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札幌地方裁判所 昭和50年(ワ)1430号 判決

原告 有限会社 清水組

被告 北海道

訴訟代理人 末永進 武田道成 ほか八名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因(一)の1ないし4の事実は、いずれも当事者間に争いがないので、以下、被告による返戻処分が適法であるか否かについて判断する。ところで、右処分については、まず、原告において海面規則〔編注:北海道海面漁業調整規則〕についても内水面規則〔編注:北海道内水面漁業調整規則〕と同様漁業権者の不同意の場合にその理由を記載した書面を添付すれば足るとして右同意書面を単に砂利等採取の許否に関する実体的判断の資料にとどまると主張し、被告において同意書面の添付を手続要件であるとして争うので、この点についてまず審及する。

漁業権の設定されている漁場内等における岩石、土砂、砂れき等の採取の許可については、従前の北海道漁業調整規則(別紙参照。以下漁業規則という)に取つて代わり、昭和三九年からは海面規則、及び、内水面規則によつて規制されることになつたけれども海面規則には漁業権者の同意が得られず、したがつてその同意書が添付できない場合の代替規定を欠いているので、海面における漁場内での砂利採取等の申請について、右の同意書の添付を欠くときを如何に解すべきかが問題となろう。(別紙参照)

この点に関し、前記漁業規則第五一条第四項によれば、「当該漁場権者の同意が得られない場合又は同意を得ることが著しく困難な場合はその事由を記載すればよい。」と定め、当該同意君を添付できないときの代替規定をおいている。そして、内水面規則においても「漁業権を有する者が、砂れき等の採取により水産資源の保護培養上通常支障がないにもかかわらず、又はその他正当な理由がないのに同意を与えない場合には、その事情を記載した書面をもつて同意書に代えることができ(同規則第二五条第三項)、同意書に代わる右事情を記載した書面を提出したときは、知事は当該許可申請者及び、当該漁業権者から事情を聴取のうえ、必要と認める場合は協議を命ずることができる(同条第四項)」と当該同意書を添付できないときの代替規定をおいている。前記各規則の制定の目的は漁業規則第一条によれば「北海道における水産動植物の繁殖保護、漁業取締その他漁業調整を図ること」にあり、海面規則第一条によれば「海面における水産資源の保護培養、及び、その維持を期し、並びに漁業取締りその他漁業調整を図り、漁業秩序の確立を期すること」にあり、内水面規則第一条によれば、「内水面における水産資源の保護培養、漁業取締りその他漁業調整に関し必要な事項を定めること」にあり、いずれの規則も水産資源の保護と漁業取締りその他漁業の調整という共通の目的を有している(別紙各規則第一条参照)。以上のように海面規則、及び内水面規則の前身である漁業規則には、同意書が添付できない場合の代替規定が存在し、かつ、内水面規則にもそのまま同様の規定が引き継がれている立法経過、ならびに、右各規則の目的は社会的要請を考慮に入れるとしても、本来共通であるとみられることから判断すると、共同免許漁場が海面であれ、内水面であれ、土砂等の採取の許可につき特に海面についてだけ内水面とは異別の取扱いをなすべき事情は認められない。したがつて、内水面規則第二五条第三、第四項の規定は、海面規則の岩礁破砕等の許可の申請について、類推適用するのが公平の観念からしても相当である。

しかしながら、海面について類推適用すべき内水面規則第二五条第三項の規定は、その規定の趣旨から考えると、内水面の漁業権者が砂れき等の採取により水産資源の保護培養上通常支障がないにもかかわらず、又はその他正当な理由がないのに同意を拒む場合に限つて、同意書添付に代わる申請手続を許容すものであるとみられ、漁業規則第五一条第四項が、単に「漁業権者の同意が得られない場合又は同意を得ることが著しく困難な場合はその事由を記載すればよい」と規定しているのと異なり、その事情を記載した書面をもつて同意書に代えることができるとし、同意書を添付すべしとする原則を固持しているところである。すなわち、漁業規則の施行下においては、漁業権者の同意が得られない場合でも不同意の事由を記載した書面の提出により、支庁長による受理、ついで調査による許否の実体的な判断を求めることができ、したがつて、右同意は右許可の実体的判断を求めるための手続的要件とはみなされていないというべきであるが、内水面規則においては、右の実体的な判断を求めるには原則として漁業権者の同意書を添付することが必要不可欠であり、その意味で右同意書の添付は、右判断を求めるための手続的要件であると解するのが相当である。そして以上のような考慮から、例外的に、漁業権者の砂れき等の採取によつて水産資源の保護培養上、一般に支障がないにかかわらずこれを拒否するなど、右同意権の濫用にわたり、又は、海浜の状況、漁業の実態等に照らし、これを正当ならしめる理由が存在しないと認められるような場合には、漁業権者の同意書に代えて、その不同意の事情を記載した書面を提出することで右手続要件を充足し、知事に対して許可するか否かの実体的判断を求めうることになるけれども、支庁長において、独自の調査ないし、砂利採取業者と漁業権者との協議結果の報告等に基づき同意の拒否について正当事由が存在すると認められる場合には、右原則的な手続要件が結局満されていないとして、右の受理、及び、これに続く実体的判断を回避することもまた可能であると解するのが相当である。

二  そこで進んで、門別漁協〔編注:門別漁業協同組合〕の本件申請に対する同意拒否について、内水面規則第二五条第三項所定の正当な理由が存在したか否かについて判断する。

(一)  〈証拠省略〉を総合すれば、門別漁協の不同意の理由の概略は、次のとおりである。すなわち、

1  砂の採取によつて漁船の捲き揚げが不能となり陸岸ばかりでなく海域も海底、及び潮流の変化により、地曳網漁業の操業が困難になる。

2  本件申請海域は潮の干満の差が大きく、かつ、荒海であつて、元来砂の移動の著しいところであるが、砂の採取後は、砂の移動が一層著しくなるばかりでなく、従前と異る移動をすることになり、これに伴う底質、及び、海底地形の変化によつて、ほつき貝、及び、ほたて貝資源の減少、並びに、シシヤモ桁束網漁業の操業が困難または不能になるおそれがある。

3  本件申請海域に接するフエハツプ海浜地の観光に重大な影響を与える。

4  本件申請地域の裏地は海抜零地帯であり、砂の採取によつて冠水する度合が多くなる。

(二)  〈証拠省略〉を総合すると、

1  訴外門別漁協は、昭和四八年九月一日、北海道知事から、本件申請海域を含む海域について、別表記載のとおり、共同漁業の免許を受け(右免許に基づく共同漁業権の存続期間は漁業法第二一条第一項によれば一〇年である)、同漁協は、右共同漁業権について行使規則を制定し(昭和四八年九月一日施行)、訴外大塚工、伊藤正、及び、平目八郎に対し、本件申請当時、本件申請海域における地曳網漁業の操業(期間は昭和五〇年五月一日から同年一二月三一日まで)の承認を与えた。右大塚工外二名は、右の承認に基づき、地曳網漁業を操業しており、昭和四八年から同五〇年の三カ年間における同操業による収入は年間総収入のうち一〇ないし三〇パーセントを占めていること。

2  右地曳網漁業の形態は、漁船を使用して全長約二六〇メートルの漁網を沖合約五〇〇メートルの海中に展張し、これを引き網により耕うん機を使用する等して陸土に引き揚げる方法によるものであり、実際の操業に当たつては、汀線から沖合約五〇〇メートル、海岸線に平行に約二六〇メートルの海域、及び、汀線から陸上約四〇メートルないし七五メートル海岸線に平行に約二六〇メートルの陸域を必要とするものであること。

3  地曳網漁業は海、陸含めて相当広い範囲を使い、網を入れる場所も時間も決められないので、地曳網漁業の操業に影響を及ぼさずに砂を採取することはできないこと。

4  フエハツプ海岸における地曳網漁業のうち重要なものは産卵直前のシシヤモ漁で、その盛漁期は、一〇月と一一月であるところ、本件申請の砂の採取期間は一〇月一六日から一一月三〇日であること。

5  砂利を採取したり、岩礁を破砕することによつて海水が汚濁し、水産資源の保護に必要なものが除去され、又地形が変化するため水産動植物に影響が生じること。

6  原告の本件申請に対し、漁業権者たる門別漁協の同意書が添付されていないところから、日高支庁長は、門別漁協はじめ関係者に右同意書が添付できなかつた事情をめぐる意見を聴取したり、双方における協議を命じたりしたほか、自ら現地調査を行ない、その結果、前記1ないし5の各事実を認定し、門別漁協が不同意としたことについては正当な理由があると認め、附随的には同意書面提出期間の徒過をもその理由として、本件申請を却下したこと。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

三  以上の認定の事実関係に従えば、本件申請通りに土砂を採取する場合には前記期間内における地曳網漁業の操業を直接阻害し、漁業権者の現在における生活利益を侵害するだけでなく、海底の地形の変化等により、爾後の地曳網漁業その他の漁業の操業に重大な影響を及ぼすおそれがあるとみられるところであり、かつ、海況の変更の際にはその復元が容易でない事態に鑑みると、本件申請に対し門別漁協が同意を拒否したことには正当な理由があつたものといわざるを得ない。そして、日高支庁長も前記認定のとおりその裁量により現地を調査したり、原告会社、及び門別漁協から事情を聴取のうえ協議を重ね、門別漁協の不同意には右のような正当理由があるものと認め、本件申請は、結局海面規則の定める同意書の添付という手続要件を欠如するものとして同申請を却下し、申請書を原告会社に返戻しているところであるから、右支庁長による右却下処分の手続に違法のかどはない。

四  してみると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲垣喬 日野忠和 栄春彦)

(別紙)

一 北海道漁業調整規則(昭和二七年二月二四日北海道規則第一八号)

第一条この規則は、漁業法水産資源保護法その他漁業に関する法令とあいまつて北海道における水産動植物の繁殖保護、漁業取締その他漁業調整を図ることを目的とする。

第五一条海岸又は免許漁業の漁場内において岩礁岩石その他の物件を破砕し又は岩石若しくは土砂を採取しようとする者は、支庁長の許可を受けなければならない。但し当該漁場に係る漁業権者が、水産動植物の増産の目的のためにする場合はこの限りでない。

3 第一項……の規定により許可を受けようとする者は、左に掲げる事項を記載した申請書に、当該漁場に係る漁業権者の同意書を添え……一支庁長に提出しなければならない。

(掲記の申請書記載事項は省略した。)

4 前項の規定により当該漁場に係る漁業権者の同意が得られない場合、又は同意を得ることが著しく困難な場合はその事由を記載すればよい。

二 北海道海面漁業調整規則(昭和三九年一一月一二日北海道規則第一三二号)

(目的)

第一条 この規則は、漁業法第八十四条第一項に規定する海面における水産資源の保護培養及びその維持を期し、並びに漁業取締りその他漁業調整を図り、漁業秩序の確立を期することを目的とする。

(漁場内の岩礁破砕等の許可)

第四十三条 知事が水産動植物の保護培養上必要と認めて指定した海岸、前条に規定する禁止区域、第三十四条に規定する保護水面又は漁業権の設定されている漁場内において、岩礁、岩石若しくは沈船を破砕し、又は岩石若しくは土砂を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。

2 知事は、前項により海岸を指定したときは、告示する。

3 第一項の規定により許可を受けようとする者は、別記第七号様式による申請書に当該漁場に係る漁業権を有する者の同意書を添え、知事に提出しなければならない。

4 知事は、水産資源の保護培養のため必要があるときは、笛一項の許可をするにあたり、当該許可に制限又は条件を付けることができる。

三 北海道内水面漁業調整規則(昭和三九年一一月一三日北海道規則第一三三号)

(目的)

第一条 この規則は、漁業法第八条第三項に規定する内水面における水産資源の保護培養、漁業取締りその他漁業調整に関し必要な事項を定めることを目的とする。

(砂れき等の採取許可)

第二十五条 漁業権の設定されている漁場内、前条に規定する禁止区域又は保護水面内において、砂れき、土若しくは岩石(以下「砂れき等」という。)を採取しようとする者は、別記第六号様式による申請書を提出し、知事の許可を受けなければならない。

2 漁業権の設定されている漁場内において、前項の規定により許可を受けようとする者は、前項の申請書のほかに当該漁場に係る漁業権を有する者の同意書を添えて知事に提出しなければならない。

3 前項の場合において、第一項の規定により許可を受けようとする者は、漁業権を有する者が、砂れき等の採取により水産資源の保護培養上通常支障がないにもかかわらず、又はその他正当な理由がないのに、同意を与えない場合には、その事情を記載した書面をもつて同意書に代えることができる。

4 前項の場合において、第一項の規定により許可を受けようとする者が同意書に代えてその事情を記載した書面を提出したときは、知事は、当該許可申請者及び当該漁業権者から事情を聴取のうえ、必要と認める場合は、協議を命ずることができる。

5 知事は、第一項の許可をしたときは、当該申請者に許可証を交付する。

(別表)

門別漁業協同組合が本件許可申請当時本件申請海域において免許を有する共同漁業権の内容〈省略〉

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