大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和58年(行ツ)14号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人菅沼文雄、同菅沼和歌子、同佐藤義弥、同駿河哲男、同竹澤哲夫、同小池貞夫の上告理由第一点について

公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)、また、右規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないこと、及び国家公務員法八二条の規定の適用に当たり、右の国家公務員の行う争議行為に公労法一七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設けなくても憲法二八条に違反するものでないことも、右の判例に照らして明らかである。これと同旨の見解のもとに本件争議行為が公労法一七条一項に違反するとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について

団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(昭和二九年条約第二〇号。いわゆるILO九八号条約)四条は労働者の争議権を保障した規定ではないから、同条が労働者の争議権を保障したものであることを前提とする所論憲法九八条二項違反の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官林藤之輔の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官林藤之輔の補足意見は、次のとおりである。

私は、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでなく、また、公労法一七条一項の規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由はないとする法廷意見に賛成するものである。ただ、上告代理人は、上告人らは、そのほとんどが国有林野事業の現場作業に従事する作業員で、本件争議行為においては短時間に限って単に労務を提供しなかっただけであり、国有林野事業の業務の性質及び右争議行為の態様に照らせば、本件争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすものでないことは明らかであり、したがって、これに対して公労法一七条一項の規定を適用することは許されない旨主張する(上告理由第一点の第四)ので、この点について私の考えているところを一言付け加えておきたい。

憲法で保障された労働基本権の制限は、労働基本権の尊重と国民生活全体の利益の擁護とが調和するように決定されるべきものである(最高裁昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁参照)。現業の職員の従事する業務も、多かれ少なかれ、また、直接と間接との相違はあっても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有するものであり、右職員の罷業、怠業等が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは否定できないから、国民生活全体の利益を擁護するため右職員の争議行為を一律全面的に禁止しても、やむを得ない措置として合理性を有するというべきである。公労法一七条一項の規定が現業の職員の争議行為を一律全面的に禁止したことをもって憲法二八条に違反するものということができないとする結論は、右の観点から肯定できるものである。そして、公労法一七条一項に違反する行為をした職員は、その行為が勤務関係上の規律に違反する場合には、懲戒等の制裁の対象とされることを免れないが、右争議行為の禁止の規定は、国民生活全体の利益を擁護するためのやむを得ない措置として設けられたものであるから、右規定に反する争議行為の違法性は、当該行為が国民生活全体の利益に及ぼす影響の程度に応じて強弱の差があるものというべきであり、したがって、争議行為を行った職員に対し懲戒処分を行うとしていかなる処分を選択するかを判断するに当たっては、当該争議行為が国民生活全体の利益に及ぼす影響の程度を重要な要素として考慮すべきであるといわなければならない。ところで、争議行為が国民生活全体に及ぼす影響の程度については、事案に即して具体的に判断しなければならないことはいうまでもないが、一般的には、その影響の程度は、各現業の業態、参加職員の職務内容、争議行為の態様及び規模等により異なるものであるということができる。本件についてこれをみるに、原審の確定したところによれば、本件争議行為は、全林野労働組合の指令に基づき全国の拠点となった分会で行われたものであるが、上告人らを含む争議参加者のうちの多くは、常用作業員又は定期作業員として雇用され、生産手A、B、造林手、機械造林手などとして国有林野事業の現場作業に従事するものであり、その態様は単なる労務の不提供であり、時間も短時間に限られていたというのであり、国有林野事業の業務の性質及び右争議行為の態様等からみれば、右争議行為による作業の遅れ等は、その後における作業計画の中で吸収することが可能であり、それによる国民生活全体への影響の程度はそれほど大きなものではないと考えられるから、右争議行為の違法性は比較的軽微であるといわなければならない。しかも、右常用作業員及び定期作業員は、一般職に属する国家公務員ではあるものの、身分の不安定な非常勤の職員であり、その処遇も定員内職員には及ばないものである。それ故、上告人らのうちの単純参加者に対してされた一か月又は三か月減給一〇分の一(ちなみに私企業における減給の制裁は、労働基準法九一条により一回の額が平均賃金の一日分の半額に制限されているから、本件の一か月減給一〇分の一は、標準作業日数を月二五日とみた場合私企業における右最高限度額の五倍に相当する。)という懲戒処分の内容については、行為の違法性の程度及び上告人らの身分に徴して疑問がないわけではないのである。

以上のとおり、私は、本件懲戒処分は、これを懲戒の裁量権の行使が妥当であったかどうかという点からみると、問題にする余地があると考えるが、公労法一七条一項の規定は、現業の職員の争議行為を一律全面的に禁止したものであると解すべきであり、上告人らが同法二条二項二号に該当する職員であることは否定することができないところであるから、前記のような事情が存するからといって、上告人らの行った本件争議行為に同法一七条一項の規定を適用することが許されないということはできないのである。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 林藤之輔)

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