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東京地方裁判所 平成6年(ワ)1093号 判決

原告

吉田一郎

右訴訟代理人弁護士

小林克信

水口真寿美

井上洋子

被告

日本生命保険相互会社

右代表者代表取締役

伊藤助成

右訴訟代理人弁護士

豊泉貫太郎

岡野谷知広

被告

株式会社三菱銀行

右代表者代表取締役

若井恒雄

被告

ダイヤモンド信用保証株式会社

右代表者代表取締役

森岡正博

右被告ら訴訟代理人弁護士

小野孝男

近藤基

右小野孝男訴訟復代理人弁護士

五十畑昭彦

主文

一  被告日本生命保険相互会社は、原告に対し、金四五四三万五六〇〇円及びこれに対する平成六年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告日本生命保険相互会社に対するその余の請求を棄却する。

三  原告の被告株式会社三菱銀行及び被告ダイヤモンド信用保証株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告日本生命保険相互会社との間においては、原告に生じた費用の一〇分の一及び被告日本生命保険相互会社に生じた費用の五分の四を被告日本生命保険相互会社の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告株式会社三菱銀行及び被告ダイヤモンド信用保証株式会社との間においては、全部原告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

(略称)以下においては、原告の妻吉田瑞を「瑞」、原告の娘吉田景子を「景子」、被告日本生命保険相互会社を「被告日生」、被告株式会社三菱銀行を「被告三菱」、被告ダイヤモンド信用保証株式会社を「被告ダイヤモンド保証」、被告日生の従業員である小泉武彦及び笠間敏子をそれぞれ「小泉」、「笠間」、被告三菱の従業員である小松真吾を「小松」と略称する。

第一  請求

一  被告日本生命保険相互会社は、原告に対し、金四五四三万五六〇〇円及びこれに対する平成三年六月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三菱は、原告に対し、別紙金銭消費貸借契約目録一ないし九記載の金銭消費貸借契約に基づく原告の被告三菱に対する各債務が存在しないことを確認する。

三  被告三菱は、原告に対し、金二三万円及びこれに対する平成六年二月二五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告三菱及び被告日生は、原告に対し、連帯して、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年二月二五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告ダイヤモンド保証は、別紙物件目録一記載の土地及び同目録二記載の建物についてなされた東京法務局府中出張所平成三年五月二九日受付第一七五〇三号の根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

第二  事案の概要

一  本件は、被告ダイヤモンド保証に連帯保証人になることを委託して被告三菱から金員を借り入れ、その金員を保険料として支払って被告日生の変額保険に加入した原告が、被告日生の担当者並びに被告三菱及び被告ダイヤモンド保証の担当者が原告に変額保険について十分な説明をしなかったとして、保険契約、金銭消費貸借契約及び保証委託契約等についてそれぞれ詐欺取消、錯誤無効、又は、債務不履行解除を主張して、被告日生に対して支払った保険料の返還、被告三菱に対して債務不存在確認及び支払った利息の返還、被告ダイヤモンド保証に対して根抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し、さらに、被告らの共同不法行為を理由に、被告三菱及び被告日生に対して原告の精神的苦痛に対する慰謝料及び弁護士費用を請求した事案である。

二  判断の前提となる事実

1  原告は、大正八年五月一五日生れで、平成三年四月当時、退職して年金生活者となっていた。原告は、妻の瑞、娘の景子と同居している。

2  原告は、被告日生荻窪支社荻窪支部長の小泉及び同支部営業員の笠間の勧誘を受け、被告日生との間で、平成三年五月三〇日、瑞及び景子を被保険者として、保険料合計額四五四三万五六〇〇円の別紙保険契約目録記載の各保険契約(以下「本件変額保険契約」という。)を締結し(契約成立日は同年六月一日)、右保険料を支払った。

3  原告は、本件変額保険契約締結に先立って、本件変額保険契約の保険料その他の諸費用を支払うために、平成三年五月二九日、被告三菱(中野駅前支店扱い。担当者小松)との間で、当初の利息年8.0パーセントとする約定の別紙金銭消費貸借契約目録一記載の融資契約「三菱長期総合ローン」(以下「ローン契約」という。)を締結して五一〇〇万円を借り入れ、ローン契約の利息を支払うために、被告三菱との間で、当初の利息年8.2パーセントとする約定の融資契約「マイカードビック」(以下「マイカード契約」といい、ローン契約と合せて「本件融資契約」という。)を締結し、瑞及び景子は、マイカード契約について連帯保証契約をした。

4  原告は、被告ダイヤモンド保証との間で、平成三年五月二九日、ローン契約及びマイカード契約に関し、それぞれ保証委託契約(以下「本件保証委託契約」という。)を締結し、将来、被告ダイヤモンド保証が被告三菱に代位弁済したときは、被告ダイヤモンド保証に対し、求償債務を負担することを約し、瑞及び景子は、右同日、原告の本件保証委託契約による求償債務について、それぞれ連帯保証契約を締結した。

5  平成三年五月二九日、原告は、被告ダイヤモンド保証との間で、本件保証委託契約による求償債権を被担保債権として別紙物件目録一、二記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について、極度額を一億一一一〇万円とする根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)を締結し、被告ダイヤモンド保証は、右契約に基づいて、本件不動産に、根抵当権設定登記を了した。

6  その後、原告は、マイカード契約に基づいて、別紙金銭消費貸借契約目録二ないし九記載のとおり金銭を借り入れ、ローン契約の利息の支払に充て、また、平成五年六月一七日に二万円、同年八月二六日に二一万円をそれぞれ被告三菱の原告名義の銀行口座に振込み、八月二六日、二二万一〇〇〇円がローン契約の利息として引き落とされた。

7  原告が本件変額保険契約を締結する直前の被告日生の変額保険の運用実績(契約締結後一年経過時における数値)は、以下のとおりであった。

平成二年 九月末日

マイナス 9.91パーセント

同年一〇月末日

マイナス 5.56パーセント

同年一一月末日

マイナス 9.79パーセント

同年一二月末日

マイナス11.68パーセント

平成三年 一月末日

マイナス11.67パーセント

同年 二月末日

マイナス 4.71パーセント

同年 三月末日

マイナス 0.84パーセント

同年 四月末日

マイナス 0.04パーセント

同年 五月末日

マイナス 3.54パーセント

8  原告は、平成五年一一月八日に被告らに到達した書面で、本件変額保険契約、本件融資契約及び本件根抵当権設定契約を詐欺を理由に取り消す旨の意思表示をし、また、平成六年二月二四日に被告らに到達した本件訴状で、本件変額保険契約及び本件融資契約を債務不履行により解除する旨の意思表示をした。

三  争点

本件変額保険契約及び本件融資契約の締結について、被告日生及び被告三菱の営業担当者には、原告に対する説明義務違反があるか。また、原告には契約の要素に錯誤があったか、その錯誤につき重大な過失があったか。

1  原告の主張

(一) 平成二年一一月二八日、原告の知人である稲津英五郎からの紹介で、小泉及び笠間が稲津英五郎とともに原告宅を訪問し、相続税対策として変額保険への加入を勧誘した。小泉は、地価の値上がりによって相続税の支払が困難になること、相続税対策のためには借金をしたほうがよいこと、銀行から保険料を全額借り入れて変額保険に加入すると、変額保険の運用益が銀行からの借入利息を常に一パーセントは上回るので、加入者が損をすることは決してないことなどを説明し、原告は高齢のため変額保険の被保険者にはなれないので、瑞を被保険者とする保険金五〇〇〇万円、景子を被保険者とする保険金一億円の二口の変額保険に加入して、原告が保険料の支払のために銀行から八〇〇〇万円を借り入れることを提案した。原告は、これを検討することにした。

(二) 平成三年一月一七日、瑞は笠間から勧められ、被告日生荻窪支社内で開催された税理士による相続税対策のセミナーに参加した。税理士は、パンフレットに従いながら、変額保険が相続税対策に有効であることを説明したが、変額保険のリスクについては全く説明しなかった。瑞は、その後も税理士のセミナーに出席したが、このときも税理士の説明は同様であり、最後に支社長からも瑞ら出席者に対し、被告日生の変額保険に加入するよう依頼があった。

(三) 同年二月一七日、小泉及び笠間が原告宅を訪問し、変額保険に加入することを勧誘し、保険料の支払のために被告三菱から不動産を担保に融資を受けることができると説明したので、原告は、変額保険に加入することにした。

(四) 同年四月一一日、小泉と笠間が小松を伴って原告宅を訪問した。原告は小泉ら三名に対し、不動産を担保に多額の借金をしても大丈夫かを確認したところ、小泉ら三名は、銀行と保険会社との間で、銀行からの借入利息を変額保険の運用益で賄うよう処理するから心配はいらないと説明したが、このときも、変額保険の特殊性やその危険性についても、不動産を担保に保険料を銀行から借り入れることの危険性についても、十分な説明はなかった。原告は、この日、被告三菱に対し、融資額五一〇〇万円のローン契約及び借入限度額五〇〇〇万円のマイカード契約の融資申込書を作成したが、マイカード契約の融資申込書を作成するときに、なぜ、この契約を締結するのかを小松に尋ねたところ、小松は、これも契約の一部であると説明するのみで、これが金銭消費貸借契約の借入利息の支払のための契約であるとの説明はしなかった。また、なぜ、借入金が五一〇〇万円になるのかの説明も全くなかった。その後、同年五月二九日、本件融資契約及び本件根抵当権設定契約が締結され、翌三〇日には、本件変額保険契約が締結された。

(五) 変額保険は、株価や為替相場などの経済変動によるリスクを保険契約者が負担する極めて危険性の高い商品である上に、不動産に担保を設定し多額の保険料を借り入れて変額保険に加入する場合には、契約者は、経済変動により、銀行に対する金利の支払と、変額保険の値下がりという二重の損失を受けることになる。さらに、原告が年金生活者で十分な収入がないことからすれば、多額の金利負担のため、不動産の担保権が実行されるおそれがあるのである。したがって、本件のように、保険料を全額借り入れて変額保険に加入する場合には、被告日生及び被告三菱は、変額保険の特殊性や危険性について十分に説明し、原告に理解させる信義則上の説明義務を負担していた。また、被告日生は、保険募集の取締に関する法律一六条一項からも、右のような義務を負担していた。

しかし、小泉、笠間及び小松は、変額保険の危険性について十分な説明をせず、すでに変額保険の運用益が銀行の借入利息を下回っているにもかかわらず、相続税対策としては、保険料は不動産を担保に借り入れるのが最善の方法であり、変額保険の運用益が銀行の借入利息を下回ることはないし、金のことは銀行と保険会社が処理するから原告が一銭も出す必要はないと説明し、原告に多額の借入を行わせて変額保険に加入させたのである。

したがって、被告らには、説明義務を尽くさなかったという債務不履行がある。また、小泉、笠間及び小松は、原告に対して虚偽の説明を行い、原告に対して変額保険の危険性についての説明義務があるのにそれを果たさなかった点で、原告に対し、作為又は不作為の詐欺を行った。さらに、原告は、小泉、笠間及び小松の虚偽の説明により銀行への借入利息は、変額保険の運用益で支払われると誤信して本件融資契約及び本件変額保険契約を締結したのだから、原告には、これら契約の要素に錯誤がある。また、被告日生は、説明義務違反という不法行為を行って、原告に本件変額保険及び本件融資契約を締結させたたえ、原告は、被告三菱から支払の督促をされ、弁護士に依頼して訴訟を提起せざるを得なかったのだから、被告は、原告の精神的苦痛に対する慰謝料及び弁護士費用を支払うべきである。

2  被告日生の主張

(一) 平成二年秋、瑞は、被告日生荻窪支社内で開催された変額保険に関するセミナーに出席し、小泉及び笠間は、同会場で、稲津英五郎の紹介で瑞と知り合った。その後、小泉及び笠間が瑞に連絡をとり、平成三年一月に荻窪で瑞と会った。その際、瑞は、原告が本件不動産と所沢市内の不動産を所有しているため、その相続税対策を考えており、変額保険に興味があるとの話をし、小泉らに具体的な資料を要求した。小泉らは、その日は変額保険についての十分な資料を用意していなかったため、後日、原告宅を訪問することを約した。

(二) 小泉は、瑞から本件不動産の概要を聞き、路線価を調べた上、笠間、稲津英五郎とともに、原告宅を訪問した。そして、原告及び瑞に、変額保険の概要を記載したパンフレットを交付、提示した上、路線価を調査した限りでは、原告には特に相続税対策は必要ではないこと、ただ、今後、地価が年五パーセント以上の率で上昇し続けた場合には、五年後ないし一〇年後には相続税対策が必要になってくること、変額保険では、保険料の一部が特別勘定として独立に運用され、その資産運用の結果は、保険金額に反映されるから、資産運用の成果とリスクはともに契約者に帰属することを説明した。小泉が、変額保険の資産運用は株式市場の変動の影響を受ける旨を説明したところ、瑞から今後の運用の見込みについて質問されたので、小泉は、従前は一四パーセント以上であったが、現在では一桁台であると説明するとともに、将来のことはわからないから、原告らが判断するように言った。

(三) その後、小泉及び笠間は、原告宅を数回訪問し、変額保険の設計書を交付して、変額保険がハイリスク・ハイリターンの保険であること、資産運用のリスクは契約者が負うことを説明した。この設計書には、運用実績が〇パーセント、4.5パーセント及び九パーセントの場合についてそれぞれ死亡保険金、解約返戻金がいくらになるかを示した表が掲載され、その数値は運用実績等により変動し、将来の支払額を約束するものではないことが明記されていた。原告は、これらの説明を受けて変額保険に加入することを決め、融資を受けるべき適当な銀行を紹介するよう小泉らに依頼したので、小泉らは、原告に小松を紹介した。

(四) このように、小泉及び笠間は、変額保険について原告に十分な説明を行い、原告は、変額保険の危険性について十分認識して、本件変額保険を締結したのであるから、被告日生は、説明義務を尽くしているし、原告には契約の要素に錯誤はない。

3  被告三菱及び被告ダイヤモンド保証の主張

(一) 平成三年二月中旬ころ、以前から面識のあった小泉が小松に対し、原告が、変額保険に加入しようとしており、保険料の融資を希望しているから、融資が可能か審査してほしい旨の打診があったので、小松は、小泉から本件不動産の内容等を聴取し、被告ダイヤモンド保証にその評価を依頼した。同年三月上旬、被告ダイヤモンド保証は、本件不動産について一億二七〇〇万円との評価をしたので、小松は、小泉に対し、担保物件だけで評価すると、原告には八〇〇〇万円程度の融資ができそうだと伝えた。

同年三月一三日、小泉から小松のもとに、瑞が被保険者で、基本保険金が五〇〇〇万円、保険料が二五四四万六〇〇〇円との変額保険の設計書と、景子が被保険者で、基本保険金が一億円で、保険料が一九九八万九六〇〇円との変額保険の設計書がファックスで送信され、同年四月上旬、小泉から小松に対し、原告がファックスで送信した設計書どおりの変額保険に加入することになったから、融資のために原告方に同行してほしいとの依頼があった。

(二) 小松は、同月一一日、小泉及び笠間とともに、原告方を訪問したところ、小泉から、変額保険について、保険金額及び保険料の確認、過去の運用実績の推移や変額保険の概要についての説明があった。そして、小松は、原告に対し、自己資金を一切使わない形で変額保険に加入するのであれば、保険料の他に、根抵当権設定登記手続費用や当初の一年分の借入利息も含めた五一〇〇万円を「長期総合ローン」で借り入れるのがよいのではないかと提案し、原告は、五一〇〇万円の融資を依頼した。また、小松は、二年目以降の「長期総合ローン」の借入利息を支払うために、「マイカードビック」契約を締結することができること、借入利息の支払のために当初の債務は一〇年間で倍になるから、極度額は五〇〇〇万円とすることを提案し、「マイカードビック」契約では、自分で被告三菱の店舗に行って現金自動支払機を利用して現金を引き出す方法で借入を行うことになることを説明し、原告は、「マイカードビック」契約による借入手続を自宅近くの被告三菱府中支店で行いたい旨申し出た。さらに、小松は、被告三菱は、保険料払込の資金と今後の借入利息の支払資金を融資するだけで、変額保険と融資契約は別であること、変額保険は保険金額や解約返戻金が変動し、将来の運用実績が保証されているものではなく、あくまでも被告日生の運用次第であることを説明し、その上で、本件融資契約、本件根抵当権設定契約等を締結した。

(三) 被告三菱及び被告ダイヤモンド保証は被告日生とは一体関係にはなく、また、本件融資契約、本件根抵当権設定契約は、本件変額保険契約とは別個のものであるから、小松は、変額保険の危険性を告知したり、原告が変額保険の危険性を知っているかを確認すべき義務は負っていない。その上、小松は、原告が変額保険に加入することを決意した後に原告に会い、本件融資契約の締結に当たり、念のために原告に変額保険の危険性を説明し、原告の理解の確認もしているのである。

したがって、被告三菱及び被告ダイヤモンド保証が、本件融資契約及び本件根抵当権設定契約の締結に際し、詐欺を行ったことはない。また、原告にはこれら契約締結に当たって契約の要素に錯誤はないし、仮に原告に錯誤があったとしても、原告は小泉、笠間及び小松から変額保険及び融資契約について十分な説明を受けているのだから、原告には重大な過失がある。さらに、被告らに原告が主張するような説明義務があったとしても、被告三菱及び被告ダイヤモンド保証には原告らが主張するような債務不履行はないし、不法行為もない。万一、被告三菱について何らかの債務不履行又は不法行為が成立するとしても、原告は小泉、笠間及び小松から変額保険及び本件融資契約について十分な説明を受けているのだから、原告には重大な過失があるので、過失相殺がなされるべきであるし、原告は、保険事故発生時には、基本保険金を受け取るのだから、損益相殺がなされるべきである。

一  証拠(甲一、二、三の1、2、八、九、一〇の1、2、一一の1、2、三三ないし三五、乙一ないし七、八の1、2、九、一一の1、2、一二の1、2、一三、一四、丙一の1、2、二の1、2、三ないし六、証人小泉、同小松、同瑞)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

1  瑞は、平成三年一月一七日、被告日生荻窪支社が、公認会計士の小林を講師として開催した「豊かな老後を築くために」という演題のセミナーに出席した。小林は、出席者に対して、変額保険は運用益が高く、積極財産を増やすことができるものであると説明し、また、配付した資料に基づいて、路線価の引き上げなどによって相続税評価が引き上げられ、相続課税が強化されるから、不動産を所有する者は、相続税対策をとったほうがよいのであり、変額保険は投資利回りが大きいため、変額保険の解約返戻金で相続税の納税準備ができるから、保険料全額を銀行から借り入れて変額保険に加入することを勧めた。当日配付した資料には、変額保険の運用実績が九パーセントの場合の解約返戻金及び保険金の額が記載されているだけで、その他の運用実績の場合における解約返戻金及び保険金の記載はなかった。このセミナーには、小泉も出席しており、その機会に瑞と会った。

瑞は、帰宅後、セミナーで交付された資料を見せながら、セミナーの講演内容を原告に説明した。瑞及び瑞から話を聞いた原告は、変額保険は相続税対策としてよいものであるとの印象をもった。

2  原告及び瑞は、平成三年一月以降、小泉及び笠間らに相続税対策について相談をした。小泉は、原告らから、原告が本件不動産のほか、所沢にも土地を所有していることを聞き、本件不動産の路線価を調べたところ、本件不動産については、特に相続税対策をとる必要はないことが分った。小泉は、路線価図、変額保険のパンフレット、設計書及び小林の講演で配付された資料を持参して、原告及び瑞に会い、本件不動産だけならば相続税対策は必要ではないが、所沢の不動産と預貯金を加えた財産が一億円以上になるのであれば、相続税対策は必要だし、今後も、地価が平成二年当時のように毎年五パーセント上昇するのであれば、五年から一〇年後には、相続税対策が必要になってくるかもしれないと説明した。そして、持参した変額保険のパンフレットや設計書を見せながら、変額保険は定額保険と異なり、払込保険料の一部を特別勘定として株式や債券に投資して運用し、運用実績によって解約返戻金及び保険金額が変動し、運用実績がマイナスになることもあるハイリスク・ハイリターンの保険であること、設計書に記載のある運用実績の例表の九パーセントの場合を中心に、解約返戻金及び保険金額がどのような数値になるかを説明し、運用実績が4.5パーセント及び〇パーセントの各場合についてもこれらの数値を簡単に説明した。瑞が、小泉に対して、今後の変額保険の運用の見通しを尋ねたとろ、小泉は、以前は、一四パーセントで、現在は一桁となっているが、しかし、銀行の借入利息より一パーセントは上回っているはずであること、小泉としては、平均株価が最盛期約四万円台の半分となっているからこれまでのような高利回りは期待できないとは思っているが、株式市場の下落はこれでおさまると考えているから、今後も銀行の借入利息よりは一パーセントは上回り、銀行の借入利息も変額保険の運用益で賄うことができる旨の推測をしていること、小泉は、株式投資の専門家ではないから、今後の見通しについては、原告らで判断してほしいと思っていることなどを答えた。

小泉は、原告に対して変額保険加入を勧誘するに当たって、原告死亡時には、銀行からの借入で相続財産を圧縮し、相続税を減らすことが変額保険加入の主たる目的であるものの、変額保険の保険金で銀行の借入金を返済することができることが重要であるとの認識を持っていたが、小泉は、平成二年九月以降、被告日生の変額保険の契約締結後一年経過時における運用実績が実際にはマイナス運用に陥っていることを全く知らず、かつ、そのことを何ら調査することなく、変額保険の運用実績はプラスの一桁であると思っていた上、銀行からの借入利息が具体的にどの程度の利率であるのかも調べることなく、原告らに対しては、変額保険の運用実績はプラスの一桁であり、銀行の借入利息を一パーセントは上回っているはずであるなどと述べて変額保険に加入することを勧誘した。

3  原告は、小林のセミナーでの説明内容及び小泉の説明を受けて、借入金によって変額保険に加入すると、銀行からの借入金によって相続税を減らすことができる上に、変額保険の運用益が高いため、変額保険の運用益で銀行の借入利息を支払うことができて自己資金を使う必要はないから相続税対策としてとてもよいものであると考え、変額保険に加入することを決意して、変額保険申込書を作成し、小泉から、「ご契約のしおり」と題する変額保険の定款・約款を受け取った。この「ご契約のしおり」と題する冊子の裏面には、特に「解約と払戻し」について冊子の該当箇所を確認するよう記載があり、指示された該当箇所には、解約返戻金には最低保証がなく、払込保険料より低額になることがある旨記載されていた。

4  原告は、小泉に対し、借入のできる銀行を紹介してくれるよう頼んだので、小泉は、被告日生荻窪支社が懇意にしていた被告三菱中野駅前支店の小松に、原告に対する融資を打診した。小松は、小泉から原告の資産状況を聞き、その担保評価を行ってから、平成三年四月一一日、小泉、笠間とともに、原告宅を訪問した。

原告宅では、まず、小泉が、原告が加入する予定である変額保険の保険金や保険料について確認をし、その後、小松が、保険料と、銀行借入の一年間の利息、被告ダイヤモンド保証に対する保証料などの総額五一〇〇万円を「三菱長期総合ローン」契約で借り入れ、二年目以降の利息を支払うために「マイカードビック」契約をし、その極度額を五〇〇〇万円にすることを提案した。小松が、二年目以降の利息を支払うためには、「マイカードビック」契約に基づいて、銀行から利息分を借り入れる手続をし、それを原告の銀行口座に振り込まなければならない旨の説明をしたところ、瑞は、その手続を自宅に近い被告三菱府中支店でもできるかと質問した。こうしたやりとりの際に、小松は、被告日生の変額保険と被告三菱との融資契約は連結していないことを説明した。これらの説明を聞いた後、原告は、「三菱長期総合ローン」契約及び「マイカードビック」契約について、融資申込書に署名捺印をしたが、「三菱長期総合ローン」契約の申込書には、借入利息が年7.9パーセント、年間返済額が四〇三万円、借入期間が一〇年、返済資金は保険解約返戻金と記載され、「マイカードビック」契約の融資申込書には、借入利息が9.4パーセントと記載されていた。この契約の際、原告は、借入金を自己資産で返済する事態が到来することは全く考えておらず、小松も、原告がそのような認識でいることを承知していた。

5  同年五月二九日、原告は、借入利息年八パーセント(変動金利)の約定でローン契約を、借入利息年8.4パーセント(変動金利)の約定でマイカード契約を締結し、被告ダイヤモンド保証との間で保証委託契約及び根抵当権設定契約を締結し、瑞及び景子が被告ダイヤモンド保証に対し原告の連帯保証人となった。

6  同月三〇日、原告は、被告日生との間で、瑞を被保険者として死亡保険金五〇〇〇万円、保険料二五四四万六〇〇〇円の変額保険及び景子を被保険者として死亡保険金八〇〇〇万円、保険料一九九八万九六〇〇円の変額保険契約をそれぞれ締結した。

二1  前記一、2の認定に関し、被告日生は、小泉は、原告に対し、変額保険の運用実績が銀行の借入利息を一パーセント上回るとは言っていないと主張し、証人小泉もこれに副った供述をするが、証人瑞は、小泉が変額保険の運用実績が銀行の借入利息を一パーセント上回るから銀行からの借入利息も変額保険の運用益で賄えると説明した旨供述しており、小泉自身、勧誘当時の銀行の借入利息がどの程度の利率であったか明確には認識していないものの、本件のように銀行から保険料を全額借り入れて変額保険に加入する場合には、変額保険の運用実績は、長期的には銀行の借入利息を上回っていないといけないと考えていたとも供述しているのだから、小泉は、勧誘当時は、変額保険の運用実績は銀行の借入利息を上回っており、今後も上回ると考えていたと推認され、そうだとすると、瑞が供述するように、原告らに対して、変額保険の運用実績は銀行の借入利息を一パーセント上回っており、今後も一パーセントは上回るはずであるから銀行の借入利息も変額保険の運用益で賄うことができる旨の推測を述べたものと認めるのが相当である。

他方、原告は、小泉は、勧誘当時、運用実績が九パーセントであると断言した旨主張し、証人瑞もこれに副った供述をするが、小泉は、過去には三〇パーセントを超える運用実績があったが、その後、それが一四パーセント程度となり、直近の運用実績では、昭和六三年七月当時の契約締結後一年経過時の運用実績が7.4パーセントであることを知っていたのであるから、証人小泉の供述に照らし、証人瑞の右の供述は信用できない。

2  また、前記一、4の認定に関し、原告は、本件融資契約締結に当たって、小松から融資契約の内容について説明を受けていない旨主張し、瑞もそれに副った供述をするが、証人小松は、本件融資契約の内容について説明した旨供述し、その供述は、具体的で自然なものであるから、これに反する瑞の右供述も採用できない。

三  被告日生に対する請求について

1 前記一、3の認定のとおり、原告が、銀行から保険料を借り入れて変額保険に加入したのは、原告死亡時には、銀行からの借入で相続財産を圧縮し、相続税を減らすとともに、勧誘当時の変額保険の運用実績は一桁台はあり、それが銀行の借入利息を上回っているのだから、将来も変額保険の運用実績は銀行の借入利息よりも上回る見込みが強く、変額保険の運用益で本件融資契約の借入利息の支払ができると認識したためであると認められる。

しかし、右の本件変額保険締結の当時、実際には、被告日生の変額保険の運用実績(契約締結後一年経過時におけるもの)は、既に平成二年九月ころからマイナス運用が続いており、銀行の借入利息を下回るにとどまらず、特別勘定の運用資産が減少し、将来の予測としても、変額保険の運用益がプラスに転じ、かつ、本件融資契約の借入利息の支払を上回ることを見込むことは著しく困難な状況にあったことが認められる。

そして、本件変額保険契約及び本件融資契約の目的が、原告の相続税対策としては、負債を増やすことにも意義があったとはいえ、証人小泉が、長期的に見て運用実績が銀行利息より上回っていることが必要であると考えていたと証言するとおり、将来にわたり、借入期間が長引けば長引くほど負債が年々増大し、かつ、複利で拡大していくことになり、変額保険の保険金が支払われても埋めきれない多額の負債が残る結果となるのであれば、原告が、変額保険に加入する意味がなくなることは、勧誘した小泉及び原告の共通した認識であったと認められる。このように、原告が、小泉から「変額保険の運用益で銀行の借入利息が賄える」という説明を受けて、変額保険の運用益で銀行の借入利息を支払うことができるとの認識をもって本件変額保険契約を締結した経緯と小泉及び原告の右のような共通の認識から判断すると、原告は、小泉に対し、原告が本件変額保険契約を締結するのは、変額保険の運用益で銀行の借入利息を支払うことができると考えたからであるとのその契約締結の重要な動機を表示したものであり、かつ、小泉もかかる原告の動機の表示を認識して契約締結手続を進めたものと認めるのが相当であり、そうすると、本件変額保険契約の当時、被告日生の変額保険の運用実績が前記認定のようなマイナス運用が続いており銀行借入利息の利率を上回ることを見込むことが著しく困難な状況にあった以上、原告には、本件変額保険契約の要素について錯誤があったといわなければならない。

2 そして、前記一、2のとおり、たとえ、小泉が変額保険はハイリスク・ハイリターンであるなど変額保険の危険性についてとおり一遍の説明をし、原告らに交付したパンフレット、設計書及び「ご契約のしおり」には、変額保険の保険料の運用対象が株式や公社債等の有価証券を主体とし、解約返戻金には最低保証がなく、株価の低下や為替変動により払込保険料より低額になることがある旨が記載されており、また、小泉が、将来の運用実績については自分で判断してほしいと瑞に答えているとはいっても、小泉自身が、全体としては、前記のとおり、運用実績はプラスの一桁台であって、銀行の借入利息よりも一パーセントは上回っており、将来にわたっても一パーセントは上回るだろうと小泉なりに確信をもって説明しており、しかも、小泉が変額保険の当時の運用実績はマイナス運用で銀行の借入利息をかなり下回っていた事実について全く調査の必要も感じておらず、その誤った事実認識を実際に原告らに対し告知し、説明したと認められるから、このような説明を聞いて将来についても運用益が銀行借入利息を上回るとの見込みをもって本件変額保険契約を締結した原告には、重大な過失があったとまでは認められない。

したがって、本件変額保険締結は、要素の錯誤により無効であり、被告日生は、原告に対し、その受領した保険料合計四五四三万五六〇〇円を返還すべき義務がある。

なお、原告は、遅延損害金について契約日から請求しているが、被告日生の返還時期の定めはなく、原告から返還の催促を受けたときから遅延になるから、訴状送達の日の翌日から認められる。

3 原告は、被告日生の説明義務違反によって、本件変額保険及び本件融資契約を締結し、被告三菱から支払の督促をされ、弁護士に依頼して訴訟を提起せざるを得なかったとして、被告日生に対しても、原告の精神的苦痛に対する慰謝料及び弁護士費用を請求する。しかし、原告は、前記一、4のとおり、小松から、被告日生の変額保険と被告三菱との融資契約は連結していない旨の説明を受け、本件融資契約の内容の説明を受けた上でその契約を締結しているのであるから、原告が、被告三菱から支払の督促をされ、弁護士に依頼して訴訟を提起せざるを得なかったとしても、その精神的苦痛及び弁護士費用は、被告日生の説明義務違反との間には、相当因果関係があるとは認められない。

したがって、この点についての原告の請求には理由がない。

四  被告三菱及び被告ダイヤモンド保証に対する請求について

1  原告は、被告日生と被告三菱が、変額保険を共同して販売したと主張するが、本件全証拠によっても、右主張のような共同関係を認めるには至らない。

2 このように、被告日生と被告三菱の共同関係が認められないことに加え、前記一、4のとおり、小松が原告と会ったのは、原告が小泉らの勧誘によって変額保険に加入することを決めた後であるから、小松には、融資契約の締結に当たり、変額保険の危険性を原告に説明すべき義務又は原告らが変額保険の危険性を認識しているか否かを確認すべき義務を負っていたとは到底認められない。

また、前記のとおり、原告は、小松から、本件変額保険契約と本件融資契約が連結していない旨の説明を受け、本件融資契約の内容の説明を受けた上でその契約を締結しているのであるから、原告に、本件融資契約の要素について錯誤があったとも認められないし、被告三菱が原告を欺罔したとも認められない。被告三菱に債務不履行又は不法行為の責任を生ぜしめるべき信義則上の説明義務の違反事実も認められない。

3  したがって、原告の被告三菱及び被告ダイヤモンド保証に対する請求には、いずれも理由がない。

五  以上の次第で、原告の被告日生に対する請求は、前記認定の保険料合計金四五四三万五六〇〇円の返還及び右金員に対する本件訴状送達の日の翌日である平成六年二月二五日から支払済みまで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求には理由がないからこれを棄却し、被告三菱及び被告ダイヤモンド保証に対する請求にはいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官雛形要松 裁判官永野圧彦 裁判官真鍋美穂子)

別紙〈省略〉

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