大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

札幌高等裁判所 平成9年(ネ)73号 判決

《住所略》

控訴人

片山一歩

札幌市白石区本通19丁目南6番8号

被控訴人

株式会社つうけん

右代表者代表取締役

久保田俊昭

右訴訟代理人弁護士

山根喬

丸尾正美

主文

一1  原判決のうち原判決別紙決議目録記載六のうち「採決の方法に関する動議」を承認しない旨の決議及び同目録記載七の決議に関する部分を取り消す。

2  右部分につき、控訴人の本件訴えを却下する。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の平成8年6月27日開催の第50回定時株主総会(以下「本件総会」という。)における、原判決別紙決議目録記載の各決議(以下「本件各決議」という。)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

控訴人の当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

一  争点1について

控訴人が本件総会において同調者や賛同者を得るための勧誘権を有することを前提に、株主名簿取得の緊急性や地理的な事情等を考慮すると、控訴人の謄本交付請求は認められるべきである。また、商法263条2項の謄写請求権と控訴人の主張する謄本交付請求権とは何ら違いはなく、区別する必要もない。商法が謄写と謄本の交付を区別しているとしても、本件のように議案提案株主の謄本交付請求についてはこれを認めるべきである。

二  争点2について

被控訴人は、返送された議決権行使書の記載に不備があった場合、時間的に間に合うものについては再送付していると主張するが、不備の概念が不明確であり、被控訴人は、有効か無効かを判断することができるだけで、不備かどうかを判断することはできない。また、被控訴人は、株主が誤って記入したと思われるため、訂正するかどうかを確認したと主張するが、被控訴人は何が正しい記入かを判断すべきでないのに、これを判断するのは、議決権行使に対する介入である。

三  争点3について

被控訴人は、取締役会提案ないし取締役提案と記載すべきところ、会社提案と記載しており、右記載は不正確なだけでなく、違法である。

四  争点4について

参考書類規則7条の「各議案について」の次に句読点はないから、議案ごとに賛否について異なる取扱いをする旨注意書きをすることは違法である。

五  争点5について

被控訴人は、定款で株主総会で権利行使をできる株主は基準日において株主名簿に記載されている株主である旨定めている以上、基準日以降に株式分割によって株主になった者だけに議決権を与えることは、株主平等の原則に反する。また、配当金を得る権利のない新株の株主を利益処分案の採決に参加させるのは間違いである。

六  争点6について

1 審議終了動議の対処について

被控訴人の元常務取締役である株主の発言は、その内容及び発言時の状況に照らし、審議打切を意味するものではない。控訴人は、事前質問書に従って順序立てて質問している途中に、これを打ち切られたものであり、控訴人が原判決認定のように独占的に発言していたものでない。

2 審議拒否について

審議が必要であるかどうかは、多数決になじむものではなく、株主に質問の機会を与えなければならず、議案が可決されたからといって、審議拒否の違法が治癒されることはない。

3 提案株主の議案等説明権の侵害について

控訴人は、議案を提案した株主として提案理由を説明する権利を有するが、説明の機会を与えられなかった。控訴人の質問や関連発言中には、提案理由の説明といえる部分はない。

4 議長の議事整理権限の放棄について

第1号議案、第2号議案及び第5号議案の審議終了動議が可決されていても、第3号議案及び第4号議案が上程されず、審議されていない状況では、控訴人が挙手して発言を求めた内容がいかなるものか判断できないはずであるのに、議長はこれを無視した。

七  争点7について

採決の結果が明らかであるから、審議することは不要であるとはいえない。審議することが必要である以上、議案の可否がはっきりしていても、議長には説明する義務がある。

八  争点8について

1 本件総会の第1号議案の有効性に関する質問について

原審で主張したとおりである。

2 本件総会の各議案に関する質問とその説明拒否について

(一) 現在の現金預金残高に関する質問について

本件総会は、被控訴人の本店で開催されているのであるから、総会当日の現金預金残高は、経理に調べさせれば容易に判明することであり、原判決がそれを答えるのは容易ではないとしているのは、誤りである。控訴人は、総会開催当日の現金預金残高の数字が難しいならば、大体のところでいいですからと再度質問したのに、被控訴人は、これについても答えていない。

(二) 見込利益率に関する質問について

将来に見込み利益率を明らかにすることが、株主共同の利益を害することがあるとしても、控訴人が質問したのは、過去の工事のそれであるから、何ら株主共同の利益を害するものではない。被控訴人は、何ら具体的な利益阻害事由を示さずに説明を拒否したものであり、正当な拒否といえない。

(三) 預金先・預金利率に関する質問について

右の質問により、取引先との信頼関係が損なわれることは起こりえない。

九  争点9について

1 採決の方法に関する瑕疵について

議長は、控訴人の記名投票方式の提案を動議として扱ったが、採決の方法を採決によって決めることはできない。会議体の原則として、出席者から記名投票の要求があったときは、これに準じる方法以外の採決方法を採ることはできない(衆議院規則152条参照)。

2 第1号ないし第4号議案について

原判決は、右各議案に異議を唱えた株主はいないと説示するが、控訴人は異議を唱えた。また、発声による採決方法は、出席者において採決の結果を確認しうべき方法ではない。

3 第5号議案について

挙手による採決方法も出席者において採決の結果を確認しうべき方法ではない。なお、協和エクシオと日本コムシスの議決権行使に関する職務代行者はあくまでも代行者であって代理人ではないから、総会の場において議決権行使について翻意することができない。

第三  証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  原判決別紙決議目録記載六のうち「採決の方法に関する動議」に関する部分及び同目録記載七に関する部分について

証拠(甲9)によれば、原判決別紙決議目録記載六の決議のうち「採決の方法に関する動議」を承認しない旨の決議及び同目録記載七の決議は、本件総会における採決の方法及び審議の打切に関する決議(以下「採決方法等の決議」ともいう。)であることが認められるところ、本件総会が終了した現在においては、右の各決議自体が現在の株主の権利義務に直接影響を及ぼすものではないし、また、仮に右各決議を取り消したとしても、これによって当然に、採決方法等の決議が有効であることを前提としてされた他の議案の決議の効力に影響を及ぼす性質のものではない。更に、他の議案の決議の効力を判断するために採決方法等の決議の効力を判断する必要がある場合には、右各決議について取消しの判決が存在しないときでも、理由中において右各決議の効力を判断することができるというべきである。したがって、採決方法等の決議は、商法247条1項にいう「決議」には当たらないというべきであり、また、そうでないとしても、右各決議の取消しを求める訴えの利益はないというべきであるから、いずれにしても、本件訴えのうち右各決議に関する部分は、不適法である(ちなみに、後述するとおり、採決方法等の決議について、瑕疵があるものとは認められない。)。

二  第1ないし第5号議案について

当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求のうち第1ないし第5号議案に関する部分及び原判決別紙決議目録記載六の決議のうち「商法238条に基づく検査役選任の動議」に関する部分は、いずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は、控訴人の当審における主張に対する判断を次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」第三に説示のとおりである(ただし、原判決24頁10行目の「勧誘方法」を「勧誘権」に改め、同29頁3行目冒頭の「いて」の次の読点を削り、同48頁5行目の「結果、」の次に「控訴人のほか」を加える。なお、右に引用した部分のうち、採決方法等の決議に関する部分は、右各決議を前提としてされたその他の決議の効力を判断するための意味を有するものである。)から、これを引用する。

控訴人の当審における主張は、以下のとおり、いずれも採用することができない。

1  争点1について

控訴人の主張する勧誘権を前提に考えても、商法263条2項の謄写請求権と控訴人の主張する謄本交付請求権を同一であるということはできない。

2  争点2について

被控訴人は、株主の提出した議決権行使書の記載の「不備」又は「誤記入」の内容を主張しないが、株主から提出された議決権行使書の記載に形式的な不備又は誤記入があった場合、会社はこれを指摘することができると解されるところ、証拠(乙2)によれば、被控訴人が誤記入があるとして再送付した議決権行使書は、後日株主が訂正の上再提出していることが認められるから、被控訴人の右の指摘が株主の議決権行使に不当に介入したとまでいうことはできない。

3  争点3について

会社提案という記載を取締役の提案の趣旨で用いる用語例が一般に行われていて、右の記載が株主に対して誤った情報を与えるとか右用語自体により議案の賛否に影響を与えるとは考えられず、右の記載を違法とまでいうことはできない。

4  争点4について

参考書類規則7条の「各議案について」の次には読点が付されていないことは、控訴人が指摘するとおりであるが、これを考慮しても、すべての議案についての賛否を同様に取り扱うべきものとする根拠とはならない。

5  争点5について

基準日以後の株式分割による新株に議決権を与えることが、株主平等の原則に違反しないこと及び新株の株主を利益処分案の採決に参加させることが相当であることは、原判決の「第三 争点に対する判断」(以下「争点に対する判断」という。)五3に説示のとおりである。

6  争点6について

株主(柏葉弘)の発言内容、議長がこれを審議終了の動議と扱うことについて総会出席者に確認を得たこと、それまでの間の控訴人の発言内容とこれに対する応答等は、原判決の争点に対する判断六1に説示のとおりであり、これを左右するに足りる証拠はなく、右事実によれば、議長の議事運営、整理に違法があったとは認められない。

7  争点7について

控訴人が当審において主張する「審議」の対象は、必ずしも明確でないが、これが第5号議案の内容を指すものであれば、原判決の争点に対する判断六に説示したとおり、審議されたことが認められるし、また、これが第5号議案についての反対票の数を明らかにすること等を指すものであれば、これを明らかにするまでの必要がなかったことは、原判決の争点に対する判断七に説示しているとおりである。

8  争点8について

(一) 原判決の争点に対する判断八1に説示しているとおりである。

(二) 被控訴人が総会当日の現金預金の残高について回答しなかったことは、控訴人の質問の趣旨、時期、方法に照らして説明義務に違反するものということはできない。

(三) 利益見込率に関する原判決の争点に対する判断八2(二)の説示は、過去の工事の利益見込率についても妥当するので、被控訴人がその説明を拒否したことが説明義務に違反するものということはできない。

(四) 被控訴人が預金先・預金利率についての回答をしなかったことについても原判決の争点に対する判断八2(四)の説示のとおり正当な理由があると認められる。

9  争点9について

議長は、議案採決の方法について総会の全体的な意思を確認することができ、また、株主から議案の採決を記名式投票方式によるべきであるとの提案があった場合に、必ずこれを容れなければならないものでもない。5号議案についての挙手による採決が、採決に至るまでの状況に照らして出席株主において採決の結果を確認することのできる方法でなかったということもできない。証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の株主総会には代理人の出席が可能であるところ(定款13条)、協和エクシオと日本コムシスは、所定の委任状を提出して代理人を本件総会に出席させていたことが認められるから、右両社が議案の賛否について議決権行使書の記載と異なる内容の議決権を行使することは可能であり、第5号議案の採決について控訴人の主張する違法は認められない。

第五  結論

以上のとおり、原判決のうち、採決方法等の決議に関する部分は相当でないから、これを取り消した上、その訴えを却下し、その余の部分は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀨戸正義 裁判官 小野博道 裁判官 土屋靖之)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com