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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(行ツ)74号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人山中伊佐男の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでその不当をいうか、又は原審の専権に属する事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

論旨は、要するに、福江市長の職務代理者の地位にあつた第一審被告・被控訴人亡道脇喜一(昭和六一年三月二〇日死亡により上告人らが本訴を承継した。以下「亡喜一」という。)が三機工業株式会社との間で本件ごみ処理施設の建設工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を随意契約の方法によつて締結したのは違法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。よつて、以下検討する。

一  本件請負契約の締結に至る経緯等に関し原審の確定した事実関係は、大要次のとおりである。

1  福江市では、昭和三一年ころ建設されたごみ焼却炉が故障し放置されていたため、新たにごみ処理施設の設置が緊急の課題となり、同市保健衛生課がその企画、立案等の事務に当たつた。そして、昭和四五年ころから、同課課長貞方善市及び同課清掃係長藤昭男は、他の自治体のごみ処理施設を視察するなどして計画の具体化に努め、昭和四六年三月には日量三〇トンの処理能力を持つセミ機械炉を建設する旨の事業概要書を作成し、同年一一月には「福江市ごみ処理施設施行基準」と題する書面を作成した。

2  貞方課長と藤係長は、ごみ処理施設建設の請負契約の締結方法について、保健衛生課にその施設の設計能力がなく、各業者が独自のプラントを有しその構造や燃焼方法に差異があるため設計が一定でなく、他の自治体でもほとんどが業者の設計施工の形をとつており、その大部分において随意契約の方法によつていたこともあり、競争入札にするのが適当でないとの理由から、九州管内に実績があり技術者を出先に常駐させていて信頼できると考えた東洋技研株式会社、太陽築炉工業株式会社、三機工業株式会社、三和動熱工業株式会社の四社を指名業者とし、そのうちの一社を相手方として随意契約の方法により契約の締結をしようと考えていた。

3  貞方課長と藤係長は、右四社ともそれぞれ炉体の構造等について特許権を有しており(後記のとおりこの認識は誤りである。)、そのプラントには特徴があつて専門家でも優劣の判定がつけ難いとの認識を持つ一方、各社から工事見積書を提出させた上、予定価格及びプラント内容により契約の相手方を決定すればよいと考えていた。

4  昭和四六年一二月二七日福江市長田口馬次が負傷入院したことから、亡喜一が市長の職務代理者となつたが、同人は本件ごみ処理施設の設置に係る諸問題を十分承知し得る立場にあつた。

5  藤係長は、昭和四七年一月初めころまでに、前記「福江市ごみ処理施設施行基準」のほか「焼却炉建設計画工事契約の基本条件」と題する書面を作成してこれらを四社に配布し、見積りの準備をするよう指示した。右各書面は、ごみ処理施設が備えるべき施設内容、れんが積みの施工基準、必要な機能を比較的詳細に示すものであり、業者間で一般に統一仕様書と呼ばれる程度のものであつた。

6  藤係長は、昭和四七年一月八日、指名業者を四社として前記のような方法で契約をすることなどを骨子とした「福江市廃棄物処理施設新設工事施行計画書」を起案して、亡喜一の決裁を得た。

7  昭和四七年一月一一日、施設の建設予定地(福江市平蔵町字権左開三七一四番地)において工事内容の現場説明が行われ、翌一二日には四社の技術説明会が行われた。その後各社から見積書が提出されたが、その見積額は、「太陽築炉工業株式会社 四八五〇万円、三和動熱工業株式会社 四八八〇万円、三機工業株式会社 五五八〇万円、東洋技研株式会社 六三八〇万円」であつた。

8  右四社のプラントは、炉体の構造が異なり、これに伴つて上屋、下屋の構造も多少異なるものの、これらの業者が炉体の構造等について特許権を有しているわけではなく、ロストル(火室に設けられる火たき用の設備)の揺動装置等に実用新案権をもつ程度にとどまるものであり、その差異のある工事部分の費用が全体の工事費に占める割合はさほど高いものではなかつた。

9  亡喜一は、昭和四七年一月一七日三機工業株式会社との間で仮契約書を作成し、次いで、同月三〇日随意契約の方法により同社との間で工事価格五五〇〇万円とする本件請負契約を締結した。

10  三機工業株式会社は右工事を昭和四七年一〇月二〇日竣功し、福江市は、同社に対し、工事代金として、同年五月三一日に六〇〇万円、同年九月三〇日に三七九〇万円、同年一一月二一日に一一一〇万円を支払つた。

二  原審は、以上の事実を前提とし、本件請負契約の適否について、地方自治法施行令(昭和四九年政令第二〇三号による改正前のもの。以下「令」という。)一六七条の二第一項一号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、同号が例示する不動産の買入れ又は借入れ等のほか当該契約をすることを秘密にする必要があるなどの場合をいうものであつて、その用途にかんがみ、品質、機能等において概ね同一の物件が他に存在する場合には、その仕様、設計に多少の差異があるからといつて、他に格別の事情のない限り、直ちに同号所定の事由に該当するということはできないと解した上、本件ごみ処理施設については、その用途にかんがみ、前記四社のいずれを相手方として契約を締結しても、品質、機能等において藤係長作成の「福江市ごみ処理施設施行基準」及び「焼却炉建設計画工事契約の基本条件」に定められた基準を充たす概ね同一のごみ処理施設が建設されたであろうということができ、他に格別の事情も見当たらないから、本件請負契約の締結は、令一六七条の二第一項一号に掲げる場合に該当しないというべきであり、また、随意契約によることができる場合として同項に掲げるその他の場合にも該当しないから、これを随意契約の方法により締結したことは違法である、と判断した。

三  しかしながら、右原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

地方自治法(以下「法」という。)二三四条一項は「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条二項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけているものと解することができる。そして、そのような例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得ることから、令一六七条の二第一項は前記法の趣旨を受けて同項に掲げる一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる。ところで、同項一号に掲げる「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、原判決の判示するとおり、不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合がこれに該当することは疑いがないが、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。

そこで、以上の観点から本件請負契約の締結をみるに、原審の確定した前記事実関係によると、右契約の締結はごみ処理施設という複雑かつ大規模な施設の建設を目的とするものであつて、その請負代金としても高額にのぼるものであり、また、各社のプラントは炉体の構造等が異なつていて、各社はこの点に特許権まで有するものではないがロストルの揺動装置等には実用新案権を有していたというのであるから、これらの点にかんがみると、注文者たる福江市において、右施設自体の品質、機能、工事価格に関心を払うのは当然であるが、そればかりではなく、建設工事の遂行能力や施設が稼働を開始した後の保守点検態勢といつた点の考慮から契約の相手方の資力、信用、技術、経験等その能力に大きな関心を持ち、これらを熟知した上で特定の相手方を選定しその者との間で契約を締結するのが妥当であると考えることには十分首肯するに足りる理由があるというべきであり、他方、原審の確定した前記事実関係によつても本件請負契約の締結について公正を妨げる事情は何ら窺うことができないから、結局、亡喜一において本件請負契約をもつて令一六七条の二第一項一号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断したことに合理性を欠く点があるということはできず、したがつて、随意契約の方法によつて右契約を締結したことに違法はないというべきである。

四  そうすると、以上判示したところと異なる見解に立つて、本件請負契約を随意契約の方法によつて締結したのは違法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわざるを得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、本件については、被上告人の主張する本件請負契約のその余の違法事由について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すのが相当である。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭 裁判官 林 藤之輔)

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