大判例

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東京地方裁判所 平成4年(フ)2354号 決定

異議申立人

株式会社三和銀行

右代表者代表取締役

枝実

右代理人弁護士

小沢征行

秋山泰夫

香月裕爾

露木琢磨

主文

本件異議申立てを却下する。

理由

第一  事案の概要

一  破産者株式会社○○○は、平成四年八月六日午前一一時に、当裁判所において破産宣告を受け、破産管財人として尾崎敏一弁護士が選任された。

二  異議申立人は、平成四年九月四日、当裁判所に対し、元金合計五億七四六四万〇五七〇円、利息損害金合計三九万三一五〇円、元利合計五億七五〇三万三七二〇円の届出をし、その後、平成四年九月二二日付で、別紙物件目録記載の不動産に設定された別紙根抵当権目録記載の根抵当権を別除権の目的とすること及び予定不足額を四五〇三万三七二〇円として先の債権届出を補充した。

三  平成四年一〇月一五日に行われた債権調査期日において、異議申立人の前記届出債権のうち、商業手形買戻請求債権として届け出た一億二七六九万七九六七円に対して破産管財人から異議が述べられたが、その余のものについては異議がなく確定した。

四  異議申立人は、平成四年一〇月三〇日、東京信用保証協会から一部代位弁済を受け、前記根抵当権のうち、土地分及び建物分それぞれの四ないし六の根抵当権(土地分及び建物分の根抵当権は順位が同じなので、以下、「四ないし六の根抵当権」という。)につき、同協会に根抵当権の一部移転登記がされ、また、前記届出債権のうち、二億一四一五万五八五五円について同協会に名義変更手続がされた。また、異議申立人は、平成九年六月九日、届出債権のうち一二六万七五七六円を取り下げた。この結果、異議申立人の確定破産債権額は、二億三一九一万二三二二円となった。

五  破産管財人は、平成八年六月一一日、当裁判所に対し、別紙物件目録の記載の不動産を財団から放棄することの許可を求め、当裁判所は、同日、これを許可し、同年一〇月一八日付で、破産の登記が抹消された。

六  異議申立人は、平成九年三月二四日、四ないし六の根抵当権につき、根抵当権持分放棄をし、同月二五日、当該持分について東京信用保証協会に根抵当権持分移転登記がされた。

七  破産管財人は、平成九年四月八日配当表を、同月一一日更正配当表を作成した。そして、同月一八日に最後配当の公告がされ、当裁判所は、同月二二日、除斥期間を平成九年五月一六日とする決定をした。

八  異議申立人は、平成九年五月二日、当裁判所に対し、根抵当権の一部放棄(これは、前記四ないし六の根抵当権の持分放棄を意味するものと思われる。)をしたことにより、残りの根抵当権(一ないし三の根抵当権)の極度額合計一億円を差し引いて、弁済を受けられない確定不足額が一億三一六七万五〇二七円となったとする上申書を提出した。(前記の計算によると確定破産債権額二億三一九一万二三二二円から一億円を差し引くのであるから、確定不足額は一億三一九一万二三二二万円となるはずであり、異議申立人がこれより二三万七二九五円少ない金額を確定不足額として主張している理由は定かでない。)。

九  破産管財人は、株式会社あさひ銀行からの別除権の放棄の届出があったことに伴い、平成九年五月一二日に配当表を更正した。なお、この配当表を含め、破産管財人が作成した配当表にはいずれも異議申立人を配当に加えるべき債権者として記載されていない。

一〇  異議申立人は、平成九年五月二二日、確定破産債権のうち、根抵当権の極度額を超える部分は、破産法二七七条後段による不足額の証明があったといえるとして、右平成九年五月一二日作成の更正配当表に対し、異議申立人を配当に加えるべき債権者として記載し、かつ、配当に加えるべき債権の額を一億三一六七万五〇二七円と記載することを求めて、配当表に対する異議の申立てをした。

第二  当裁判所の判断

一  異議申立人は、別除権が根抵当権である場合には、抵当権である場合と異なり、実際に根抵当権実行手続において満足を受けなかった金額を証明しなくとも、極度額を超える債権額を明らかにすれば、破産法二七七条後段にいう不足額の証明がされたということができると主張するが、当裁判所は、根抵当権の場合であっても、別除権を行使して不足額を明確にしない以上、破産法二七七条後段の不足額の証明があったといえないと考える。その理由は次のとおりである。

1  破産法二七七条後段は、「弁済ヲ受クルコト能ハサリシ」と過去形で表現されており、これは、別除権付破産債権についての配当の基礎となる債権額が担保権を現実に行使して担保物の価額が決まってはじめて確定することを前提としていると考えられる。もっとも、破産法九六条は、「別除権ノ行使ニ依リテ弁済ヲ受クルコト能ハサル債権額」と規定し、時制と無関係であるかのような表現をしているが、これは中間配当(破産法二六二条)の場合も含めて規定されていることによるものと考えられ、換価の終了を待たないで、不足額の証明が可能である場合を容認することを示す規定であるということはできない。

この点につき、根抵当権制度を知らない破産法の規定文言に拘泥すべきでないとの見解もある。しかしながら、破産法制定以前から、既に根抵当権は慣行として存在し、その有効性も承認されていたものであり(大判明治三四年一〇月二五日民録七輯九巻一三七頁など)、現行根抵当法(民法三九八条ノ二ないし二二)も全く新たな根抵当権を認めたものではなく、それまで慣行として行われていた根抵当権の解釈上の争いを立法によって解決することを目的としたものである。したがって、破産法が根抵当権の制度を前提にしていなかったと断定する見解にはにわかに賛同できない。

2  しかも、執行手続を前提とする場合、確定しているのはあくまでも少なくとも極度額を超える分が不足額となることにすぎず、本来の意味での確定不足額ではない。

3  また、実質的にみても、もし極度額を超える債権額部分について不足額の証明があったと解すると、根抵当権が抵当権に比し、有利な扱いとなるが、これが合理的といえるか疑問である。すなわち、抵当権の場合、最低売却価額が定まっただけでは不足額の証明があったとはいえず、必ず換価が終了していることを必要としているのに対し、根抵当権の場合はその実行に着手することさえ不要となり、抵当権の場合に比してあまりにも有利な地位に立つことになるが、両者間にかかる差異を肯認する合理的根拠が存するか疑問なしとしないところである。実際に、民法の根抵当権に関する規定にも、また、民事執行法の担保権の実行としての競売等の規定(民事執行法第三章)にも、根抵当権につき抵当権と異なる取扱いに服させしめることを意図したと窺わせる規定は全く存しない。

4  また、異議申立人は、執行手続では、根抵当権の極度額以上の配当を受ける可能性がないことを指摘し、その論拠とする。しかしながら、そうであるからといつて、直ちに根抵当権者が破産手続すなわち債権の届出、確定、配当の手続によらずして、担保目的物から根抵当権の極度額を超える部分の満足を受ける余地がないことになるものではない。以下、その理由を述べる。

(一) 目的物の換価及び換価代金からの別除権者の満足は、競売手続によるほか、破産実務上、破産管財人による担保目的物の任意売却及び別除権の受戻という形態がとられている。そして、任意売却及び受戻によって、別除権者がその目的物の換価代金から被担保債権の弁済を受ける場合に、さらに当該被担保債権につき破産手続で配当にあずかれるとなると、競売手続による満足の場合と同様に、他の債権者に対する関係で不公平が生じ、破産法九六条、二六二条、二七七条の趣旨に反する結果となる。したがって、破産法二七七条後段の「権利ノ行使」には、任意売却・受戻も含まれると解すべきである。また、中間配当の場合に関する規定である破産法二六二条では、「権利ノ目的ノ処分」という文言が用いられていること、破産法九六条及び二七七条後段が「権利(別除権)ノ行使」とし、「権利(別除権)ノ実行」としていないことも、権利の行使が競売手続のみに限定されないという右の解釈を補強するものといえる。

このように、権利の行使に任意売却・受戻が含まれると解すると、任意売却において、目的物が高価に売却された場合、根抵当権者が極度額以上の支払を受けられることが少なくとも理論上はあり得ることになる。すなわち、根抵当権の極度額は、優先弁済権の限度のみならず、換価権の限度を示すものであるが、この制約がはたらくのは主として競売手続においてであり(この場合は民事執行法五九条の消除主義により根抵当権は消滅する。)、任意売却・受戻においては、本来、根抵当権者は、極度額の部分に限らず、被担保債権全額の弁済を受けるまで、根抵当権設定登記の抹消に応じる義務はないのであり(このことは債務者及びその承継人が民法三九八条ノ二二第一項の根抵当権消滅請求権を有しないことからも肯認されよう、同条三項。もっとも、破産管財人の場合、その法律上の地位として破産者の承継人であるとは言い切れないが、少なくとも、同条一項に規定された物上保証人、第三取得者に該当しないので、同条一項の根抵当権の消滅請求権を有しないことにかわりがない。)、破産管財人との受戻の交渉において、極度額以上の支払を要求することができるからである。

そうすると、担保不動産の任意売却・受戻による別除権の行使において、根抵当権者が極度額以上の支払を受けた場合には、別除権付破産債権者であった者が破産裁判所に行う不足額の証明は、被担保債権額から根抵当権の極度額を控除した金額より少ない金額とならざるを得ない。

(二) 同じことは、破産管財人が担保不動産を財団から放棄した後(本件でも、破産管財人が、不動産を財団から放棄している。)、自然人破産では当該自然人が、法人破産では清算人が、別除権者と合意の上で、担保不動産を任意売却し、換価代金を別除権者に支払う場合にも生じる。すなわち、当該自然人または清算人が極度額以上で担保不動産を売却できたとすると、根抵当権者は極度額以上の支払を受けることがあり得るのであり、別除権付破産債権者の行う不足額の証明は、被担保債権額から根抵当権の極度額を控除した金額より少額になる余地がある。

問題は、この担保不動産放棄後の任意売却・換価代金による支払も別除権の行使といえるかである。この場合、破産管財人による受戻ということがなくなるので、財団からの放棄後の任意売却・換価代金の支払は、別除権の行使ではなく、破産外でする任意弁済にすぎないという考えもありえよう。この考え方によると、このような任意売却が行われ、別除権付破産債権者が換価代金を取得した場合に、同人が除斥期間内に破産裁判所にその旨を届け出て、残額につき配当手続に加入できるのは、別除権の放棄及び破産債権の一部取下をしたからにほかならないということになろう(任意弁済では、全額の支払を受けない限り破産債権額が当然には減額されない。)。しかしながら、当該支払は、設定者である債務者と根抵当権者など別除権者全員が合意した内容の一環として、担保目的物の換価代金で行われるものであり、新得財産からの支払ではないこと、仮に任意弁済と解すると、支払を受けた別除権付破産債権者が、別除権を放棄したものの届出破産債権を取り下げない場合には、支払を受けた部分も含めた金額で配当に加われることになり、著しく不当な結果となることを考慮すると、このような任意売却・換価代金の支払も別除権の行使に含まれると解するのが相当である。

そうすると、別除権の目的不動産が高額で売却できた場合に、根抵当権者が極度額を超える支払を受ける可能性があり得る。

(三) このように、根抵当権であっても、任意売却による場合を考慮すると、その権利の行使によって、必ずしも極度額以上の支払を受け得ないとは断定できない。

5  異議申立人は、本件では、東京信用保証協会の申立てにより、平成五年九月一〇日、競売開始決定がされ、既に三年以上も経過したにもかかわらず、競売手続が終了しない状況において、別除権を放棄しないと破産配当にあずかれないというのは、別除権者に対し著しい不利益となると主張する。しかし、同様のことは抵当権の場合にもいえることであり、根抵当権の場合のみを有利に扱う根拠とはなりえない。

二  結論

以上によれば、異議申立人は、除斥期間内に破産法二七七条後段の不足額の証明をしなかったということができ、破産管財人が異議申立人を最後配当表において配当に加えるべき債権者として記載せず、その配当に加えるべき債権の額を記載しなかったことは適法であり、本件異議申立ては理由がない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官澤野芳夫)

別紙〈省略〉

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