大判例

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札幌高等裁判所 昭和31年(ツ)10号 判決

上告人 横浜栄次郎

訴訟代理人 斎藤敏之

被上告人 上野勝利

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌地方裁判所に差し戻す。

理由

上告理由第一点について

原判決が、上告人が昭和二九年四月頃訴外渡部秀男から歯科医院建物の建築工事を請け負い、そのうち建具取付工事について、同年五月頃訴外橋本利男との間に、代金を一三万余円その支払時期を取付工事完成の時とする旨の下請負契約を締結し、その後追加工事もあつて結局代金は一四万余円となり、工事は同年一〇月頃完成したこと、右代金のうち一部は弁済されて残額六八、〇〇〇円が未払であつたところ、訴外橋本利男が、未払金債権を九四、五六五円として昭和三〇年九月二〇日これを被上告人に譲渡し、同月二六日上告人に対しその旨通知したことを認定し、右事実にもとずいて上告人に対し六八、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三〇年一〇月三一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を命じ、その余の請求を棄却したことは、所論のとおりである。

ところが原判決およびその引用する第一審判決の事実摘示によれば、本訴請求原因は、訴外橋本利男が昭和二九年一二月一〇日上告人に対し建具を代金九四、五六五円、同月一五日支払の約定で売り渡し、昭和三〇年九月二〇日右売買代金債権を被上告人に譲渡し、同月二六日上告人に対しその旨を通知したのであるから、被上告人は右譲り受けた売買代金債権にもとずいて上告人に対しその支払を求める、というのである。そして記録を調査してみても、被上告人は請求原因として終始売買の主張を維持しているのであつて、訴を変更して下請負契約を主張した形跡もなければ予備的に下請負契約を主張した形跡もない。

されば原判決は、被上告人が請求原因として主張しない下請負契約の事実を認定して、被上告人に有利な判決をしたものであつて、民事訴訟法第一八六条に違背する。そして右違背が判決に影響を及ぼすことは明かである。論旨は理由がある。

原判決が、九四、五六五円およびこれに対する昭和三〇年一〇月三一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める本訴請求に対して、六八、〇〇〇円およびこれに対する昭和三〇年一〇月三一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を命じ、その余の請求は弁済ずみとしてこれを棄却したことは前叙のとおりであり、これに対して上告人はその支払を命ぜられた部分の破棄を求めるのである。しかしながら請求棄却の部分と請求認容の部分とはともに不可分の同一契約すなわち一箇の下請負契約の認定のもとに結論されているのであつて、右下請負契約そのものが当事者によつて請求原因として主張せられていない以上は、請求棄却の部分も認容の部分もひとしく本件訴訟物を判断した結果ではないわけであるから、両者とも破棄の運命を共にすべきものと解するを相当とする。以上の理由により原判決は、これを全部破棄すべきである。

よつて、その余の上告理由についての判断を省略し、民事訴訟法第四〇七条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 立岡安正)

上告代理人斎藤敏之の上告理由

第一点原判決には当事者の申立てない事項につき判決を為した違法がある。

被上告人(原告、被控訴人)は第一審以来被上告人において訴外橋本利男から、同人が上告人に対し昭和二十九年十二月十日売渡した建具代金九万四千五百六十五円の債権を譲受けたと主張し、その支払を求めているものである。ところが原判決は昭和二十九年五月頃訴外橋本利男と上告人との間に成立した渡部秀男歯科医院建物の建具取付工事の残代金を被上告人が譲受けた事実を認定し、右事実に基いて上告人に対し金六万八千円及び昭和三十年十月三十一日以降の法定利息の支払を命じたものである。しかし売買契約と請負契約とはその目的成立要件を異にし全く違つたものであるから原判決は被上告人の申立てない事実に基いて被上告人に有利な判決をなしたものと言わざるを得ない。もつとも原審において被上告人は、上告人が所謂積極否認として主張した請負契約の事実を認める旨陳述したので或は請求の原因を変更したのではないかとの疑がないでもない。しかし上告人が原審において、第一審でなした被上告人主張の売買契約を認める旨の自白を撤回したのに対し、被上告人は右自白の撤回には異議があり上告人の自白を利益に援用する旨陳述している(昭和三十一年四月十七日口頭弁論調書参照)点からみても請求原因を変更したものでないことが明かであり、結局被上告人は、その主張の売買契約の外に上告人主張のような請負契約があつたが、本件においては売買契約に基く請求をするものであると主張したものに外ならない。従つて売買契約の事実が認められない限り被上告人の請求は全部棄却せられるべきものなのである。然らば原判決は明かに民事訴訟法第百八十六条に違背し、しかも判決に影響を及ぼすことが明白であるから破毀を免れないものと信ずる。

第二点原判決には証拠に基かないで事実を認定した違法がある。

原判決はその理由において訴外橋本利男が昭和三十年九月二十六日上告人に対し工事請負代金残債権を被上告人に譲渡したことを通知したことは当事者間に争がない旨判示した。しかし上告人は右橋本から建具代金債権譲渡の通知を受けたことは認めたけれども、工事代金譲渡の通知があつたことを認めたことはない。そのことは記録により明白である。被上告人提出の甲号証の記載も明かに売買代金譲渡通知以外の何ものでもない。仮に債権を譲渡しても、その譲渡通知が為されなければ債務者に対抗し得ず、従つて債権譲渡を請求原因とする請求は排斥されなければならないことは言を俟たない。従つて原判決は民事訴訟法第百八十五条に違背し且つ右の違背は判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に該当するもので、破毀せられるべきものである。

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