大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)1396号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人向江璋悦、同長谷山行毅の上告趣意は、末尾添付の別紙書面記載のとおりである。

同上告趣意第一点について。

所論にかかる、被告人の妻竹内ツヤの検察官に対する供述調書記載の供述は、被告人が近頃自宅に不在であることについての若干の事情を述べているに過ぎないものであって、かかる調書が、所論のように裁判官に事件につき予断を生ぜさせる虞のある書類に当るものということはできない。されば検察官が被告人に対する公訴提起後、起訴状謄本の送達不能の証明資料としてかかる調書を裁判所に提出しても、刑訴二五六条六項に違反するものでないことは明らかである。そして原判決も同じく右調書が同項の書類に当らない旨判示しているのであるから、同項に当る書類に関する所論判例に違反する旨の主張は、その前提を欠くものであって、上告適法の理由とならない(なお論旨は、右調書提出の時機が刑訴規則一六六条に違反していることを主張するが、検察官が起訴当時所在不明であることの明らかな被告人に対し公訴を提起した場合、その起訴状謄本の送達が不能になるのをまたないで、送達不能の証明資料を裁判所に提出することは、刑訴規則一六六条の禁ずるところではないと解するを相当とする)。

同上告趣意第二点について。

論旨は違憲をいうが、その実質は、被疑者に被疑事実について弁解の機会を与えないで起訴することが、訴訟法違反であることを主張するに外ならないものであって、上告適法の理由とならない(被疑者が逃げ隠れしていた等のため捜査官憲の取調を受けず、被疑事実についての弁解の機会が与えられないままで起訴されたからといって、その起訴が違法であると解すべき理由は少しもない)。

同上告趣意第三点について。

所論は、第一審裁判所の裁判官(単独)は、本件起訴前刑訴二二七条による証人尋問をなしたものであるから、除斥または忌避の原因があるにかかわらず本件審判をなしたことは、憲法三七条一項に違反するというのである。所論の事実は記録上認められるが、刑訴二二七条による証人尋問をした裁判官は当該被告事件の審判から除斥されるものではなく(昭和二七年(あ)一三二七号、同二八年四月一六日第一小法廷判決参照)、所論裁判官が本件訴訟手続において忌避の申立を受けた事実も記録上認められないのであるから、所論違憲の主張は前提を欠くものであって、上告適法の理由とならない。

同上告趣意第四点及び第五点について。

論旨は採証非難、審理不尽及び量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(第五点の論旨中違憲をいう点もあるが、その前提たる所論量刑事情は、原判決の判示していないところであって、単なる想像に過ぎない。)

記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com