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東京地方裁判所 平成4年(ワ)11644号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録一記載の土地及び同目録二記載の建物についてそれぞれ、別紙登記目録一記載の抵当権設定登記につき同目録三記載の抵当権代位の登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  請求

主文第一項と同旨(民法三九二条二項による抵当権代位の登記請求)

第二  事案の概要

一  争いのない事実及び容易に認められる事実

1  甲野太郎(以下「太郎」という。)と甲野花子(以下「花子」という。)は、もと、別紙物件目録二記載の建物(区分所有権の目的たる建物の部分、すなわち専有部分であり、以下「本件建物」という。)を持分二分の一ずつの割合で共有し、同目録一記載の土地(本件建物の属する一棟の建物の敷地であり、以下「本件土地」という。)について五四四六六四分の三五二〇ずつの割合の持分を有していた(以下では、本件建物に係る敷地利用権(専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利)すなわち本件土地について太郎と花子が有していた計五四四六六四分の七〇四〇の持分を「本件敷地利用権」といい、本件建物と本件敷地利用権を「本件各不動産」と総称する。)。

(争いがない。)

2  太郎と花子は、昭和五五年八月二五日、連帯債務者として、被告から九五〇万円を利息年五・五パーセント、損害金年一四・五パーセントの約定で借り受け、これを担保するため本件各不動産(本件建物及び本件敷地利用権)に第一順位の抵当権を設定し(太郎と花子が各別にそれぞれの持分に抵当権を設定したわけではなく、両名が一緒になつて本件各不動産の全体に抵当権を設定した。)、その旨の別紙登記目録一記載の抵当権設定登記をした。

(右登記がされたことは争いがなく、その余の事実は《証拠略》によつて認められる。)

3  その後、太郎は、平成元年一〇月五日、原告から一〇〇〇万円を利息年一二パーセント、損害金年三〇パーセントの約定で借り受け、これを担保するため本件各不動産(本件建物及び本件敷地利用権)のうち太郎の持分に抵当権を設定し、同月二六日、その旨の別紙登記目録二記載の抵当権設定登記(同月五日受付の仮登記に基づく本登記)をした。

(右登記がなされたことは争いがなく、その余の事実は《証拠略》によつて認められる。)

4  本件各不動産のうち太郎の持分につき、原告の申立てによつて平成三年二月一九日に競売手続が開始され(当庁平成三年ケ第二〇六号不動産競売事件)、平成四年六月五日、原告が右競売による売却により右持分を取得した。

右競売事件において、同日、配当期日が開かれ、別紙配当表に基づいて配当が実施され、一番抵当権者の被告は、被担保債権八一六万六九八三円(元本八〇四万三八二七円、利息一二万三一一五円、損害金四一円)につき全額の配当を受けたが、二番抵当権者の原告は、被担保債権一六七五万四〇九八円(元本一〇〇〇万円、損害金六七五万四〇九八円)のうち五四一万五四〇七円の配当しか受けられなかつた(納付すべき買受代金から五四一万五四〇七円を差し引かれた。)。

(原告の被担保債権及びこれに対する配当については、《証拠略》によつて認められ、その余の事実は争いがない。)

5  別紙登記目録一記載の登記について、平成四年六月九日、同月五日競売による売却を原因として花子持分の抵当権とする変更の付記登記がされた。

(《証拠略》によつて認められる。)

二  争点

いわゆる共同抵当の場合、すなわち「債権者カ同一ノ債権ノ担保トシテ数個ノ不動産ノ上ニ抵当権ヲ有スル場合」(民法三九二条一項)における、いわゆる異時配当のときの後順位抵当権者の代位について定めた同条二項は、本件のような場合にも適用又は類推適用ないし準用されるか否か。すなわち、原告は本件各不動産のうち花子の持分につき被告の一番抵当権に代位することができるか否か。

1  原告の主張

民法三九二条一項にいう「数個ノ不動産」の「不動産」には不動産の持分も含まれる。そして、同条は、共同抵当権とその目的たるそれぞれの不動産の上の後順位抵当権との利害の調節を図るために(公平を期すために)、同時配当における負担の按分と異時配分における代位という手段を用意したものである。

そうすると、本件のように、共有者である太郎と花子が一緒になつて本件各不動産の全体に抵当権を設定し、太郎の持分だけが競売された場合でも、右各人が各別にそれぞれの持分に抵当権を設定し、太郎の持分だけが競売された場合と同様に、代位権を定めた同条二項が適用されるべきである(少なくとも類推適用ないし準用されるべきである。)。

2  被告の反論

本件では、被告に対し、太郎と花子は一緒になつて本件各不動産の全体に抵当権を設定したのであつて、右各人が各別にそれぞれの持分に抵当権を設定したものではないから、被告の有していた抵当権について、「数個ノ不動産」としての太郎の持分と花子の持分を目的とする共同抵当権ということはできない。

したがつて、本件では、民法三九二条二項は適用されない。

また、同条は、「具体的な適用においては極めて錯綜した関係を生じ、煩瑣な手続を必要とすることになる。解決困難な複雑怪奇といつてもよい様相を呈することさえ予想される。」と指摘される如く、実務的には問題のある規定であり、このような規定を、「公平」の一事をもつて類推適用又は準用するのは相当でない。

第三  争点に対する判断

一  民法三九二条一項にいう「数個ノ不動産」の「不動産」には不動産の持分も含まれるが、太郎と花子の共有に係る本件各不動産(本件建物及び本件敷地利用権)について被告が有していた抵当権は、太郎と花子が各別にそれぞれの持分のつき設定したわけではなく、右両名が一緒になつて本件各不動産の全体につき設定したものであるから、「数個ノ不動産」としての太郎の持分と花子の持分を目的とする共同抵当権が設定されたものと解することはできない(なお、「数個ノ不動産」としての本件建物と本件敷地利用権を目的とする共同抵当権であることは別論である。)。

したがつて、本件各不動産のうち太郎の持分だけが競売されてその代価のみが配当されても、直ちに民法三九二条二項(後段の後順位抵当権者の代位)の規定が適用されるものとは解されない。

しかしながら、本件のような場合にも、同条項が類推適用され、原告は本件各不動産のうち花子の持分につき被告の一番抵当権に代位するものと解すべきである。その理由は次のとおりである。

二1  民法三九二条は、共同抵当に関し、共同抵当権者は目的たる数個の不動産の中から任意の不動産を選択して全額の弁済を受けることができる(二項前段)ものとし、これによつて共同抵当権者の利益を図る一方、共同抵当権者の権利実現の方法いかんによつて後順位抵当権者が不利益を受け、あるいは各不動産上の後順位抵当権者相互間に不公平が生じ、ひいては不動産担保価値の利用が阻害されることのないよう配慮して、いわゆる同時配当における負担の接分(一項)及びいわゆる異時配当における後順位抵当権者の代位(二項後段)について定めている。

2  本件において、仮に太郎と花子が各別にそれぞれ本件各不動産の持分に抵当権を設定した場合を想定すると、それはまさに数個の不動産を目的とする共同抵当権の異時配当の場合に該当するから、民法三九二条二項後段が適用され、その結果、太郎の持分につき後順位抵当権者であつた原告は、他の不動産である花子の持分について被告の一番抵当権に代位することが明らかである。

なお、共同抵当権の目的たる数個の不動産のうちにいわゆる物上保証人に属するものがある場合には、物上保証人に属する不動産との間では同条項は適用されないと解されるが、花子は、被告が有していた抵当権(右仮定の場合、これが共同抵当権である。)の被担保債権の債務者(連帯債務者)であつたから、右のように代位するという結論は左右されない。

3  前述した民法三九二条二項後段の法意に照らすと、右2のように太郎と花子が各別にそれぞれ本件各不動産の持分に抵当権を設定した場合と本件のように両者が一緒になつて本件各不動産の全体に抵当権を設定した場合とを峻別して適用を論じる合理的理由は見当たらないのであつて、後者についても後順位抵当権者である原告を保護し代位を認めるのが相当であるというべきであり、このように解しても、共同抵当権者である被告は、既に被担保債権全額の弁済を受けているのであるから、何ら不利益を被るものではないと考えられる。

4  花子の立場に関しても、これまた、右2のような場合と本件のような場合とを峻別して適用を論じる合理的理由は見当たらない。

本件において、仮に、太郎の持分の代価だけを配当するのではなく、本件各不動産全体の代価を同時に配当する場合を想定すると、この場合には、被告の抵当権の被担保債権額は、本件各不動産についての太郎の持分と花子の持分の割合(半分ずつ)に応じ按分され、右負担後の太郎の持分の残代価は後順位抵当権者(具体的には右持分についての次順位抵当権者である原告)に配当されるのであるから、右仮定の場合との均衡に照らしても、本件のような場合には、右同時配当の場合に被告が花子の持分から弁済(配当)を受けるべき金額を限度として、原告の代位を認めるのが相当である。

なぜなら、本件花子は、被告に対して抵当権を設定した際、被担保債権のうち少なくとも右按分額(半分)については負担を覚悟していたというべきであつて、本件のようにたまたま太郎の持分のみについて競売が実施された場合には代位を認めないというのでは、彼此均衡を失し、かえつて花子が予想外の利益を得るという極めて不合理な結果が生じることになるのである。

三  以上の次第で、原告は、民法三九二条二項の類推適用により、本件各不動産のうち花子の持分について、被告の一番抵当権に代位するというべきであり、右代位は、同時配当の場合に右持分が負担すべき金額を限度とする。したがつて、被告は、原告に対し、右代位の登記(付記登記)手続をすべき義務があり、右登記の事項は別紙登記目録三に記載のとおりである(競売代価は別紙配当表によつて認めた。)。

四  よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大藤 敏 裁判官 貝阿弥 誠)

裁判官原克也は転補のため署名捺印することができない。

(裁判長裁判官 大藤 敏)

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