大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)689号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人竹沢東彦の上告趣意は、判例違反をいうが、所論引用の判例は本件と事案を異にして適切ではなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(道路交通法三七条二項にいう「既に右折している車両等」とは、右折を開始しているとかあるいは右折中であるというだけでは足りず、右折を完了している状態またはそれに近い状態にある車両等をいうとする解釈のもとに、本件において、被告人の車両が、いまだこの状態にはなく、直進する被害車両に優先権があるとした原判断は、正当である。)また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(天野武一 田中二郎 松本正雄 関根小郷)

弁護人の上告趣意

三、原判決は「既に右折しているとは、右折を開始しているとか、いまだ右折中であるというのでは足りず右折を完了している状態又はそれに近い状態にあることを要すると解するのが相当である。」と判示している。

この点について、前記判例のすでに引用した判決理由(五段目)についてみれば、被告人の車が右折の途中であることが一見して明らかであつてもということから見れば、既に右折している車両とは右折開始しているか、右折中であることも含まれると解釈するのが妥当である。

かりに原判決の解釈が妥当なものだとすれば、右折の開始又は途中の車は交差点で直進し、又は左折しようとする車の進行を妨げてはならないことになり、右折途中でも交差点の中で停止しなければならず、これではかえつて道交法第一条の目的の一つである交通の円滑を害し、しいては危険を発生する要因にもなり、自動車の運転について必要以上に停止を求めたり、徐行を求めることのみが、安全運転とは結びつかない、運転技術の問題も充分意識した上で道交法の目的にかなつた法解釈をすべきである。

してみれば、前記最高裁の判例は以上述べた弁護人主張の解釈と一致し、原判決はこの点において法令の解釈の誤りがあり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

道交法第三七条二項の学説上の解釈については

注解道路交通法 宮崎清文著 一七九頁道路交通法(改訂一九六五年一一月)法務総合研究所 一三〇頁以下

判例タイムズ二三九号 一七頁

ことに法務総合研究所の道路交通法一三一頁には「右折を完了している場合だけをいうのでなく、右折を開始後右曲つたと見うる状態に近づきつつあるもの」という解釈である。

四、原判決の道交法第三七条一項の解釈が現在の日本における交通問題、道路事情、現実の運転者の技術的判断にまで具体的に考慮が充分払われていないと指摘したが、前掲道路交通法一三一項には東京地方裁判所昭和三八年五月二八日判決をあげ「妨げてはならない」の意味につき、つぎのように判旨を引用している。

「法三七条一項を非常に固く解釈すれば、右折車が(左方からの)直進車の速度を少しでも落させるような形で、その前方を右折してしまうことは、同項に違反することになる。

しかし、このように固く考えるべきではない。右折車が交差点の中央で滞留するのは、著しく他車の交通の妨害になるのであるから、右折車としては、なるべく手際よく右折を終るべきであり、そのためには、前方より来る直進車の前方で安全に右折し終ると判断したときは、たとえ、直進車に軽くブレーキを踏ませることになるであろうと予測しうるときでも、右折してよいと考えなければならない。」

このことは道交法第三七条二項の「既に右折している車両」の解釈についても考慮が払われるべきことである。

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