大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

札幌地方裁判所 昭和31年(ワ)403号 判決

原告 福村末太郎

被告 滝川町

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金五十万円およびこれに対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、

一  原告はもと別紙目録記載の家屋の所有者であつたが、滝川町税滞納のため昭和二十八年九月十八日被告より右家屋を差押えられた。

二  その後、原告は滞納金の支払をしなかつたので、被告は昭和三十年十二月五日本件家屋を代金十五万円で公売に付し、同月八日売却決定をなし、その買受人を訴外藤井小市、代金納付期日を同月二十日と指定した。

三  そこで訴外古荘義信は原告の代理人として昭和三十年十二月十五日右滞納金を支払うべく被告を訪れて滞納税額を尋ね滞納金が約金一万五千円であることと、未だ公売代金が納入されていないことが判明したので即時支払うべき旨申し入れて現実に提供したが、被告はその受領を拒絶したので原告は同日直ちに金一万五千円を被告に対する滞納金弁済のため札幌法務局滝川出張所に供託した。

四  次いで原告は被告に対して昭和三十年十二月二十四日右売却決定につき、原告が支払のため滞納金を現実に提供したのは買受人訴外藤井が未だ代金を納付しない前のことであるから被告はその受領の義務があることおよび公売価格が不当に低廉であること等を理由とする異議の申立をなしたところ、被告は同日訴外藤井に本件家屋の所有権移転の手続をなし、同訴外人は即日本件家屋を訴外広川市松に売却してそれぞれ移転登記手続を完了し、その後昭和三十一年二月十七日に至つて被告は原告の異議の申立を却下した。そこで原告は直ちに被告を相手方として公売処分取消の訴を提起したが、訴外広川が本件家屋を取毀して了つたので原告は右訴を取下げた。

五  しかしながら、被告のなした公売処分は次の点において違法である。すなわち、

被告が本件家屋を公売に付したのは昭和三十年十二月五日であり、その売却決定は同月八日になされ、代金納入期限は同月二十日と指定されていたが、原告の代理人訴外古荘が被告に対して滞納金の支払を申出たのは同月十五日で未だ代金の納入されていない以前のことであるから、被告は原告の右弁済を受領すべきである。すなわち、地方税法第三百七十三条によつて準用される国税徴収法の関係法条を綜合して考察すれば、公売処分により買受人が公売財産の所有権を取得する時期は代金完納の時であることが窺知され、代金納付以前に権利が移転するという観念を容れる余地が全くない。ところで、民事訴訟法第六百八十六条の規定は競落による所有権の移転時期を競落許可決定の時と定めているが、その趣旨は競落代金の支払を停止条件とし、代金の完納をまつて所有権が移転すると解するのが最も妥当である。したがつて、仮りに右の規定が、その本質上売買の性質を有する点において強制執行と何ら差異はないとの理由のもとに国税徴収法に基ずく公売にも準用せられるべきものとしても、公売財産の所有権は代金の完納を停止条件として買受人に移転すると解すべきであるから、滞納者は買受人が代金を完納するまではその滞納金を支払い得る余地が存するものというべきである。それ故に原告は前述の如く一旦滞納金の支払を拒絶せられたるも直ちに滞納金を弁済供託したから、原告の納税義務は消滅したのにかかわらず、被告は不法にも公売処分を続行し、その結果原告をして本件家屋に関する一切の権利を喪失させるに至つたが、これは一に被告の過失に因るものであるから、原告は被告に対し本件家屋の価格金三十五万円、その借地権金十五万円、計金五十万円の賠償とこれに対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める、

と陳述し、立証として甲第一号証のないし三、同第二号証の一ないし三、同第三ないし第五号証、同第六号証の一、二を提出し、証人古荘義信の証言を援用し、乙号証は全部その成立を認めると述べた。

被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、請求の原因第一、二項は認める、第三項は、原告主張の日時原告の代理人と称する訴外古荘義信が被告を訪れて原告の滞納税額を尋ねたので被告が約金一万五千円と答えたことは認めるがその余は否認する、第四項は、原告主張の日時その主張の異議の申立をなし、被告がこれを却下したこと、被告が訴外藤井小市に対して本件家屋につき所有権移転登記手続をなしたことおよび原告が被告を相手方として公売処分取消の訴を提起したが、本件家屋の転得者訴外広川末松がこれを取毀したので、原告は右訴を取下げたことは認めるがその余を争う、第五項は否認すると陳述し、さらに、

一  昭和三十年十二月十五日に訴外古荘義信が被告を訪れたことはあるが、当時同訴外人は原告の代理人としての権限を証明する書面は何ら持参していなかつたから、被告としては同訴外人を原告の代理人と認めることはできなかつた。したがつて同訴外人の行動をもつて原告よりの交渉とみなすことはできない。

二  仮りに右主張が採用されず、同訴外人が当時原告の代理人であつたとしても、原告の主張は失当である。すなわち、原告は、本件代金納入期限である昭和三十年十二月二十日以前に原告が滞納金を納入せんとしたのに被告がその受領を拒絶したのは違法であると主張するが、地方税である固定資産税に係る滞納処分については国税徴収法の規定による滞納処分の例によつてこれを処分すべきことは地方税法第三百七十三条に明らかであり、国税滞納により入札の方法で滞納者の財産を公売に付する場合、その財産の所有権は収税官吏が最高入札者を落札者となし、財産売却決定をなすことによりその入札者に移転するものと解される。しかして、本件家屋に対する公売の売却決定は昭和三十年十二月八日になされたので、その所有権は同日原告より買受人訴外藤井小市に移転したものである。原告は、売却決定後と雖も買受人が代金を納入するまでは滞納金を受領すべきであると主張するが、売却決定の取消には買受人の同意を必要とし、被告の一方的な取消は許されないから、被告は売却決定後において原告の滞納金を受領することはできない。したがつて、原告主張の弁済供託によつて滞納金納付の効力が発生しないことは論ずるまでもないところであるし、また、地方税法第三百六十四条により本件固定資産税の徴収については普通徴収の方法によるべきことと定められているから、原告主張の供託によつては民法第四百九十四条に規定する免責的効力を生じない。

と陳述し、立証として、乙第一ないし第十二号証を提出し、証人藤井小市、同内城安次郎、同田村一雄の各証言および鑑定の結果を援用し、甲第四号証の成立は不知、その余の甲号各証は成立を認めると述べた。

理由

原告はもと別紙目録の記載の本件家屋の所有者であつたが、滝川町税滞納のため昭和二十八年九月十八日被告より本件家屋の差押を受け、その後原告は滞納金を納入しなかつたので被告は昭和三十年十二月五日本件家屋を代金十五万円で公売に付し、同月八日売却決定をなしてその買受人を訴外藤井小市、代金納付期日を同月二十日と指定したこと、昭和三十年十二月十五日訴外古荘義信は原告の代理人と称して被告を訪れ、原告の滞納税額を尋ねたので被告が約金一万五千円であると答えたことおよび被告は同月二十四日本件家屋の買受人訴外藤井に対し町税滞納処分に因る公売を原因として所有権移転登記手続をなしたことはいずれも当事者間に争がない。

よつて案ずるに、成立に争のない甲第一号証の三、乙第三、第四号証、証人藤井小市、同内城安次郎、同田村一雄、同古荘義信の各証言を綜合すると、昭和三十年十二月十五日訴外古荘が被告を訪れた際、同訴外人は被告の徴収係員訴外内城安次郎、同田村一雄および被告の助役某らと面接し、その結果原告の滞納税額がおよそ金一万五千円であることおよび本件家屋の買受人訴外藤井が代金を未だ納付していないことを知り、直ちに右滞納金を被告に納入することを申出たが、訴外内城、同田村らは売却決定後において滞納金を受領することはできないが、若し訴外藤井が売買の解除に同意するのであればこれを受領してもよいと答え、訴外藤井の住所を説示した上、同訴外人と交渉することを勧めたこと、訴外古荘は同日札幌法務局滝川出張所に金一万五千円を原告の滞納金納入のため供託したことおよび訴外藤井は公売代金を同月十六日に完納したことがそれぞれ認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。ところで、原告は、地方税法により準用される国税徴収法の公売によつて買受人が公売財産の所有権を取得する時期は公売代金完納の時であるから、被告は原告のなした滞納金の弁済の提供を受領すべきであり、したがつて原告のなした供託は有効であつて原告の納税義務は消滅したと主張するので考えるに、国税徴収法には民事訴訟法第六百八十六条の如き直接の明文は存在しないけれども、国税徴収法の規定を綜合すれば、入札の方法により滞納者の財産を公売に付する場合においては、その財産の所有権は収税官吏が開札の上最高入札者を定めてこれを落札者となし、財産売却の決定をなすによつてこの入札者に移転するものと解すべく、したがつて、本件家屋の所有権は昭和三十年十二月五日に訴外藤井に移転したものというべきである。もつとも、同訴外人が代金納付期限までにその代金を納付しないときは、被告は売買を解除して再公売に付さなければならないものであるから、売却決定によつて移転する権利は確定不動なものに非らずして代金の不払の場合は売買を解除せられるという解除条件附のものといわなければならない。しかし、同訴外人の代金納付前に取得する権利が解除条件附のものであつても、一旦所有権が同訴外人に帰した以上被告が他の理由に基いて売買を解除することは、同訴外人の同意を得た場合は格別、そうでない以上は一方的にこれをなすことの許されないこと当然である。したがつて、本件事実関係のもとにおける原告としては、訴外藤井の同意を得て被告と同訴外人間の売買の解除を受け、しかる後その滞納金を納付して納税義務を消滅させ、もつて本件家屋の所有権を回復する以外に術はないものといわなければならない。果してそうだとすると、原告が売却決定後において買受人の同意を得ることなく被告に対してなした本件弁済の提供および供託は何ら滞納金納付の効力を生じないものであるから、被告が本件家屋の公売処分を続行したとしてもそれは適法という外はなく、これに反する主張を前提とする原告の本訴請求は爾余の点に対する判断をまつまでもなく失当として棄却を免かれないものである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野沢竜雄 外山四郎 石垣光雄)

目録

空知郡滝川町字栄町三三四番地 建坪 三十三坪二合五勺

家屋番号 同町三区域八番 二階坪 十坪

一、木造亜鉛メツキ鋼板ぶき弐階建店舗

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com