大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(オ)221号 判決

主文

原判決中被上告人の請求を認容した部分を破棄する。

前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は第一、二、三審とも被上告人の負担とする。

理由

上告代理人花田啓一、同長谷川正浩の上告理由一について

原判決は、(1) 訴外明治建設興業株式会社(以下「明治建設」という。)は、昭和四六年七月一〇日に不渡手形を出して倒産したが、当時その負債総額が一二億七〇〇〇万円に達し、債務超過の状態であつたため、同月一二日ころから同会社名古屋支店に取立のため押しかけた多数の債権者に対して、債権者集会の成立するのをまつて本社で集約して支払う旨説明し、その支払を拒否していたこと、(2) 一方、上告人は、当時明治建設に対し三三五万円の本件約束手形金債権を有していたところから、同月一二日夜七時ころ同支店の石塚時雄支店長を名古屋市南区弥次衛町の福田新一方に連行し、同所においてほか数名の者と共に同支店長を取り囲んで右手形金の支払方を迫り、中には茶わんを投げつける者もあつて、当初は明治建設の一般方針を説明し支払を拒否していた同支店長も、同夜一二時ころに至り、第三者からの借入金で上告人に支払をすることを約束して、辛うじて帰宅を許される状況であつたこと、(3) 翌一三日、上告人は、再び同支店を訪れて石塚支店長と面談したが、前夜同支店長の約束した金策が不成功に終つたことを知り、再び債務の支払を迫り、押問答を重ねるうち上告人が手拳で同支店長の顎を一回殴打した、その場には同支店の従業員も多数居合わせたが、警察に連絡する者もいないというような状況で、孤立感を抱くに至つた同支店長は、遂に、上告人に対し、明治建設が名古屋市に対して有する同市神丘中学校プール新設工事代金債権のうち三三五万円の受領方を委任する旨の委任状を書き与えるに至つたこと、(4) 翌一四日、上告人は、明治建設の従業員と同道のうえ名古屋市役所に赴き、明治建設が同市役所から受領した金額四〇〇万円の小切手を現金化したものの中から本件手形金債権元本額全額の弁済として現金三五五万円の支払を受けたこと、等の事実を認定し、これらの認定事実に基づき、上告人に対する右弁済は、上告人の強請によるとはいえ、消極的ながら他の債権者を害する意思をもつて上告人と通謀のうえしたものというほかはないから、本件弁済は詐害行為を構成する、と判断し、原審において新たに追加された被上告人の第三次請求を認容したものである。

しかしながら、債権者が弁済期の到来した債務の弁済を求めることは、債権者の当然の権利行使であつて、他の債権者の存在を理由にこれを阻害されるべきいわれはなく、また、債務者も、債務の本旨に従い履行をすべき義務を負うものであるから、他の債権者があるからといつて弁済を拒絶することはできない。そして、債権者に対する平等分配の原則は破産宣告によつて始めてその適用をみるに至るものであるから、債務超過の状況にあつて特定の債権者に対する弁済が他の債権者の共同担保を減少させることとなる場合においても、かような弁済は、債務者が特定の債権者と通謀し他の債権者を害する意思をもつてしたような場合を除いては、原則として詐害行為とならないものと解するのが、相当である(最高裁昭和三一年(オ)第四〇二号同三三年九月二六日第二小法廷判決・民集一二巻一三号三〇二二頁参照)。

本件についてみるのに、原審の前記認定事実によると、明治建設は、債権者たる上告人から強く要求された結果、法律上当然弁済すべき債務をやむなく弁済したものと認めるのを相当とするから、原審が、単に前認定のごとき経緯だけで、明治建設の上告人に対する本件手形債務の弁済を明治建設が上告人と通謀し他の債権者を害する意思をもつてした詐害行為であると断定したのは、民法四二四条の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、この違法は原判決中この部分に影響することは明らかであつて、論旨は理由があり、原判決中、被上告人の第三次請求を認容した部分は、破棄を免れない。そして、原審の前記認定事実によると、明治建設の上告人に対する本件手形債務の弁済が明治建設において上告人と通謀し他の債権者を害する意思をもつてした詐害行為であるとは認められないから、被上告人の第三次請求は、失当であり、棄却すべきものである。

よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 服部高顕 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 環 昌一)

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