大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 平成4年(行ウ)148号 判決

原告

栃木博(X)

右訴訟代理人弁護士

青山力

被告

足立区長 古性直(Y)

右訴訟代理人弁護士

山下一雄

理由

二 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

1  北千住駅前地区の再開発は、地方自治法二条五項に基づいて定められた足立区基本構想に盛り込まれた足立区の重点施策の一つであるが、同地区は、昭和六一年一一月、「東京都(区部)都市再開発方針」の中で都市再開発法二条の三第一項二号の再開発促進地区にも決定され、同年一二月、足立区は、本件事業の施行区域内の旧国鉄用地約八二〇〇平方メートルを買い受け、地権者として再開発組合に参画する予定のもとに、本件事業によって駅前広場、都市計画道路、区画街路、文化ホール等の建築物などの公共施設の整備を図ることを計画した。

2  準備組合は、本件都市計画決定後、開発会社からの資金援助を得て、再開発組合の設立、事業認可向け、コンサルタント業者に委託して、事業の推進を図ろうとしたが、準備組合に参画しない一部の地権者から事業の進め方や事業化の方針に反対する動きがあり、再開発組合の設立についての地権者の同意(都市再開発法一四条)が得られない状態が続き、しかも、その間、地価や建設費が急騰するという経済状況の変化にみまわれたことなどもあって、関与していたコンサルタント業者も事業計画の立案、検討を進めようとしなくなり、平成二年中には本件事業から正式に撤退し、本件事業は、コンサルタント業者不在のまま、具体的な事業化の目処がたたない状況に陥った。

3  準備組合は、足立区と協議のうえ、平成二年一〇月ころ、新たに訴外会社に対しコンサルタントとして本件事業に関与することを依頼することとし、同年一二月、地権者集会を開催して、その承認を得た。

訴外会社は、まず、準備組合の委託により、平成二年一二月から平成三年三月までの期間にわたり、関係権利者からの意向調査を通じて現在の状況を把握し、今後事業化を進めるにあたって必要な手立てを検討して、事業化の体制作りの方向を見いだすための調査を行い、平成三年三月三〇日、準備組合に報告書を提出してその調査業務を完了した。右報告書は、結論において、本件事業を具体化するためには、まず新たな推進体制を確立することが必要であり、足立区、開発会社、準備組合などの関係者がそれぞれの立場で問題点を検討することから始め、意見交換をすることなどを提案している(なお、準備組合は、右調査業務のため、訴外会社に二〇六万円を支払った。)。

4  右報告書の提案を受けて、足立区、開発会社、準備組合及び訴外会社は、平成三年六月一五日、本件事業の今後の進め方に関して確認書を取り交わし、足立区、開発会社及び準備組合のそれぞれが右報告書で提案された事項の検討を行うことなどを合意した。

しかし、その後も、準備組合においては、関係権利者を対象とした「再開発ニュース」を発行するほかは、役員会を開催する程度で、事業化に向けた実質的な活動をすることもなく、平成三年七月以降は事務局員もいなくなるという事態になり、足立区は、平成三年秋ころから、本件事業の現場に再開発事業推進事務所を設ける方向で準備組合、開発会社等と協議を進め、その結果、平成四年四月以降、足立区から三名、開発会社から二名の派遣職員から成る右推進事務所を設置し活動を開始することとなった。

5  また、足立区は、本件事業において駅前広場、道路、文化ホール等の公共施設の整備を図るべき立場にあることや、準備組合に対し必要な指導を行うべき立場にもあることから、改めて、経済状況の変更を踏まえて本件事業の成算の有無、今後の財政負担の程度、事業計画の見直しの要否など事業化に必要な条件について検討する必要があると判断し、右推進事務所開設の準備と並行して、訴外会社に本件調査を行わせることとし、平成四年一月二九日本件契約を締結して、平成三年度の補正予算に基づきその代金九八八万八〇〇〇円を訴外会社に支払った。

なお、足立区は、本件契約が地方自治法施行令一六七条の二第一項二号にいう「性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断して、随意契約の方法により本件契約を締結したものである。

6  ところで、準備組合は、平成三年度の収支予算において、コンサルタント業務委託料として一八〇〇万円を計上したが、結局、同年度においては、足立区と開発会社(開発会社も、平成四年一月二九日、訴外会社に事業参加条件の検討などの調査を委託し、その委託料一四四万二〇〇〇円を支払っている。)が調査を委託したほか、準備組合としては、特段の業務を委託しなかったので、その決算においては、コンサルタント業務委託料の支出は零円となっている。なお、右予算額一八〇〇万円は、月額一五〇万円としてその一二か月分という計算のもとに一応計上されただけで、特に具体的な業務委託を対象として算出されたものではなかった。

以上のとおり認められ、証人北村吉一の証言中、右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三 右認定のとおり、足立区は、区の重点施策の一つである北千住駅前地区の再開発を実現するための本件事業が具体化に向けて進捗していない状況に鑑み、行政の立場から本件事業の具体化に向けた適切な対応を行うために、公共施設の整備に伴う財政負担の程度など事業化に必要な条件や事業収支などについて検討すべく、自らの費用負担において本件調査を委託する必要があると判断して、本件契約を締結するに至ったことが明らかであって、原告が主張するような、準備組合の訴外会社に対する債務を肩代わりして支払う便法として本件契約が締結されたとの事実は何ら認められないから、その事実を前提として本件契約締結行為の違法をいう原告の主張は、その前提を欠き失当である。

四 また、原告は、本件事業が都市計画決定された後に、その施行者でない足立区が本件契約を締結することは都市再開発法八条一項、九条六号、三〇条、五一条一項、五二条二項五号に違反する旨主張する。

しかしながら、都市再開発法二条の三第二項及び一二四条一項によれば、地方公共団体は、市街地再開発促進地区の再開発を促進するため、市街地の再開発に関する事業の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないものとされ、また、市町村長は、再開発組合に対し再開発事業の施行の促進を図るため必要な勧告、助言又は援助をすることができるとされているところ、前記に認定したところからすれば、足立区が、本件都市計画決定から四年余もの期間が経過しても依然として再開発組合の設立認可申請の目処が立っていなかったという状況のもとで、本件事業の具体化に向けた適切な対応を行うために、事業化に必要な条件などに関する本件調査を行う必要があったことは明らかであって、足立区が本件調査を行うことが都市再開発法の趣旨にそうものでありこそすれ、同法の規定に違反する違法なものでないことはいうまでもない。

したがって、本件調査を行うため本件契約を締結することは何ら都市再開発法八条一項等に違反するものではない。

五 さらに、原告は、随意契約の方法によって本件契約を締結したことは足立区契約事務規則三九条一項二号に違反すると主張する。

しかし、右規定が地方自治法施行令一六七条の二第一項一号に基づき契約の種類に応じて随意契約によることができる契約の金額を定めたものであることは明らかであるところ、前記認定のとおり、本件契約の締結は、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「性質又は目的が競争入札に適しないもの」に当たるとして随意契約の方法によったものであるから、本件においては、足立区契約事務規則三九条一項二号に違反するかどうかは直接関係がないというべきである。そして、前記認定のとおり、訴外会社は本件契約の時点までに一年以上本件事業に関与しており、既に事業に関する情報・資料を収集し、地域の実情にも通じていたと考えられることや、〔証拠略〕によれば、訴外会社は、市街地再開発事業の調査・企画・運営などを専門に行う会社であり、東京都内その他各地でコンサルティング等の業務に従事し、実績を有する会社であると認められることなどからすれば、本件調査の目的や内容に照らし、本件調査の委託については、競争入札の方法によって契約の相手方を決定するよりも、訴外会社を契約の相手方として選定した方が、本件契約の目的を達成するうえでより妥当であり、ひいては足立区の利益の増進につながるということができるから、本件契約は、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号にいう「性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するというべきである。

したがって、本件契約の価格が足立区契約事務規則三九条一項二号所定の金額を超えているとしても、本件契約を随意契約の方法によって締結することが違法となるわけではなく、原告の右主張は失当である。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 德岡治)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com