大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)354号 判決

山梨県中巨摩郡睦沢村上菅口二四番地

上告人

井上憲一

同県同郡同村打返

上告人

大沢もと子

同県同郡清川村上芦沢三九番地

上告人

長田致孝

甲府市若松町一〇〇番地

上告人

大沢伊三郎

同市竪町七九番地

上告人

横森義貞

同市西青沼町一四五番地

上告人

小林平作

右六名訴訟代理人弁護士

皆川健夫

甲府市山梨県庁内

被上告人

山梨県知事 天野久

右当事者間の訴願却下裁決並びに買収決定取消請求事件について、東京高等裁判所が昭和二六年五月一四日言渡した判決に対し、上告人等から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人弁護士皆川健夫の上告理由は別紙記載のとおりである。

論旨は、山梨県農地委員会が、昭和二二年五月二一日附でした未墾地買収決定通知書について、同委員会が自ら取り消さない以上、上告人等は、異議、訴願を申し立て取消を求める法律上の利益があるというのである。しかし、右通知にかかる買収計画が山梨県所有の山林の買収計画であつて、上告人の有する立木及借地権の買収計画でないことは原判示のとおり明白である。従つて、上告人等が右買収計画を立木及借地権の買収計画であるとして、これに対し異議、訴願を申し立て更に本訴で訴願裁決の取消を求める法律上の利益はないのである。

其の他論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二六年(オ)第三五四号

上告人 井上憲一

外五名

被上告人 山梨縣知事 天野久

上告代理人弁護人皆川健夫ノ上告理由

第一、法令違背若シクハ理由不備

原審判決ハ左記理由ニヨリ法令違背若シクハ理由不備アリト謂ウベク、従ツテ原判決ハ取消スベク改メテ相当ノ御裁判ガ然ルベキモノト信ズル次第ナリ。

(一) 原審ハソノ理由中ニ「成立ニ爭ノナイ甲第三号証及ビ原審ニ於ケル控訴人大澤伊三郎ノ供述ニヨツテ認メラルル昭和二十二年五月二十一日附未開墾地買收決定方通知書ナルモノニ山梨縣農地委員会ガ同日各控訴人等所有ノソレゾレ各控訴人主張ノ山林ヲ買收スルコトニ決定シタト言ウ趣旨ノ記載ガアリ、該通知ガソノ頃各控訴人等ニ送付サレタ事実ハ認メラレルケレドモ」ト判示シナガラ、「此ノ事実ハ原判決理由中ニ述ベマスルト同ジク控訴人等ノ借地權及ビ立木ノ買收計畫決定タルノ効果ヲ生ズルモノデモナク」ト判示セル事ハ其ノ事自体矛盾スルモノト謂ワザルヲ得ヌ次第ナリ。

一体行政官庁ナリ裁判所ナリガ国民又ハ一般人ニ命令、決定ヲ為シ、ソノ命令、決定ガ送達セラレタル場合ハ例エ該命令、決定ガ不法又ハ違法ノモノデアツテモ右命令、決定ガ行政官庁、裁判所自体ニヨリ取消サレザル限リ有効ナル命令、決定トシテ存在スルモノナル事ハ異論ナキ処ナリ。

然ラバ本件ニ於ケル控訴人(上告人)等所有ノ山林ガ買收スルト言ウ決定ガアリ、且ツ該決定ガ控訴人等ニ送達セラレタル限リソノ行政官庁タル被控訴人ガ正式ニ命令又ハ決定ヲ以テ取消サレザル以上有効ト謂ワザルヲ得ヌ。故ニ控訴人ハ或ハ異議ヲ以テ或ハ訴願ヲ以テ或ハ訴ヲ以テ其ノ取消ヲ求メタル事当然ト謂ワザルヲ得ヌ。然ルニ原審ハ單ニ自創法第三十条第一項第一号ニ基ズク買收ナルヲ以テ例エ命令、決定アリトモソノ命令、決定自体ハソノ効果ヲ生ゼヌト論ズルモ、此レハ全ク決定、命令ノ性質、意味ヲ誤解シテノ解釋判斷ト言ウベキモノニシテ法令ニ違背スル判斷若シクハ理由不備ト謂ウベキモノナリ。仮ニ不法、違法ノ命令、決定タリトモ命令、決定ニハ何ラ異ナル処ナキニヨリ決定、命令ノ存スル限リ其ノ効力モ存スル事当然ニシテ、一旦発シタル命令、決定ハ自然ニソノ効果ヲ失ウベキモノニ非ザルナリ。

若シ原審ノ如キ解釋ガ正当ナリトセバ、適法ナル命令、決定ノミガソノ効果アリテ不法、不適法ノ命令、決定ハ例エ発セラレテモソノ効果ナキ事トナルノ結果トナル。斯ノ如キ事ハ吾人ハ未ダ学説判例ニ於テモ知ラザル処ナリ。

如何ナル命令、決定モ一旦発セラレ且ツ相手方ニ送達セラレタル以上、ソノ効果ハ存在スルガ故ニ或ハ異議ノ形式ニ於テ或ハ訴願ノ形式ニ於テ又ハ訴訟ノ形式ニ於テソノ効果ヲ失ワシムル為ニ該命令、決定ヲ発シタル官庁ヲ相手ニ爭イ以テソノ取消ヲ求メ居ル次第ナリ。

原審ノ認定ノ如ク命令、決定ハアリ、且ツ送達ハシタガソノ効果ハ生ゼザルモノナリト認定シ居ルモ、若シソノ通リナレバ該官庁ノ命令、決定ノ有効無効ハ專ラ該官庁ノ自由ナル意思決定ニヨリ定メル事トナリ到底首肯シ得ラレザルモノナリ。

少クトモ官庁ガ一旦発シタル命令、決定ヲソノ儘存在セシメイル限リ有効ナルモノトシテ存續セシメル意思ニヨルモノト謂ウベク、万一右命令、決定ノ効果ノ存在ヲ消滅セシメ又ハ存續セシメザラントスルナレバ、自ラ取消ノ意思表示即チ取消決定ヲ為スベキガ当然ナリ。

(二) 原審ハ「控訴人ノ訴願ノ取消ヲ求メルコトハ法律上ノ利益ヲ有シナイモノデアル」ト判示セルモ、之レ亦其ノ理由不充分ニシテ了解ニ苦シム次第ナリ。

控訴人ガ訴願ノ取消ヲ求メタルハ、被控訴人ガ被控訴人ヨリ控訴人所有ノ山林ヲ買收スルトノ決定ヲ為シタルガ為ニ其ノ取消ヲ求メタルモノニシテ、控訴人ニトリテハ右取消ニヨリ各控訴人買收サレル各人所有ノ山林ガ買收サレズニ濟ムト言ウ利益アルモノナリ。右山林ノ所有權ガ控訴人各人ニ存スル事ハ当事者間爭ナキ処ナリ。従ツテ右山林ハ買收命令決定ニヨリ買收サレ得ル可能性アルコト疑ヲ容レザル処ナリ。而シテ右買收ノ効果ハ控訴人等ノ右山林ニ對スル所有權ヲ失ワシムルモノナルヲ以テ、之レガ取消ノ求ムル事ニヨリ所有權ヲ確保出来得ルノ利益アリ。故ニ原審ノ「利益ヲ有シナイモノト言ウベキニアル」トノ理由ハ成立タズ理由不備ト謂ウベキモノナリ。

右ノ理由ニヨリ原審ハ破毀サルベキモノナリト謂ワザルベカラザルモノナリ。

以上

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