大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)4155号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人江村高行同渡辺卓郎の上告趣意第一点について。

論旨引用の札幌高等裁判所の判決の趣旨とするところは、この判決に対する検事上告を棄却した当裁判所第三小法廷判決(昭和二五年(あ)第一八五一号同二六年二月六日宣告)が説示するように「窃盗と賍物牙保とは常に公訴事実の同一性がないとか或は犯罪の日時場所が隔っている場合には公訴事実の同一性がないとか判断したのではなく、基本的事実関係が同一でないから、公訴事実の同一性がないと判断したに止まる」のである。ところで、本件において、原判決は起訴状記載の窃盗の訴因と予備的に追加された賍物牙保の訴因とはその基本たる事実が同一であると認め、所論のような程度の相異は未だ公訴事実の同一性を失わしめるに至らないと判断しているのであって、両者が基本的事実関係を異にするものであると認めながら、公訴事実の同一性を認めた訳でないことは、判文上極めて明らかである。従って、原判決は何ら論旨引用の判例と相反する判断をしたものではないから、論旨は理由がない。

同第二点について、

論旨引用の判例は、別段、日時場所が違えば基本的事実関係が異るとするものではなく、本件における原判決も日時場所の相異を無制限に認める趣旨ではない。ただ本件程度の相違ならば、本件において予備的に追加された賍物牙保の訴因は、起訴状起載の窃盗の訴因と基本的事実関係を同じくすると認めて差支えなく、未だ公訴事実の同一性を失わしめるものではないとした趣旨にすぎないものと解すべきであるから、何ら引用の判例に相反する判断をしたものではない。従って、判例違反の主張は理由がなく、その余は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

同第三点は、単なる量刑不当の主張であるから、適法な上告理由にあたらない。

なお、記録を調べても、刑訴四一一条を適用すべきものとは、認められない。(二つの訴因の間に、基本的事実関係の同一性が認められるかどうかは、各具体的場合に於ける個別的判断によるべきものである。そして、本件においては起訴状記載の訴因及び罰条は「被告人は昭和二五年一〇月一四日頃、静岡県長岡温泉古奈ホテルに於て宿泊中の大川正義の所有にかかる紺色背広上下一着、身分証明書及び定期券一枚在中の豚皮定期入れ一個を窃取したものである」「刑法二三五条」というのであって、第一審第八回公判廷において予備的に追加された訴因及び罰条は「被告人は賍物たるの情を知りながら、一〇月一九日頃東京都内において自称大川正義から紺色背広上下一着の処分方を依頼され、同日同都豊島区池袋二丁目一〇三四番地山田惣悟方に於て金四千円を借受け、その担保として右背広一着を質入れし、以って賍物の牙保をなしたものである」「刑法二五六条二項」というのである。そして、右予備的訴因において被告人が牙保したという背広一着が、起訴状記載の訴因において被告人が窃取したという大川正義所有の背広一着と同一物件を指すものであることは、本件審理の経過に徴し、極めて明らかである。従って、右二訴因はともに大川正義の窃取された同人所有の背広一着に関するものであって、ただこれに関する被告人の所為が窃盗であるか、それとも事後における賍物牙保であるかという点に差異があるにすぎない。そして、両者は罪質上密接な関係があるばかりでなく、本件においては事柄の性質上両者間に犯罪の日時場所等について相異の生ずべきことは免れないけれども、その日時の先後及び場所の地理的関係とその双方の近接性に鑑みれば、一方の犯罪が認められるときは他方の犯罪の成立を認め得ない関係にあると認めざるを得ないから、かような場合には両訴因は基本的事実関係を同じくするものと解するを相当とすべく、従って公訴事実の同一性の範囲内に属するものといわなければならない。本件の如き場合において、公訴事実の同一性なしとするにおいては、一方につき既に確定判決があっても、その既判力は他に及ばないと解せざるを得ないから、被告人の法的地位の安定性は、そのため却って脅されるに至ることなきを保し難い。以上の次第であるから、本件における前記訴因及び罰条の予備的追加には所論の如き違法はなく、しかも該手続によって賍物牙保の点も審判の対象として明確にされていたのであって、被告人がこの点につき防御権を行使するのに実質的な不利益を蒙ったような事実は記録上何ら認められない。)

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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