大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)1404号 判決

判   決

上告人

山川新造

右訴訟代理人弁護士

岡田実五郎

佐々木煕

被上告人

矢上武雄

右訴訟代理人弁護士

平林庄太郎

平林正三

右当事者間の建物収去明渡請求事件について、東京高等裁判所が昭和三五年九月一四日言い渡した判決に対し、

上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡田実五郎、同佐々木熙の上告理由第一点について。

しかしながら、原判決は、被上告人が目黒税務署長に対し、本件土地を財産税のため物納申請をし、昭和二二年六月九月その許可を受けたが、その移転登記手続を経由しないうちに、昭和二四年一月二六日右物納許可が取消され、同年二月一六日金納を完了した事実を認定したものであつて、原判決所掲の証拠に照し、右事実認定は肯認できるし、また物納許可権限のある右官庁は金納を申出でた納税者のため既になした物納許可を取消す権限があると解すべきである。そうすると、本件土地の物納許可により本件土地の所有権が一且国に移転したと否とにかかわらず、上告人が目黒税務署長より本件土地を賃借したと称する昭和二四年六月一〇日当時には、国は本件土地の所有権を有しなかつたとする原判決の判断は相当であるから、論旨は採用できない。

同上告理由第二点および第三点について。

しかしながら、原判決は、所論の移築契約締結の事実をもつて、上告人と被上告人との間に本件土地に関する上告人主張の賃貸借契約が締結さなかつたことの徴憑事実として認定したものであるから、所論の移築契約が有効に解除されたかどうか、何故に本件建物の移築が実現しなかつたかは、右事実認定に影響を及ぼさない。

また、上告人と被上告人との間において移築まで本件家屋を明渡さなくてもよい趣旨の契約が解除されたとのことは、原審における当事者の主張のないところであるから、その趣旨の契約が解除されることなくなお有効であるとして原判決を非難することも許されず、論旨はいずれも採用できない。

同上告理由第四点について。

しかしながら、原判決は、本件土地が被上告人主張の額を地代家賃統制令による統制賃料額とすべき土地であることについて上告人が明らかに争わず、これを自白したものとみなすべき旨を判示したものであるから、所論は、原判決が適法になした右認定事実と異る事実を前提として原判決を非難することに帰し、採用に値しない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 池 田  克

裁判官 河 村 大 助

裁判官 奥 野 健 一

裁判官 山田作之助

上告代理人岡田実五郎、同佐々木燕の上告理由

第一点~第三点(省略)

第四点 原判決は地代家賃統制令に違反する。

原判決によると、

「当裁判所が当審で新たになされた証拠調の結果をも参酌した上、左記の諸点を附加する外は原判決理由の説示を全部ここに引用する……」と云い、

「本件土地が被控訴人主張の額を地代家賃料額とすべき土地であることは控訴人に於て之を自白したものとみなす」と附加説明されているのである。

元来地代家賃統制令(以下単に統制令と云う)は国民生活の安定と住宅の確立を目的とする国家政策的立法であるから右法規は当事者の合意にのみによつて左右し得ないものであるのみならず、統制額について当事者間に争のない場合でも裁判所は、それが統制額の範囲であるかどうかについて調査しなければならないものである。

(下裁民集五巻四号五二九頁参照)。

そこで本件を見る。

一、第一審判決の理由によると、

「被告は本件土地の不法占有により原告にその原告にその主張の統制賃料相当額の損害を蒙らしめつつあるものと云わねばならない、よつて原告の本訴請求は被告に対して建物を収去してその敷地三八坪五合を明渡し、昭和二十四年七月一日より昭和三十二年四月十四日まで原告主張の割合により六〇坪分の損害金合計二九、七六二円及び同年同月十五日より明渡済に至るまで三十八坪五合分の月額金二五六円の割合による損害金の支払を求める範囲内に於ては正当として之を認容しその余を棄却する……」と云い、

第一審決の認定せる原告の主張事実によれば、

「原告は被告に対し本件土地の所有権に基き、その妨害を排除する為め右建物を収去して本件土地の明渡を求めると共に、

(一) 昭和二十四年七月一日より同年九月三十日まで一ケ月金一五三円六〇銭

(二) 同年十月一日より昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金一〇四円四〇銭

(三) 同年八月一日より昭和二十六年九月三十日まで一ケ月金二五九円二〇銭

(四) 同年十月一日より同年十二月三十一日まで一ケ月金二六五円ニ○銭

(五) 昭和二十七年一月一日より同年十一月三十日まで一ケ月金二六七円

(六) 同年十二月一日より同年同月三十一日まで一ケ月金三六三円六〇銭

の割合で合計九、三二九円八〇銭

(七) 昭和二十八年一月より右土地明渡済まで一ケ月三九九円の割合のいずれも統制額相当の損書金の支払を求めると云うのである。

二、ところで本件土地(六〇坪)はその等級五五級であるから右一の(一)については一カ月賃料を金一五三円六〇銭と算出したことは正しい。

しかし右一の(二)の同年十月一日より昭和二十五年七月三十一日までの統制賃料額を金一〇四円四〇銭と算出した法令上の根拠が明かでない。

なんとなれば昭和二四年六月一日物価庁告示第三六八号によると、

「第一、令第五条第一項の規定により昭和二四年五月三十一日現在に於ける地代の停止統制額及び認可統制額に代わべるき額一、地目が宅地である土地」とあつてこの告示は土地台帳で定める等級によつて坪当地代の月額を算出する方法を採つていたが、

右告示は昭和二五年八月十五日物価庁告示第四七七号の指定日たる昭和二十五年七月三十一日(正確に云へば四月三十日)までその効力があつたのである。

してみれば昭和二十四年七月一日から昭和二五年七月三十日までは地代の停止統制額は月額金一五三円六〇銭であつた筈である。

しかるに第一審判決によると同年一〇月一日より昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金一〇四円四〇銭であると計算していることは統制令の誤解をしたものと云うべきである。

三、前記一の(三)によると「同年八月一日より昭和二六年九月三十日まで一ケ月金二五九円二〇銭」とあるが、

(一) 昭和二五年八月十五日の物価庁告示第四七七号によると、

「第一地代一、令第五条第一項の規定による、昭和二五年七月三十一日現在に於ける地代の停止統制額又は認可統制額に代えるべき額(1)賃貸価格が設定されていた宅地第一表によつて算出した額とする。」とあつて、指定日以降に於ける停止統制額は賃貸価額のあるものについては土地の坪当の賃貸価格(但し、評定賃貸価格第一の一の(2)の(イ)の「註」参照=あるときはそれによる)から割出して月額坪当り地代の算出方法を採ることにしたのである。

ところで本件につき見るとその貸貸価格は甲第五号証(土地課税台帳登載証明願)に示す土地台帳によれば本件土地六〇坪を含む一筆の土地五五七坪八合の改正前の賃貸価格即ち評定賃貸価格(前出、旧賃貸価格)は金一、八四〇円七三銭であることがわかる。

してみれば坪当の賃貸価格は金三円二九銭八厘弱である。すると第一表によれば坪当地代(賃料)金六円二五銭となる筋合である、そして本件土地の坪数は六〇坪であるから月額金三七五円とならねばならぬ筈である。  しかるに第一審判決に認定する前記一の(三)によると昭和二五年八月一日から昭和二十六年九月三十日までの月額地代(賃料)を金二五九円二〇銭と認定したことは統制令の誤解によるものである。

(二) 昭和二十六年五月二十六日物価庁告示第百三十号によると「昭和二十五年八月物価庁告示第四七七号(地代家賃統制令第五条第一項の規定による地代の停止統制額又は認可統制額に代るべき額同条第三項の規定による家賃の停止統制額に代るべき額及び認可統制額に乗ずべき修正率並に令第十一条第二項の規定による貸借に関する条件について次のように定め、昭和二五年八月一日以降の分について之を適用する) の一部を次のように改正し昭和二六年六月一日以降の分に適用する。

一、第一、地代の一の(2)の(イ)及び(ロ)の規定を次のように改める。

「評定賃貸価格を賃貸価格とみなし第一表によつて算出した額から評定賃貸価格の一・五倍に相当する額を減じた額とする」と規定しているのである。

昭和二五年八月十五日物価庁告示第四七七号の第一の一の(2)(註)によると、

「『評定賃貸価格』とは昭和二十五年七月三十日に於て旧地方税法(昭和二十三年法律第一一〇号)第五十二条又は第五十七条の規定によつて評定されていた評定賃貸価格をいう」

とあり、

一方地方税法の改正により昭和二四年十月から新たに賃貸価格が設定されているのであるが旧賃貸価格のある土地についてはその旧賃貸価格(評定賃貸価格と云う)によつて算出された地代は昭和二六年六月一日以降は第一表によつて算出した額から右賃貸価格の一・五倍に相当する額を減じて算出せねばならぬのである。

してみれば前記の如く本件土地の評定賃貸価格の坪当金額は三円二九銭八厘であるから(甲第五証)六〇坪分一九七円四〇銭となり之に一・五倍すると二八六円一〇銭となるから前記一ノ(三)の統制額たる金三七五円から二八六円一〇銭を差引いた残金八九円となる筋合である。

しかるに第一審判決は前記一ノ(三)に於いて昭和二十六年六月一日以降についても同年九月三十日までの分についても統制地代の月額を金二五九円二〇銭と認定していることは不当に統制法規を適用しない違法がある。

四、昭和二十六年九月二十五日物価庁告示第一八〇号によると、

「地代家賃統制令(以下令と云う)第五条第一項の規定による地代の停止統制額又は認可統制額に代わるべき額、同条第二条の規定による家賃の停止統制額又は認可統制額に代わるべき額及び令第十一条第二項の規定による貸借の条件について次のように定め昭和二十六年十月一日から施行する。

第一、地代

一、令第五条第一項による地代の停止統制額認可統制額に代るべき額(月額)、

(イ) 価格が設定された土地については、その土地のその年度の価格に千分の二・二を乗じて得た額とする。

ところが本件土地は一度物納された土地である関係か昭和二十六年度から今日に至るまで地方税法第三四二条の規定による固定資産課税台帳に「価格」が登載されていないのである。

(乙第十三号証の「非課税」なる記載参照)

してみれば前記昭和二十六年物価庁告示第一八〇号の第一の一の(イ)の視定を適用する余地がないのであり却つて同告示第一の三の(3)を適用すべきである。

同(3)によると地代の計算に於て一の規定を適用できないものは昭和二十六年九月三十日の停止統制額又は認可統制額をその貸借条件と共に従前の通り据え置くものとする」と規定しているから月額金八九円六〇銭が相当である筈である。

しかるに、第一審判決が前記一ノ(四)に於て「昭和二六年十月一日より同年十二月三十一日まで一ケ月金二六五円二〇銭」と認定し同(五)に於て「昭和二七年一月一日より同年十一月三十日まで一ケ月金二六七円」と認定したことは前記統制令の適用を誤つたものである。

五、昭和二十七年十二月四日建設省告示第一四一八号によると、

「地代家賃統制令(昭和二十一年勅令第四四三号)第五条第一項の規定による地代の停止統制額又は認可統制額に代わるべき額、同条第二項の規定による家賃の停止統制額又は認可統制額に代わるべき額及び同令第十一条第二項の規定による賃借に関する条件について次のように定め昭和二十七年十二月一日から施行する。

第一、地代

一、地代家賃統制令(以下令という)

第五条第一項の規定による地代の停止統制額又は認可統制額に代るべき額(月額)価格が設定された土地ついてはその土地のその年度の価格に千分の三を乗じて得た額とする。

と規定されているが本件土地は前記の如く「非課税土地」であり従つて固定賃産課税台帳には「価格」が登載されていないのであるから右規定を以ては地代の額を算出することができず、却つて同告示第一の四の(2)に「地代の計算に於て一の規定を適用できないものは昭和二十七年十一月三十日の停止統制額又は認可統制額をその賃借条件と共に従前のとおり据え置くものとする」と規定されているからそれによるべく結局本件土地の月額地代は金八九円六〇銭にて据え置かれたものと云うべきである。

しかるに第一審判決は前記一の(六)に於て「同年十二月一日より同年同月三十一日まで一ケ月金三六三円六〇銭」と認定し、更に「昭和二十八年一月一日より昭和三二年四月十四日まで一ケ月金三九九円」と認定し「昭和三十二年四月十五日から上告人の占有土地の坪減(三十八坪五合となる)により同坪減に相当する右額の金員」と認定したことは前記統制令を誤解したものである。

叙上統制法規の誤解は判決主文に影響すること明かであるからその原判決の破毀を求める。

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