大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)2713号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人前尾庄一の上告趣意は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても本件につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官小谷勝重、同谷村唯一郎の反対意見がある外、他の裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官小谷勝重及び裁判官谷村唯一郎の反対意見は次とおりである。

弁護人前尾庄一の上告趣意は、結局事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の定める適法な上告理由に当らない。

しかし、職権をもって調査するに、本件公訴事実中恐喝の所為(即ち第一審判決判示別表(三)の事実)に対する第一審判決挙示の断罪の証拠は、(イ)証人谷口新七の同公判廷における被害顛末の供述、(ロ)同証人に対する裁判官の尋問調書(検甲第一一号の二と称するもの)、(ハ)被告人の同公判廷における判示の日時頃判示の場所で判示の金員を授受したことを自認していること、以上三つの証拠によるものである。

そして、右各証拠を記録に基きそのとおりを掲出すると別紙(イ)(ロ)(ハ)のとおりである。

よって、以上各証拠を検討するに、之等によっては未だ本件恐喝の成立事実は之を肯認し難いのである。されば本件第一審判決及び之を是認した原審(第二審)判決には恐喝の事実に関し理由不備の違法があり、従って本件第一、二審判決は以上の点において共に破棄を免れないものといわなければならない。

そして、更に職権をもって調査するに、本件恐喝の所為につき被告人と共犯の関係にありとして起訴公判に附せられた松田雪雄に対する傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝、常習賭博並びに脅迫等被告事件の記録を調査するに、同事件の第一審裁判所である京都地方裁判所宮津支部の判決は右松田雪雄に対する恐喝の所為に対する有罪の証拠として、前掲(ロ)の証拠と及び被告人松田雪雄の同公判廷における判示の日時頃判示の場所で谷口新七から判示の金員の交付を受けたことを自認したとの二つの証拠によったものであるところ、同事件の第二審裁判所である大阪高等裁判所は弁護人の控訴趣意に対する判断として、「記録を精査してみると原判決の証拠だけでは所論のように到底原判示(三)の事実(即ち本件共犯に係る恐喝の事実)及び同五の事実(他の脅迫の事実)を肯認することができないから、原判決には理由不備の違法があり、論旨は理由があって原判決は破棄を免れない」とし、第一審判決の全部を破棄し(即ち前示五つの事実全部を併合罪として処断されてある関係上)、全事件を京都地方裁判所舞鶴支部に移送する旨、昭和二五年六月一三日判決言渡しがあり、次いで事件の移送を受けた舞鶴支部は審理の末、右恐喝及び脅迫の点は何れも無罪としその他の犯罪事実につき同被告人を懲役一〇月罰金参千円、懲役刑に対し執行猶予の判決(当初の第一審判決は全事実を有罪とし懲役一年六月罰金一万円)を言渡し、同判決はそのまゝ確定した事実を明認できるのである。

かように、同一事実の共犯者(即ち本件恐喝の事実につき)に対し各別の構成裁判所において審理(即ち本件についていえば、松田雪雄に対する事件の第二審裁判所は大阪高等裁判所第七刑事部、本件の第二審裁判所は同裁判所第八刑事部において審理判決)されるときは、たとえ同一の証拠によっても一人は無罪他の一人は有罪の各矛盾した判決を見ることは、現行訴訟制度上まことに止むを得ないところではあるけれども、之か黒白二途に出でた矛盾の結果は訴訟法上之を是正し又は救済可能の方法の存する以上は、その方法を尽すべきであること、そして訴訟法上その方法の儼存することは敢て次の説明を俟つまでもなく明かなところである(そして差戻し又は移送後の裁判所において新たな証拠が顕出された結果、改めて有罪と認定せられる場合はもとより不合理は存しないのである)。

即ち本件被告人三好政一に対する犯罪事実中、恐喝の点については上叙の如く第一、二審判決には理由不備の違法があり、その上、共犯の一人に対し同様の証拠によって無罪の確定判決の存することを明認できる関係にある如き場合においては、本件上告を刑訴四〇五条所定の上告理由に該当せず且つ同四一一条を適用すべき場合でないとしてたやすく之が上告を棄却し、もって本件被告人に対する有罪の原判決(第一審判決)をそのまま確定させることは凡そ裁判に対する世の信頼をそこなうものというべく、到底正義の肯認し得ないところといわなければならないのである。即ち上叙の如き関係にある場合においては、本件理由不備の違法は刑訴四一一条一号所定の判決に影響を及ぼすべき法令の違反ありというべく、そして右法令の違反は本件恐喝事実が無罪となるか有罪となるかという関係に立つのであるから(即ち窃盗は成立しないが詐欺であるとか、或は被害物件の質量に差異が生ずるとかという程度のものではなく、犯罪事実自体が白であるか黒であるかという関係に立つものである)、同条本文にいわゆる原判決(及び第一審判決)を破棄しなければ著しく正義に反するものと認めざるを得ないのである。

以上の如くであるところ、本件第一審判決は以上恐喝の所為と他の所為とを併合罪の関係において処断しているものであるから、本件は第一審判決並びに第二審判決共その全部を破棄し、事件を第一審裁判所と同等裁判所である京都地方裁判所舞鶴支部へ移送(本件元の第一審裁判所である宮津支部は裁判官定員一人の裁判所であるから、同裁判所に最も近接する同等裁判所である舞鶴支部へ移送)するを当然と思料するものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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