大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成9年(行ツ)51号 判決

東京都文京区関口一丁目二三番六号 プラザ江戸川橋八〇八号室

上告人

宮崎正弘

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 荒井寿光

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行ケ)第一五号審決取消請求事件について、同裁判所が平成八年一一月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西澤利夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成九年(行ツ)第五一号 上告人 宮崎正弘)

上告代理人西澤利夫の上告理由

原判決には、判決に重大な影響を及ぼす判断において誤りがある。このため、原判決は破棄されるべきである。

一、被上告人が、平成三年審判第七六八二号事件について平成六年一一月一〇日にした審決は取り消されるべきところ、原判決は、この取り消しを求めた上告人の請求を棄却した。

しかし、原判決は、右審決の取消事由2(相違点の判断の誤り、進歩性の判断の誤り)についての判断において誤っている。

二、すなわち、まず、上告人の出願した、昭和六二年特許願第七九七九一号の特許出願の発明(以下「本願発明」という)について、原判決は、右審決の依拠する拒絶理由のうちの、本願発明と引用例一記載の装置(以下「引用例装置」という)との相違点(イ)(ロ)(ハ)に関し、その各々は、引用例二ないし三、さらには周知例の技術的事項の適用として容易であって、結局のところ、本願発明は、その構成において公知ないし周知の技術的手段を組み合わせて引用例装置に適用したものとして格別困難なものでなく、容易に想到できるものであり、また、その効果も格別のものということはできないと判断している。

だが、この原判決の判断は、引用例二、三および周知例に示される個々の近似の技術的手段を総体として組み合わせて引用例装置に適用しようとする着想の手がかり、根拠は公知ないし周知例の記載によっては教示されていないし、これらを総体として組み合わせることによる作用効果の顕著性も教示されていないとの上告人の主張に対して説得力の全くないものである。

何故ならば、引用例一、二および三、並びに周知例のいずれにも、右相違点(イ)(ロ)(ハ)を克服して、引用例装置に公知ないし周知の技術手段を組み合わせようとする動機、つまり組み合わせ適用の着想の手がかり、根拠が示されていないからである。そして当然のこととして、この組合わせ適用による効果も教えられていないからである。このような組み合わせて適用することの動機についてこれを考慮していない原判決の発明の進歩性の判断は誤りというほかにない。

組み合わせ適用の点は、右相違点(イ)(ロ)(ハ)の個々の点についての判断とは、観点や次元が本質的に相違するのであって、原判決は、この相違を考慮していないことにおいて、その進歩性の判断には誤りがある。

三、特に、本願発明の「高温保温調理装置」のように、生活に密着した、技術的にも成熟している分野においては、個別的な技術手段はほとんど知られている。しかし、たとえ個別的手段が知られているからといって、これらを組合わせ総合化して製品等の新しい体系とすることは容易なことではない。その着想の飛躍、動機、そして公知ないし周知の手段のうちのどれを選択してどのように組み合わせるのかは予断できないことが多い。いわゆる「生活革命」といってもよい本願発明の右「高温保温調理装置」は、まさにこのような性格を持つものとしてある。

従って、原判決は、本願発明の属する技術分野の特有な状況や性格を踏まえて公知ないし周知の手段の組み合わせ適用について判断していないことにおいても、その進歩性の判断には誤りがある。

具体的にも、右相違点(イ)について、断熱部を真空にするか断熱材にするかが知られているとして、断熱材を採用すること、相違点(ロ)について調理鍋の開口部に装着される内蓋を有したものとすること、相違点(ハ)について調理鍋と内蓋との外囲に断熱空間が形成され二重断熱として構成することを、選択し、組合わせ、引用例装置に適用することは、その動機の点において、また具体性において、さらにはその効果において、引用例および周知例の記載からは予見も予断もできないのである。

このため、原判決の進歩性の判断には誤りがある。

そして、このような進歩性の判断の誤りは、右相違点(イ)(ロ)(ハ)についての各々が、容易に想到されるものであるとの原判決の判断をほとんど意味のないものとしている。

四、また、原判決は、上告人の主張のとおり本願発明の保温調理装置が企業化され、商業的に成功したとしても、このことと、本願発明が引用例記載の発明および周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かとは直接関係がないとしている点においても、その進歩性の判断には誤りがある。そして、本願発明についてのこのような判断は、原判決には審理不尽の点があることを示してもいる。

一般には、発明製品、発明技術が企業化されたこと、商業的に成功したことは、常に発明の進歩性を明証するものでないことは承知されている。企業化や商業的成功には、市場開拓にともなう営業力、資金力等の非技術的要因が関わっているからである。

しかしながら、企業化や商業的成功は、新製品や新技術がそれまで知られていなかったという事実や、しかもそれまでの常識では予見も予測もできなかった構成や効果を反映することも確かである。そしてこのことは、営業力、資金力において大きな力を持つ大規模企業はともかくとして、個人や中小規模の企業の発明による製品や技術については特に顕著であると言える。

発明は、その実施を、そして企業化による商業的成功を目的としてなされることが確かであってみれば、個人や中小企業によりなされた発明についての企業化や商業的成功は、より直接的に発明の進歩性を明示するものであると判断されるべきである。

上告人は、本願発明について、証拠をもってその企業化、商業的成功は、発明の進歩性を明証するものであることを主張した。しかしながら、原判決は、発明が容易であるか否かということと、発明の企業化、商業的成功とは直接関係がないとのことだけで、上告人の主張について、つまり、個人発明として本願発明があり、その実施には多大な障害があったが、商業的成功が拡かれつつあり、このことは、本願発明が、公知や周知の技術手段からは予見も予想もできなかった具体的な構成として特徴を持ち、そのことによって顕著な効果を奏するものであることを裏付けているとの上告人の主張について、その内容を充分に判断することなく斥けている。

従って、原判決は、右の点において、進歩性の判断には誤りがあることは明白である。

そして、原判決は、被上告人が、右の上告人の主張に対して具体的に、反論していないことについても問題としていない。このような原判決に見られる姿勢は、発明の奨励とその保護をもって産業の発展に資するものとする旨の特許法の立法趣旨に反するものである。

してみると、原判決には、発明の進歩性の判断に誤りがあるばかりか、審理不尽が認められるのでもある。

五、以上のとおりであるので、原判決は破棄されるべきであり、さらに相当な裁判がなされるべきである。

以上

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