大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和48年(オ)305号 判決

上告人

東海電気工事株式会社

右代表者

坂上忠治

右訴訟代理人

亀岡孝正

外一名

被上告人

株式会社琉球銀行

右代表者

崎浜秀英

右訴訟代理人

山田弘之助

外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人亀岡孝正、同高瀬迪の上告理由第一点について。

原審の適法に確定したところによると、本件保証契約は、那覇市居住の被上告人を債権者、名古屋市居住の上告人を債務者として、昭和四二年八月二六日、同人らの間で保証極度額を二五万ドルと定めて、締結されたものであり、右契約の結締は、外国為替及び外国貿易管理法(以下「法」と略称する。)三〇条三号並びに外国為替管理令(以下「令」と略称する。)一三条一項一号の行為にあたり、その締結には令一三条二項の許可を受けることが必要である。しかし、右法、令の各規定は、外国為替政策上の見地から本来自由であるべき対外取引を過渡期的に制限する取締法規にすぎいから、同法、令に違反しても、そのためその行為の私法上の効力に影響を及ぼすものではなく、その行為は、私法上有効であると解すべきである(最高裁昭和三五年(オ)第六六二号同四〇年一二月二三日第一小法廷判決・民集一九巻九号二三〇六頁)。したがつて、その締結について右許可を得ていなくても、本件保証契約は有効である。また、沖繩復帰前においては、右契約に基づく金員の支払について法二七条一項一、二号、令一一条により許可を要したとしても、前述のように、本件保証契約が私法上有効であり、同契約に基づく債権、債務が有効に成立しているのであるから、右債権について給付を命ずるにあたつて裁判所は無条件の判決をすべきであつて、右許可を条件とする条件付判決をすべきではない(前掲最高裁判決参照)。

論旨は、採用することができない。

同第二点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨を非難するものであつて、採用することができない。

同第三点及び上告理由補充書記載の上告理由について。

外国の通貨をもつて債権額が指定された金銭債権は、いわゆる任意債権であり、債権者は、債務者に対し、外国の通貨又は日本の通貨のいずれによつて請求することもできるのであり、民法四〇三条は、債権者が外国の通貨によつて請求した場合に債務者が日本の通貨によつて弁済することができることを定めるにすぎない。また、外国の通貨をもつて債権者が指定された金銭債権を日本の通貨によつて弁済するにあたつては、現実に弁済する時の外国為替相場によつてその換算をすべきであるが、外国の通貨をもつて債権額が指定された金銭債権についての日本の通貨による請求について判決をするにあたつては、裁判所は、事実審の口頭弁論終結時の外国為替相場によつてその換算をすべきであるから、その後判決言渡までの間に所論のような為替相場の変更があつても、これを判決において斟酌する余地はない。

論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄 高辻正己)

上告代理人亀岡孝正、同高瀬迪の上告理由

第一点 原判決には法令解釈の誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。

原審は本件保証契約の効力等について「外国為替及び外国貿易管理法(以下外為法という)第三〇条乃至外国為替管理令(以下外為令という)第一三条第一項、第二項本文の規定はこれに違反した取引の私法上の効力を否定する強行法規たる性格を有するものではなく、単なる取締法規であると解し、大蔵大臣の許可なくして締結された本件保証契約は私法上有効であるとした原審の判断は相当であつて、これに反する控訴人の主張は採用しない。」と判断するが、これは次の理由により到底承服し難い。即ち、

(一) 通常の強行規定においては契約の効力だけを抽象的に規定しているが、外為法、外為令ではその履行と受領までも明文で許可にかけ、違反に対し罰則をもつて臨んでいる。それにも拘らず外為法、外為令の規程を「単なる行政上の取締法規」と解し、之れ等に違反する行為と雖も私法上は有効であると解することは、可罰的行為を強制することに他ならないのであつて、一般国民に難きを強いることになる。

尚、原審は支払についての大蔵大臣の許可を執行開始の要件と解しているが、常に強制執行により債権の取立行為がなされるとは限らず、むしろ法の期待するところは給付判決の任意履行にあると見るべきであるから原審の解釈によつても可罰的行為の履行を強いる結果となる結論の解消をきたすことにはならない。

(二) 民事法体系と刑事法体系とはその性格適用範囲を異にするから民事上有効とされた行為が刑事上処罰の対象となるのも止むを得ないとの論もあるが、法律の専門的知識を有しない一般国民にとつて、一方では国家機関により履行を命ぜられ、他方では其の行為それ自体が同じ国家機関により刑罰の適用を受ける等という結果を承認し得るのであろうか。

かえつて一般国民の法規範意識を低める結果を招くことになるのは明らかである。

勿論刑事上処罰の対象となる行為の私法上の効力をすべて無効であると解することは、故意に私法上の債務履行を免れんとして違法行為者が増加するのではないかとの懸念は確かに生ずるが、仮りにこのような現象が生じたとしても社会全般からみればこれはあくまでも例外的存在であつて、むしろ一般国民の法規範意識を低下させるということの方がより重大な問題であると信ずる。

(三) 最高裁判所の昭和四〇年一二月二三日判決の事案は、米国旅行中滞在費に窮した旅行者が知人から金五〇〇ドルを借用したというもので事案の性質上貸主の為めにも強行法規違反による無効というには適切ではない。

これに対し本件は元本極度額二五万ドル(当時の邦貨換算金九、〇〇〇万円)に及ぶ保証契約の効力に関するものであつて、全く事案の性質を異にするのであり、何ら対価的利益或いは反対給付を得ていない本件において無条件に有効と解することは当事者公平の理念に反する。

(四) 仮りに本件保証契約を有効であると判断した場合においても、判決主文において「大蔵大臣の許可を条件として支払を命ずる。」旨明記すべきである。

原審は「外為法第二七条外為令第一一条の制限規定も取締法規であると解する以上無条件で支払を命ずべきである。」と判断しているが、若し判決主文において「大蔵大臣の許可を条件として支払を命ずる。」旨明記された場合において、これに違背して大蔵大臣の許可を得ることなく支払つてしまつたとしても、それが直ちに無効となるかどうかは別個の法律判断によるものであつて、原審の立場に立てばかゝる条件違反の行為も有効と解せざるを得ない。

そうだとすれば原審がかゝる条件付判決を認めないという理由は、付した条件に違反しても支払行為は有効であるから敢えて条件を付す必要がないということなのか、或いは条件付判決というのは条件に違反した行為を以つてすべて絶対無効とする場合に限つて為すべきものであるから、有効を前提とする条件付判決は抑々なし得ないのだという法律解釈によるのか、いずれかという事になる。

然し、実体法上、条件違反行為は絶対無効であるものに限つて訴訟法上、判決主文においてその条件を明記すべきであるという明文はないし、またそのように解すべき論理的必然性もない。従つて後者の見解には従えないものであるが、そうだとすれば専ら、かかつて必然性の問題に帰着する。

そしてこの場合の判断の基準となるものは履行手続きの法的明確性とこれに伴う当事者の利益を重点とするものでなければならない。

特に本件の場合のように外為法、外為令という法規程の中でも極めて高度の法技術をもつて立法されている法律の適用を受けるものについては、判決主文において「条件」を明記してこそ、履行手続きの法的明確性が保たれ、ひいてはそれが当事者の利益にも帰することになるものと信じる。

第二点 原判決には次の通り採証法則及び経験則違反があり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるので破棄を免れない。

(一) 原審は本件保証契約締結についての大蔵大臣の許可の要否並びに訴外会社の再建に関する諸条件なるものは本件保証契約を締結するという法律行為の要素となつていたとはいえないし、第一審の判断を相当と認めている。

然し甲第十一号証によれば、被上告人側で「保証行為は法律的にも結構である。」と発言しており、これにより上告人は本件保証行為は法律的にも全く瑕疵がないものと信じたのである。当時琉球銀行といえば沖繩における中央銀行であつて、日本国にあつては日本銀行に相当する機関であるから、かかる機関から法律上問題ない」旨いわれれば、これを確定的に信用するのは当然であつて、これ以上特に上告人独自の立場で外為法関係について調査しないからといつて、大蔵大臣の許可の要否ということを軽視したことにはならない。特に二五万ドルにも及ぶ保証行為であること、許可の有無が刑事上の制裁につながることを考えると、上告人(第一審被告)が大蔵大臣の許可の要否を単に手続きの要否という観点からのみ了解し、法律行為の要素となつていたとはいえないと判断した第一審の判断は経験則に反するものであり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。

(二) また訴外会社の再建に関する諸条件について原審は「控訴人(上告)が本件保証契約を締結した主要な動機は、いわゆる再建条件の具体的な履行の点に存したのではなく、むしろ控訴人の訴外会社に対する密接不可分な関係からして、訴外会社が被控訴人(被上告人)から債権回収の猶予の措置を得、その結果米軍工事を完成し、再建の目途を得れば、控訴人(上告人)としてもそれが自己の経営上の利益にそうと判断した点に点にあつた。」と認定し、右諸条件が法律行為の要素であつたとする上告人の主張を斥けている。

然し単に債権回収の猶予を得たのみでは、一時的に倒産は免れるとしても何ら訴外会社の再建の目途が立つわけではなく、若し訴外会社の再建が失敗した場合は、上告人は保証人として全面的にその責任を追求されるわけであるから、具体的再建方策の見通しを持たずして、かかる危険な保証を為す筈がない。

単に債権回収の猶予を得、米軍工事の完成を遂げられることを目的としてのみ保証するということは実質的には上告人が訴外会社の被上告人に対し負担する債務の肩替りを招来する結果となることは明白であり、何ら経営上の利益になると判断する材料とはならないことは勿論、そこまで危険負担をしなければならない特殊事情が上告人と訴外会社との間に存したということも絶対にない。

上告人は被上告人による再建条件の具体的履行も、債権回収の猶予も訴外会社の再建に共に必要不可欠の方策であると認識していたのであつて、債権回収の猶予を得ると同時に再建条件の具体的履行が為されることによつて始めて再建が可能となることは経験則上明白である。

これを債権回収の面のみを切り離して、これのみを保証契約の主要なる動機と認定する原審の判断は社会の取引実情を無視した片面的独断に過ぎず、経験則に反することは勿論、第一審、原審における証人田島康相の一貫した証言及び甲第十一号証を全く顧慮しないところに採証方則の違背が存し、いずれも判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第三点 仮りに前記第一点、第二点の主張が認められないとしても原判決には次の通り法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。

原判決に従えば上告人は被上告人に対し金九、〇〇〇万円の支払いをしなければならない。

然し上告人が被上告人に対し保証した債務金額の表示は二五万ドルである。確かにこれは当時邦貨に換算すれば金九、〇〇〇万円であつた。

ところが昭和四六年一二月一八日本邦通貨の基準外国為替相場は一ドルにつき金三〇八円と決定されたことは公知の事実である。

抑々本邦通貨の基準外国為替相場は外為法第七条第一項により「すべての取引を通じ単一とし、内閣の承認を得て大蔵大臣が定める。」ことになつている。

而して我が国の基準外国為替相場はアメリカ合衆国ドルを基準として、一ドルにつき三六〇円と定められ(昭和二四年一二年一日大蔵省告示九七〇号)、昭和二七年八月国際通貨基金(IMF)に加盟し、アメリカ合衆国一ドルにつき三六〇円である旨円の平価が承認された。右基金協定は条約として拘束力を有するから、基準外国為替相場の変更には基金の承認を得て登録平価を変更することを要し、また後者の変更が行われれば同様に前者の変更がなされねばならない。

これが前記の通り昭和四六年一二月一八日大蔵大臣の決定により基準外国為替相場を一ドルにつき金三〇八円と定められた(所謂円切上げ)のであるから、同月一九日からの米ドルの円換算はすべて一ドルにつき三〇八円の計算を以つて行わなければならないのである。

そして原審の口頭弁論終結は昭和四六年一一月二五日であるところ、原審判決の言渡期日は昭和四七年一〇月二四日であるから、当然ドルの円換算表示としては一ドルを三〇八円に換算して金七、七〇〇万円と表示されるべきである。何故なら上告人が被上告人に対し保証したのはあくまでも二五万ドルであつて金九、〇〇〇万円ではない。偶々当時の円換算率に従うと二五万ドルが金九、〇〇〇万円に換算されるということであつて、基準外国為替相場に変更決定がなされたときは、法令の変更があつたものとして、当然変更後の基準外国為替相場に基いて判断すべきである。

これは単純に支払手段に関する問題であつて、当事者間の事実関係或いは法律関係に変更をもたらすものではなく、一国の経済政策の反射的効果であるから、一時点を基準にして一律に適用される必要がある。

所謂、為替差損の生ずるのもこれが所以で経済政策上の止むを得ないギャップである。

然るに原審が第一審の金九、〇〇〇万円の給付判決を維持したのは、昭和四六年一二月一八日の大蔵大臣の決定に反したことになり、これは外為法第七条第六項「大蔵大臣が第一項から第四項までの規定により基準外国為替相場……を定めたときは何人も、これによらないで取引してはならない」との規定に違反することになるし、ひいては国際通貨基金協定という条約にも違背するものである。

斯様に原判決には明らかなる法令違反が存し、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。

同上告理由補充書記載の上告理由

上告理由第三点につき次のように補充する。

一、原判決には重要な法令適用の誤りがあり、これは上告裁判所に明白であるので、これを破棄すべきである。

即ち、保証額を二五万ドルと表示された本件においては民法第四〇三条の適用あるものと解する。

その結果上告人は履行地における為替相場により日本円を以つて弁済し得るのであり、「履行地における為替相場」とは現実に履行する時の為替相場あると解するのが多数説である。

何故なら債務者は履行を為す時において外国の通貨によるか、あるいは日本の通貨によるかを選択する自由を有するものだからである。

そしてこのことは逆にいえば、現実に履行をなす時において外国の通貨によるか、あるいは日本の通貨によるかは専ら債務者に与えられた権能であつて、債権者にはその選択の余地はないということになる。

そうだとすれば債権者たる被上告人は債務者たる上告人に対し、金二五万ドルの支払請求はなし得ても、履行地における為替相場により、日本円の支払請求はなし得ないということになる。

この点二五万ドルを邦貨換算して金九、〇〇〇万円の請求を起した被上告人の訴自体不適法であり、民法第四〇三条の趣旨に反すること明らかであるので、被上告人の請求を認容した原判決は破棄されるべきである。

また履行時において外国の通貨により支払いを為すか、日本の通貨により支払いをなすか、その選択権を債務者に与えた民法四〇三条の趣旨からすれば裁判所といえども裁判主文において日本の通貨による支払いを命じること自体理論的に不可能である。この点原判決は重大な誤りを犯しているといわねばならない。

二、仮りに右一の主張が認められないとしても原判決には次のように法令違背がある。

即ち、現在我国の外国為替相場は一ドルにつき金三〇八円の固定相場ではなく、大蔵大臣の決定により昭和四八年二月一四日以降変動相場制を採用している。

そして外為法第七条第六項により、右大蔵大臣の決定による基準外国為替相場に基づかずして取引することは禁じられているから、右変動相場により金員の支払いをしなければならない。

にも拘らず、これが固定的に金九、〇〇〇万円の支払いを命じた原判決は明らかに右法令に違反することになるので、その被棄は免れない。

三、昭和四七年五月一五日を以つて沖繩が日本に復帰したことにより、上告人と被上告人との間の債権債務関係は居住者間の債権債務関係として外為法の規制を受けないとする立場に仮りに立つとしても、即ち仮りに居住者間の自由な支払行為であるとしても、ドルを円に換算して支払う場合、特に当事者間において基準外国為替相場を排除する旨の特約が存する場合は格別、そうでない場合は大蔵大臣の決定した基準外国為替相場に基いて決済されるのが、経験則上疑いのないところであり、且つ商慣習なのである。

そうだとすれば本件において若し円で決済なされるとすれば、現実の具体的履行時期における変動為替相場によるべきであり、これが固定的に金九、〇〇〇万円の支払いを命じた原判決は経験則若しくは商慣習に反していること明らかであり、この点法令違背が存するから破棄を免れない。

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