大判例

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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和33年(わ)252号 判決

被告人 高橋清一こと先崎秀雄

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中百五十日を右の本刑に算入する。

強姦の点につき被告人を無罪とする。

理由

(罪となるべき事実・証拠の標目・法令の適用)〈省略〉

本件公訴事実中、「被告人は昭和三十年八月十八日午後十時頃青森県三本木市大字三本木字瀬戸山七十六番地の自宅においてA(当時四十三歳)と対談中、劣情を催し強いて同女を姦淫しようとして同女の手を掴んで蒲団の上に引よせ仰向けに押倒してその上に乗りかかり同女の反抗を抑圧して同女の陰部に自己の陰茎を没入させ以て同女を強姦したものである」との事実について被告人は終始和姦であつて強姦ではない旨を主張している。よつてこの点について審按するに、当裁判所が右について取調べた各証拠(一、Aの昭和三十年九月三十日付告訴状。二、三本木警察署司法警察員巡査三浦久男の昭和三十年九月十四日付実況見分調書。三、Bの青森地方検察庁八戸支部検察官検事武内光治に対する昭和三十三年十月二十七日付供述調書。四、押収の詫状一通(昭和三十三年領第五十五号の一)。五、証人三浦久男、同中島ウメ、同A、同Bの各尋問調書。六、被告人の昭和三十三年十月十一日付および同年十二月三日付検察官に対する各供述調書。七、被告人の当公判廷での供述。)を総合考察すると、被告人が昭和三十年八月初旬頃以来青森県十和田市字三本木町(当時三本木市)において土工夫として稼働中、同市同町字千歳森(当時元村)十三番地に居住して農家の手伝をしたり祈祷をしたり等していたA(当時四十三歳、大正二年九月四日生)と、偶然知合い、同女が平素信仰していた稲荷社の前に架けられていた橋が損壊しているのを修理したいと熱望していたところから、被告人がその橋の修築工事を請負うこととなり、同年同月中旬頃右の橋梁修理工事の費用の一部として金三千円を右のAから受取り更にその後右工事の打合せ等のため同月十八日乃至二十一日頃右同女方に被告人が赴き、同女方において同女と飲酒した上、両名連れ立つて同市三本木町字下平二十一号の三番地飲食店赤周食堂こと中島ウメ方に至り同店にて更に飲酒し夕刻右店舗を両名共立出で当時被告人の居住していた同市大字三本木字瀬戸山七十六番地の住居に来り、同所において被告人は右のAと情交関係をしたことを認定することが出来る。

しかして本件各証拠によつて、右の両名の情交関係のなされた際の情況を検討すると、当日両名は正午過頃からA方で焼酎約四合を飲み、被告人がまだ飲み足りないからAの顔見知りの飲食店え案内してもつと飲ましてくれと要求したのでAは被告人を前記赤周食堂に案内してやり同店において日本酒を一合入りコップで七杯乃至九杯位飲み、その際、Aは被告人と同道して被告人方に赴むくこととし、それから両名連れ立ち同食堂を立ち出でそこより約千五百米内外にある当時の被告人の住居に徒歩にて赴むいたものであり、被告人は当時前記住居に単身居住しており、該住居は堀立小屋を改造した約二坪程度の物置位のもので街路に面し隣家に接着して建られたもので表側は道路に面し入口および硝子戸三枚を入れた窓をしつらえたもので当時両名が内部に這入つた際も表戸には何等施錠もせず対坐して対談したこと、被告人は格別暴行乃至脅迫的言動をなさず、Aにおいても被告人の行動に対し強いて拒否的行動に出でず情交がなされたことはAも亦承認する処である、しかして被害者Aにおいて右の場合強いて拒否的行動に出ずるか乃至は同所を脱出せんとすれば容易に屋外に脱出し又は近隣の救助を求め得たのではないかと考えられる如き環境であり、かつまた同女は従前から現在まで所謂二号(妾)としての生活体験を有し、B(当時六十二歳位)の世に言う囲い者的生活をなしをり、Bとの間に子女計三名をも儲けており、現在も尚その関係は継続せられており当時も右のBは同女の許にしばしば来泊していたもので、右のAは当時も右のBより些少の仕送りを受けその庇護のもとにあつたものである。しかして、被告人とAとが本件情交を遂げた後、Aは被告人の右の居宅を出でて帰宅し、翌日頃被告人はA方に同女を尋ね行き前記稲荷社前の橋の修築工事費用として更に七千円程必要であるから提供されたいと言い同女は現金の持合せがないからというので同女の所有していた米穀約二斗を被告人に供与し更に被告人を同道して知り合の家から米穀約四斗を借用し、これらの米穀を他に転売して被告人の右の要求に応じている、これは同女が前記橋梁工事の修築方を焦慮していたことによるものであることを物語るにすぎないものではあるが、同女が被告人との本件情交関係を真に拒否する意図があつたものであるならば、該情交の直後以来被告人の該情交を非難するか又は爾後の行動について、おのずから別個の方途が取られ得たのではあるまいか、この点、同女の行動は極めて不可解であり、その後更に日時を経過し同年九月一日Bに這般の事情を打明けざるを得ない立場に陥り、右の情交は被告人の強姦なりとしてBの面前にて被告人よりB宛の詫状(昭和三十三年領第五十五号の一)ならびにA宛の金員借用証を作成させるに至つた経緯を見ると本件情交を検察官主張の如き強姦と解することは事案の性質上至難である。しかも証人Aの尋問調書および本件告訴状の各記載内容中右認定に反する部分はその余の各証拠と対比検討するに、たやすく措信し難いものと断ぜざるを得ない。

それ故、本件強姦の点は犯罪の証明無きものとして刑事訴訟法第三百三十六条によつて被告人は無罪とする。

以上によつて主文のように判決をする。

(裁判官 畔柳桑太郎 藤本孝夫 小川昭二郎)

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