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札幌地方裁判所 昭和53年(行ウ)2号 判決

原告 石黒世之 外一九名

被告 北海道知事

訴訟代理人 中村勲 丹栄治 外九名

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

〔請求の趣旨〕

一  被告が、昭和五二年一〇月二九日付変更認可宅地第五二―七号指令をもつて株式会社ユー・アンド・アイ・マツザカに対してした住宅地造成事業計画変更認可を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

〔本案前の答弁〕

主文と同旨

〔請求の趣旨に対する答弁〕

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

〔請求原因〕

一  行政処分

1 訴外株式会社ユー・アンド・アイ・マツザカ(以下、訴外会社という)は、昭和四五年二月二一日石狩郡石狩町大字花川二三〇番地外の新札幌団地温泉街特別計画地第六工区の土地(以下、第六工区の土地という)において住宅地造成事業を施行するため住宅地造成事業に関する法律(以下、住造法という)四条に基づき、右住宅地造成事業施行の認可を被告に対して申請し、被告は、同年六月二七日訴外会社に対し、右申請のとおり認可した。

2 訴外会社は、昭和五一年一一月五日東京地方裁判所に対し、会社更生手続開始の申立をし、札幌地方裁判所は、昭和五二年五月二〇日会社更生手続開始の決定をした。

3 訴外会社は、第六工区の土地の造成について、会社再建のため、事業面積を縮小することとし、昭和五二年九月二日被告に対し、住造法一〇条に基づき住宅地造成事業計画の変更の認可を申請し、同年一〇月一五日第六工区の一部の土地(以下、本件事業除外地という)について住宅地造成事業一部廃止届を被告に提出し、被告は、同月二九日付で変更認可宅地第五二―七号指令をもつて右住宅地造成事業計画の変更を認可(以下、本件処分という)した。

二  原告適格

1 原告らは、第六工区内に別表記載の各土地(以下、本件土地という)を所有するが、右土地は、もと訴外会社の所有であつたところ、昭和四八年訴外会社代表取締役松坂有祐の一族に譲渡され、右一族は、昭和五一年一一月二六日訴外中外興業株式会社に売却し、原告らは、同社から昭和五二年二月から一〇月までの間に本件土地を買受けたものである。

2 原告らが訴外中外興業株式会社から買い受けた当時第六工区の土地は整地作業が二〇ないし三〇%程度行われており、近く造成工事が再開される見通しで、原告らと訴外会社は本件土地の造成事業施行を合意し、原告らは右事業施行の同意書を提出していたところ、訴外会社はその方針を変更して事業変更の認可を申請し、被告の本件処分により、本件土地は本件事業除外地に含まれることになり訴外会社の事業施行地区から除外された。本件土地所在地は、昭和四五年七月二七日に市街化調整区域と決定されたが、本件土地は、前記の同年六月二七日の認可により、都市計画法施行法七条によつて訴外会社の住宅地造成事業の施行区域内に含まれている限り、右都市計画法上の市街化調整区域としての規制を受けることなく住宅地の造成と住宅の建設をなし得たのであるが、被告の本件処分により右施行地区から除外されたため単なる市街化調整区域に転落し、原告らは、本件土地を宅地化する利益を失つたものである。

3 住造法は、民間の宅地造成事業が広く国民の宅地需給のひつぱくを緩和するうえで果たす役割の重要性にかんがみ、これに対して適切な指導と助成を行い、かつ同事業に伴う弊害を規制し、もつて国民一般の公益の増進に寄与させるべく制定されたもので良好な住宅地供給による公共の福祉の増進を目的とするが、全体として量質ともに良好な住宅地の供給を求める国民の期待や利益をその保護法益に含んでいると解される。前述のように原告らは、被告の昭和四五年六月二七日の認可により本件土地について宅地造成を受ける法的利益を有していたところ、本件処分によつて右利益を失つたのであるから、原告らは本件処分の取消しを求める原告適格を有する。

4 また、本件土地は、昭和四五年六月二七日の認可当時は、訴外会社の所有であり、前記のとおりの過程を経て原告らが取得したものであつて、原告らは処分の相手方に準ずべき当事者としての実質を有する。住造法には事業者の地位の承継の規定はないが、住造法による規制を引き継いだ都市計画法四五条には、開発許可に基づく地位の承継を認めており、このことは原告ら事業地譲受人の地位の当事者性、要保護性を示すものである。

5 被告は、本件事業除外地が、訴外会社の住宅地造成事業の施行地区から除外されたのは本件処分によるものではなく、訴外会社の昭和五二年一〇月一五日の被告に対する住造法一六条に基づく事業一部廃止の届出によるものであると主張する。しかしながら、住造法四条の事業の認可は、事業主の造成事業及び所有者の宅地としての利用に対する禁止を解除するだけでなく、事業主に対し、認可済の事業計画に従つた造成事業を施行する公的義務を負わせるものである。従つて、事業主が事業を全部廃止する場合には、事業主に事業遂行の意思がない以上、右の公的義務は私法上の義務と異なり履行を強制できるものではないから、住造法は例外的に簡易な方法である届出によつて右公法上の義務を消滅させているが、事業主が、事業の一部を廃止する場合は、事業遂行の意思を有する以上、住造法一〇条の変更認可を受けることにより、前の事業計画によるべき公的義務を解除し、変更後の事業計画に従つた公的義務を設定する必要があるのであり、右事業の一部廃止を事業主の届出にかからせるとすれば、そもそも厳格に事業計画を作成させ、その実現を期すことによつて良好な住宅地を供給しようとする法の基本的目的に反することになる。従つて、施行地区を縮小するについても住造法一〇条の認可を要するものである。

三  本件処分の違法性

被告の「本案についての抗弁」は争う。

1 訴外会社は、昭和五二年夏ごろから被告に対して、本件事業計画変更認可の可否について非公式に打診し、引き続き右変更認可を申請した。被告は、これに対して、訴外会社が企業再建、更生債権弁済のために原告らの他権利者が多数現存する区域を切り捨てて、事業利益の見込まれる社有地及び松坂有祐の親族所有の土地についてのみ宅地造成を強行することに対して強い難色を示し、訴外会社は本件事業除外地の造成についても責任を持つべきであるとの行政指導を一貫してきた。従つて、本件処分は、被告の従来の行政指導とは全く何の脈絡もなく、右指導内容に真つ向から矛盾する著しく不条理な措置であり、原告らが、事業施行の同意書を提出していることを考慮しなかつた点においても行政裁量権を誤用した違法な処分である。

2 また、本件処分は、本件事業除外地に原告ら多数の購入者の権利利益が託されている事実を無視し、石狩町ほかの更生債権者及び松坂有祐の親族らの利益だけを保護して造成を行わせる偏頗なものであり、条理によつて定まる客観的基準を無視した著しく不公平かつ妥当を欠く違法な処分である。

3 また、住造法一〇条の事業変更の認可をするには、同条二項、七条によつて変更認可の対象となる土地所有者の変更についての同意を要するが、本件処分は、原告ら土地所有者の同意なしに行われたものであるから、手続上も違法である。

四  結論

よつて、原告らは被告に対し、本件処分の取消しを求める。

〔請求原因に対する認否及び被告の主張〕

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の内、1の事実は不知、2の内、本件土地所在地が、昭和四五年七月二七日に市街化調整区域と決定されたことは認めるが、原告らが本件土地を買受けた当時第六工区の土地は整地作業が二〇ないし三〇%程度行われており、近く造成工事が再開される見通しで原告らと訴外会社が本件土地の造成事業施行を合意し、原告らが右事業施行の同意書を提出していたことは不知、その余は争う、3ないし5の主張は争う。

三  本案前の抗弁

原告らは、本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しない。

1 住造法一条は、同法の目的を「都市及びその周辺の地域において、相当規模の住宅地の造成に関する事業が行われる場合に、当該事業の施行について災害の防止及び環境の整備のため必要な規制を行い、あわせて、その適正な施行を促進するため」と規定しているものであり、その目的は、国民一般の公益すなわち公共の福祉の増進寄与であつて、そこでは個々人に具体的な良好な宅地を確保することを直接的に意図しているものではなく、知事が公共の福祉の増進という次元の高い観点から住宅地造成事業を許認可によつて規制したことの結果として、環境の整備された住宅地が国民一般に提供されるにすぎないのである。従つて、住造法は、事業施行地区内の土地所有者に良好な住宅地を確保させる法的利益を与えたものではないから、原告らは、本件処分の取消しを求める法的利益を有しない。

2 住造法は、良好な住宅地の造成の確保を目的として災害の防止及び環境の整備のため住宅地造成事業に対して必要な規制を行うため制定されたもので、そのため住宅地造成事業規制区域を指定し(同法三条)、右規制区域内で行う住宅地造成事業について事業主は、事業計画及び工事施行者を定めて都道府県知事の認可を受けなければならず(同法四条)、さらに事業主が事業計画又は工事施行者を変更しようとする場合には都道府県知事の認可を受けなければならない(同法一〇条)としている。従つて、住造法一〇条の認可は、事業主に対してなされた講学上の許可たる同法四条の認可の内容の変更を認めるにとどまるので、その結果事業計画又は工事施行者が変更されたとしても、認可の相手方以外の第三者に何らの効果を及ぼすものではないから、原告らは、本件処分により直接に自己の権利又は法律上の利益が侵害される関係にあるものではない。

3 原告らは、本件処分により原告ら所有地が訴外会社の住宅地造成事業の施行地区から除外されたため宅地化する利益を失つたから原告らは法律上の利益を有すると主張するが、原告ら所有地が、右施行地区から除外されたのは、本件処分によるものではなく、訴外会社による住造法一六条に基づく住宅地造成事業の一部廃止の届出によるものであるから、原告らに本件処分の取消しを求める法律上の利益はない。

4 原告らは、本件土地が本件処分により訴外会社の住宅地造成事業施行地区から除外されると、都市計画法上の市街化調整区域に転落すると主張するが、本件土地は、住造法廃止後の経過措置として都市計画法施行法七条により、市街化調整区域と決定された昭和四五年七月二七日以前に訴外会社が住造法四条の認可を受け工事に着手したことにより、都市計画法二九条の開発許可を要せずして住宅地造成事業を行うことができるとされているだけで、他の都市計画法上の規制は受けるのであり、かつ右経過措置は認可を受けた事業主が当該認可にかかる住宅地造成事業を遂行する限りにおいて属人的に適用されるものであり、事業主が事業を廃止したときには、事業主自体が経過措置として認められていた法的地位を放棄するものであるから、その時点で適法に開発行為を行い得た地位は消滅し、それ以後はもともとかぶつていた市街化調整区域の本来的規制が働くだけのことであつて事業を廃止した場所が同区域に転落するわけではない。従つて、原告らは、本件処分により何らかの法的利益を侵害されたということはできない。

四  本案についての抗弁

被告は、訴外会社の住宅地造成事業計画の変更の認可申請に対し、右事業計画変更の内容を審査した結果、変更後の計画は、住造法五条及び八条に定める設計基準にいずれも適合しており適当であると認めたので、本件処分をした。

五  請求原因三1ないし3の主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで原告適格について判断する。

1  住造法は、一条でこの法律は、人口の集中に伴う住宅用地の需要の著しい都市及びその周辺の地域において相当規模の住宅地の造成に関する事業が行われる場合に、当該事業の施行について災害の防止及び環境の整備のため必要な規制を行い、あわせて、その適正な施行を促進するため必要な事項について規定することにより、良好な住宅地の造成を確保し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とすると規定し、右目的を達成するため住宅地造成事業規制区域が指定され(三条)、右規制区域内において行われる住宅地造成事業については、事業主は、事業計画及び工事施行者を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない(四条)こと、右事業計画においては、施行地区、設計及び資金計画並びに公共施設の管理者及び公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項、さらに災害を防止し、及び環境の整備を図るため必要な事項を定めなければならない(五条)こと、四条の認可を申請しようとする者は、あらかじめ、事業計画に関係がある公共施設の管理者及び施行地区となるべき土地の区域内の土地又はその土地にある工作物につき当該住宅地造成事業の施行の妨げとなる権利を有する者の同意を得、かつ当該住宅地造成事業により設置される公共施設を管理することとなる者に協議しなければならない(七条)こと、事業主は、事業計画又は工事施行者を変更しようとする場合においては、都道府県知事の認可を受けなければならない(一〇条)こと、四条の認可を受けた住宅地造成事業を廃止した者は、遅滞なく、その旨を都道府県知事に届け出なければならない(一六条)ことが規定され、都道府県知事は本法に違反する行為に対して工事停止命令等違反を是正するため必要な措置を取つたり(一七条)、立入検査をしたり(一八条)、報告を求めたり、勧告をすることができ(一九条)、国及び地方公共団体は、良好な住宅地の造成を促進するため、四条の認可を受けた事業主に対し、必要な技術上の助言又は資金上その他の援助に努めるもの(二〇条)と規定している。そして、住造法の対象となる住宅地造成事業とは、住宅地造成事業に関する法律施行令一条によれば、原則として一ヘクタール以上の規模を有する一団の土地に関するものである。

2  以上の住造法の規定を総合すると、住造法は、相当規模の住宅地の造成に関する事業について災害の防止及び公共施設等の環境の整備を図り、さらに事業の適正な施行を促進するため資金の援助、農地の転用等必要な助成措置を講じることにより、民間業者による良好な住宅地の造成を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的としていると解される。そして住造法によれば、四条の認可を受けようとする事業主は、施行地区となるべき土地の区域内の土地等所有者等の同意を得ることを要し(七条)、同法一〇条一項の変更認可について右七条が準用されている(一〇条二項)が、右七条の趣旨は、施行地区となるべき土地の区域内の権利者の同意を得ておかなければ事業の円滑な施行を期しがたいから、右同意が認可ないし変更認可申請の要件とされているというにとどまるものであり、四条の認可について同意をした施行地区内の土地所有者に対し、その所有地が宅地化される利益を保護したものとはいえない。また、同法一〇条一項の変更認可において必要とされる同意も、変更された事業計画の施行地区となるべき土地の区域内の権利者の同意であるから、右事業計画の変更により施行地区から除外されることになる土地の所有者の同意は必要とされていないものであり、右一〇条二項は、右施行地区から除外されることになる土地所有者の法的利益を保護しようとしたものとはいえず、住造法の規定を子細に検討しても、他に四条の認可を受けた住宅地造成事業施行地区内に土地を所有する者について良好な住宅地を確保させる法的利益を与えた趣旨の規定や、事業主をして右所有地を造成させることを確保させようとする趣旨の規定を見出だすことはできない。右土地所有者が所有地の造成を受けるためには、事業主と私法上の契約をしなければならず、他方、事業主が事業の廃止をするには、都道府県知事の許可等を要せず、届出だけで足りる(一六条)のであるから、結局土地所有者が所有地を造成することができるかどうかは、専ら事業主との私法関係及び事業主の意思如何で決まることであるということができる。そうだとすれば、仮に、施行地区の縮少(一部廃止)が一六条の届出だけではまかなえず、住造法一〇条の事業計画の変更の認可の対象となり、かつ、原告ら主張のごとく原告ら所有の本件土地が本件処分により施行地区から除外されたとしても、原告らには右変更認可処分の取消しを求める法的利益があるということはできない。

3  原告らは、本件処分によつて原告ら所有地が都市計画法上の市街化調整区域に転落するから、原告らには訴の利益があると主張するところ、住造法は昭和四三年六月一四日に廃止されたが、都市計画法施行法七条によれば、住宅地造成事業規制区域として指定されている土地の区域における住宅地造成事業に関しては、当該土地につき、都市計画法七条一項の市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画が定められる(いわゆる線引きが行われる)までの間、又は右都市計画決定前に当該住宅地造成事業規制区域内において工事に着工した住宅地造成事業については右都市計画決定後も本法の適用があるところ、本件土地については、昭和四五年七月二七日に市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画が決定されている(この点は当事者間に争いがない。)から、仮に本件処分により本件土地が施行地区から除外されると、本件土地については住造法の適用がなくなり、都市計画法の市街化調整区域としての規制を受けることになるが、右規制は、都市計画の決定自体により生じたものであり、原告らが右決定にもかかわらず本件土地について宅地化の利益を有していたとすれば、それは右決定前に訴外会社が住造法の事業施行の認可を受けて工事に着手していたことによる反射的利益にすぎないものであるから、原告らは本件処分により直接に自己の権利又は法律上の利益が侵害されたとはいえず、原告らに本件処分の取消しを求める法律上の利益があるということはできない。

4  原告らは、本件土地はもと訴外会社の所有であつたところ、その後原告らがこれを取得したもので、原告らは事業者の地位を承継したものであるから処分の相手方に準ずべき当事者としての実質を有すると主張するところ、都市計画法では同法四五条により開発許可を受けた者から当該開発区域内の土地の所有権を取得したものは当該開発許可を受けた者が有していた当該開発許可に基づく地位を承継することができるとされているが、右承継には都道府県知事の承認を要するものであり、住造法では、右のような地位の承継については、同法一一条で、相続又は合併について認めているだけで、他にこれを認めた規定はないから、仮に原告らが事業主である訴外会社の土地を取得したとしても、それだけでは、原告らが本件処分の取消しを求める法律上の利益があるということはできない。

三  以上によれば、原告らは本件訴につき原告適格を有せず右訴は不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古川正孝 島田充子 富田善範)

当事者目録、別表〈省略〉

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