大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)184号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人江口三五の上告理由

第一点について。

原判決は本件審査決定をもつて事業主としての上告人に遺族補償の負担を命ずる趣旨の処分と解したのではなく、単に国は保険給付のうち葬祭料は負担するが、遺族補償費は負担しないとの趣旨の処分と解した上で、この趣旨の処分として何等違法がないといつているのであつて所論の如き理由不備又は理由齟齬の違法はない。

第二点について。

本訴は上告人と国との間に労災保険法に基く保険関係の成立を前提として本件審査決定の取消を求めるものである以上、上告人が労災保険法の事業主でないという主張自体理由がないから所論は採るを得ない。

第三点について。

原審の認定事実によれば、本件事故が発生したのは、労災保険法施行の日(昭和二二年九月一日)から一年三箇月余を経過した昭和二四年一月一二日であつて、その間所轄政府機関において同法の施行につき上告人を含めた各事業主に対し相当の周知徹底の方法を講じていたというのであるから、上告人は、相当の注意を払えば、同法の趣旨を容易に知り得べかりしものであつたといわねばならない。

右事実と本件処分が単に政府において保険給付の一部を負担しない旨を決定するにとどまり、上告人に積極的に不利益を与える性質の処分でないことにかんがみれば、被上告人が前記事情の下で、労災法運用の実情を考慮して、上告人が保険料を支払わなかつたことにつき重大な過失があるものと認定したとしても、これをもつて、同法第一八条の適用を誤つた違法があるということはできない。論旨は、政府が上告人に対し保険料の納入告知の手続をとらなかつたことを云々するが、右事実は、保険料納入の懈怠の責任に影響を及ぼすものではない。それ故、所論は採用し得ない。

第四点について。

労災保険の加入者が故意又は重過失によつて保険料の納付を怠つた場合における保険給付の制限の範囲及び限度の決定は、政府の裁量に任されているものと解すべきものであつて、本件において裁量権の濫用があつたと認められないことは原審の判断するとおりであり、所論は独自の見解を主張するに過ぎない。

上告人本人の上告理由について。

所論のうち重過失の認定を争う部分については、上告代理人の上告理由についての判断中に説示したとおりであり、その他の論旨は、第一、二審で主張判断を経てない事実を基礎とするものであつて採るに足らない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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