大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

最高裁判所第二小法廷 昭和62年(オ)1001号 判決

上告人

山田太郎

右訴訟代理人弁護士

長網良明

被上告人

山田花子

右訴訟代理人弁護士

多加喜悦男

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人長網良明の上告理由第一点及び第三点について

原審の認定した事実の概要は、次のとおりである。(一) 上告人と被上告人は、昭和二三年一〇月一一日婚姻の届出をし、翌二四年五月二二日に長女春子を、昭和三〇年六月四日に長男夏郎をもうけた。(二) 婚姻当初、上告人は税務署に、被上告人は小倉競馬場にそれぞれ勤務していたものであるが、上告人と被上告人は、被上告人が他の男性との間に子をもうけていたことを婚姻直後に上告人の知るところとなつて一時別居したことがあつたものの、その期間を除き、円満で平穏な家庭生活を続けていた。(三) 上告人は、昭和三〇年暮れころから、キャバレーなどで遊興するうちにキャバレーのホステス鈴木秋子と親密な仲となり、しばしば外泊し、家庭を顧みないようになり、そのために被上告人との間で喧嘩口論が絶えることがなかつた。被上告人は、上告人と同女との関係を苦にし、当時医者から子宮ガンと診断されたこともあつて、昭和三四年九月六日睡眠薬を多量に飲んで自殺を図つたが、遂げなかつた。(四) 上告人は、業者からの接待による収賄容疑で調査を受け、その結果、昭和三四年一二月二三日付けで直方税務署を依願退職したが、その後は、真面目に働き、よく家族の面倒を見るようになり、被上告人との仲も円満となり、幸福な家庭生活を営んだ。(五) 上告人らは、昭和三五年一一月末ころ、被上告人名義で土地建物を取得し、翌三六年一月同所に引つ越し、そのころから、上告人の給料を家計に充て、被上告人の給料は右土地建物の購入資金の返済等に充てることにした。(六) 上告人は、昭和三八年四月五日自宅に税理士事務所を開業し、同年一〇月末ころ訴外佐藤冬子(当時戸籍上は田中姓、翌三九年八月一五日協議離婚、なお昭和四五年八月三日上告人の甥山田次郎夫婦と養子縁組)を同事務所の事務員に採用した。上告人は、やがて同女と親しくなり、昭和三九年九月初めころ、被上告人に無断で、税理士事務所を移転し、その後、夜遅く同女と遊びに出かけるなどし、帰宅が次第に遅くなるようになつた。これを知つた被上告人は、心労の余り、同年一〇月六日睡眠薬による自殺を図り、同月一六日上告人らによつて精神病院に入院させられ、家庭内不和による「性格異常兼心因反応」と診断された。(七) 上告人は、その翌日である昭和三九年一〇月一七日離婚を決意したとして二児を連れて転居し、同年一一月九日福岡家庭裁判所小倉支部に離婚調停の申立をした。しかし、被上告人が同月一四日退院すると、上告人は、再び自宅に戻り、同年一二月一五日右申立を取り下げた。(八) 佐藤冬子は、昭和三九年一二月二〇日上告人税理士事務所を退職し、上告人は、翌四〇年一月四日同事務所を自宅に戻した。しかし、上告人は、同月七日同女に対し、復職するよう懇請し、その結果、同女が同月末ころ復職するや、再び同女と親密な関係を継続するようになつた。(九) 上告人は、昭和四〇年四月一〇日居所及び税理士事務所を移転して被上告人と別居し、それ以後被上告人や子供らの再三の懇願にもかかわらず家族のもとに戻らなかつた。(一〇) 上告人は、昭和四〇年四月二八日再び離婚調停の申立をし、同年九月二日被上告人との間で、当分の間別居し、上告人が二児の扶養料を被上告人に支払う旨の調停が成立したが、同年一一月三〇日福岡地方裁判所小倉支部に離婚訴訟を提起した。その間、上告人は、佐藤冬子との関係をますます深め、翌四一年六月同女と結婚式をあげ、同年八月三一日から同女と同居生活を始めるに至り、税理士事務所も右居所に移転した。上告人は、昭和四八年二月一日には同女との間に三郎をもうけ、同月八日認知した。なお、上告人は、昭和四五年二月一七日第三者の勧め等により、前記離婚訴訟を取り下げた。(一一) 上告人と被上告人との間で、昭和五一年六月一一日再度の離婚調停が行われたが、不成立に終わり、上告人は、同年七月二八日本件離婚訴訟を提起した。

原審は、右事実関係の下において、上告人と被上告人との婚姻関係は完全に破綻しているが、その破綻の原因を作つた上告人からの離婚請求を許すことはできないとして、右請求を棄却した第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。

しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。民法七七〇条一項五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないというのが当裁判所の判例である(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号登載予定)。前記事実関係の下においては、上告人と被上告人との婚姻については同号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約二二年及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、右のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものである。

したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴請求を排斥した原判決には民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ、被上告人の申立いかんによつては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤島昭 裁判官牧圭次 裁判官島谷六郎 裁判官香川保一裁判官奥野久之)

上告代理人長網良明の上告理由〈省略〉

上告人の上申書記載の上告理由〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com