大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)155号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村田不二三、同百瀬武利、同小野寺彰の上告理由一、二点について。

当事者の主張した具体的事実と、裁判所の認定した事実との間に、態様や日時の点で多少のくい違いがあつても、社会観念上同一性が認められる限り、当事者の主張しない事実を確定したことにはならない。本件において、被上告人は昭和二四年九月末から上告人の診療を受け、その数回目の同年一〇月二六日施した皮下注射の直後、発熱疼痛を訴え、その後化膿して切開手術を行つたが、ついに機能障害を残したこと、及び右は上告人が皮下注射に当り、医師としての注意を怠つたことに基くものであるとの趣旨の主張をなしたのに対し、原審は、数回目の皮下注射の日を、被上告人主張の昭和二四年一〇月二六日と異り、同年同月二三日頃となした外、右被上告人の主張事実を認容したのであるが、右日時の違いがあつても、本件では被上告人主張の事実と判示認定事実との間に、その同一性を認め得ること明らかであるから、原審には所論の如き違法なく、又右日時の如きは必ずしも釈明をまたなければ、認定できないものではないから二点所論も理由がない。

同三、四点について。

原審は、挙示の証拠により「被控訴人(被上告人)の心臓性脚気の治療のため注射した際にその注射液が不良であつたか、又は注射器の消毒が不完全であつたかのいずれかの過誤があつた」と認定したけれども、注射液の不良、注射器の消毒不完全はともに診療行為の過失となすに足るものであるから、そのいずれかの過失であると推断しても、過失の認定事実として、不明又は未確定というべきでない。又被上告人の主張しない「注射液の不良」を、過失認定の具体的事実として挙げたからと云つて、民訴一八六条に違背するということはできない。けだし同条は、当事者の主張しない、訴訟物以外の事実について、判決することができないことを定めたものであつて、前記注射液不良という事実の如きは、被上告人主張の訴訟物を変更する事実と認められないからである。

同五、六点について。

被上告人の疾患を上告人が注射した際、注射液が不良であつたか、又は注射器の消毒不完全であつたかの、いずれかの過誤に基いて発生したものであるとの、原審の判示は、挙示の証拠によりこれを肯認できないことはない。その認定に論理法則又は経験法則等の違背は認められない。その他の所論も事実認定の非難にとどまり、上告適法の理由とならない。

同七点について。

原審が「症状に応じて適切な治療を怠らなかつたならば、症状が軽いうちに治癒したであろう」と判断したのは、一〇月二三日の注射後一一月三日までのことを云つているのであつて、一一月四日以後のことを云つているのでないことは原判文上明らかである。従つて原判決には審理不尽または理由不備の違法はない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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