大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(あ)62号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意第一点について。

所論は、まず、被告人が徳島弁護士会から弁護士法違反として告発された事実につき一旦不起訴になったのにもかかわらず、同一事実につき司法書士法違反として起訴され刑罰を受けるのは、憲法三九条に違反する旨を主張するが、一旦不起訴になった事実につき後日起訴され有罪とされても憲法三九条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二五年(あ)第二一〇六号、同二六年一二月五日大法廷判決、刑集五巻一三号二四七一頁。なお昭和三一年(あ)第九〇〇号、同三二年五月二四日第二小法廷判決、刑集一一巻五号一五四〇頁参照。)の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない。

次に所論は、原判決が、本件と事案を異にする旧憲法時代の大審院判例を引用して司法書士法の規定を解釈し、被告人に刑事責任を認めたのは、憲法一一条、三一条、九七条、九八条、九九条に違反する旨を主張する。しかしながら原判決が、司法書士法一九条一項の解釈につき、司法書士でない者が継続反覆の意思をもって同法一条一項所定の書類を作成するときは、報酬を得る目的の有無にかかわりなく同条に規定する司法書士の業務を行ったものというべきである旨判示したことは正当であって、所論引用の大審院判決の趣旨は本件の場合にもあてはまるから、原判決がこれを参考として掲げたとしてもなんら不当ではない。したがって違憲の主張はその前提を欠き、所論の実質は単なる法令違反の主張に帰するので、適法な上告理由に当らない。

次に所論は、被告人の自宅、事務所に対してなされた捜索、差押は違法であり、また検察官の本件公訴提起行為は職権濫用であって、これらは憲法三五条、三一条、九七条、九九条に違反する旨を主張するが、一審判決に掲げられた証拠について、その捜索、差押が違法であることを認めるに足る証跡は記録上存しないので、憲法三五条違反の主張はその前提を欠くものであり、その余の違憲の主張は、原判決そのものに対する攻撃とは認め難いから、適法な上告理由に当らない。

次に所論は、一審裁判官が釈明権を行使せず、職権による証拠調義務を怠り、訴因変更手続をとらずに犯罪事実を認定したことが憲法三一条、九九条に違反する旨を主張するけれども、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

次に所論は、被告人が中原覚らに正しい法理論にもとづく上告理由書を書くことを指導し、教えたことをもって被告人の刑事責任を問うのは憲法一九条、二三条に違反する旨を主張するが、原判決は、被告人が上告理由書を書くことを指導し、教えてやったにとどまらず、自ら書類を作成してやった事実を認定しているのであるから、所論違憲の主張は、原判示にそわない事実関係を前提とする、不適法のものである。

その余の所論は、違憲あるいは判例違反をいう点もあるが、実質はいずれも単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。

同第二点について。

所論は、一、二審裁判所が、検察官提出の証拠刑一号ないし四八号証につき、その作成も確かめず、採証法則に違反してこれらを罪証に供しているとして、これが憲法一一条、三一条、七六条、九七条、九九条に違反する旨を主張するが、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない(所論各証拠はいずれも検察官が一審裁判所に証拠物たる書面として証拠調の請求をし、弁護人が証拠とすることに同意のうえ、異議なく取調をすませているばかりでなく、その他の証拠により作成の経緯も明らかであって、これを罪証に供することはなんら違法でない。)。

同第三点について。

所論は、まず、検察官が違法な捜索、差押を行い、被告人の良心、学問の自由を侵害して、不公平にも本件公訴を提起したものであって、人権侵害も甚しく、これは憲法一四条、一九条、二三条、三五条、九九条に違反する旨を主張するが、この論旨は、検察官の捜査方法の不当を主張し、その公訴提起行為を非難するものであって、原判決そのものに対する攻撃とは認め難いから、適法な上告理由に当らない。

次に所論は、被告人が、宗教的信条、良心的正義観から学問的経験を活かし、裁判所へ提出すべき書類について無報酬で指導したり、その書き方を教えたりすることは、業務に当らないし、制約を受ける理由が全くなく、これを有罪とするのは憲法一一条、一三条、一九条、二二条、二三条、七六条、九七条に違反する旨を主張するが、被告人は単に書類の書き方を指導、助言したにとどまらず、自らこれを作成していること原判示のとおりであって、所論は原判示にそわない事実を前提とする違憲の主張にすぎず、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰するものであって、適法な上告理由に当らない。

次に所論は、一、二審裁判官が釈明権を行使せず、審理を尽さず、予断をもって漫然と犯罪事実を認定しているとして、これが憲法一九条、二三条、七六条に違反する旨を主張するが、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

その余の所論は、違憲をいう点もあるが、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

同第四点について。

所論は、検察官が、徳島弁護士会所属弁護士らの利益を擁護し、被告人を失墜させるため、違法な捜索を行うなど不公平に職権を濫用して被告人を起訴したもので、これは憲法一四条、三五条に違反する旨を主張するが、この論旨は検察官の本件処理に関する不当を非難するものであって、原判決そのものに対する攻撃とは認められないから、適法な上告理由に当らない。

弁護人本浄直三郎の上告趣意第一点について。

所論は、違憲(三一条)をいうけれども、司法書士法一九条一項に関する原判決の法令解釈になんら誤りがないことは、前記被告人の上告趣意第一点につき判示したとおりであるから、違憲の主張は前提を欠き、適法な上告理由に当らない。

同第二点について。

所論は、大審院判例の変更、是正を求める主張であって、適法な上告理由に当らない。

同第三点について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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