむを得ないところであり、殊に国家公務員は国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行にあたつては全力を挙げてこれに専念しなければならない性質のものであるから、団体交渉権等についても一般の勤労者とは異つて特別の取扱を受けることが当然であることは上記判例の判示するところである。従つて、原判決の引用する一審判決の認定した事情の下に、公共の福祉のために必要やむをえない措置として、右附則五項の規定は右審査請求権を排除しても、右事情の下においてはそのことが直ちに憲法二八条の違背であるといえないことは原判決の引用する一審判決の判示のとおりである)。論旨は理由がない。

論旨三及び四は、要するに原審が、本件免職処分は定員法附則三項に基く過員整理であり、該整理については整理方針、内部基準が定められ上告人等は右整理基準に定められた非協力者に該当するものとして処分された事実を認定するにつき、被上告人側の証拠のみを一方的に採用したのは、裁判所が「全体の奉仕者」であることを忘却して一部の者に奉仕したもので、憲法一五条の趣旨に反するという主張に帰する。従つて、論旨は違憲を云為しているがその実質は原審の裁量に属する証拠の取捨判断及び原審の適法に確定した事実に対する非難に帰し、原判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背を主張するものとは認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

昭和三〇年(オ)第四七〇号

上告人 浅井美雄

外五名

被上告人 名古屋郵政局長

外一名

上告代理人西村美樹、同天野末治、同白井俊介、同桜井紀、同森健の上告理由

第一点 原判決は憲法に違反するものである。

即ち憲法第二十八条所定の勤労者の団結権、団体交渉権を剥奪した違憲の定員法を合憲と判断し更に憲法第十五条に背反するものである。

一、定員法行政整理の政治的背景について

昭和二十四年夏定員法によつて強行された大行政整理が客観的には当時日本における労働運動の先進的役割を果しつつあつた全逓信労働組合並に国鉄労働組合の進歩的組合幹部を一掃して両組合を壊滅状態に陥れたことは誰も否定することのできない事実である。

又この大行政整理が、当時「国の経済の興隆の為」と云われていたにかかわらず事実はまさに正反対でアメリカの日本支配をやり易くする為に役立つたことは其后の情勢の推移を静かに振返つてみるならば極めて明瞭である。

更にこの歴史的な弾圧馘首の強行から国民の眼をそらしす為に仕組まれたと云われている下山事件をはじめとするバタ臭いフレームアツプ事件を続発し弾圧馘首に対する世論を抹殺し去つたことも国民の記憶に新らしいところである。

他面、全逓並に国鉄に対するこの決定的な攻撃が、実は軍事通信並に軍事輸送を抵抗なく確保することを企図していたことは翌年の春明けと共に開始された朝鮮侵略戦争によつてはつきり証明された。

朝鮮侵略戦と共にかつて東条やヒトラーがそうであつたように侵略者はポツタム宣言並に一九四三、九、二二、付マ声明を自らふみにじつて、日本共産党幹部の追放、アカハタの発刊停止、全労連の解散、レツドパージ等々、戦争放火と遂行に対する抵抗組織に対して次々弾圧が加えられ、日本国民の自由と権利が根底から奪われていつたが、全逓国鉄に対する弾圧馘首を口火するこれらの歴史的諸弾圧が、今日鳩山総理すらが完全独立達成を口にしなければならない程に、アメリカの全一支配を固める基礎になつたことは疑うべくもない。

本判決は、これらの歴史的諸事実を全く無視する立場にたつて判断を加えている結果、後述のように憲法違反を重ねているのである。

二、定員法の違憲判断に就て

上告人等は『定員法は違憲の法律である』と、重ねて主張して来た。然るに本判決が原審判決を引用するにとゞめて採用しなかつたことは断じて承服出来ない。

即ち原審判決は、定員法が、国家公務員にのこされた唯一の保護規定である『訴願の権利』を剥奪している点に就て、『急速に整理を実施する必要上』と言う理由を付することによつて違憲にはならないと判断している。

然し、国家公務員法の第八十九条乃至第九十二条に示されている『訴願の権利』こそは、実はマ書簡によつて政府職員労働者から団結権、団体交捗権を剥奪した代償として、基本的人権を装う立場から僅かに残された保護規定なのである。又この『訴願の権利』が、法治国の体裁を整える最低の装いであつたことは、国家公務員法の立法当時の過程を顧ればまことに明瞭である。

この唯一の保護規定を、『人事院が弱体で運用出来なかつたであろう』と理由づけることによつて、剥奪の事実を正当づけている原審判決は、全く当を失したものである。

従つて上告人等は、政府職員労働者の唯一の保護規定を剥奪し去つた定員法は、あくまで違憲の法律であることを主張するものである。

三、過剰整理の判断に就て

上告人等の強制的免職処分には上述のような政治的な意図がかくされていた為、被上告人側の主張は総ゆる部面に亘つて不合理性を暴露したのであるが、残に政治的意図を貫く馘首を強行した結果、新定員に対し過剰して整理をすると言う不法な事実を招来したのである。この点に関する上告人等の主張は、甲第二十八号証によつて決定的に証明された。

然も甲第二十八号証は、人事院が国家公務員法第一一〇条による罰則を適用し、職権による調査によつて得られたところの『第一回国家公務員給与等実態調査報告』である。即ち民事訴訟法第三二三条の謂うところの真正なる公文書であり、権威ある証拠である。にもかゝわらず何故か本判決には採用していないのである。

このことは本判決が憲法第十五条に背反し、被上告人側にのみ奉仕する立場にたつた一方的判決であり上告人等は断じて承服出来ない。

右のように人事院調査に基く権威ある甲第二十八号証を無視した結果、上告人側の主張する過剰整理の事実はまつたく抹殺されてしまつているが、事実はまさに次の通りである。

本判決に採用されている証人長田裕二、同土井梅吉の各証言によつて『定員法による郵政関係の新定員が二六〇、六五五人であり、これに対し整理予定数は一八、五五六人であつたこと、又八月十二日に第一次整理が行なわれ七、四二六人が整理された、以上のことは当事者間に争いがなかつた』と判断されている点は、上告人側にも異論がない。

然し乍ら上述の人事院調査による九月十五日現在の実在員数は甲第二十八号証が示している通り二五八、四五八人であつて、整理の過程に於て既に二、一九七名を過剰整理している事実を明らかにしている。

更に、九月十五日以後に於ける整理者数並に長田証言による九月下旬に於ける整理者数三、六二七名を算定するならば、郵政関係の過剰整理が実におびたゞしい数にのぼつていることは全く明瞭であり、八月十二日に於ける強制馘首はその必要がなかつたのである。

電通関係については、証人遠藤正介、同太田要吉の各証言によつて『新定員が一四三、七三三人であつたこと、八月十二日に第一次整理、九月二十日に第二次整理が行なわれたことに当事者間に争いがなかつた』と、判断されている点には上告人側にも異論がない。

然しながら証人遠藤正介の証言によれば、第二次整理者数は三、五五〇名の外に第一次の強制整理者数四、四〇〇名の十分の一乃至二十分の一を強制処分したことを明確にしているのであるから、人事院調査による九月十五日現在の実在員数一四五、三一五名を基礎に算定すれば、第二次整理の直後には約二、三〇〇名の過剰整理が存在していたのである。従つて九月二十日第二次整理に於ける、上告人小島泰夫を含む約四〇〇名と証言されている強制整理は、全く不法な過剰整理であつたことが明瞭である。

このように優先して採用すべき人事院の真正なる公文書を無視した結果、定員法違反の厳然たる事実をも看過し、判決を覆えさゞるを得ない決定的な過誤を裁判官は冒している。然も上告人側が証拠として提出した人事院の公文書と被上告人側証人の証言に喰違いが存在し、公文書に疑点があるならば民訴法第三二三条二項に基いて明らかにすべきであるにかゝわらず之を行わず、却て本行政整理の直接の担当官であり、上告人等と利害の最も対立する立場にある証人等の証言を、然も上告人等を不利に陥れる部分のみの証言を採用して判断している本判決は、明らかに上告人等に悪意を以て臨んだものであり憲法第十五条に完全に違反している。

更に、過剰整理の点に関する争いは、訴訟関係書類によつて明らかなように実は昭和二十八年三月十二月結審を宣せられた後一ケ年を経てから、裁判所側が問題点を提起し弁論を再開することによつて深められたものであるから、このような特別の事情の下で上告人側の提出した権威ある証拠即ち真正な公文書甲第二十八号証を完全に無視し、却て被上告人側の証言のみを採用して判決した態度は、まことに奇怪至極である。この事実は本判決が意識的に憲法第十五条を無視してなされた違憲判決であることを一層明らかにしている。

四、免職処分に値する行状の判断に就て

直言するならば裁判官は労働運動に対し全く理解を欠いた上にたつて判断を加えている。即ち裁判官は、判決理由に明示している通り『正当な組合活動ならば、非協力と判定される筋合いがない』と言う立場にたつて判断しているのである。

このような判断が全く公正を欠くものであることに就て一例を挙げるならば(上告人浅井美雄の非協力事例(二)の(1)の(イ)参照)昭和二十二年十二月当時上告人浅井美雄の属していた全逓名古屋電気通信工事局支部は労働法の保護を受けていた。従つて当時官側が同支部に属する組合員である従業員に時間外労働をさせる場合には、労働基準法第三十六条により予め組合側代表であつた上告人浅井美雄との間に協定を必要としたのである。

故に官側が組合員である従業員の時間外労働に就て協定を求めた場合、組合側が仮りに之を拒否しても、それは組合側にとつて法律上の当然の権利を行使したまでのことであり、正当な組合活動であることに議論の余地はないのである。然し従業員の時間外労働を必要とした官側に於ては、それを拒否した組合側の行為はまさに非協力とならざるを得ないし又事実被上告人側は非協力と主張しているのである。これは法律上どうあろうとも双方の利害が一致せず対立している関係上避けられない問題である。

これに対し裁判官も右の事実を非協力行為と判断しているのであるから、本判決は被上告人側にのみ奉仕した一方的判決となつており憲法第十五条に明らかに違反している。

裁判官はそのような立場にたつていたが故に、客観的には被上告人側に加担する立場にたつていたが故に、被上告人側の立証は無条件的に採用しているが、上告人側の立証に対しては、上告人等を利益する結果部分はこれを信用しないしてしりぞけ、数多くの書証についても一顧だに与えていない。

特に上告人井上耕平に対しては、前述の過剰整理について結審一ケ年後裁判所側から問題を提起された折に、今一つの問題点として同人の個人的非協力事例の有無を提起されていたのである。これは全く同条件にありながら馘首を免れた福島秀吉との不平等取扱の有無に就て明らかにする為であつたのである。

然るに被上告人側はこの点について何等立証することが出来なかつた為、国家公務員法第二十七条による平等取扱の原則を無視した馘首であつたことが明瞭となつたにもかゝわらず、裁判官の判断がこの点を全く無視し去つているのは、まことに奇怪と言わざるを得ない。

『正当なる組合活動は非協力と判定される筋合いなし』と独断している裁判官のそのような考え方は、『抑々上司の気に入られることが官吏道の要諦である』とする前世紀的思想に由来しているものである。この点に就ては大阪地裁民事部に於ける行第一二四号による同類事件の判決がはつきりと示している。

同判決の理由の中には、『終戦後の我が国の労働運動が、食糧事情の急迫、インフレの増進による賃金労働者の窮乏等によつて、労働運動全般が程度の差こそあれ激化せざるを得なかつた』点を明らかにし、そのような特別の事情の下に於ける組合役員の組合活動上の仕方を、一従業員としての業務上に於ける行為と混同して非協力と判定していることの誤りを指摘している。

然るに本件判決は、資本主義下に於ける労働運動の法律的慨念すらわきまえず、労働運動や又、組合活動に於て使用者と対等の立場に立つて振舞う組合役員の当然の仕方を、ひたすら罪悪視する立場にたつて判断を下している。それ故にこそ組合役員の正当なる活動を悉く非協力行状と判定して小しも憚らないのである。

こゝに、憲法第十五条に背反する諸結果を生んだ根源があるのである。

上告人等は以上の理由に基き本判決が厳粛に審判されることを強く主張する次第である。

以上

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