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札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)2821号 判決

原告 二宮幸恵

〈ほか二九名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 三津橋彬

右同 中村仁

右同 坂原正治

右同 佐藤哲之

右同 上野八郎

被告 丸紅株式会社

右代表者代表取締役 島谷清

〈ほか一名〉

右両名代理人弁護士 池田雄亮

右同 杉浦正健

右同 関康隆

右同 高橋秀夫

被告 安田信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 山口吉雄

右訴訟代理人弁護士 山根喬

右同 冨田茂博

右訴訟代理人弁護士山根喬訴訟復代理人弁護士 伊藤隆道

主文

一  原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告ら各自に対し、連帯して金三〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一一月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者の地位等

(一) 原告らは、被告丸紅株式会社(以下「被告丸紅」という。)との間で、原告らがそれぞれ被告丸紅から別紙物件目録一記載の建物(以下「本件マンション」という。)のうち同目録二記載の各居室(以下「本件各居室」という。)を買い受ける旨の各売買契約(以下「本件各売買契約」という。)を締結した。

(二) 被告丸紅は、本件マンションを建築し、本件各居室の売買を被告丸紅不動産株式会社(以下「被告丸紅不動産」という。)に委任した。

(三) 被告丸紅不動産は、被告丸紅の代理人として、被告安田信託銀行株式会社(以下「被告安田信託銀行」という。)は、被告丸紅不動産の復代理人として、いずれも本件各居室の売買を担当した。

2  損害の発生に至る経緯

(一) 原告らは、被告丸紅から、本件各居室を買い受け、昭和五五年三月ころから入居を始め、同年八月ころには全員が入居を終えた。

(二) 本件マンションの敷地は、昭和五一年ころ、訴外日軽開発株式会社(以下「日軽開発」という。)が購入した約一万坪の一部である。第二種住居専用地域に指定されていた。日軽開発は、右約一万坪の土地を宅地造成したうえ、マンション用地として、被告丸紅を含む数社に分譲した。

(三) 被告丸紅は、昭和五四年初めころ、日軽開発から本件マンションの敷地を購入取得した。同被告は、同年三月三〇日、札幌市に本件マンションの建築確認を申請し、同年六月、本件マンションの分譲を開始した。

(四) 訴外青木建設株式会社(以下「青木建設」という。)は、本件マンションの西側隣接地(以下「本件西側の空き地」という。)を購入取得した。同会社は、昭和五四年七月、札幌市に一〇階建マンションの建築確認を申請し、昭和五五年九月、原告らに対し、右マンションの建築着工を申し入れた。

(五) 原告らは、右(四)の事態が本件各売買契約時の約定と異なるため、対策委員会を結成して、被告丸紅に対し善処を求めたが、誠意ある回答を得ることができなかった。

(六) そこで、原告らは、直接、青木建設と交渉したが、同会社に対して設計を一部変更せしめたにとどまり、結局、右マンションは建築された。

(七) その結果、本件各居室は、従前に比し、その「日照」「通風」「眺望」が著しく阻害された。

その劣悪化は、本件各居室の位置によって差異があるが、その平均的状況は次のとおりである。

(1) 日照は、従前の三分の一以下に低下した。

例えば、昭和五八年二月二一日における原告武内惇の居室への日照時間は、午後一時三五分より同三時五分までの一時間三〇分で、しかも、居室の八分の一程度に日差しが入るに過ぎない。

(2) 眺望が全く不能になった。そればかりでなく、西側マンションの窓より原告ら居室内が見透かされる状態となったため、原告らは、昼間からカーテンをして、プライバシーを維持するのに神経を使う生活をせざるを得なくなった。

(3) 採光は、日照等の関係で十分でなく、昼間から室内が暗くなっている。

(4) 通風は、夏の期間が極度に悪くなった。

(5) 灯油・電気代共に約二〇パーセント増加した。

3  被告らの責任

(一) 債務不履行責任

(1) 保証特約違反

ア 被告らは、本件各売買契約締結にあたり、原告らに対し、本件各居室の「日照」「通風」「眺望」について、本件各売買契約交渉時において、現地モデルルーム(以下「本件モデルルーム」という。)が享受していた「日照」「通風」「眺望」を保証する旨約束した。

すなわち、被告らは、本件各居室の販売にあたって、新聞、広告、チラシ(新聞折込み)、パンフレット等に「日射し豊富な両面採光」「四季を通じて藻岩山を眺望できる」等の生活空間的環境の良好性を掲げ、本件各居室が「日照」「通風」「眺望」等において優れた物件であることを特別に強調し、顧客である原告らを誘引した。

また、本件モデルルームにおいて、被告丸紅不動産の担当職員らは、原告らに対し、本件各居室の「日照」「通風」「眺望」の素晴らしさを強調するとともに、原告らの「本件西側の空き地が将来どうなるのか。」との質問に対し「駐車場ができる。」とか、「建物が立つだろうが四、五階程度のものだ。」とか、「建物が建つにしても常識的なものです。」等と答え、当時本件モデルルームが享受していた「日照」「通風」「眺望」等が将来においても阻害されることはない旨説明し、原告らに対して本件各売買契約の締結を促した。被告安田信託銀行の担当職員らも、契約説明にあたり、被告丸紅不動産の担当職員らと同様の事実を告げて、本件各売買契約の締結を促した。

イ しかるに、原告らが本件各居室に入居して間もなく、本件西側の空き地に一〇階建マンションの新築工事が着工され、昭和五六年ころ、完成した。

その結果、原告らがそれまでに享受してきた「日照」「通風」「眺望」は著しく阻害された。

(2) 契約締結の準備段階における信義則上の責任

ア 信義誠実の原則は、現代においては、契約法関係を支配するだけにとどまらず、全ての私法関係を支配する理念とされている。したがって、契約当事者間に適用される信義則は、契約締結に導く準備行為と契約の締結とが有機的な関係を有する以上、右準備段階においても作用する。

そして、右準備段階において、契約当事者の一方が、相手方の意思決定に対し重要な意義を持つ事実について、信義則に反するような不正な申立てを行い、相手方を契約関係に入らしめ、相手方に損害を生じさせた場合、あるいは相手方の意思決定に対する原因となるような事実について、契約当事者の一方が、信義則及び公正な取引の要請上、調査解明、告知説明する義務を負うものとされる場合において、その者が故意または過失によりこれを怠り相手方を契約関係に入らしめ、相手方に損害を生じさせた場合は、これを賠償する責任がある。

イ 本件各売買契約にあたって、被告らは、少なくとも本件各居室につき「日射し豊富な両面採光」「四季を通じて藻岩山を眺望できる」等の生活空間的環境要素において優れている旨説明し、本件各居室を販売してきた。

そして、原告らは、地域的環境要素(交通の便、学校、病院、商店等生活の利便性)や物的要素(敷地及び床面積、間取り、構造、内装等)のみならず、特に本件各居室の生活空間的環境要素を重視し、まさに豊かな「日照」「眺望」等を得られるものとして本件各売買契約を締結したのである。

ウ 本件西側の空き地に将来高層建物が建築され、これによって本件各居室の「日照」「通風」「眺望」等の生活空間的環境要素が劣悪化するか否かは、本件各居室の買主たる原告らにとって最大の重要事項である。それゆえ、売主側である被告らは、本件西側空地に将来建築されうる建築物の本件マンションに対する影響について、これを厳密に調査し、その結果を買主である原告らに告知説明しなければならない信義則上の義務を負っていたものである。

エ しかるに、被告らは、本件各居室の分譲に先立ち、本件西側空地の高層建物建設計画を周知していながら、その建物による本件マンションに対する影響を調査せず、原告らに対し、右建設計画を告知説明しなかった。

その結果、原告らは多大の損害を被ったのであるから、被告らは原告らに対し、右損害を賠償すべき責任がある。

オ 被告らが、本件西側空地に一〇階建のマンションが建築されることを周知していたことは、次の事実から明らかである。

① 前記2記載の本件マンションの建築販売経緯

② 青木建設は、昭和五四年七月に札幌市に対し、建築確認を申請している。

③ 被告丸紅は、原告らと契約するに際し、契約書に次の条項を入れ、かつ物件説明書にも次のような条項をいれた。

契約書第二四条(近隣建物へ異議申出の禁止)の「乙は本物件が第二種住居専用地域内共同住宅適合地の一部に立地していることを予め了承し、将来隣接地に建築物が建築基準法で許可されたものである場合には、当該建物に対し何人にも何ら異議を申し出ない。」との条項。

物件説明書その他欄の「ファミール澄川が第二種住居専用地域内共同住宅適合地の一部に立地しているため、将来隣接地に建築物が建築されることにより、ファミール澄川の一部住戸が日影の影響を受ける場合がありますので予め承知置き下さい。(詳細につきましては、ファミール澄川モデルルーム内販売事務所に設置してあります日影関係図をご参照下さい。)」との条項。

右各条項は、まさに青木建設の建物(一〇階建)を意識してのものである。

(3) 被告ら三名が債務不履行責任を負う理由

被告らは、本件マンションの販資提携者として、その一流企業としての信用を利用して本件各居室を販売したのであるから、一体として債務不履行責任を負うものである。

(二) 不法行為責任

被告らは、本件西側の空き地の高層建築建設計画を周知していながら、原告らに対し前記のような物件説明を行い、原告らを誤信させ、本件各売買契約を締結させたのであるから、これは、故意に誘導取引をなしたものとして、原告らに対して不法行為責任を負うものである。

取引において一定の駆け引きはつきものであり、マンション等の売買においても一定の誇張的宣伝が違法性を欠く場合もある。しかし、本件マンションについて西側高層建築が建設された場合には、西側に面した各居室は「日照」「眺望」とも一変して劣悪な状態になるものであった。原告らとしては、当初より右のような事実を知っていれば、本件各居室を購入する意思は到底生じなかったものである。そして、被告らにとっても本件各居室の売却は困難になることは明らかであった。

右のような事情のもとで、被告らがなした「日照」「眺望」についての説明は、本件各居室を売却せんがために購入希望者に事実を説明しないばかりか、購入者に対し、良好な「日照」「眺望」が享受できると誤解を生ぜしめるもので、取引において通常許容される駆け引きの限度をはるかに越えるもので、悪質かつ違法な行為である。

原告らは、前記のような被告らの宣伝、説明を聞き、本件各居室が「日照」「眺望」において極めて良好なものであると信じ、よって、各々本件各居室の売買契約を締結したところ、前記2のとおり本件各居室の「日照」「通風」「眺望」は劣悪な状態となり、その結果、原告らは、本件各居室の価値低下、住環境の劣悪化による精神的肉体的不快感及び健康上の悪影響の増大等により甚大な損害を受けるに至った。

4  損害

(一) 本件各売買契約における売買価格は、本件各居室の生活空間的環境要素が契約当時も、また、将来においても「日射し豊富な両面採光」「四季を通じて藻岩山を眺望できる」等極めて良好であるものとして定められたものである。しかるに、本件マンションは、本件西側の空き地に高層マンションが近い将来建築されるものであったから、本来ならば、生活空間的環境要素劣悪化の危険を帯有する物件として評価されるべきであり、したがって、そうであれば右売買価格は当然に低減されるべきものであった。

したがって、原告らは、本件売買価格より右のごとく低減された価格の支払で足りるべきところ、被告らの債務不履行行為ないし不法行為により、そのことを考慮しない代金の支払を余儀なくされたものであり、このため原告らはその差額分の損害を被ったことになる。

(二) ところで、原告らと被告丸紅とは、本件各売買契約において、当事者のいずれかに債務不履行ある場合、いずれにおいても売買価格の二〇パーセント相当額を違約金として支払う旨の損害賠償特約を締結した。

しかるとき、原告らに生じた損害の内容は、右(一)のとおり責任原因の構成いかんにかかわらず同様であるから、右損害賠償額の予定は、契約締結の準備段階における信義則上の義務違反及び不法行為による場合にも準用ないし類推適用されるべきである。

(三) したがって、本件各売買契約における代金額に照らせば、その賠償額はいずれも原告各自にとってそれぞれ金三〇〇万円をくだらない。よって、原告らは、被告ら各自に対して、主位的には債務不履行に基づき、予備的には不法行為に基づき各々金三〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五七年一一月九日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告丸紅及び被告丸紅不動産の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、本件マンションの敷地は、日軽開発が購入し、宅地造成したものであること及び第二種住居専用地域に指定されたことは認める。

(三) 同(三)の事実のうち、被告丸紅は、日軽開発から本件マンションの敷地を購入したこと、昭和五四年六月、本件マンションの分譲を開始したことは認める。

(四) 同(四)の事実は知らない。

(五) 同(五)の事実のうち、対策委員会が善処方を求めたことは認め、その余は否認する。

(六) 同(六)の事実のうち、右マンションが建築されたことは認め、その余は知らない。

(七) 同(七)の事実は知らない。

3(一)  請求原因3(一)(1)アの事実のうち、被告らが本件各居室の販売にあたって新聞、広告、チラシ(新聞折込み)、パンフレット等に「日射し豊富な両面採光」「四季を通じて藻岩山を眺望できる」等の生活空間的環境の良好性を掲げ、本件各居室が「日照」「通風」「眺望」等において優れた物件であることを説明して、顧客である原告らを誘引したことは認める。ただし、「両面採光」は、パンフレットにより明らかなとおり、中央段階式を採用することにより他の段階設置方法とは異なり、両面より採光を得られる旨表示しているものであって、日照の確保とは関係のないことである。その余の事実は否認する。

(2) 請求原因3(一)(1)イの事実のうち、本件西側の空き地に一〇階建マンションが新築、完成されたことは認め、その余は否認する。

(三) 請求原因3(一)(2)イの事実のうち、前段は認める。後段については、原告らと被告丸紅との間で本件各売買契約を締結したことは認め、その余は知らない。

(四) 請求原因3(一)(2)ウは争う。

(五) 請求原因3(一)(2)エのうち、前段については、被告らが本件マンションの分譲に先立ち、本件西側の空き地の高層建物建築計画を周知していたことは否認し、その余は認め、後段は争う。

(六) 請求原因3(一)(2)オのうち、被告丸紅が、原告らと契約するに際し、契約書及び物件説明書に③記載の各条項を入れたことは認める。

(七) 請求原因3(一)(3)は争う。

4  請求原因3(二)のうち、被告丸紅と原告らが、本件各売買契約を締結したことは認めるが、被告らが本件西側の空き地の高層建物建設計画を周知していながら、その事実を秘匿して、本件各売買契約を勧誘したことは否認し、原告ら主張の被告らの不法行為責任は争う。

5(一)  請求原因4(一)は争う。

(二) 同(二)のうち、前段の事実は認める。ただし、同特約は、売買契約書第二七条の文言より明らかなとおり、解除された場合の損害賠償額を定めたものである。後段は争う。

(三) 同(三)は争う。

三  請求原因に対する被告安田信託銀行の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、本件マンションの敷地は、日軽開発が宅地造成したものの一部で、第二種住居専用地域に指定され、マンション用地として被告丸紅外数社に分譲されたものであることは認める。

(三) 同(三)の事実のうち、被告丸紅が、昭和五四年三月一三日、日軽開発から、本件マンションの敷地を取得し、同年三月三〇日、札幌市から本件マンションの建築確認を受け、同年六月から分譲を開始したことは認める。

(四) 同(四)の事実は知らない。

(五) 同(五)の事実は否認する。

(六) 同(六)の事実のうち、青木建設が一部設計変更して右マンションを建築したことは認め、その余は否認する。

(七) 同(七)の事実は知らない。

3(一)  請求原因3(一)(1)アの事実は否認する。本件モデルルームでの説明は被告丸紅不動産の担当であり、被告安田信託銀行は、一時、販売開始当初の繁忙時に応援をしたことがあるのみである。その際、「日照」「通風」「眺望」について、原告らが主張するように素晴らしさを強調した事実はない。

(二) 請求原因3(一)(1)イの事実のうち、本件西側の空き地に一〇階建マンションが新築、完成したことは認め、その余は否認する。

(三) 請求原因3(一)(2)イの事実は否認する。

(四) 請求原因3(一)(2)ウは争う。

(五) 請求原因3(一)(2)エのうち、前段については、被告安田信託銀行が本件マンションの分譲に先立ち、本件西側の空き地の高層建物建築計画を周知していたことは否認し、その余は認め、後段は争う。

(六) 請求原因3(一)(2)オのうち、被告丸紅が、原告らと契約するに際し、契約書及び物件説明書に③記載の各条項を入れたことは認める。

(七) 請求原因3(一)(3)は争う。

4  請求原因3(二)のうち、被告丸紅と原告らが、本件各売買契約を締結したことは認めるが、被告安田信託銀行が本件西側の空き地の高層建物建設計画を周知していながら、その事実を秘匿して、本件各売買契約を勧誘したことは否認し、原告ら主張の被告らの不法行為責任は争う。

5(一)  請求原因4(一)は争う。

(二) 同(二)のうち、前段の事実は認め、後段は争う。

(三) 同(三)は争う。

四  抗弁

原告らが、高層マンション「モンテベルデ澄川」が建築されたため、原告ら主張のような日照等に影響を受けたとしても、それは、いわゆる受忍限度内の被害であり本訴請求は、次の事情により、権利濫用の主張であると言わざるを得ない。

1  すなわち、本件マンションの敷地を含め、この地域はマンション団地であったこと、本件マンションの西側隣接地が空地であって、原告らの大半は、本件各売買契約締結当時、川上土地の「高層マンション建設予定地」という看板を見ていることなどからして、本件西側の空き地にマンションが建築されることを、原告らにおいて予測可能であった。

2  これに対して、被告らは、種々の調査は行った。その調査の結果に基づき、本件西側の空き地にどのような建物が建つか分からないこと、ないしはその他調査の結果判明したことは被告らの担当社員において原告らに正確に答えている。

3  さらに、本件で問題となっている日影図についても、原告らが、十分知り得る場所に掲示されており、本件西側の空き地方面からの日影については、被告ら自身の調査の結果不明であったため、右日影図に記載していなかったに過ぎず、被告らにおいて、故意に記載していなかったという事実はない。

4  そもそも、原告らが、本件各居室を購入するに至った動機は、①駅に近いこと、②坪単価が低いこと、③両面採光方式をとっていること、④当時少なかった4LDKで家族向けであること、⑤総額の値段が安く、ローンの設定が容易であること等の利点を考慮したためである。原告らは、将来本件西側の空き地に高層マンションが建つかもしれないという多少の不安を感じていたかもしれないが、原告らにおいて、それを十分納得したうえで、右利点に惹かれて本件各居室を購入したものである。

5  本件マンションと「モンテベルデ澄川」の各敷地には相当の段差があり、その間には道路もあって、一応の採光が確保されている。また、本件西側の空き地に「モンテベルデ澄川」が建ったとはいえ、原告らの各居室の「日照」は、冬の厳寒期にも相当期間確保されている。「採光」の点も、前記のとおり両面採光が確保されている外、「モンテベルデ澄川」の外壁の反射光でカーテンをしなければならないほどであり、居住生活にとって十分な採光がとられているものである。

6  そして、当今の日本の土地事情及びマンション事情等を考慮すると、「モンテベルデ澄川」建築後の現在の本件各居室の日照等の影響については、原告らにおいて受忍すべき限度内と言わざるを得ない。

7  そもそも、原告らの日照権等が侵害されたとする主張は、「モンテベルデ澄川」を建設した青木建設に対して向けられるべきものである。ところで、原告らは、日照権確保のため、青木建設との数回にわたる交渉で、数度の設計変更をなさしめた外、既に同社と和解が成立し、和解金を受領しているのであるから、原告らの被告に対する本訴請求は筋違いである。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(一)の事実、本件マンションの敷地は日軽開発が購入して宅地造成したものであり、第二種住居専用地域に指定されていたこと、被告丸紅は、日軽開発から本件マンションの敷地を購入し、昭和五四年六月に本件マンションの分譲を始めたこと、請求原因2(五)記載の対策委員会が被告丸紅に対し、善処を求めたこと及び青木建設が同2(六)記載のマンションを建設したことは当事者間に争いがない。右争いがない事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。この認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件マンションの敷地は、日軽開発が昭和五一年ごろ所有権を取得し、マンション用地として造成した別紙図面のマンション敷地①ないし⑨の土地のうち、⑦に該当する土地である。

2  被告丸紅は、昭和五四年初め、日軽開発から、本件マンション敷地を買い受けた。被告丸紅は、当初、別紙図面②及び③の土地の購入を希望していたが、被告丸紅が条件のよい土地を独占することになるということから、②の土地の購入を断念し、別紙図面③及び⑦の土地を購入することになった。別紙図面②、⑤及び⑥の土地は、野村不動産が購入した。なお、被告丸紅は、別紙図面⑧及び⑨の土地の購入も検討したが、マンション用地のうち一番低い底地で、地下鉄がすぐ横を通ることから、右土地の購入は避けた。

3  被告丸紅は、昭和五四年二月二三日、本件マンションの建築確認を申請した。同年三月三〇日、建築確認を受け、本件マンションの建築に取り掛かった。同じころ、野村不動産がコーポ野村澄川第一の建設を始めた。

被告丸紅と野村不動産とは、お互いにマンションを建築することから、将来隣接地にマンションが建設されても異議を述べないとの条項を契約書に入れる旨協定をした。

4  本件マンションの売買契約書には、野村不動産との協定に従い、二四条に近隣建物へ異議申出の禁止として、「乙(買い主を意味する。)は本物件が第2種住居専用地域内協同住宅適合地の一部に立地していることを予め了承し、将来隣接地に建築物が建築基準法で許可されたものである場合には、当該建物に対し何人にも何ら異議を申し出ない。」との条項が記載されてある。さらに、第二種住居専用地域にあることも考慮して、物件説明書にも、「ファーミール澄川が第2種住居専用地域内共同適合地の一部に立地しているため、将来隣接隣地に建築物が建築されることにより、ファーミール澄川の一部住戸が日影の影響を受ける場合がありますので予めご承知置き下さい。(詳細につきましては、ファーミール澄川モデルルーム内販売事務所に設置してあります日影関係図をご参照下さい。)」と記載された(売買契約書及び物件説明書に右のような記載のあることは、当事者間に争いがない。)。

売買契約書及び物件説明書には、他に日照・通風・眺望に触れた条項はない。

5  本件マンションのモデルルームや各被告会社の窓口などで本件マンションのパンフレットが客に渡された。

右パンフレットには「全戸住宅金融公庫融資付」「いま、住まいは豊かさの時へ。注目のこの地に、コミュニティゾーン誕生!」「忘れかけていた心の潤いが還ってくる。大きな間取りのニューライフ・スペース。」「カレンダーは藻岩山の四季の移ろい。生き生きとした暮らしを創る充実の環境。」「平岸通りから一歩入った閑静な高台に……ゆとりと明るさの、4LDK中心のマンションです。」「地下鉄・澄川駅へ歩いて3分。大通へもわずか12分のらくらく通勤圏。」と題され、自然環境や生活環境がすぐれていること、間取りや生活設備に配慮していること、地下鉄澄川駅に近く通勤・通学に便利であることなどがうたってあった。そして、地下鉄澄川駅や澄川商店街の写真とともに現地から藻岩山を望んだ写真が掲載されていた(パンフレットに生活空間的環境の良好性を掲げたことは、当事者間に争いがない。)

6  昭和五四年六月、本件マンションのモデルルームができ、被告丸紅不動産の嘱託の女子従業員二名が常勤した。六月の売り出し期間中は、被告丸紅、被告丸紅不動産及び被告安田信託銀行の従業員も出勤した。七月以降は、土曜日及び日曜日に応援の被告丸紅の従業員らが出勤した。

7  本件モデルルームを訪れるお客は、主に、本件マンションの設備・間取り、あるいは売買価格(売買代金は一五〇〇万円前後のものが多かった。)・住宅金融公庫に対する返済額などを質問していた。本件西側の空き地(別紙図面⑧及び⑨部分)に何が建つかを質問する人もいた。これに対して、各被告会社の従業員らは、ほぼ、何が建つか分らない、建つとしても建築基準法に適合した常識的な建物である旨答えていた。買い主のなかには、本件マンションから見た藻岩山の眺め等本件マンションの環境を気にいった人も多かった。

8  原告や原告の家族が本件マンション購入のため現地を訪れた際の各被告会社の従業員らの対応は、おおよそ次のとおりであった。

(一)  関根博子は、昭和五四年六月一七日、新聞広告を見て夫原告関根忠三とともに、本件モデルルームを訪ねた。同人らは、被告丸紅不動産の男子従業員に対し、本件西側の空き地について、「何が建つのですか。」と質問したところ「よく分からないが、建っても五、六階しか建ちませんよ。」との答えであった。同人らは、同月二四日にも、本件モデルルームを訪問した。被告丸紅不動産及び被告安田信託銀行の男子従業員にも同様の質問をしたが「建っても常識的なものです。」との答えであった。関根博子は、土地が階段状になっていることから、五、六階建程度の建物が建っても本件マンションに影響がないと判断した。

(二)  原告浜田進の妻浜田悦子は、昭和五四年六月ころ、本件モデルルームにおいて、本件の西側の空き地について尋ねた。「四、五階の建物が建つ予定で、そんなに高いものは建たない。」との答えであった。

(三)  原告綛谷寿雄の妻綛谷美智子は、昭和五四年七月ころ、本件モデルルームを訪ね、本件西側の空き地について質問した。「駐車場にはしないでしょう。建物は建つと思いますけれど、そんなにすぐは建ちません。ごく常識的なものが建つんじゃないでしょうか。」との回答であった。綛谷美智子は、本件マンションと同程度のものが建つと理解した。

(四)  原告武内惇は、昭和五四年一〇月から一一月にかけて、本件モデルルームを三回ほど訪問し、本件西側の空き地についても尋ねている。「駐車場ができるようです。」「東側から階段式に建物が建っているから、おそらく建物が建つとしても日照・眺望を妨げるようなことはないでしょう。」との回答があった。

(五)  安東晧子は、昭和五四年一一月一四日、新聞の折り込み広告を見て夫原告安東紘光とともに、本件モデルルームを訪れた。その際、女性従業員に対して、本件西側の空き地について聞いた。「この造成地は階段状になっており、上からコープ野村の七階、ファミールの五階となってきていますから、まず常識的な高さしか建ちません。今のところ、いつ建設されるか分りません。」との答えであった。

(六)  原告長田谷諭は、昭和五五年二月二四日、新聞広告を見て第二ファミール澄川のモデルルームを尋ねた。高層マンション建設予定地との立て看板が見えたので、モデルルームにいた女子従業員に対し「本件西側の空き地にどのようなものが建つのか。」と質問した。これに対し、建設時期・建設規模については分らない旨の答えがあった。原告長田谷は、東側に八階建のマンションがあり、西側には常識的に高い建物は建たない、建っても五、六階程度の建物であろうと考えた。

(七)  伊原英子は、昭和五五年三月二日夫である原告伊原豊と一緒に第二ファミール澄川のモデルルームを訪問した。女性従業員に対し、本件西側の空き地について尋ねた。「何かそれ相応のものが建つでしょう。」との答えであった。

(八)  原告雫石雅信は、昭和五五年三月一〇日ころ、本件マンションを訪ねた際、女性従業員に本件西側の空き地について説明を求めた。「一般的な建物か、駐車場ができるのではないですか。」との説明であった。

9  本件西側の空地は、昭和五四年六月一九日ごろ、川上土地建物株式会社(以下「川上土地」という。)が日軽開発から買い受け、同年七月三一日、その旨の所有権移転登記が経由された。なお、右土地には、昭和五五年五月二一日、株式会社高匠建設設計事務所を債権者とする仮差押登記が経由され、昭和五五年七月二三日、右仮差押登記が抹消されている。

10(一)  昭和五四年八月二六日ころ、本件西側の空き地に「高層マンション建設予定地・川上土地建物店舗募集中」との立て看板がたった(なお、立て看板がたつ前ころから、本件西側の空き地に一一階建のマンションが建つ、とのうわさが現地に伝わってきた。これを聞いた本件モデルルームに駐在していた被告丸紅不動産の嘱託加藤加代子は、本件西側の空き地について質問を受けると、右うわさがある旨教えていた。)。

(二)  被告丸紅不動産札幌支店の営業課主任五十嵐増太郎は、本件モデルルームの女子従業員から、前記立て看板がたった旨の連絡を受けたことから、被告丸紅札幌支店の開発建設課の田中康裕に調査を依頼した。

(三)  田中は、川上土地の札幌所長西田に電話し、本件西側の空き地の利用計画を尋ねた。西田は、「今のところ、どんな建物を建てるか、はっきりした計画がたっていない。それが明確になった時点で改めて挨拶にうかがう。」旨答えた。

(四)  田中は、川上土地という会社を聞いたことがなかったので、東京に照会してみたところ「マンション業者としてはその名を聞いたことがないが、多分、地上げ屋であろう。」との情報を得た。

(五)  田中は、右調査結果を五十嵐に伝えたが、それ以上の調査はしなかった。

11  原告らは、遅い者でも昭和五五年三月までに、本件各居室をそれぞれ買い受け、同年八月までに入居を終えた(昭和五五年三月の段階では、本件マンションのうち、一階と五階の一部の居室だけが売れ残っていた。昭和五五年七月、本件マンションの居室全部が売れた。)。

12(一)  青木建設は、昭和五五年七月一〇日、本件西側の空き地に一〇階建のマンションを建築する旨の建築確認を申請し、同年八月一九日、建築確認を受けた。

(二)  被告丸紅の田中は、昭和五五年八月、青木建設の者を伴った川上土地の西田所長の訪問を受け、本件西側の空き地に一〇階建のマンションを建設する旨を伝えられた。

13(一)  青木建設は、昭和五五年九月に入ると、本件マンションの居住者に対し、一〇階建のマンション・モンテベルデ澄川を本件西側の空き地に建設する旨の説明会を開催した。

(二)  原告を含む本件マンションの居住者は、日照・眺望などが阻害されるとして、青木建設と交渉した。

(三)  青木建設は、設計の一部変更に同意した。さらに、原告らは、昭和五六年二月一九日、青木建設との間で、青木建設が三〇〇万円を原告らに支払うことで、マンション建設に異議を述べない旨合意した。

14  モンテベルデ澄川は、昭和五六年一一月、完成し、その建物によって。本件マンションからの藻岩山の眺望は完全に失われ、本件各居室の日照時間も短くなった。

三  請求原因3(一)(1)(保証特約違反)について

原告らは、被告らが本件各売買契約締結にあたり、原告らに対し、本件各居室について、本件モデルルームが享受していた日照、通風、眺望を保証したと主張する。

しかしながら、以上で認定のパンフレットの記載及び各被告会社の従業員らの原告らに対する対応等をもってしては、被告らが本件モデルルームが享受していた日照・通風・眺望を保証する旨の契約が成立したと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

したがって、保証特約違反に基づく原告らの損害賠償請求は理由がない。

四  請求原因3(一)(2)(信義則違反)について

前記一及び二で認定した①本件各売買契約の当事者及び売り主の代理人らの不動産取引に関する知識・経験、売買目的物件、売買代金額、②本件各売買契約当時の本件マンションの敷地及びその周辺の環境、本件マンションのパンフレットの記載、③本件マンションからの眺望等本件マンションの自然環境が買い主側の本件各売買契約締結を決意する要素の一つになっていたと認められること、他方、④本件西側の空き地は、マンション用地として造成されたもので、将来マンションが建設されるであろうこと自体は原告ら買い主にも認識可能であったと推認されること、⑤本件西側の空き地は、川上土地がその所有権を取得したもので、右土地をどのように利用するかは、原則として所有権者の自由であり、第三者である被告会社らが関与・介入できるものではないと認められることなどの事実関係を前提にすると、本件各売買契約の売り主は、信義則上、本件西側の空き地に本件マンションの日照・眺望・通風に影響を与えるおそれのある高層マンションが建設されることを知っていた場合、あるいは、簡単な調査により右のような高層マンションが建設されることを容易に知りえた場合(すなわち、明らかな認識可能性がある場合)には、これを調査・説明する本件各売買契約上の附随的義務があり、右義務を怠ったことによって、買い主に対して損害を生じさせたときは、その損害を賠償する債務不履行の責任を負うと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記二で認定した本件マンションの建築・販売の経緯、契約書の条項及び物件説明書の作成経緯(契約書二四条の条項等は、直接には野村不動産との協定に基づき記載されることになったもので、青木建設が本件西側の空き地に高層マンションを建設することを知ってあらかじめこれに備えたものと認めることはできない。)、青木建設が建築確認を申請した年月日に照らせば、被告らが本件西側の空き地に本件マンションの日照・眺望・通風に影響を与えるおそれのある高層マンションが建設されることをあらかじめ知って本件各居室を原告らに売り渡したと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。また、前記認定のとおり、昭和五四年八月末ころに本件西側の空き地に高層マンション建設予定地との立て看板がたち、そのころ一一階建のマンションが建つとのうわさがあったとの事実が認められるが、立て看板がたったとの報告を受けた被告丸紅の田中は、川上土地の札幌所長に電話し、本件西側の空き地の利用計画を尋ね、はっきりした計画はたっていない、明確になったら改めて知らせる旨の回答を得ているのであるから、被告らとしては必要な調査を行っていると認められ、その後、遅くとも昭和五五年三月までに、本件西側の空き地に本件マンションの日照・眺望・通風に影響を与えるおそれのある高層マンションが建設されると決まったことを容易に知りえたとの事情を認めるに足る的確な証拠はない。

したがって、信義則違反による債務不履行を原因とする損害賠償請求も、理由がない。

五  請求原因3二(不法行為責任)について

被告らが、本件西側の空き地に高層建築建設計画のあることを周知のうえ、原告らを誤信させて、本件各売買契約を締結させたとの事実が認められないことは、前記四で説示のとおりである。他に、被告らの本件各売買契約締結の際の宣伝・説明に通常許容される範囲を超えた違法性があるとまで認めるに足る証拠はない。

したがって、不法行為を原因とする損害賠償も理由がない。

六  よって、原告らの被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも失当であるから、これらを棄却し、訴訟費用について、民訴法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畑瀬信行 裁判官 小林正明 大野正男)

〈以下省略〉

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