大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(行ツ)21号 判決

東京都港区赤坂四丁目二番二八号

上告人

三根谷アサコ

右訴訟代理人弁護士

木宮高彦

片山和英

東京都港区六本木六丁目五番二〇号

被上告人

麻布税務署長

大牟田武文

右当事者間の東京高等裁判所昭和五二年(行コ)第一七号更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年一〇月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木宮高彦、同片山和英の上告理由について

本件更正及び過少申告加算税賦課決定に違法はないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論違憲の主張はその実質において単なる法令違反の主張にすぎないところ、原判決に法令違反がないことは、右に述べたとおりである。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶)

(昭和五四年(行ツ)第二一号 上告人 三根谷アサコ)

上告代理人木宮高彦、同片山和英の上告理由

第一点 原判決には憲法の違背がある。すなわち、原判決は、憲法第八四条の租税法律主義に反し違法である。

原判決は、その判断において、所得税法第三六条第一項にいう「収人すべき金額」とは権利確定主義を規定したものと判断する。しかるに、これは解釈上認められる拡張解釈とは認められない解釈であり、右解釈をとることは法律に定めのない規定による課税であって、租税法律主義に反する違憲の解釈判断である。

右所得税法条項はその原則を規定したものであって、現実に現金収人年度の申告、賦課を禁じた趣旨ではない。万一そのように解釈すると、本件の場合のような重複計算の不利益の可能性あるいは、無資力者(少くとも課税分の支払不可能な者)が、何と現実的収人もないにかかわらず、課税、怠納、加算税賦課、差押、競売等の段階に進むことは不当であること明らかである。

第二点 原判決は左記の点につき事実誤認、法令の適用の誤りがある。

一、本件通知書の送達について

(一) 原判決理由二、(一)において、原審は本件送達の際“原告居宅の一部に居住している原告の長女”また“同女からの玄関に人れて置いてくれとの言葉もあり”被告係官が“原告居宅の施錠してある玄関の戸の隙間から封筒に人れた本件通知書を差し人れ、もって差置送達を終った”と認定する。

しかるに事実は、鎌田房江の手紙(甲第二七号証ノ一、二)によって明らかなように、昭和四五年三月一六日上告人宅に人ろうと思ったが鍵がなく入れず、庭に散らばった新聞及び広告等をまとめごみ置き場に置いて帰ったが翌一七日、庭の掃除の時犬のふんをかたづける為新聞紙を右ごみ置き場からとり出した時に通知書人の封筒を発見したものであり、適法な送達がなされていなかった。

本件更正決定の通知書は、被上告人の主張では適法に差置送達されたものとする。しかし、控訴審での高木証人の証言から国税通則法一二条五項二号の差置送達が認められるべき場合に該当しないこと控訴人の昭和五三年四月六日付準備書面一で主張したごとくである。即ち、受領拒絶による差置送達を被上告人が主張しているものと考えられるが、受領拒絶は当該送達すべき場所にいる受送達人、その家族、使用人の受領拒絶の場合に差置送達が認められる規定趣旨であるのに、本件の場合は受送達場所でなく、又、甲第二号証、甲第二〇号証ノ四、五、原告本人尋問の結果から明らかなように、原告居宅と原告長女宅とは別棟であり、同女が玄関に入れて置いてくれとの言葉を述べた事実もなく、その隣家にいる長女高木三江への手渡しを拒否したものであるから、右規定が適用しうる場合ではない。

(二) 又差置送達の方法に関しても、被上告人は、玄関の戸の隙間から挿し込んで土間に落ちるのを確認した旨主張立証するが、甲第二〇号証の六乃至一二の写真から明らかなように隙間防止用溝が左右の柱部分に彫られており、内側の施錠が上下二ケ所になされ、戸の厚みが約四糎ある状態において、通知書を隙間から挿入することが物理的に不可能である。そのことは、玄関の戸がくもり硝子であって内部が見えないにもかかわらず、鉛筆の先で押し込んで土間に落ちたことを確認した旨の藤池証人の証言が虚偽であること明白である。更に、前記のごとく甲第二七号証ノ一、二、鎌田房江の手紙から本件通知書が、玄関に挿入されていなかったこと明白である。尚同人は、上告人の指示より虚偽の文書を作成するようなことができる性格ではなかったこと上告人本人の証言からも確かなことで甲第二七号証一、二が真実を記載してあること明らかである。これらのことから本件送達が適法に行なわれていず、本件更正決定処分は無効である。

加えて原判決理由二、(二)、1、で、完全に施錠されていたことを確認する証拠なしとして、証人藤池の証言を採用するが、同証人の証言は信憑性のないものであって措信できるものではない。即ち同証人は、原告本人尋問の結果並びに、同証人の証言の一部にあるように、再三の理由不明の居宅訪間「麻雀に負けた」云々の、暗に金員の要求をするような発言、態度のあったこと、更正の調査後、大分時日を経過していながら時効期限ぎりぎりまで送達を差し控えていたこと、同証人が事務所調査のあった前後より帳簿の一部が提出要求もなく勿論預り証など交付もなしに紛失したこと、同帳簿類の殆んどが、差出人不明で、被上告人官署用大封入で返送されてきたことなど、全く公正な公務員がとる処置態度でないようなことを行う証人であって、法廷での証言も信用できないこと明らかである。そのような証人の証言を採用し、判決理由中に、原告の主張にそう部分ありとしながらその主張を認容しないことは不当である。以下、原判決がその多くの部分において、同証人の証言を重要認定資料として判断しているのでその点いずれもその証明力のない証拠による判断であり破棄されるべきものである。

原判決理由二、(二)3、部分の認定も同じ理由で不当である。

二、収入金額について

1、乙第一七号証の一ないし三三の原本の存在及び成立並びにその信用性について

原判決理由三、(三)1、は乙第一七号証の一ないし三三の原本が訴外鈴木与一提出のものであり、手控にあらずと認定するが、そうとすれば上告人所有の帳簿を同鈴木が窃取し、所持していたものであり、当然その信憑性につき同人に対し確めている筈である被上告人係官は違法収集による証拠により事実の判断をしたものであり、更正は根本から不当である。上告人主張のとおり手控であるとするなら裁判所認定理由のごとくその作成の必要性が不明確であり、原告本人尋問の結果にあるごとくその退職理由から原告を恨んで、虚偽の帳簿を作成、税務署に提出されたものと推認せざるをえない。いずれにしても、乙第一七号証の一ないし三三を証拠に事実認定を行ったことは証拠の採否を誤った不当なものである。

次に甲第一五号証、第一九号証について、原判決理由中でその証明力なしとする。それは甲第一五号証が本件更正調査時及び異議申立審理の際提示されていない、また内容も乙第一九乃至二一号証と符合しないからだとする。

しかし本件更正調査時及び異議申立時には、更正の具体的内容について明示がなく、釈明の機会も与えられていなかったので提出する余地がなかったものであり、乙号証を基準にこれに符合しないから云々の認定は乙号証が真正に成立した証明力のある証拠であることを前提とするものであり、前述のごとく右乙号証に証明力が認められないものであるから同判断も誤りである。次に甲第一九号証についても、乙第一七号証の作成者であるとする鈴木与一作成の表であって、上告人本人が無理に同表の作成を頼んだものではなく、同一人の書類であれば、官公署提出の為に作成されたものが正しいと推認されるのが社会常識に合致する。またその原始記録についていえば、調査時に紛失した帳簿がその原始記録である。

2、原判決理由三、(三)2の各室毎の収入金額認定はいずれも、前記証拠の採否に誤りのある判断を前提とした認定でありいずれも失当である。

二、必要経費の内、減価償却費について

1、原判決は理由中で、旧措置法第一四条第三項、同法第一一条第三項の規定を訓示規定でないとする。しかしその立法趣旨で、国の政策上の見地から設けられた措置であるとする。その趣旨からすれば、手続的要素は重視されるものでなく、かえって実体に合致していれば(実質的要件の充足)当然適用されてしかるべきものであり、その方がより政策に適うものである。したがって同規定は訓示規定と解すべきである。

仮りに訓示規定でないとしても、税務署に同規定適用申請をしていると明らかに認められる場合はその瑕疵は治癒されるものである。本件の場合にあっては、上告人の申告書収支明細の内容からも、また被上告人係官の適用助言等から、同瑕疵の治癒される場合である。

2、原判決理由、三、(二)2、において禁反言の主張を認めずその理由として、原告本人尋問の供述内容のあいまいさを云う。

しかし、同供述中あいまいであるのは、その年月日であって、尋間期日より八年以上前のことであって、その明確な日時を記憶していること自体かえって不思議なことである。

したがってそのことが供述の信憑性をそこなうものではない。

したがって上告人の主張は認められるべきである。

四、過少申告加算税について

右三、2の理由から、又、二、(一)記載のごとく、割増償却及び収人金額の発生主義による更正部分につき、過少申告加算税の賦課決定は違法である。

五、証拠収集の違法性について

本件更正の根拠となった帳簿(乙第一七号証の一乃至三三)については、上告人の昭和五三年六月二三日付準備書面二、(二)1その他で既に主張しているように、訴外鈴木与一が、上告人事務員として勤務していた際に手控として作成したとの本人の云い分であったが、帳簿上の一部訂正箇所に上告人事務所用印としていた“重朝”の印が押捺されている。これがある為原判決も手控にあらずと認定した上事実認定の証拠としている。

この経緯があるので、控訴審において右鈴木証人の申請を行なったがその採用を却下されたが、これまでの藤池証人の証言、上告人本人の証言から、右鈴木が自己の手控としていた帳面に、事務所印を流用し、いかにも真実の帳簿のごとく体裁を整えて、被上告人係官に提示した虚偽内容の帳簿を証拠としたことが推認される。でないとすれば、上告人所有の帳簿を窃取し、これを知っている被上告人が証拠として利用したこととなる。その際にあっても、真実に合致しない部分を付け加えて提出したこと明らかである。でなければ、これまで上告人事務所で記帳した帳簿で訂正を行なった場合訂正印等を使用したためしは全くない。更に、上告人所有の帳簿類が紛失したことがあり、同帳簿類が差出人不明の小包(包紙は被上告人役所用袋で麻布税務署の印刷部分を消してあった。――甲第二〇号の写真)として郵送されてきた。この事実から被上告人が正当な手続で領置したものでなく被上告人官署係が違法に捜索押収していったものであること明らかであり、前記帳簿(乙第一七号証の一乃至三三)もこの中に含まれていたことも推測され、これら事実から違法に収集した証拠と認められる証拠により事実認定はなさるべきでない(田中和夫著新版証拠法二三九頁(1))。

六、信義誠実の原則違反について(含禁反言の原則)

(1) 本件の賦課は、信義誠実の原則並びに禁反言の原則に違反して無効である。

即ち、上告人の昭和五二年六月二三日付準備書面一、(二)他で主張したごとく、被上告人官署係官の再三の理由不明な居宅訪問、「麻雀に負けた」云々の暗に金員要求をほのめかす発言態度、更正調査後相当の日時を経過しながら時効期限ぎりぎりまで送金を差し控えていたこと、前項にも記載した上告人所有帳簿類の紛失後差出人不明郵便で郵送されてきたことなど、全く公正であるべき公務員がとるべきでない処置態度ではない。

税法の分野においても自然法上の一般原則である信義誠実の原則の適用を認められるべきであること判例(昭和四六・六・一四山形地裁判決)学説の認めるところである。

本件更正処分においては、右被上告人の処置態度によってなされた処分であって、その実体が真実に合致するか否を問わず、本件賦課処分は信義則に背反しており違法無効である。

(2) 仮りに、右(1)の主張が認められないとしても、本件賦課の内、割増償却適用については禁反言の原則に背反して無効である。

即ち、上告人が原審で既に主張しているように(原告昭和四七年二月二一日付準備書面三等)上告人の割増償却適用申請については被上告人官署係官松井よりその制度の趣旨内容を説明され、その適用申請については申請の仕方を教えるとのことで、これに基づき同人の指導により適用申請を行なったのであって(原審原告本人尋問の結果)、これを後に、申請書が提出されていないからという理由で適用を認めないことは、右指導等を信頼した上告人の信頼を破壊するものであり、いわゆる自己の過去の言動に反する主張をすることにより、この言動を信頼した相手方の利益を害することは許されないとの禁反言の法律を適用すべき場合である税法分相にも同法理を適用されると解すべきこと前記判例のとおりである。よって少くとも割増償却は認められるべきである。

以上のとおりの事実誤認、法令適用の誤りがあり原判決は破棄さるべきである。

以上

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