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最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)557号 判決

三重県伊勢市一之木一丁目一番二三号

上告人

株式会社万屋薬品

右代表者代表取締役

石熊晃

右訴訟代理人弁護士

室木徹亮

三重県伊勢市上地町二六九一番地三六

被上告人

万屋食品株式会社

右代表者代表取締役

畑中幹生

右当事者間の名古屋高等裁判所平成七年(ネ)第八〇八号商号使用禁止等請求事件について、同裁判所が平成八年一二月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人室木徹亮の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成九年(オ)第五五七号 上告人 株式会社万屋薬品)

上告代理人室木徹亮の上告理由

(以下、原告・被控訴人・被上告人である「万屋食品株式会社」を「万屋食品」と、被告・控訴人・上告人である「株式会社万屋薬品」を「万屋薬品」という)

第一 本件の特殊性(先例判決との相違点)

一 不正競争防止法を根拠とする商号使用禁止請求事件の先例として、最高裁判所第二小法廷の昭和五八年一〇月七日付判決(民集三七巻八号一〇八二頁、以下「先例判決」という)があり、この先例判決が一・二審判決の基礎ともなっている。

二 先例判決の事案の概要

1 被上告人である「マンパワー・ジャパン株式会社」は、昭和四一年一一月三〇日に設立登記され、設立以来、その商号である「マンパワー・ジャパン株式会社」及びその通称である「マンパワー」という名称を用いて事務処理請負業を営んでいる。

そして、昭和五一年四月頃には、被上告人の商号及びその通称である「マンパワー」という名称は、その本店所在地をはじめ支店所在地の地域及び近傍地域において被上告人の営業活動たることを示す表示として広く認識されていた。

2 一方、上告人である「日本ウーマン・パワー株式会社」は、昭和五一年四月一五日に設立登記され、設立以来、その商号である「日本ウーマン・パワー株式会社」の名称を用いて、被上告人と同じ事務処理請負業を営むようになった。

3 そこで、被上告人が上告人に対し、「日本ウーマン・パワー株式会社」という商号の使用差止を求めたのが先例判決の事案の概要である。

三 本件の特殊性(先例判決との相違点)

1 万屋食品は、明治三五年頃に畑中万次郎が伊勢市一之木に開いた「万屋商店」に始まり、その後、万次郎の子利助、孫の幹生に引き継がれ、幹生が昭和三三年に「万屋食品株式会社」の商号の下に会社組織にして今日に至っている。

一方、万屋薬品は、畑中玲子(畑中幹生の実妹)が昭和四〇年に当時夫であった山本康隆とともに「万屋薬品」を伊勢市一之木に開業したことに始まり、昭和五八年には石熊晃を迎え入れるともに、「万屋薬品」を「有限会社万屋薬品」に組織変更し、更に平成三年には「株式会社万屋薬品」と組織変更して今日に至っている。

尚、万屋食品の代表者である畑中幹生は、「万屋薬品」の開業も、また「有限会社万屋薬品」への組織変更も承諾している。

右のとおり、万屋食品と万屋薬品は昭和四〇年から平成三年(一・二審判決は万屋食品の周知性を平成三年で認定している)まで、二六年間の長きにわたって、同じ伊勢市内で営業を続けている。この点、先例判決の事案では、被上告人は、上告人が「日本ウーマン・パワー株式会社」の名称で営業することを全く認めておらず、本件と事案を異にする。

2 万屋薬品は、一般消費者に「万屋薬品」の名前を広く知ってもらうために、昭和五八年から新聞折込チラシなどで宣伝広告をし、平成三年(一・二審判決は万屋食品の周知性を平成三年で認定している)まででも左記のとおり合計一億一一〇〇万円余りの宣伝広告費を使っている。即ち、万屋薬品は、「万屋」の名前を(一・二審判決も商号は「万屋」で類似すると認定している)広める為に企業努力をしている。

〈1〉 自 昭和五八年二月一日 五九〇万七五〇〇円至 五九年一月三一日

〈2〉 自 昭和五九年二月一日 五四一万五五七一円至 六〇年一月三一日

〈3〉 自 昭和六〇年二月一日 一二七二万三四八六円至 六一年一月三一日

〈4〉 自 昭和六一年二月一日 一〇五三万〇八二〇円至 六二年一月三一日

〈5〉 自 昭和六二年二月一日 一〇三二万三〇九〇円至 六三年一月三一日

〈6〉 自 昭和六三年二月一日 一三〇二万五七二七円至 平成 元年一月三一日

〈7〉 自 平成 元年二月一日 一五九六万八一八六円至 平成 二年一月三一日

〈8〉 自 平成 二年二月一日 三七一七万八二二一円至 平成 三年一月三一日

合計 一億一一〇七万二六〇一円

この点、先例判決の事案では、上告人が、既に広く知られている被上告人の商号に類似する商号を使用するようになっただけであり、上告人が「マン・パワー」の名前を広めることに全く関与しておらず、本件と事案を異にする。

第二 法令の解釈違反

一 改正前の不正競争防止法一条一項二号(改正後の同法二条一項一号)の立方趣旨は、「第三者がほしいままに国内において周知となった他人の営業表示と同一または類似のものを使用して、同人の営業上の施設または活動と混同を生ぜしめる行為は、行為者の目的・意思いかんにかかわらず、他人が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた取引上の名声を何らの対価を支払うことなく自己のために利用するものであるとともに、右の他人に対し、その意思に基づかず、またその支配の及ばない無関係の営業活動について、不当に関係づけられる迷惑を被らしめ、ひいては周知表示の取引通用性の稀釈化、その他営業上の利益を害する結果をもたらすおそれのあるものであるから、営業上許される自由競争の範囲を逸脱し、取引上の信義則に違反するものとしてこれを禁止しようとするにある」(神戸地方裁判所平成五年六月三〇日付判決、判例タイムズ八四一号二四八頁)。

即ち、右法律が最も許し難いとするのは、「他人が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた取引上の名声を何らの対価を支払うことなく自己のために利用する」からである。従って、右法律が適用されるのは、「他人が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた取引上の名声を何らの対価を支払うことなく自己のために利用する」場合に限られるのは当然である。

二 先例判決の事案は、前記第一の二のとおり、被上告人が昭和四一年一一月三〇日に設立されて後、自らの努力で自己の商号等が本店所在地等の地域で周知性を得た昭和五一年四月、被上告人が類似の商号を使って会社を設立したというものである。こればまさに、上告人が「他人(被上告人)が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた取引上の名声を何らの対価を支払うことなく自己のために利用した」場合であって、右立法趣旨どおりの事案である。

三 ところが、本件の場合、前記第一の三のとおり、万屋薬品は昭和四〇年から平成三年まででも二六年間もの間「万屋薬品」で営業し、そればかりか昭和五八年から平成三年まででも約一億一一〇〇万円余りの宣伝広告費を使って自己の名前を広めている。すなわち、一・二審判決が重要だと認定している「万屋」という名称は、ひとり万屋食品の努力だけで築かれた名声ではなく、万屋薬品の永年の努力も大いに寄与している。むしろ、平成三年当時伊勢地方の一般消費者が「万屋」の名前を知っているとすれば、それは昭和五八年から万屋薬品が始めた新聞折込チラシの宣伝効果によるものである。

右の様に、本件は、「万屋食品が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた「万屋」という取引上の名声を、万屋薬品が何らの対価を支払うことなく自己のために利用した」というものではなく、「万屋」という名声を得るのに万屋薬品も大いに寄与した事案であり、前記立法趣旨と事案を異にする。

従って、本件事案に改正前の不正競争防止法一条一項二号(改正後の同法二条一項一号)の適用を認めて商号の使用差止を認めた一・二審判決は、右法律の解釈を過った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第三 判例違反

一 先例判決の事案は、前記第一の二のとおり、被上告人が昭和四一年一一月三〇日に設立されて後、自らの努力で自己の商号等が本店所在地等の地域で周知性を得た昭和五一年四月、被上告人が類似の商号を使って会社を設立したというものである。これはまさに、上告人が「他人(被上告人)が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた取引上の名声を何らの対価を支払うことなく自己のために利用した」場合である。

二 ところが、本件の場合、前記第一の三のとおり、万屋薬品は昭和四〇年から平成三年まででも二六年間もの間「万屋薬品」で営業し、そればかりか昭和五八年から平成三年まででも約一億一一〇〇万円余りの宣伝広告費を使って自己の名前を広めている。すなわち、一・二審判決が重要だと認定している「万屋」という名称は、ひとり万屋食品の努力だけで築かれた名声ではなく、万屋薬品の永年の努力も大いに寄与している。むしろ、平成三年当時伊勢地方の一般消費者が「万屋」の名前を知っているとすれば、それは昭和五八年から万屋薬品が始めた新聞折込チラシの宣伝効果によるものである。

右の様に、本件は、「万屋食品が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた「万屋」という取引上の名声を、万屋薬品が何らの対価を支払うことなく自己のために利用した」というものではなく、「万屋」という名声を得るのに万屋薬品も大いに寄与した事案である。

従って、本件事案に改正前の不正競争防止法一条一項二号(改正後の同法二条一項一号)の適用を認めて商号の使用差止を認めた一・二審判決は、先例判決に反するものである。

第四 憲法違反

一 憲法は、個人・企業の営業活動の自由を保障している(憲法二二条一項、二九条一項)。そして、人の業務にかかる氏名や商号は、営業活動をする個人・企業の「顔」とも言うべきもので、営業活動にとって最も重要なものと言える。従って、営業活動の自由には、商号などを自由に使用することも含まれる。

しかし、自由にも制限があることは当然で、商号などを自由に使うことによって、他人に不当な不利益を与えることは許されない。その例が、改正前の不正競争防止法一条一項二号(改正後の同法二条一項一号)である。

二 ところで、本件の場合、前記第一の三のとおり、万屋薬品は昭和四〇年から平成三年まででも二六年間もの間「万屋薬品」で営業し、そればかりか昭和五八年から平成三年まででも約一億一一〇〇万円余りの宣伝広告費を使って自己の名前を広めている。すなわち、一・二審判決が重要だと認定している「万屋」という名称は、ひとり万屋食品の努力だけで築かれた名声ではなく、万屋薬品の永年の努力も大いに寄与している。むしろ、平成三年当時伊勢地方の一般消費者が「万屋」の名前を知っているとすれば、それは昭和五八年から万屋薬品が始めた新聞折込チラシの宣伝効果によるものである。

右の様に、本件は、「万屋食品が永年にわたり多額の費用を投じ、不断の努力によって築き上げた「万屋」という取引上の名声を、万屋薬品が何らの対価を支払うことなく自己のために利用した」というものではなく、「万屋」という名声を得るのに万屋薬品も大いに寄与した事案である。

しかも、万屋食品の代表者である畑中幹生は、昭和四〇年の「万屋薬品」の開業も、また昭和五八年の「有限会社万屋薬品」への組織変更も承諾している。

右の経過から、万屋薬品が、(自らの顔とも言うべき)「万屋」を含んだ商号を使用する権利(自由)、しかも相当強い権利(自由)を有していることは明らかである。

従って、万屋薬品の右商号使用の権利(自由)を制限するためには、その使用によって他人(万屋食品)が相当な不利益を被むる場合でなければならない。

三 この万屋食品が被むるとする不利益について、二審判決は判決理由の中で(三二頁ないし三四頁)、昭和六〇年頃から次の不利益が万屋食品に発生したと認定している。

1 昭和六三年頃、牛虎チェーンから万屋薬品が万屋食品の支配会社と誤認され、ウーロン茶等の飲料水を万屋食品が牛虎に卸している金額よりも安い金額で万屋薬品を通じて販売しているとの非難を受け、納入価格の見直しを迫られ、いくつかの商品については取引を打ち切られた。

2 平成三年には、万屋薬品が通常の小売価格の三分の一で醤油を販売したことから、万屋食品は牛虎を始め各取引先からクレームを受ける事態となった。

3 平成四年初め頃には、万屋薬品が小俣店において本みりんを販売したところ、万屋食品が万屋薬品にこれを販売させているのではないかと疑われ、問い合せを受けた。

4 小売の関係でも(特に志摩営業所において)、万屋薬品がチラシをまいた直後には、そのチラシを持参して安い飲料水等を万屋食品営業所へ買いに来る消費者が跡を絶たない。

5 万屋食品が電話で注文を受けたのに対し、商品を届けた際に先方が万屋薬品と混同して万屋食品に注文したものであることが判明した例もある。

6 万屋楽品及び万屋食品双方に共通する取引銀行からさえも、万屋薬品と間違えた事務連絡を受け、それにより万屋食品の業務が混乱したこともあった。

7 万屋薬品の取引先が、万屋薬品宛の書類を、間違えて万屋食品に送付してきた例もある。

8 間違い電話も少なくない。

四 右事実認定が、不当であることは後に述べるが(第五)、仮にそれを前提として検討しても、万屋食品が相当な不利益を被むっているとは到底言い難い。

1 右三の1、2、3、5、6、7は、昭和六〇年から事実審の結審時である平成八年までの一一年間の間に、それぞれ僅か一回づつ起きたに過ぎない。従って、不利益があったとしても、ごく僅かのものである。

2 右三の2、3、4、7、8の場合は、万屋食品に何らの経済的損失はなく、また、右三の5、6の場合の経済的損失は微々たるものである。

3 また、右三の3ないし8の様な間違い問い合せや間違い電話の類いは、普通に生活している我々一般市民も日常的に経験することであり、殊更取り上げて、万屋食品の不利益とする必要もない。逆に言えば、これらのことを取り上げなければならない程、万屋食品が迷惑を被むる場面が少ないことを意味していると言える。

五 前記二のとおり、万屋薬品は、「万屋」を含んだ商号を使用する強い権利(自由)を有している。一方、前記四のとおり、万屋薬品が「万屋」を含んだ商号を使用することによって被むる万屋食品の不利益はごく小さい。従って、本件の場合、万屋薬品が「万屋薬品」という商号使用の制限を受ける場合ではない。それにもかかわらず、一・二審判決はその使用の差止という結論を導いており、これは、万屋薬品に認められている商号使用、ひいては営業活動の自由を侵害するものである。従って、一・二審判決は、憲法が万屋薬品に認める営業活動の自由(憲法二二条一項、二九条一項)を侵害するもので、憲法に違反する。

第五 経験則ないし採証法則の適用の誤り又は審理不尽

一 万屋薬品は、二審判決が認定したとおり(二九、三〇頁)、平成六年二月一日から平成七年一月三一日までの事業年度における売上は約二九億七〇〇〇万円で、平成八年八月一日現在で北は三重県四日市市から南は同県度会郡紀伊長島町までの地域に二一店舗を設置して営業する企業である。この様に、万屋薬品は、現在、薬店・薬局業界において三重県最大手の企業に成長している。

この万屋薬品が、万一、本件訴訟で敗訴し、「株式会社万屋薬品」の商号使用が差止められると、その受ける経済的損失は莫大なものとなる。即ち、万屋薬品は、これまで、消費者にその名前を知ってもらうえめ、宣伝広告費を、昭和五八年二月から平成六年一月まででも約二億五〇〇〇万円を使い、現在では、三重県下に新聞折込チラシを毎月二二〇万枚から二七〇万枚入れている。万屋薬品が敗訴しその商号を変更せざるを得なくなると、その変更を消費者に知ってもらうためには、これの何倍もの宣伝広告費が必要となる。そうなれば、万屋薬品そのものの存在が危うくなる。

従って、本件訴訟に携わる裁判所は、その事実認定において、一方当事者の供述のみによることなく、客観的な証拠に基づき慎重に判断する義務があり、その事実認定は、万屋薬品を十分納得させるものでなくてはならない。

二 本件訴訟の争点は、周知性、商号の類似性、誤認混同及び損害の虞であるが、これらの争点は互いに別個の争点ではなく、互いに深く係わり合う。

例えば、誤認混同が多数起きている場合は、商号の周知性及び類似性が高い場合であり、誤認混同しやすければ、損害の虞は高い。

ところで、これらの争点の内、周知性、商号の類似性及び損害の虞というのは極めて観念的であり、頭の中でいくら考えても分かりにくい。例えば、その地域内に長く居住しておれば、地域内における商号の周知性は生活実感として分かるが、その地域に居住せず、何の係わり合いも持たない者(例えば裁判官)には分かりにくいであろう。また、商号の類似性についても、本件の場合、「薬品」と「食品」に力点をおけば、両者の類似性は低いと言えるが、「万屋」に力点をおくと、両者の類似性は高いとも言える。更に、(損害の)虞についても、曖昧で、人によって判断が恣意的になりやすい観念である。

これに対し、誤認混同は現実にどの様な事例があるのか(その事例が証拠上立証できるものであることは当然である)、具体的事例を検討すれば比較的容易に認識できる。

従って、本件で具体的にどの様な誤認混同があるのかを検討し、多くの誤認混同事例があれば、万屋食品の商号の周知性は高く、また万屋食品と万屋薬品の商号の類似性も高いと言えるし、また損害の虞も高いと言える。逆に、誤認混同がなければ、周知性も類似性も低いと言えるし、損害の発生の虞もないと言える。

それ故、本件訴訟においては、誤認混同の事実認定が、裁判所にとって最も重要な認定作業となる。現に、二審判決も、「周知性」認定の場面において(二三頁)、「後記認定のように、現に被控訴人の取引先や一般消費者に控訴人との間で営業主体の混同が生じていることを併せると」として、誤認混同認定の重要性に言及している。

三 前記第四の三のとおり、二審判決が認定した誤認混同の事例は次のとおりである(三二頁ないし三四頁)。

1 昭和六三年頃、牛虎チェーンから万屋薬品が万屋食品の支配会社と誤認され、ウーロン茶等の飲料水を万屋食品が牛虎に卸している金額よりも安い金額で万屋薬品を通じて販売しているとの非難を受け、納入価格の見直しを迫られ、いくつかの商品については取引を打ち切られた。

2 平成三年には、万屋薬品が通常の小売価格の三分の一で醤油を販売したことから、万屋食品は牛虎を始め各取引先からクレームを受ける事態となった。

3 平成四年初め頃には、万屋薬品が小俣店において本みりんを販売したところ、万屋食品が万屋薬品にこれを販売させているのではないかと疑われ、問い合せを受けた。

4 小売の関係でも(特に志摩営業所において)、万屋薬品がチラシをまいた直後には、そのチラシを持参して安い飲料水等を万屋食品営業所へ回に来る消費者が跡を絶たない。

5 万屋食品が電話で注文を受けたのに対し、商品を届けた際に先方が万屋薬品と混同して万屋食品に注文したものであることが判明した例もある。

6 万屋薬品及び万屋食品双方に共通する取引銀行からさえも、万屋薬品と間違えた事務連絡を受け、それにより万屋食品の業務が混乱したこともあった。

7 万屋薬品の取引先が、万屋薬品宛の書類を、間違えて万屋食品に送付してきた例もある。

8 間違い電話も少なくない。

四 しかし、右認定は、万屋食品の代表取締役や取締役の供述や証言のみを根拠とし、他の客観的証拠は無視したものである。従って、この事実認定は、

A 「証言・供述より、客観的証拠を重視して事実認定をする」という法曹界の経験則や採証法則に違反し、審理不尽の謗りを免れず、

B また、「訴訟当事者の水掛け論的な供述には信用性が低い」という法曹界の経験則に違反し、「訴訟当事者の水掛け論的な供述は極力採用しない」という法曹界の採証法則に違反し、ひいては審理不尽の謗りを免れないものである。

以下、詳細に検討する。

1 三の1の検討

〈1〉 これを立証する証拠として万屋食品が提出しているのは、その代表取締役である畑中幹生の供述と同人作成による陳述書及びその取締役である畑中伸一の証言及び同人作成による書類しかない。

これらは一言で言えば、事件当事者本人がその様に供述しているというに過ぎない。これを客観的に立証する証拠、例えば牛虎の役員・社員等の証人申請や陳述書の提出などはない。また、これら客観的証拠を提出すこと自体、それが真実であれば、万屋食品にとって格別困難なことではないのに、提出されていない。

他の客観的な証拠提出が容易と思われるのにそれもせず、事件当事者の陳述しかない場合、その主張は立証なしとして、不存在と取り扱われるのが通常である。

〈2〉 それどころか、万屋食品は、「松阪市に本社のあるフレックスチェーンの三重県下三七店舗から、牛虎と同様のクレームを受けている」と主張し(二審における平成八年四月三〇日付準備書面四3〈1〉)、畑中幹生や畑中伸一はそれにそう供述や証言をしている。しかし、控訴代理人の弁護士照会に答え、フレックスは、「万屋食品と万屋薬品とは別法人と認識し、万屋食品に対し、万屋食品が主張するようなクレームは一切言ったことはない」と明言している(乙第五一号証)。

すなわち、畑中幹生や畑中伸一は明らかに事実と異なる陳述や供述をしている。ここには、自分が勝訴するためなら、事実と異なる供述もするという当事者本人の特性が現れている(だからこそ、当事者本人の供述には信用性が低いという法曹界の経験則がある)。

右のとおり、畑中幹生や畑中伸一の供述や証言は事実と異なるものが含まれ信用性がないことは、他の客観的証拠(乙第五一号証)一つ取っても明らかである。

ここにも、客観的証拠を無視するという二審判決の違法が現れている。

〈3〉 また、フレックスは、控訴代理人の弁護士照会に答え、「当社は平成七年四月から五月にかけて一般加工食品の取引状況の一斉見直しを行い、全ての取引先に商品仕入価格の見積りを依頼し、その結果、万屋食品の見積価格が一部の商品で高かった為に、平成七年五月二二日より帳合先(仕入先)の変更を行いました。その結果、万屋食品よりの仕入高は減少しました。」と回答している。

フレックスは牛虎と同じ、三重県下に多数のチェーン店を有するスーパーであるが、右回答により、スーパーは時期を見て、全ての取引先に仕入価格の見積を依頼し、その結果ある仕入先からの仕入価格が他に比べ高い場合は、仕入先の変更を行うことが分かる。スーパーにとって、一円でも安く仕入れ、他のスーパーより一円でも安く売ることが、商売繁栄の秘訣であることから、このことは当然と言えよう。

フレックスの右回答により、昭和六三年に牛虎が万屋食品に対し納入価格の見直しをしたのは、単にスーパーならどこでも行う、仕入先に対する一斉見直しに過ぎないことが分かる。従って、弁護士照会の回答という客観的証拠(乙第五一号証)から、二審判決の認定は事実誤認だと分かる。

ここにも、客観的証拠を無視するという二審判決の違法が現れている。

〈4〉 更に、万屋薬品は、昭和五八年一二月に二見店を開店しているが、これはスーパー牛虎の中にあり(乙第八号証の四、第三九号証)、それ以後万屋薬品は牛虎と親しい関係で、平成八年四月には共同で大型店舗を出店した(乙第四〇号証)。

この様な親しい仲にある牛虎が、万屋薬品と万屋食品を誤認混同するはずがない。

2 三の2の検討

〈1〉 これも、立証する証拠として万屋食品が提出しているのは、畑中幹生の供述と同人作成による陳述書及び畑中伸一の証言及び同人作成による書類しかない。

〈2〉 更に、控訴代理人の弁護士照会に答え、フレックスは「万屋食品と万屋薬品とは別法人と認識し、万屋食品に対し、万屋食品が主張するようなクレームは一切言ったことはない」と明言している(乙第五一号証)。すなわち、二審判決の認定は、この客観的証拠に明らかに反するものである。

3 三の3の検討

〈1〉 これも、立証する証拠として万屋食品が提出しているのは、畑中幹生の供述と同人作成による陳述書及び畑中伸一の証言及び同人作成による書類しかない。

〈2〉 また、税務署が別々に登記している会社を誤認混同するというのも不自然な話であるし、また違反をしている会社があれば、税務署は端的にその会社に調査に行くのが当然であり、わざわざ別会社に問い合せをしたというのは、一般の経験則から到底信用し難い話である。

4 三の4・5の検討

〈1〉 これらも、立証する証拠として万屋食品が提出しているのは、畑中幹生の供述と同人作成による陳述書及び畑中伸一の証言及び同人作成による書類しかない。

〈2〉 また、4・5は、一般消費者が万屋食品と万屋薬品を誤認混同している事例として認定されている。

しかし、万屋食品(本店及び志摩営業所)が出しているというチラシ(甲第一九号証、第三八号証、第四七号証)を見ると、掲載されているのは全て「酒の安売」である。更に、電話帳でも、万屋食品本店は「酒店」の欄に、万屋食品志摩営業所は「酒類卸」欄に掲載されている(乙第四二号証)。これらを見れば、万屋食品は明らかに「酒屋」ないし「酒類卸」である。

これに対し、万屋薬品のチラシ(甲第一四号証、一五号証、第二〇号証ないし第三三号証、第三九号証、第六一号証、第六二号証)の内容及び電話帳の記載(乙第四一号証)から明らかなように、万屋薬品は明らかに「薬屋」である。

右の様に、両者の違いは明白であり、一般消費者が両者を誤認混同するはずがない。

それにもかかわらず、誤認混同すると認定することは、一般の経験則に反する。

5 三の6の検討

〈1〉 これを立証する証拠として万屋食品が提出しているのは、二審における畑中伸一の証言のみである。

〈2〉 一方、控訴代理人の弁護士照会に答え、共通する取引銀行とされた百五銀行新道支店は、「万屋食品が主張するような間違い電話を掛けたことは一度もない」と明言している(乙第六五号証)。従って、この点に関する、二審判決は、明らかに事実誤認である。

ここにも、客観的証拠を無視するという二審判決の違法が現れている。

6 三の7の検討

〈1〉 ここで始めて、畑中幹生の供述や畑中伸一の証言以外の客観的証拠(書証)を、万屋食品は提出している(甲第三七号証、甲第五八号証、甲第五九号証)。

〈2〉 甲第三七号証の書証は、加藤産業が万屋食品に送付すべき納品書を間違って万屋食品に送付したということを証明する書類である。

しかし、加藤産業の回答書によると(乙第五一号証)、これは単に加藤産業の社員が、納品書を入れる封筒を間違ったという単純ミスによるものであり、しかもこのミスは一回きりのものだと分かる。即ち、その社員が、万屋食品と万屋薬品を同一会社ないし支配会社と誤認混同した結果ではない。

結局、右送付ミスは、本件訴訟で問題にしている「誤認混同」とは全く関係のないものである。

〈3〉 甲第五八号証の書証は、「万屋食品」と書くべきところを、間違って「万屋薬品」と記載されていることを証明する書類である。

しかし、これだけ見ても、どうして記載間違いが起きたのか分からない。また、その理由を明らかにする保険会社担当者の証言ないし陳述書はない。従って、甲第五八号証の書類を見るだけでは、単に誤記があることしか分からず、これだけでは、意味をなさない。

むしろ、新聞折込チラシの効力で、一般消費者にとって伊勢地方で「万屋」と言えば、「万屋薬品」のことであり、保険会社の担当者が、「万屋」と聞いて、万屋薬品のことだと勘違いをしてしまったものと推測される。

〈4〉 甲五九号証の書証は、有限会社文化シャッター南勢販売が「マンヤビル」(万屋食品のこと)に請求書を送ったことを証明する書類である。

しかし、有限会社文化シャッター南勢販売の回答書によると(乙第六四号証)、この請求書(甲第五九号証)はファインズ(薬局、乙第五三号証の六参照)に送付されるべきものであったが、担当者が間違って「マンヤビル」(万屋食品のこと)送付したのである。従って、これも、本件訴訟で問題にしている「誤認混同」とは全く関係のないものである。

7 三の8の検討

これも、立証する証拠として万屋食品が提出しているのは、畑中幹生の供述と同人作成による陳述書及び畑中伸一の証言及び同人作成による書類しかない。

五 右四で検討したとおり、誤認混同に関する二審判決の事実認定には、経験則ないし採証法則の適用の誤り又は審理不尽がある。

正しく、経験則及び採証法則を適用したならば、万屋食品の取引先及び一般消費者が、万屋食品と万屋薬品を同一会社や支配会社と誤認混同した事例は全くないことになる。そうなると、万屋食品の周知性なども否定され、万屋薬品が敗訴するはずはない。従って、二審判決に経験則ないし採証法則の適用の誤り又は審理不尽がなければ、判決は逆転していたはずである。

以上

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