大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)235号 判決

上告人

株式会社浜金商店

上告人

株式会社 山忠

上告人

新潟和田化学工業株式会社

上告人

大東セロファン株式会社

右四名訴訟代理人

坂井熙一

右訴訟復代理人

下井善廣

被上告人

大倉工業株式会社

右訴訟代理人

久保文雄

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人坂井熙一の上告理由について。

原判決は、一般に債務超過の状態にある債務者が特定の債権者に対し、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡した場合には、譲渡された債権の額が右債権者に対する債務の額を超過するときにかぎり、その超過する額について右債権者が利益を得たものとして、その利益の取得行為の取消および他の一般債権者に対する右利益の返還が問題となりうるのであつて、若し右債権者が債務者から譲渡を受けた債権の額が債務者に対する自己の債権の額を超えない場合には、債権譲渡を受けることによつて自己の債権も消滅し、したがつてなんら利益を得たことにはならないのであるから、この場合には、その債権者が自己の債権について弁済を受けたにすぎない場合と同様に、債務者に詐害の意思の有無にかかわらず、詐害行為の成立が問題となる余地はないものと解すべきであるとし、且つ、本件はまさしくそのような場合にあたるとして、債務者の詐害の意思の有無について判断することなく、上告人らの請求をいずれも排斥した。

しかしながら、原判決の右判断は、これを是認することができない。けだし、債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、詐害行為として取消の対象になるものと解するのが相当だからである(大審院大正六年(オ)第一五三号同年六月七日判決・民録二三輯九三二頁、同大正八年(オ)第一九三号同年七月一一日判決・民録二五輯一三〇五頁、同昭和一五年(オ)第一一五六号同一六年二月一〇日判決・民集二〇巻七九頁、最高裁昭和二六年(オ)第七四四号同二九年四月二日第二小法廷判決・民集八巻四号七四五頁、同昭和三七年(オ)第一〇七号同三九年一一月一七日第三小法廷判決・民集一八巻九号一八五一頁参照)。

したがつて、原判決が、債務者の詐害の意思の有無についてなんら判断を示すことなく詐害行為の成立を否定し、上告人らの請求を排斥したのは、民法四二四条の解釈を誤り、ひいては審理不尽または理由不備の違法があるものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響することが明らかであつて、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件は、右の点についてさらに審理を尽くす必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)

上告代理人坂井熙一の上告理由

原判決には、左のとおり、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令(民法第四二四条)の違背がある。

原判決は、その理由において、「一般に債務超過の状態にある債務者が特定の債権者に対し、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡した場合には、譲渡された債権の価額が右債権者に対する債務の額を超過するときに限り、且つ、その超過する額について、当該債権者が利益を得たものとして、その利益の取得行為の取消及び他の一般債権者に対する右利益の返還が問題となり得るのであつて、若し特定の債権者が債務者から譲渡を受けた債権の価額が自己の債権額を越えない場合には、債権者は、債権譲渡を受けることによつて自己の債権も消滅し、従つてなにら利益を得たことにはならないのであるから、この場合には、特定の債権者が自己の債権について弁済を受けたに過ぎない場合と同様に、詐害行為の成立が問題となる余地はないものと解すべきである。」と判示したうえ、「これを本件について見るに、控訴人(被上告人)が千代田商店に対する金一〇五万二、〇九八円の売掛金債権について弁済を受けるのに代えて同商店の第三者に対する合計金一〇七万五、〇一二円の売掛金債権の譲渡を受けたことはさきに認定した通りであるが、一般に、金銭債権は、債務者の資力や、取立の難易によつてその価額が定められるべきもので、直ちに券面額相当の価値を有するものとはなし得ないものであるところ、控訴人が現在までに取立てることができた金額が譲渡債権の券面額総額の半額に満たない金五二万九、一六〇円に過ぎない事実からみると、反証のない本件においては、譲受債権中には取立不能又は困難なものもあり、その価額は控訴人の千代田商店に対する上記債権額を超過するものとは認めることができないのである。そうであるとすれば、本件係争の債権譲渡行為が詐害行為となる余地は当初からないのであつて、詐害行為の成立を前提とする本訴請求は、他の争点についての判断を俟つまでもなく、失当たることが明らかであるといわなければならない。」として、第一審判決を取り消し、上告人らの請求を棄却した。

しかしながら、債務者が特定の債権者に対し、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡することは、債務者の義務の履行とはいえないから、これを弁済と同視することができないことはいうまでもない。債務超過の状態にある債務者が特定の債権者に対し、債権を譲渡して代物弁済をする場合には、総債権者のための共同担保の減少を来すから、譲渡債権額が消滅する債務額より少ない場合にも、他の債務者を害する意思があれば、詐害行為になるものと解すべきである(最高裁判所昭和二六年(オ)第七四四号同二九年四月二日第二小法廷判決、最高裁判所昭和四一年(オ)第一二七〇号同四二年六月二九日第一小法廷判決、大審院大正八年七月一一日判決、大審院昭和一六年二月一〇判決)。したがつて、特定の債権者が債務者から譲渡を受けた債権の価額が自己の債権額をこえない場合には、詐害行為の成立が問題となる余地がないとする原判決の判断は、民法第四二四条の解釈を誤まつたものといわなければならない。そして、右法令の違背が判決に影響を及ぼすことは明らかである。            以上

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