大判例

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札幌高等裁判所 昭和60年(ネ)249号 判決

控訴人

和島興業株式会社

右代表者代表取締役

森田茂

右訴訟代理人弁護士

大塚重親

高木常光

被控訴人

和島勇三郎

右訴訟代理人弁護士

富岡公治

主文

一  控訴人の当審における新請求を棄却する。

二  右新請求に関する訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  申立て

1  控訴人は、当審において訴えを交換的に変更し、「被控訴人は、控訴人に対し金一三五〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

2  被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

二  主張

1  控訴人の請求原因(訴えの交換的変更後の新請求)

(一)  被控訴人は、昭和四二年一一月一四日控訴人の代表取締役として、旭川市七条商業協同組合との間で、控訴人が右組合から和解金一三五〇万円を次のとおり支払を受けることを条件として、旭川市七条通七丁目三二番地の一宅地一〇三一・四〇平方メートル及びその地上建物が右組合の所有に属することを確認する旨の裁判上の和解をし(以下「本件和解」という。)、各支払期日に各金員を受領した。

(1) 昭和四二年一一月三〇日 金三五〇万円

(2) 同年一二月二五日 金五〇〇万円

(3) 昭和四三年六月二五日 金五〇〇万円

(二)  被控訴人は、昭和三一年九月一六日開催の控訴人の株主総会における被控訴人を取締役として選任する旨の決議及び同日開催の取締役会における被控訴人を代表取締役として選任する旨の決議に基づき、控訴人の代表取締役として登記されていたが、昭和四七年一一月八日最高裁判所により、右株主総会決議の取消し及び右取締役会決議無効確認の判決が言い渡されたため、被控訴人は、本件和解当時、控訴人の代表取締役の地位を有しなかつたものである。

(三)  そこで、控訴人は、本訴状の送達により、被控訴人が控訴人の代表取締役としてした本件和解を追認し、被控訴人が前記組合から受領した和解金一三五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の後である昭和五九年一二月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)は否認する。

(二)  同(二)は認める。

3  被控訴人の抗弁

控訴人主張の追認権又はその行使の結果たる金員引渡し請求権は、(一)本件和解の日の翌日である昭和四二年一一月一五日、(二)請求原因(二)の最高裁判所の判決が言い渡された日の翌日である昭和四七年一一月九日、(三)旭川地方裁判所昭和四七年(ワ)第四六一号事件の別紙第三記載の各決議の不存在確認判決が確定した日の翌日である昭和四九年四月一七日のいずれかの日から、それぞれ一〇年を経過した。被控訴人は、本件訴訟において、右消滅時効を援用する。

4  抗弁に対する認否

抗弁は争う。請求原因(二)の昭和三一年九月一六日開催の控訴人の株主総会における別紙第一旧役員名簿記載の旧役員(以下「旧役員」という。)の解任及び別紙第二新役員名簿記載の新役員(以下「新役員」という。)の選任の各決議の取消し、同日開催の取締役会における被控訴人を代表取締役とする選任決議の無効確認の最高裁判所の判決が言い渡されたのは昭和四七年一一月八日である。しかし、控訴人の商業登記簿には、右昭和三一年九月一六日付けの旧役員の解任及び新役員の選任の各登記のほかに、(一)昭和三七年六月二八日取締役被控訴人、同和島いと、同和島司郎、同高畑春夫、監査役山田龍雄、代表取締役被控訴人とする各選任登記、(二)昭和四五年一〇月一日株主総会の決議による解散の登記、(三)昭和四七年一〇月一八日清算結了の登記がされ、右(三)の結果登記簿は閉鎖され、そのままでは前記最高裁判所の判決に基づく登記ができない状態であつた。そこで、控訴人の株主大竹つや、同山崎周治は、昭和四七年一二月二〇日旭川地方裁判所に右(二)、(三)の各登記の原因たる株主総会決議無効等確認の訴えを提起した。右訴訟は、控訴人の旧代表取締役大竹米治が前記最高裁判所の判決の前に死亡していたため、特別代理人が選任されてすすめられ、前記(一)の登記の原因たる株主総会決議の不存在確認請求が追加され、昭和四九年四月一六日右各決議不存在確認判決が確定した。以上の各判決に基づき、同年九月二七日控訴人の復活登記、清算結了決議無効の登記、解散決議無効の登記、前記昭和三七年六月二八日の役員選任決議無効の登記、昭和三一年九月一六日の新役員選任決議無効の登記、同日の旧役員解任決議取消しによる回復登記がされた。しかし、右回復登記がされた旧役員のうち、大竹米治、照井善吉、渡辺カネは既に死亡しており、生存取締役は山崎周治のみであつた。そこで、同人は、昭和五〇年一月一四日商法二五八条二項の規定により、旭川地方裁判所に対し一時取締役の職務を行うべき者(以下「仮取締役」という。)の選任の申請をし、同年二月二四日仮取締役として森田茂、井野政一が選任され、同月二五日その旨の登記がされた。右によつて、控訴人は、取締役会を構成できることになつたものであり、その後株主総会を開催し、新取締役を選任し、取締役会を開いて代表取締役を選任したのが同年五月一八日であり、それまでは法律上代表取締役が権利を行使することはできなかつたので、消滅時効は進行しない。

また、無権代理行為によつて第三者から金員を受領した者に対する本人の右受領金引渡し請求権の消滅時効は、右無権代理行為を追認した時から進行を始めるものであり、かつ、追認権は消滅時効によつて消滅しないから、いまだ消滅時効は完成していない。

理由

一控訴人の本訴請求は、被控訴人が控訴人を代表する権限を有しなかつたにもかかわらず、前記組合との間で本件和解をし、和解金として昭和四二年一一月三〇日金三五〇万円、同年一二月二五日金五〇〇万円、昭和四三年六月二五日金五〇〇万円合計金一三五〇万円を受領したとし、控訴人において、本訴状の送達により本件和解を追認したので、右金一三五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の後である昭和五九年一二月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものであるところ、被控訴人は、仮定抗弁として、控訴人主張の追認権は時効により消滅した旨主張する。

被控訴人が、控訴人の代表取締役として、控訴人主張の日に、主張の内容の本件和解をしたことは、〈証拠〉によつて認められ、請求原因(二)は当事者間に争いがないから、被控訴人は、控訴人の代表取締役の地位を有しなかつたにもかかわらず本件和解をしたのであるが、被控訴人の右無権限の行為を控訴人が追認する権利は、請求原因(二)の最高裁判所の判決が言い渡された昭和四七年一一月八日から、商法二五八条二項の規定による仮取締役及び同法二六一条三項の規定による仮代表取締役の選任に必要な相当期間(〈証拠〉によれば、控訴人は、昭和五〇年一月一四日旭川地方裁判所に対し仮取締役二名の選任申請をし、同年二月二四日同裁判所によつてその選任決定がされたことが認められるので、準備期間等を考慮しても、控訴人の仮取締役及び仮代表取締役の選任に必要とされる期間は長くとも六か月を超えることはないと認めるのが相当である。)を経過した昭和四八年五月八日から消滅時効の進行を開始し、一〇年を経過することにより消滅したものと解するのが相当である。けだし、控訴人の旧役員の解任及び新役員の選任の各決議の取消しは訴えによらなければならないから、右最高裁判所の判決があるまでは被控訴人の行為が無権限のものであるとして追認権を行使することはできないというべきであるが、株主総会決議ないし取締役会決議の無効ないし不存在の主張は、何時でも、いかなる方法でも主張することを妨げず、訴えによることを要しないから、右最高裁判所の判決の後は、控訴人の抗弁に対する認否(一)ないし(三)の各登記の原因たる株主総会決議ないし取締役会決議の不存在確認の判決を得るまでもなく、仮取締役及び仮代表取締役の選任決定を受けた上、被控訴人が控訴人の代表取締役として無権限でした本件和解を追認することができたからであり、したがつて、右追認することができた日から消滅時効の進行が開始し、また、右追認権の時効期間は債権に準じて一〇年間と解するのを相当とするので、右同日から一〇年を経過することにより消滅したものといわねばならないからである。

なお、控訴人は、無権代理行為によつて受領した金員の引渡し請求権は、無権代理行為を追認した時から消滅時効が進行を始めるものであり、かつ、右追認権は消滅時効によつて消滅しないから、右金員引渡し請求権はいまだ消滅時効が完成していない旨主張するが、無権代理行為の追認権が消滅時効によつて消滅することがないとの見解は採るを得ないし、前示のとおり、追認権それ自体が消滅時効の完成によつて消滅しており、その旨の被控訴人の抗弁が認められる以上、追認の結果としての金員引渡し請求権は発生するに由ないから、控訴人の右主張は採用できない。

二以上によれば、控訴人の当審における新請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、右新請求に関する訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官丹野益男 裁判官松原直幹 裁判官岩井 俊)

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