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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)1215号 判決

上告人

吉武綾女

代理人

頴川増福

復代理人

小出耀星

被上告人

長谷川英雄

被上告人

長谷川芳雄

右両名代理人

平井博也

主文

原判決中上告人の請求を棄却した部分を破棄し、右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人頴川増福の上告理由について。

原審は、

(1)  上告人は、昭和一三年訴外吉武武鼎六郎と婚姻し、長女紀子、長男良一郎、次男酉次郎の三児をもうけたが、昭和二九年頃から不和となり、共に本件家屋に居住しながら、互いに口もきかず、食事も別にするようになつた。

(2)  右夫婦間には、昭和三一年一〇月二二日に東京家庭裁判所において、鼎六郎は上告人に対し、(イ)生活費として昭和三一年一〇月から一か月三〇、〇〇〇円ずつを、毎前月末日かぎり直接手渡す、(ロ)そのほかに、住宅金融公庫支払金および子の教育費を支払う旨の条項を含む調停が成立し、次いで、昭和三三年一一月二〇日に同家庭裁判所において、右(イ)項を、同年一二月一日から、鼎六郎は上告人に対し、上告人および長男良一郎の生活費として、一か月一〇、〇〇〇円ずつを、毎月二五日かぎり支払うことに変更する旨の調停が成立した。

(3)  鼎六郎は、右調停に基づいて、上告人に対し、昭和三一年一〇月分および一一月分の生活費合計六〇、〇〇〇円ならびに昭和三三年一二月分から翌三四年五月分までの生活費合計六〇、〇〇〇円を支払つたが、その余の支払をせず、昭和三七年一二月八日当時、その未払生活費の総額は一、一四〇、〇〇〇円に、また、教育費求償債権は四九六、四二〇円に達した。

(4)  ところが、鼎六郎は、昭和三七年一二月八日同人の唯一の財産である本件土地建物(当時八六〇万円相当)を、右債務が支払不能になることを知りながら、被上告人長谷川英雄に売却し、同月一五日その旨の所有権移転登記手続を了し、右英雄は、同月八日被上告人長谷川芳雄のために、右物件に債権額一四〇万円の抵当権を設定し、同月一五日その設定登記手続を了した。

(5)  その後、鼎六郎は、上告人に対し、昭和四一年一二月二七日に、(イ)前記調停による生活費の滞納額一一四万円、(ロ)これに対する昭和三七年一二月八日から同四一年一二月二五日までの年五分の割合による遅延損害金二三〇、八一一円、(ハ)昭和三七年一二月分から同四一年一二月分までの生活費四九万円、(ニ)これに対する各支払期日から昭和四一年一二月二五日までの遅延損害金五一、〇四〇円、以上合計一、九一一、八五一円を、さらに、昭和四三年六月一二日に教育費として六〇万円を、それぞれ弁済供託した。

との事実を確定したうえ、鼎六郎の本件土地建物の処分が詐害行為として取り消しうるか否かの点について、これを否定し、次のように判示している。

すなわち、本件処分行為のあつた昭和三七年一二月八日現在において、上告人が鼎六郎に対して有していた債権は、同人の弁済供託によつて消滅した。ところで、右同月以後に弁済期の到来する債権について考えるのに、上告人の主張する債権は、婚姻費用分担債権であつて、その分担額は、夫婦の資産・収入・その他一切の事情の変動につれて変化すべき性質のものであり、売買代金債権のように確定したものではなく、現在においては、調停によつて、一応生活費については一定額の定期金が定められているものの、前記事情の変化により、いつ、調停または審判によつて変更または取り消されるかわからないのである。したがつて、そのような債権について、将来長期にわたる支払金の合算額からその中間利息を差し引き、現在の価額を確定することは不可能であり、本件の詐害行為以後に支払われるべき生活費債権は、むしろその弁済期ごとに発生するものと解すべく、これにつき行為当時すでに上告人主張のような確定的債権が存するものとしてこれを保全するため、詐害行為の取消を求めることは許されない。よつて、上告人の詐害行為取消請求は、右行為当時までに生じた被全債権の消滅により、理由なきに帰したから、これを棄却すべきものである。というのである。

しかしながら、将来の婚姻費用の支払に関する債権であつても、いつたん調停によつてその支払が決定されたものである以上、詐害行為取消権行使の許否にあたつては、それが婚姻費用であることから、直ちに、債権としてはいまだ発生していないものとすることはできない。すなわち、一般に、婚姻費用の分担は、婚姻関係の存続を前提とし、その時の夫婦の資産、収入、その他一切の事情を考慮してその額が決せられるものであつて、右事情の変動によりその分担額も変化すべきものであるから、その具体的分担額の決定は、家庭裁判所の専権に属するものとされているのであるが、そうであるからこそ、いつたん家庭裁判所が審判または調停によつてこれを決定した以上、他の機関において、これを否定し、あるいはその内容を変更しうべきものではなく、家庭裁判所が、事情の変動によりその分担額を変更しないかぎり、債権者たる配偶者は、右審判または調停によつて決定された各支払期日に、その決定された額の金員を支払うべきものといわなければならない。その意味においては、この債権もすでに発生した債権というを妨げないのである。けだし、これを未発生の債権とみるときは、調停または審判の成立直後、いまだ第一回目の弁済期の到来する以前に、債務者が故意に唯一の財産を処分して無資産となつたような場合には、債権者は、詐害行為取消権の行使により自己の債権を保全する機会を奪われることになり、右調停または審判が無意味に帰する結果を甘受しなければならなくなるからである。

もつとも、婚姻費用の分担に関する債権は、前記のとおり婚姻関係の存続を前提とするものであるから、婚姻関係の終了によつて以後の分は消滅すべきものであり、また、これに関する調停または審判は、夫婦間の紛争を前提としてされるのが通常であるから、債権者が自己の死亡に至るまで右調停または審判に基づいて婚姻費用の支払を受けうるということは、むしろ稀な事例に属するものといえるであろう。したがつて、この種の調停または審判において、その終期を定めていない場合においても、そのことから、直ちに、その場合の詐害行為の被保全債権額は、債権者の平均寿命に基づいて予測される同人の死亡時までの総債権額から中間利息を控除した額であるとは断定しえない。しかし、だからといつて、将来弁済期の到来する部分は全く算定しえないものとも即断し難いのであつて、少なくとも、当事者間の婚姻関係その他の事情から、右調停または審判の前提たる事実関係の存続がかなりの蓋然性をもつて予測される限度においては、これを被保全債権として詐害行為の成否を判断することが許されるものというべきである。

本件においてこれをみるに、原審は、この点についてはなんらの事実をも認定していないため、原審の確定事実からは、いま直ちに、鼎六郎の本件不動産の処分当時、本件調停に基づく婚姻費用分担債権が将来にわたりいかなる限度で確実に存しえたかを判定することはできないけれども、原審の確定するところによれば、本件調停成立後右処分時までには六年余の期間が経過しているのに、その間調停によつて定められた金員の支払はほとんどされずに終つているのであり、また、その後五年余を経過した原審口頭弁論終結時においても、なお両当事者間において、右処分時と同様な別居状態が続いていたことは、弁論の全趣旨から明らかであるから、これらの事情を考え合わせるならば、あるいは、右処分時においても、その当時の状況からみて、本件調停の効力が右処分時以後少なくとも原審弁論終結時ごろまでは存続したであろうことが、かなりの蓋然性をもつて予測されえなかつたものとは断じ難い。

そうであれば、原審が右処分時までに発生した債権は支払済みであるとし(この点についても、滞納分に対するその各弁済期から本件処分時までの遅延損害金の支払がされていないことは、被上告人らの主張自体から明らかであるから、原審のこの点に関する判断も正確とはいえない。)、また、右処分時以後の債権は未発生であるとしたうえ、本件詐害行為は、上告人においてもはや取り消しえないものとした判断は、前記の点に関する法令の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽の違法を犯したものというべきであり、右誤りは、原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件は、詐害行為の成否およびその取消権の消長についてさらに審理を尽くす必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員の一致により、主文のとおり判決する。(田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

上告代理人の上告理由

第一点 原判決は、以下に説明するとおり、当事者の重要な主張事実の判断を遺脱した違法がある。

一、原審昭和四二年一月一三日第三回弁論調書に依れば「控訴人は第一審判決事実摘示と同一の陳述をした」とあり。かくて、第一審判決の事実摘示第二、原告訴訟代理人の陳述した(一)の一、二、と、同昭和四二年三月四日第四回口頭弁論の時陳述した上告人の附帯控訴状(丁)欄一、に依れば、「上告人主張の甲第二号証の一、二各調停調書に基く被保全生活費債権金一一四万円は、昭和三七年十二月八日〔訴外人(債務者吉武鼎六郎、此註以下略)が、本件土地建物を被上告人長谷川英雄に売却した当時〕弁済期が到来したもののみを、計上して主張したのである」こと、明らかである。

二、而して、原判決事実摘示の二の(二)より同(三)の第六行に依れば算数上、弁済充当の法則上、「前記生活費債権金一一四万円の内金七二万円は、昭和三一年十二月(訴外人が上告人に対し昭和三一年一〇月分、同年十一月分、月三万円宛合計六万円を支払つた翌月)より昭和三三年十一月(調整調停の前月)まで、此の間二四ヵ月分の毎前月末日限り支払うべき生活費債権金三万円宛の合計であり、その余の金四二万円は、昭和卅四年六月(訴外人が上告人に対し昭和三三年十二月より同三四年五月まで、月一万円宛合計六万円を支払つた翌月)より昭和三七年十二月八日(前記訴外人が被上告人長谷川英雄に本件土地建物を売却した時)まで、此の間四二ヵ月分の毎月廿五日限り支払うべき金一万円宛の合計である」こと、明らかである。

三、次に、前記原審第四回口頭弁論の時に陳述した上告人の昭和四二年三月一日附準備書面の(丙)欄三の(一)の(1)、特に該(1)の末尾に依れば措辞稍妥当を欠いている様ではあるが、「前記金一一四万円に対する前記昭和三七年十二月八日以前、即ち(い)前記昭和三一年十二月(註前出のとおり)より、昭和三三年十一月まで、此の間二四ヵ月、毎前月末日限り支払うべき生活費債権金三万円宛の各履行期の到来したものに対する民法第四一九条第一項本文所定法定利率に依る履行遅延に因る損害利息、及び(ろ)前記昭和三四年六月(註前出のとおり)より昭和三七年十二月八日まで、此の間四二ヵ月、毎月廿五日限り支払うべき金一万円宛の各履行期の到来したものに対する同上損害利息を計上していないこと明らかである。従つて、被上告人主張の供託(乙第十二号証の)は、債務の本旨に従つたものでない」と主張したこと、明らかである。また原判決書の事実摘示を観るに、第四枚の表一〇行の末あたりから、第四枚の裏第一行にかけてつけた括弧内に、一寸之を摘示しているのに、原判決を観るに、之に対し判断を加えていない。

四、尤も上告人は、「昭和四二年三月一〇日に、訴外人が昭和四一年十二月廿七日にした供託(乙第十二号証の)を受領したが、上告人は、その受領に先立つて、前記昭和四二年三月四日の口頭弁論に於て、既に前記のとおり「右供託には前記損害利息を計上加算していないから、債務の本旨に従つた供託でない」と表示した特別の事情がある以上、一部弁済の効力しか、発生しないこと、判例上明らかである(昭和三四年(ネ)第二一号、同三五年三月三〇日、東京高裁判決乞御参照)。また原審昭和四二年五月十二日第五回口頭弁論の時陳述した上告人の昭和四二年三月二十日附準備書面の訂正陳述(2)の末尾記載に依れば、「前記供託には、前記上告人主張の損害利息まで計上していないから、債務の本旨に従つた供託でないので、供託しない分まで効果を生ずる理由がないと解し、偶々生活費に困窮していたため受領した。けれども上述の理由で計上し加算して供託しなかつた遅延利息債権は残存している」と主張している、されば、原審はその主張の理由の有無は別として、判断を加えるべきが相当である。

五、然り而して、右被保全債権が認められるに於ては、原判決の主文に影響を及ぼすこと明らかである。また右判断遺脱は、民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の再審事由にさえなるものである。

六、故に、原判決は、此の点に於て、首掲の違法があると謂わなければならない(大判昭和四年六月一日裁判例三巻民四五頁、同昭和六年三月二五日裁判例五巻民四〇頁乞御参照)。

第二点 原判決には、以下説明するとおり、実体法たる詐害行為に関する法則を誤れる違法がある。

一、原判決理由Aの二を観れば、要するに、「甲第一号証、甲第二号証の一、二等、判示の証拠に依り、訴外人が被上告人長谷川英雄に本件土地建物を売却した昭和三七年十二月八日現在において、上告人が訴外人に対して有していた生活費債権一一四万円、教育費求償債権四九六、四二〇円は、判示訴外人の二回の弁済供託に依り、消滅したものというべく、訴外人の前記売却行為は、上告人の前記債権を害しない」と判示されている。

二、されど、前記供託の日時を検討するに、原判決理由Aの二の(二)の第二段及び乙第十二号証、乙第十三号証に明らかなとおり、(い)右生活費一一四万円については、控訴審係属中の昭和四一年十二月二七日に損害金とも合計して一、九一一、八五一円を弁済供託し、教育費については、昭和四三年六月十二日に、六〇万円を弁済供託したのであつて、何れも、訴外人が債権者を害することを知つて、被上告人長谷川英雄に、本件土地建物を売却した以後、而かも、被上告人が第一審において敗訴し、第二審に控訴しその係属中のことである。

三、判例を渉猟して、詐害行為に関する法則を探究するに、(一)「詐害行為は、行為当時、および現在も、債務者に債務完済の資力なきことが必要である。蓋し、詐害行為を認定するに当りては、其の行為の当時において、之が為め債務者の弁済資力を減少したることを必要とするのみならず、右行為の結果、現在(正確に云へば、事実審の口頭弁論終結の時、本件で云へば、原審口頭弁論調書を調査するに、昭和四三年六月十四日)に於ても、尚ほ之を完済するの資力なきことを前提とする云々」(大審大正一五年(オ)第一二〇九号、昭和二年五月二八日民三判決、新聞二七〇四号十二頁、評論一六巻民法八〇〇頁乞御参照)。而して、(二)債務者が、詐害行為当時、無資力であれば、特段の事情ない限り、取消権行使の時においても、無資力状態が継続しているものと推定し得る(昭和三三年(オ)第一〇一八号、同三六年三月三日、最高裁第二小法廷判決乞御参照)。(三)「詐害行為成立後債務額の減少、又は債務者の資力回復に依り、現在債務を弁済し得るが為め、一旦成立したる詐害行為を取消すことを得ざるものとなすには、該行為後発生した遅延利息を計上して、債務者の資力が果して債務を完済するに足るや否やを決せざるべからず。然るに、原審は、上告人の有する元本債権に対する現在に至るまでの遅延利息は、詐害行為後に発生したるの故を以て、之を加算せずして取消の許否を決すべきものと為したるは、明らかに詐害行為に関する法則を誤れる違法あるものとす(大審昭和一五年(オ)第五四八号、同年十二月二八日民三判、法学一〇巻五四四頁乞御参照)。

四、由つて本件を観る時は、少くとも、生活費債権については、訴外人が債権者上告人を害することを知つて昭和三七年十二月八日に被上告人長谷川英雄に本件土地建物を売却し詐害行為が成立した後も、甲第二号証の二に依り、訴外人は上告人に対し、猶ほ、前記昭和四三年六月十四日まで、毎月末日限り、金一万円宛及びその遅延利息を、支払う義務があること明白である。尤も、乙第十二号証を精査する時は、該生活費は、昭和四一年十二月二五日まで供託している。けれども、少くともまだそれ以後、原審口頭弁論終結時昭和四三年六月十四日までの同生活費及び遅延利息が残存していること明らかである。

五、然るに、原判決は、前記昭和三七年十二月八日現在において、上告人の債権はすべて消滅したものとして、前記のとおり判示した。これは、一に前記詐害行為に関する法則を誤解した為めに外ならず。その誤りは、原判決の主文に影響を及ぼしたこと、明らかである。

六、故に、原判決は、此の点に於て、首掲の違法あるを免れない。

第三点 原判決には、以下に説明するとおり、やはり実体法たる詐害行為に関する法則を誤れる違法がある。

一、原判決理由Aの三を観るに、その要旨は、「……上告人の主張する昭和三七年十二月八日以後に支払うべき生活費債権は、民法第七六〇条所定の婚姻費用分担債権であつて、その分担額は、夫婦の資産、収入、その他一切の事情の変動につれて変化すべき性質のものであり、……現在においては、調停によつて、一応一定額の定期金が定められているものの、前記事情の変化により、いつ、民法第八八〇条に依り、調停または審判によつて、変更または取り消されるかわからないのである。従つて云々」と云われるに在り。

二、然るに、訴外人と上告人とは夫婦であるが、双方の合意に依つて成立した右債権は、その性質一つの契約金債権であると解せられる。殊に、当事者間に争いのない甲第一号証に依り明らかなとおり、訴外人と上告人との婚姻は、昭和一七年三月二三日に届出られている。その時は、旧親族法、旧相続法のの有効な時代であるから、新法の附則第四条但書に依れば、旧法第七九八条等に依つて生じた効力を妨げない、と解すべきかと思う。また新法は、夫婦、親子の共同生活関係を、集団的に把握せず。夫婦関係と、親子関係を峻別している処、甲第二号証の一、二に依り明らかなとおり、本件生活費の中には、妻上告人分と、少くとも、その訴外人との間の長男良一郎の分を、包含している。而して、夫婦間の扶養義務と、親族間の扶養義務とは、質的に異なるとされている。判示の立脚する前提は必ずしも正しくない。

三、また仮りに本件生活費債権は、判示の如く、純然たる民法第七六〇条所定の婚姻費用分担債権であり、その後事情の変化があれば、民法第八八〇条に依り、調停または審判にかけて、変更または取り消すことができるとしても、前記推定を準用して、前記判示の事情は、現在も将来も持続しているものと推定すべきである。就来或は判示の事情の変化、乃至調停または審判に依る変更乃至取消があるべきことに依り、直ちに、上告人主張の債権を否定することは、飛躍的であるといわねばならない。

四、また上告人主張の生活費債権は、一定の身分関係に依つて創設されたもので、現存の債権であつて、被保全債権の適格があると確信するが、仮りにそれは判示のとおり将来の債権であつて、その請求権が、まだ具体的に成立していないのであるにしても、夫婦財産分与請求権の如く、判決等確定し、合意が成立するまでは、分与を受け得るかどうかも未定である抽象的のものでなく、本件生活費債権は、家事調停まで成立し、調書に記載されている将来具体的に発生することが、明白、可能、歴然である。

訴外人は、本件土地建物を処分し、或は担保に供する場合には、上告人の承諾を得ることを約諾し、之を該調書甲第一号証の一の調停条項4に明記している(同号証の二は、甲第一号証の一の一部の調停条項を変更したまでで、甲第一号証の一の其の余の調停条項同約諾等の効力は、保有している)のに、訴外人は、上告人の承諾も得ないで、明らかに詐害の意思を以て、本件土地建物を、知情の被上告人長谷川英雄に売却したのであるから、次に示す詐害行為に関する法則の判例の判旨に依つても、上告人は、依然本件詐害行為取消権があるものと解せねばならない。

(1) 会社の株金払込請求権を害するため、会社が株金払込催告をなす直前に、会社に対する債権を、他に譲渡したときには、右譲渡行為は詐害行為となる(昭和二年(オ)第一〇〇三号、同三年五変九日大審民事四部判決、大審民集七巻六号三二九頁乞御参照)。

(2) 株式の譲渡人に対する株金払込請求権がまだ具体的に成立していなくても、将来発生すること明白な場合に、債務者が詐害の意思を以てあらかしめ所有財産の処分行為をしたときは、取り消すことができる(大審昭和一〇年(オ)第二〇〇〇号、同十一年六月九日民五判決、新聞四〇〇七号一四頁乞御参照)。

(3) 詐害行為は、債権者に不利益な結果を及ぼすことを以て足り、債権の成立に影響を及ぼすことを要しない(明治三六年(オ)第四八五号と同年十一月十二日大審民事一部判決、大審民録九輯一、二三五頁、民抄録一九巻三六六〇頁乞御参照)。

五、そうして、右詐害行為に関する法則の違背は、原判決の主文に影響を及ぼすこと、明らかである。

六、故に、原判決は、此の点に於ても、首掲の違法ありと謂わねばならない。

以上

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