大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

最高裁判所第二小法廷 平成7年(行ツ)106号 判決

東京都練馬区豊玉南三丁目二一番一六号

上告人

セイキ工業株式会社

右代表者代表取締役

守谷守

右訴訟代理人弁護士

中井秀之

野上邦五郎

杉本進介

同弁理士

林宏

内山正雄

東京都江東区大島二丁目一番一号

被上告人

トステム株式会社

右代表者代表取締役

潮田健次郎

右訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

同弁理士

佐藤一雄

前島旭

後藤田章

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第一七三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成七年三月一四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中井秀之、同野上邦五郎、同杉本進介、同林宏、同内山正雄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成七年(行ツ)第一〇六号 上告人 セイキ工業株式会社)

上告代理人中井秀之、同野上邦五郎、同杉本進介、同林宏、同内山正雄の上告理由

原判決には、以下に述べるとおり、民事訴訟法第三九四条に規定する判決に影響を及すこと明らかなる法令の違背、同法三九五条第一項第六号に規定する理由不備ないし理由齟齬があるので、破棄を免れない。

第一点 甲第四号証カタログの発行日について、

第一、 原判決は、甲第四号証カタログの公知性について、

「 成立に争いのない(上告人は原審準備手続で「不知」としたが、原審書証目録では「認」と誤記されている。)甲第四号証は、『規格バルコニーデッキ材』に関する三協アルミニウム工業株式会社発行のカタログであるが、同カタログの表紙の右上には、「′82年10月発行」と、二枚目の右上には「′82 10」とそれぞれ記載されていることが認められる。

発行時についての上記記載、及び、カタログはその性質上、配布、公開を目的として作成される刊行物であることからすると、甲第四号証のカタログは、遅くとも本件考案の実用新案登録出願時(昭和五八年二月二日)よりも前に日本国内において頒布されたものと推認するのが相当であって、この推認を左右すべき証拠はない。」と判示している(原判決二六頁一五行~二七頁六行)が、この判断には、判決に影響を及すことが明らかな法令の違背(経験法則違反の違法)がある。

即ち、一般に、多数の印刷紙面を有するようなカタログ(例えば、会社の総合カタログや、少なくとも数枚以上を綴じ込んだカタログ)は、それに印刷年月日や発行年月日等の印刷による表示がある場合に、その印刷あるいは発行された年月日についての蓋然性を、当該表示からある程度推認することができる。従って、原判決がそのようなカタログを対象として発行日の判断を行っているのであれば、右判示も経験法則に沿うものと考えられる。

しかしながら、頒布されたとするカタログが、甲第四号証のように一枚の紙の表裏に印刷した「ちらし」とでもいうべきもの(甲第四号証の「′82年10月発行」と記載したのが表面で、「′82 10」と記載した二枚目はその裏面である。)である場合には、それに発行年月日等の記載があっても、それが現実的な発行年月日と一致しないことが多く、また、「カタログ」や「ちらし」と言われる印刷物は、その性質上、配布、公開を目的として作成される刊行物ではあるが、「ちらし」と呼ばれる類のものでは、発行年月日等の表示があっても、その発行年月日に配布、公開されない場合も少なくない(現に、甲第四号証のように明確な発行月の表示がある刊行物でも、後述するように、その発行月に疑問がある。)。

このことは、一般的知識として、判断形式の大前提をなす、所謂経験法則であって、審決例においても、「ちらし」ではなく、「カタログ」と呼べるものに記載の印刷年月日や発行年月日を、それを覆す証拠がなくてもそのまま認める例は、特段の事情がない限りあり得ないことであり、多くの審決例では、何らかの立証手段による印刷、発行及び頒布の事実及び時点の立証により、その公知性を認定している。まして、「ちらし」と呼ばれるものについての印刷、発行及び頒布の事実及び時点は、何らかの立証手段により立証されなければ一般的に認められず、特許庁では、それがカタログについての公知性判断のブラクティスとして、慣習化されていると考えられる。

かかる経験法則の存在下における原判決の右判断には、同経験法則違反の違法、即ち判決に影響を及すことが明らかな法令の違背がある。

以下は、右経験法則が適用されている審決例の一部である。

イ、 昭和三九年審判第一九三三号審決〔参考審判決集(特許庁公報五一-三三)〕

カタログで、Copyright 1950, A. O. Smith Corporationと記載され、さらに、IN Printed in U.S.A. 756と記載されたものについて、一九五〇年に版権登録を行ったものであって、アメリカで印刷されたものであることを認めながら、頒布された刊行物であるかどうかの記載はどこにも見当たらないとして、公知性を認めていない。

ロ、 昭和四二年審判第四八四〇号異議決定〔特許庁発行、参考審判決集(四)〕

表題と著者の外に、Presented at the International Scientific Congress on Electronics 11th. 22 June 64 Rome, Italyとの記載があるが、それが一九六四年六月二二日にイタリアのローマで第一一回エレクトロニクス国際会議で発行されたものとは直ちに認められない、と認定している。

ハ、 昭和四四年審判第三八六六号審決〔特許庁発行、参考審判決集(三)〕

「ソネボーン社の消泡材」と題するパンフレットについて、それを昭和三六年四月一〇日に印刷し、その後直ちに不特定多数の需要家に頒布したことを示す証明書を提出しているが、その証明内容では頒布された事実を証明するに足るものとは認めがたいとしで、公知であることを認めていない。

ニ、 昭和四六年審判第八〇四号の審決〔特許庁発行、参考審判決集(三)〕

「ウエスチング社発行のカタログ類」であって、「April, 1966」の記載があるものについて、一般にカタログ類にはその印刷日が記されるのが普通であるという判断に基づけば、一応、この印刷物が一九六六年四月に印刷された刊行物であると認め得ないわけではない、としながら、この種のカタログ類が印刷後において頒布される態様は一定ではなく、必ずしも、その直後速やかに頒布されるとは限らないものであること、および印刷日と本件出願の出願日との間隔が極く短時日(約二ヶ月)であることからみれば、そのカタログだけをもって直ちにこれが本件出願の出願日(一九六六年六月二四日)前に頒布された刊行物でおると認めることはできないものである、と認定している。

ホ、 昭和四九年審判第二三九四号審決〔特許庁発行、参考審判決集(四)〕

「ポーテージレイアウトマシン」のカタログが公知であることを証明書によって認めている。

ヘ、 昭和四九年審判第五九八二号審決〔特許庁発行、参考審判決集(四)〕

「日立ヒユーズフリー遮断器用漏電引はずし装置」のカタログが公知であることを、甲第五号証の電気工業新聞の広告、及び甲第六号証の日立スイッチ技術ニュース第七号における商品発売の紹介記事によって認めている。

ト、 昭和五一年審判第三七三五号審決〔特許庁発行、参考審判決集(六)〕

「プリンスサービスガイド」(一九六五年六月一五日、プリンス自動車販売株式会社技術部発行)について、この種の内容をもつ刊行物が、自社系列はもとより、自社製品を取り扱う一般のサービス工場に至るまで、守秘義務を負わせることもなく頒布されるのが通例と認められる、という特殊な刊行物であることを前提とし、刊行物に記載の発行日により約一年後の出願に対して公知であると認定している。

チ、 昭和五一年審判第六〇九五号審決〔特許庁発行、参考審判決集(五)〕

一九六七年一一月発行であることを略号で示す「711-1-C・T」の表示があるカタログの頒布を、カタログ頒布証明書によって認めている。

リ、 昭和五一年審判第一〇二三三号審決〔特許庁発行、参考審判決集(一一)〕

引用例の水高度利用委員会の研究報告書の表紙の日付けが昭和四六年三月となっているが、これがこの報告書の発行日を示しているとは認め難く、いつ発行され、いつ頒布されたかは不明であるとしている。

ヌ、 昭和五二年審判第二六号審決〔特許庁発行、参考審判決集(五)〕

刊行物「○○ブライト1A加工説明書」の記載「39.1.20 1000」及び刊行物「○○ブライト1、プロセス」工程仕様No.27の記載「1968年3月21日に改定」を以って、両刊行物が頒布されたとはいえない、という主張に対して両者共に使用説明書であって、通常その内容を周知徹底させる目的で頒布されるものであるから、印刷日あるいは改定日からそれほど日時にを経ることなく頒布されたと見るのが社会常識であり、本願出願日(昭和四五年二月一四日)より相当以前に印刷(昭和三九年一月二〇日)されているから、明らかに本願出願前に頒布されているものと認めている。

ル、 昭和五三年審判第一三八一八号審決〔特許庁発行、参考審判決集(一二)〕

「1968.2.20,000」と表示されている藤井電工株式会社のカタログについて、証人調べの結果明らかとなった頒布の年月日との間に矛盾がないことを理由として、その公知性を認めている(昭和四四年四月二一日出願)。

オ、 昭和五八年審判二〇六八二号審決〔特許庁発行、参考審判決集(一〇)〕

カタログの頒布を富山県工業試験場長名の証明書等によって認めている。

ワ、 昭和五四年審判第七〇二一号審決〔特許庁発行、参考審判決集(一〇)〕

引用例は、一九七三年型Dodge社のシャシーのサービスマニュアルで、一九七二年八月に米国で印刷された旨表示されているものと認められ、当業界の商習慣を勘案すれば、印刷された旨の表示のある一九七二年八月よりも二年以上経過した本願出願当時、引用例が米国内において頒布された刊行の状態にあったと推認するに何らの不自然はない。

カ、 昭和五七年審判第一七六七号審決〔特許庁発行、参考審判決集(一〇)〕

引用された小冊子の末葉の「43.5.600(巧和)」の記載が、印刷会社の巧和が昭和四三年五月に六〇〇部作成したことを示す慣用の記号」であるとしても、それは、この小冊子が本件考案の出願日(昭和四四年六月二四日)前に頒布された事実の証左とはならない。

第二、 甲第四号証のカタログの表面(一枚目)には、「′82年10月発行」という表示があるが、その裏面(二枚目)の下部には、「S57.11.20〈C〉」という表示がある(これは、甲第四号証カタログのカラー写真には写っているが、甲第四号証の乾式コピーではその表示が見えない。)。この日付けは、〈C〉の表示から、著作権に関する表示と混同し易いため、三協アルミニウム工業株式会社の担当者に尋ねたところ、同担当者によれば、カタログ印刷会社の区別を示すもので、それに付記した日付けが印刷日である旨の説明を受けている。ちなみに、同社のカタログには、印刷会社に応じて、〈Y〉または(Y)、〈H〉または(H)の表示(甲第一〇号証参照)がある。

右〈C〉の表示を付した日付けが印刷日であることから、表示された発行月よりもその印刷日が遅く、従って、表示された発行月が現実的なカタログの発行(頒布)月であることはあり得ない。特に、甲第四号証のカタログに、S57.11.20という日にちまで表示した明確な印刷日の表示がある以上、その発行月の表示に疑念が生じるのは当然である。

このことから、甲第四号証のカタログにおける「′82年10月発行」という発行時点の表示は、必ずしも正確な意味での現実的な発行時点を意味するものではなく、何らかの意味で社内的に決めた非現実的な発行日であることが明らかである。刊什物が公知であるためには、その刊行物の印刷及び頒布の事実並びに頒布日が明確であることが必要であるところ、甲第四号証は、印刷の事実及びその年月日が推認されるに過ぎないものである。

このように、甲第四号証のカタログにおける発行月自体が不正確であり、従って原判決には審理不盡により判決に影響を及す理由不備がある。また、このことは先に述べた経験法則の正当性を示す証左ともなるものである。

第三、 原判決は、結論的に、本件考案は甲第四号証のカタログ及び甲第六号証の公報に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたと認定するものであり、このことから、甲第四号証が本件考案の出願前に頒布されたか否かの判断は、判決の結論に大きな影響を及すものである。

従って、「ちらし」ともいうべき「カタログ」である甲第四号証の発行月を、何らの傍証なしに現実的な発行月とし、それが昭和五八年二月二日より前に日本国内において頒布されたとする右原判決の判断は、右に述べたように、甲第四号証が本件審決の取消事由として中心的な役割を担っている以上、判決に影響を及すべき違法(経験法則違反)があり、原判決はこの点において破棄を免れないといわざるを得ない。

第二点 甲第四号証に記載の図の内容について、

第一、 原判決では、甲第四号証のカタログにおける二枚目(裏面)の最上段の断面図について、

「上記バルコニーデッキ材は連結して用いられるものである以上、立ち上がり板がこの凸状形部分内に入り込み、突出板が凹構内に嵌まり込むものと考えるのが通常であり、他の態様は考えられない」

と認定している(二九頁下から三行~三〇頁二行)。

しかしながら、隣接するデッキ材の連結時に、右立ち上がり板が凸状形部分の下方に位置し、右突出板が凹溝上に位置することが各部の寸法関係から考えられることであっても、当該突出板が凹溝内に嵌まり込んで、隣接するデッキ材との距離を広げる方向に位置調節した場合にその突出板が立上がり板の内側に係合すると考えるのは、本件登録実用新案があってこそ考えられることである。

即ち、本件実用新案の出願以前においては、右突出板が凹溝内に嵌まり込む構成は一般に知られていなかったものであるから、甲第四号証に記載のデッキ材の図を見て、右認定のように、突出板が隣接するデッキ材の凹溝内に嵌まり込むものと考えるのは通常のことではない。なお、甲第一〇号証は、その発行月の表示(本件実用新案の出願日から約一〇年後)かち、本件実用新案の出願時点には明らかに存在しなかったものである。

しかも、上告人が第二準備書面で主張しているように、凹溝が樋を形成し、突出板が被板と共に隣接デッキ材やこのデッキ材を設置する枠材への当たり面を形成し、あるいは隣接デッキ材の間を通して流下する雨水を凹溝内に確実に導く水切り板を形成するなど、他の態様も当然に考えられることである。現に、同一当事者間で本件実用新案権の侵害関係について係争中の訴訟事件(東京地裁民事二九部、平成五年(ワ)第一八四〇〇号)では、被上告人自体が右突出板を水切り板であると主張している。また、被上告人会社のカタログでも、右突出板を被板と共にこのデッキ材を設置する枠材に当接きせるようにした図が描かれている。

このように、原判決には、右断面図により示されているデッキ材の構成に関する判断において、判決に影響を及すことが明らかな審理不盡による理由不備がある。

第二、 また、前述したように、甲第四号証の図における突出板が隣接するデッキ材の凹溝内に嵌まり込むと考えることは、本件実用新案の内容を知ったものでなければ、設計図でもない説明図(概略断面図)が描記されている甲第四号証のカタログ自体から到底続み取ることが困難であり、しかも、同図から極めて微細な寸法関係を見てもそれは意味のないことである。即ち、同図のように、必ずしも正確でない説明図において、たまたま拡大コピーによりわかる程度の寸法的に微細な構成があっても、それによって、甲第四号証には「立上がり板の内側に係合する抑止板(突出板)を設ける」という技術的思想は開示されているとすることはできない。

これらは、次のような判例によって裏付けられたものである。

ヨ、 昭和五一年(行ケ)第一三号判決(昭和五二年六月二八日判決)

〔特許庁発行、参考審判決集(三)〕

引用例の図面が設計図ではなく、その記載に徴して前記図面の装置の各部分相互間の寸法比率まで、実施上採用すべきものとして描かれたものでなければ、これを以って本願考案の技術的思想が開示されたものと判断することには誤りがある。

タ、 平成〇一年(行ケ)第八二号判決(平成二年五月三一日言渡)

審決の引用した引用意匠は極めて小さいものであり、頭部の径と軸体との比や高さと径との関係が審決認定のように明確には認定できないものであるから、引用意匠と本願意匠との類比につき正確な対比判断ができない。

第三点 審判手続において審理されなかった証拠について、

第一、 原判決では、特許庁における審決手続の段階で提出されていなかった甲第一〇号証を採用し、それを甲第四号証のカタログにおける二枚目(裏面)の最上段の断面図の構造を把握するための資料としているが、この甲第一〇号証の採用は、以下に詳論するように判決に重要な影響を及ぼしている。

即ち、前述したように、原判決では、甲第四号証のカタログの裏面の断面図に、立ち上がり板がこの凸状形部分内に入り込み、突出板が凹溝内に嵌まり込む構造が記載されていると認定しているが、原判決は、本件考案は甲第四号証及び甲第六号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと結論付けるものであるため、この甲第四号証の断面図に右認定の構成が記載されているか否かの判断が判決の結論に大きな影響を及すことは極めて明白である。

而して、無効審判の審決取消訴訟では、後述するような判決例により、審判の手続において審理判断されていなかった証拠に基づいて無効原因の存否を判断することは、特段の場合を除いて許されるべきでないことが明確化されているが、右甲第一〇号証の図に基づく甲第四号証の断面図の構造の把握は、明らかにその特段の許容限度を越えるものである。

第二、 更に具体的に詳述すると、原判決では、甲第四号証のカタログの裏面の断面図に、立ち上がり板がこの凸状形部分内に入り込み、突出板が凹溝内に嵌まり込む構造が記載されていると認定しているが、前述したように、本件実用新案の出願当時には、右突出板が凹溝内に嵌まり込む構成は一般に知られていなかった(従って、本件考案が登録された。)ものであり、しかも、本件審決取消訴訟において提示されている全証拠のうちで、甲第四号証のカタログの断面図に示されているデッキ材を、右立ち上がり板が凸状形部分内に入り込み、突出板が凹溝内に嵌まり込む構造をもつ可能性があることを示唆するのは、甲第一〇号証のみである。

原判決においては、甲第一〇号証に関し、その三〇頁末行~三一頁六行において、「ちなみに、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証(一九九三年八月三協アルミニウム工業株式会社発行の規格パルコニーデッキ材の取り扱い説明書)には、甲第四号証のバルコニーデッキ材と同一形状のバルコニーデッキ材について、上記のような構成が示されている。」

と括弧書きで指摘しているに過ぎないが、甲第四号証のカタログの断面図に示されたものが、立ち上がり板がこの凸状形部分内に入り込み、突出板が凹溝内に嵌まり込む構造を有するという判断が、右甲第一〇号証の図によって行われていることは極めて明白である。

このような甲第一〇号証による、甲第四号証の図に示されたデッキ材の構造の推認は、無効審判の審決取消訴訟で容認されるところの、審判の手続において審理判断されていなかった証拠に基づいて無効原因を判断するものであり、判決例によって許容されるとしている、当業者にとって周知慣用の事項を立証するための補充的証拠に相当するものでもない。

また、右甲第一〇号証は、単純に本件実用新案と甲第四号証の構造上の比較を容易にするための補充的資料に相当するようなものではなく、甲第四号証の図に示されたデッキ材の構造や機能を推定あるいは特定するための資料として用いられており、このような証拠の採用は容認されるべきではない。

しかも、この用第一〇号証は、本件実用新案の出願日から約一〇年を経過した後に発行されたものであり、甲第四号証の図に示されているものと同一のものであるか否かの保証もないものである。

以下に、審決取消訴訟において、審判の手続で審理判断の対象とならなかった証拠に基づいく無効原因の判断に関連する判決例を示す。

レ、 昭和四二年(行ツ)第二八号(昭和五一年三月一〇日、大法廷判決)

〔特許庁発行、参考審判決集(三)〕

審決取消訴訟においては、審判の手続において審理判断されていなかった刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法、違法を判断することは許されない旨を判示している。

ソ、 昭和五四年(行ツ)第二号判決(昭和五五年一月二四日言渡)

〔特許庁発行、参考審判決集(五)〕

審判の手続に現れていなかった資料に基づき当業者の出願当時の技術常識を認定し、無効原因の存否を認定したとしても、違法とはいえない。

ツ、 昭和五四年(行ケ)第二〇〇号判決(昭和五六年二月二四日言渡)

〔特許庁発行、審決取消訴訟判決集、昭和五六年〕

審判において判断されなかった刊行物でも、記載内容が、特許出願日において既に周知であったことを立証するものとしてこれを提出することは差し支えない。

ネ、 昭和五七年(行ケ)第二四二号判決(昭和六〇年三月一二日判決)

〔法曹会、無体財産権関係民事・行政裁判判例集、第一七巻第一号〕

審決取消訴訟における証拠の提出につき、当業者にとって周知慣用の事項を立証するための補充的証拠としてならば、新たに提出することが許される。

第三、 原判決では、甲第一〇号証について、「弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる」と認定している(原判決三一頁一~二行)が、同号証についての上告人主張は、平成六年一二月二二日付けの第三準備書面において、「本件訴訟とは全く関係のないものである。」としている点のみであり、それにも拘わらず、弁論の全趣旨によって真正に成立したと判断した点には、理由不備の違法がある。

以上に詳論したように、原判決には、民事訴訟法第三九四条に規定する判決に影響を及すこと明らかなる法令の違背、同法三九五条第一項第六号に規定する理由不備ないし理由齟齬があり、従って、原判決は破棄を免れない。

以上

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com