大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和49年(オ)1196号 判決

上告人(被告)

山本数馬

被上告人(原告)

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木俊二の上告理由について

自動車の運行によつて生命又は身体を害された者の損害につきその被害者等の請求により、政府が、自動車損害賠償保障法七二条に基づき損害をてん補するにあたつては、被害者等の提出した同法施行規則二七条一項所定の請求書中に請求金額及びその算出基礎の記載がなくても、それに拘束されることなく、損害査定のうえそのてん補をすることを妨げないと解するのが相当である。更に、所論の本件事故被害者の過失に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊)

上告理由

上告代理人鈴木俊二の上告理由

一 原判決に対する不服の点は次のとおりである。

(一) 第一に、原判決は政府に対する保障請求を定めている自賠法第七二条・自賠法施行規則第二七条について、被害者から「請求を受けた政府は請求書記載の限度に拘束されるものではなく、たとえそれに記載のない慰謝料についても添付資料に基いて被害者の被つた精神的損害及びその額が認定しうる以上法令に定められた限度内においてこれが補償をなすことを妨げられないものと解するを相当とする。」と判示し「補償金の支払いにつき賠償義務者が全く関与していないとしても政府が行う代位請求においてこれを争う余地は残されているのであるからこのように解しても必ずしも賠償義務者の不利益とはならない。」としているが、いずれも失当である。

1 被害者が損害の填補を受ける制度として責任保険に対する被害者請求(自賠法第一六条第一項)があるが、政府に対する保障請求もこれとパラレルに考えるべきであり、いな、損害の填補後加害者に求償するという意味においてはより精査な手続を必要とすべきである。ところで被害者請求においては請求額を確定額として明記させることは勿論のことその額のよつてくる損害種別と根拠(証拠)を明確にさせた上この請求額の範囲内において、補償額を認定しているが、この取扱を保障請求についてゆるやかにする必要は全く見出せない。このことは加害者に対する求償という面を考慮すれば当然であるし、また自賠法施行規則第三条第一項第六号と同規則第二七条第一項第八号とを比べても同号が「請求する金額及びその算出基礎」という文言に(治療報酬の請求に係る明細その他損害額の内容及び根拠を明示すること)の文言を付加していることからも明かである。

2 次に、被害者請求も保障請求もその法的性格は別としても実質的には被害者の加害者に対する民法上の損害賠償債権の投影とみるべきである。そのため被害者請求にしろ保障請求にしろ賠償請求の主体・賠償の範囲・損害の算定方法については自賠法第四条によつて民法の規定が適用され被害者の請求に当つては請求額・損害の種別の明示は不可欠な要件である(例えば民事訴訟において請求額を示さなければ請求を認容されることはありえないし、また請求者の意向により慰謝料を除外することは自由である)。したがつて保障請求につき原判決のように請求額も損害の種別も特定する必要がないとする見解は保障請求権の実質を看過したものというべきである。

3 原判決は更に右見解をとつても「政府が行う代位請求においてこれを争う余地が残されているから賠償義務者の不利益とはならない。」としている。しかしこれは、政府が真実義務を履行し、また裁判所において釈明権行使等適切な訴訟指揮によつて真実解明の努力があつてはじめていいうることである。本件についてみるに、政府が一審で請求額四五万九、〇一二円の算出根拠につき請求の原因において主張している内容と、実際に被害者に支払つた内訳は異つているし(当然被害者の過失の存在についても異つた主張をしている)、一審判決も政府の請求の原因を追認する態度に終始している。いうまでもなく、本件請求は査定支払金の代位請求であるから政府は当初から右査定内訳を請求の原因として真実義務を尽すべきであり(したがつて被害者の過失の存在も自認すべきである)、そうしなければならなかつた筈である。かように原判決の解釈では賠償義務者の不利益は解消されないのである。

(二) 第二に、原判決は被害者の過失について「引用部分において既に詳細に説示したとおりである外、成立に争いない乙第二号証の記載を以ても被害者に過失があることにつき何ら具体的理由の裏付がないのでこれのみを以てはいまだ右過失の存在を認めるに足りないことを附加して右主張を排斥する。」とするが失当である。

乙第二号証は政府の上告人(控訴人)に対する回答であり、その文中に「被害者にも自己車の運行について相当の過失があつたと認められますが……」と記載されているし、また政府は原審提出の準備書面において被害者に三割相当額の過失を認めている。右はいわゆる裁判外の自白であり被害者の過失の存在を認める徴表として裁判所の心証に重要な影響をもつものである。しかるに原判決は「何ら具体的理由の裏付がないので」として被害者の過失を否定しているが、右の具体的理由とはどのようなことを意味するのか理解に苦しむのは別として、当然右裁判外の自白に対する反対証拠を摘示して右自白を排斥するのでなければ採証法則に違反するものと考える(なお原審は続審であるから一審において過失の主張も証拠も提出されているから具体的理由がないなどととうてい言えるものではない)。

二 結語

以上から、原判決には法令違背があり、かつそれが原判決の主文に示された判断に明かに影響を及ぼすものと認められるので破棄さるべきである。

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