大判例

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札幌高等裁判所 昭和27年(う)596号 判決

控訴人 被告人 田中孝次郎

弁護人 工藤雄助

検察官 平塚子之一

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人工藤雄助の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点(法令の適用の誤)について。

弁護人は貸金業等の取締に関する法律において「業として行う」とは、営業として行うことであつて、営利を目的とすることが要件であると主張するのであるが、貸金業等の取締に関する法律第二条第一項にいわゆる「業として行う」とは反覆継続の意思をもつて同項所定の行為をするをいうものであつて、営利の目的を有すると否とを問わないものである。と解すべきであつて、被告人は原判示一覧表のとおり昭和二十五年四月一日頃より昭和二十六年十月四日頃までの間浜崎清松外四名に対し六回にわたり合計金九十八万円の貸付をなしたもので金銭の貸付を業としたものと認められるので、原判決には法令の解釈適用に誤はない。所論は「業として行う」とは営利の目的を有することが要件であるとの見解に立つて原判決を論難するものであつて論旨は採用し得ない。

同第二点(事実誤認)について。

原判決挙示の証拠によると浜崎清松外四名に対する各貸付金については、原判示事実(一覧表)のように各利息の定めのあることが認められるので、この点につき原判決には事実の誤認はない。論旨は理由がない。

同第三点(量刑不当)について。

本件記録及び原裁判所で取調べた証拠により認められる、本件犯行の動機、態様、回数、貸付金額其の他諸般の事情を綜合すると所論を考慮に容れても原判決が被告人を懲役四月及び罰金三万円に処し裁判確定の日から一年間右懲役刑の執行を猶予したのはその量刑が不当とは考えられないので、この点の論旨も理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 熊谷直之助 判事 成智寿朗 判事 臼井直道)

弁護人工藤雄助の控訴趣意

第一点法律の適用の誤

判決は貸金業等の取締に関する法律(以下単に本法と称する)の解釈を誤つた結果一般から大変親切だと思われる行為を本法違反として科罰したものである。その理由は、

(一)判決の主旨を要約すれば「業として行う」とは営利を目的としてなくとも繰返して貸金等をやれば本法違反になるということになる。此点に判決の誤の焦点があると思う。詞の通常の用法に従えば、「業として行う」というのは「営業として行う」ことで従て業又は営業の本質は営利を目的とすることは議論の余地がない。従つて業又は営業は営利と反覆の二つを要件とするのが普通だが、一度巨富を握れば二度、三度と繰反することがないことも営業たることを失わないから反覆は必ずしも絶対的要件ではないが営利は絶対的要件である。判決は通常の詞の用法に反して、反覆という相対的要件を唯一の要件だと考え営利という絶対的要件を全然閑却したため本法の適用を誤つたものである。本被告人は不況にあえぐ知人友人の懇望を白眼視するに忍びず、無利子の融資をしていたが偶一二の人に対し最高月利三分以下の貸金をしたことを摘発されて本法違反の罪に問われた。営利を目的にしたというためではなく、貸金を反覆したという理由である。本法は「業として行う」という詞を普通に使われている意味以外に使つていることをはつきり判るように規定しているだろうか。茲に法の精神如何が問題になる。

(二)法律の精神から云つても判決は誤である。

判決は本法「第一条の規定する法の精神に照らして洵に明らかである」と断定しているが断じて明かではない。第一条によれば本法の目的は金融の建全な発達に資するために「貸金業等の公正な運営を保障」し併せて「不正金融を防止」せんとするものである。営利を目的としない融資は「不正金融」と云はれないから営利を目的としない融資は「貸金業等の公正な運営」を妨碍するかを考えて見たい。成程営利を目的にしなくとも貸金業等の融通資金を欠乏させたり、インフレの原因になるような何十億という多額の金を貸出す者が出て来れば確に貸金業等の公正な運営は妨げられるに違ないが斯様な通常有りえないような営業無視の融資続出を怖れて本法が制定されたものとは考えられぬ。本法制定の際参議院大蔵委員長が制定の理由として次の様に云つている(参議院議事録第三十号六二二頁)。

「最近の金融逼迫に伴い高金利、悪質な貸金等が乱立し、預金貯金等の受入を為し銀行法等の違反行為が多数生じ、健全なる金融の発達を著しく阻害している現状でありますので、之等金融等を取締ることを目的として本案を提出したのであります」。右の説明が法の精神を具体的に表現しているものと考える。即ち法の狙いは高金利、悪質な貸金等営利を目的とする不健全な融資の取締であつて判決の云うように只繰返して貸金をする者を取統ろうとしたものではない。此観点から云えば昭和二六年三月三〇日の大阪高等裁判所の判決が法の精神に副うものと思う。「業として行う」ということを営利の目的如何に拘らず繰返すことに解釈すれば貸金業等の取締上大変便利であろう。然し取締上そう解釈しなければ取締の効果を充分挙げることが出来ないからとの理由から詞の通常の用例に反する解釈をしたり法の精神からそう解さなければならぬという立論には賛成できない。

以上の理由から判決が「業として行」つたからという判断の下に被告人を有罪にしたのは誤で、被告人は利益を目的として貸金をしたのでない換言すれば「業として行つ」たものでないから無罪であると信ずる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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