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東京地方裁判所 平成6年(ワ)13841号 判決

原告(反訴被告)

ジェイアール東海労働組合

右代表者中央執行委員長

堀拓二

原告(反訴被告)

ジェイアール東海労働組合

新幹線地方本部

右代表者執行委員長

伊藤勝

右両名訴訟代理人弁護士

水嶋晃

寺崎昭義

武田博孝

水永誠二

町田正男

林千春

西澤圭助

永見寿実

被告(反訴原告)

東海旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

須田寛

右訴訟代理人弁護士

中町誠

中山慈夫

主文

一  原告(反訴被告)らの本訴請求をいずれも棄却する。

二  原告(反訴被告)らは被告(反訴原告)に対し、別紙物件目録二記載の建物部分を明渡し、かつ、連帯して平成六年六月二四日から右明渡済みまで一か月金七万九五〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じて原告(反訴被告)らの負担とする。

四  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴

1  原告(反訴被告)らは、別紙物件目録二記載の建物部分(以下「本件事務所」という。)を占有使用する権利を有することを確認する。

2  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)らが本件事務所を占有使用することを妨害してはならない。

二  反訴

主文第二項と同旨。

第二  事案の概要

本件は、被告(反訴原告。以下「被告」という。)から本件事務所の便宜供与を受けていた原告(反訴被告)ジェイアール東海労働組合(以下「原告組合」という。)及びその下部組織である原告(反訴被告)ジェイアール東海労働組合新幹線地方本部(以下「原告新幹線地本」という。)が、被告による便宜供与の解除は権利の濫用で無効であるなどと主張して、占有使用権の確認と妨害排除を求めている(本訴)のに対し、被告が原告らに対して、所有権等に基づき、本件事務所の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めている(反訴)事案である。

一  争いのない事実等(証拠によって認定した事実は、末尾括弧内に証拠を摘示した。)

1  当事者

被告は、昭和六二年四月一日、いわゆる国鉄の分割民営化に伴い、東海道新幹線及び名古屋、静岡など東海地方の在来線の旅客鉄道輸送等を営むことを目的として設立された株式会社であり、肩書地に本社及び東海鉄道事業本部、東京都に新幹線事業本部(以下「新幹線鉄事」という。)、静岡市、大阪市に支社、津市、長野県飯田市に支店をそれぞれ置き、社員数は約二万二八〇〇名であり、本件事務所のある別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。

原告組合は、平成三年八月一一日、東海旅客鉄道労働組合(以下「JR東海労組」という。)に所属していた組合員のうち約一三〇〇名によって結成された労働組合であり、原告新幹線地本は、同月二五日、原告組合の下部組織である地方本部の一つとして、東海道新幹線関連業務に従事する社員らによって結成された労働組合である(甲第一〇号証、証人伊林敏及び同田中栄六の各証言)。

2  本件事務所の便宜供与

(一) 原告組合は、平成三年八月三〇日、被告との間で労働協約(以下「本件協約」という。)を締結したが、組合事務所の便宜供与に関する二二五条には、原告組合は、組合事務所として被告の建物を使用する場合は、被告に申し出、許可を得なければならないこと(一項)、前項の申し出は、被告が別に定める様式の書面で行うこととし、期間は三年を限度とする(ただし、更新を妨げない。)こと(二項)、原告組合が、被告が許可に際して付した遵守事項に違反した場合には、被告はその使用の許可を取り消すことができること(三項)、第一項に定める建物の使用にあたっては、原則としてその建物に課せられる公租公課相当額を負担するもの(四項)と規定されている。

(二) 原告新幹線地本は、平成四年一〇月三〇日、新幹線鉄事から使用目的を原告組合中央本部及び原告新幹線地本の組合事務所とし、期間を同年一一月一日から平成五年三月三一日までとする本件事務所の使用許可(便宜供与)を受けた(なお、契約当事者については、後記のとおり争いがある。)が、その許可条件一二条には、被告が本件事務所を事業の用に供する必要が生じたとき(一号)、原告新幹線地本が許可条項に違反したとき(二号)、その他原告新幹線地本の不信行為等継続して許可することを困難ならしめる事情が生じたとき(三号)には、許可期間中であっても直ちに許可の全部又は一部を解除できるものと規定されている。

また、原告新幹線地本と新幹線鉄事は、平成四年一一月一日、本件事務所の便宜供与に関し、原告新幹線地本は、被告が使用を許可している建物スペース以外は使用しないこと(一項)、原告新幹線地本は、本件事務所及びその周辺建物において、被告に無断で改修等を行わないこと(二項)、原告新幹線地本が、万一、前各項に違反した場合は、被告は本件事務所にかかる使用許可を直ちに解除すること(三項)、東海道新幹線品川新駅関連の工事に伴い、本件事務所を明け渡す必要が生じた場合は、被告は可能な限り早期にその旨を原告新幹線地本に通知し、使用許可の解除期日を指定すること、原告新幹線地本は、必ず指定日までに本件事務所の明け渡しを行うこと(四項)とする同年一〇月三〇日付け覚書(以下「本件覚書」という。)を交わした。

(三) その後、本件事務所の便宜供与については、平成五年四月一日以降六か月毎に更新され、最終的に平成六年四月一日付けで期間を同日から同年九月三〇日までとする使用許可がなされた。

3  原告らの使用状況

被告は、平成六年五月一三日、本件事務所を調査したところ、本件事務所の通路に布団袋等や物置が置かれ、本件建物のうち本件事務所と同じ階にある別紙図面のうちA部屋(約一三平方メートル。以下「A部屋」という。)には、床に畳が敷かれ、畳の上に机を置き、壁にはハンガーにネクタイ等が掛けられており、同図面のうち本件事務所に隣接するB部屋(約五四平方メートル。以下「B部屋」という。)には、入口扉に檄布が貼られ、入口付近には電気炊飯器、電気ポット等が置かれ、南側にはロッカー、布団袋、段ボール箱等が置かれ、中央付近には洗濯物が干してあったり、灯油の入ったポリタンクやテレビ、ビデオが置かれ、北側にはテーブルが「ロ」の字型に並べられ、その回りにはパイプ椅子が並べられ、その奥にはパソコン、書籍、資料、石油ストーブなどが置かれ、壁には同年三月から六月までのカレンダーが貼ってあり、窓は厚手のカーテンで覆われ、遮光されているなど、原告らが被告の許可を受けずにA部屋及びB部屋を使用していたことが判明した(乙第五ないし第七号証、証人小林清、同伊林敏及び同田中栄六の各証言)。

4  本件事務所の便宜供与の解除

新幹線鉄事は、同月二四日、原告新幹線地本に対し、本件事務所以外の本件建物の区画を無断で使用したことを理由に本件事務所の便宜供与を解除する旨の意思表示を行い(以下「本件解除」という。)、三〇日以内(同年六月二三日まで)に本件事務所を原状に復して被告に返還するよう通告した。

5  原告らは、平成六年六月二四日以降も本件事務所を占有している。

二  争点

1  本件事務所の便宜供与の契約当事者

(原告らの主張)

(一) 本件事務所の便宜供与の契約当事者は、形式的には原告新幹線地本のみであるが、実質的な当事者は原告組合及び原告新幹線地本の二組合である。

(二) よって、原告らは、本件事務所の便宜供与に基づき、本件事務所の占有使用権の確認を求めるとともに、被告に対し、原告らの占有使用の妨害排除を求める。

(被告の主張)

本件事務所の便宜供与の契約当事者は、被告と原告新幹線地本であり、原告組合は独自の使用権を取得した者ではなく、原告新幹線地本の使用権に基づき本件事務所の使用を許されているに過ぎない。

2  本件解除の有効性

(被告の主張)

(一) 原告らのA部屋及びB部屋の無断使用は極めて悪質かつ違法なものであり、労使間の信頼関係を一方的かつ根底から覆すものであった。そこで、被告は、原告らの無断使用が本件覚書、便宜供与の許可条件及び本件協約に定める各条項に違反するとして本件解除に及んだのであり、本件解除は有効である。

(二) 本件事務所の賃料相当額は、平成六年六月二四日以降一か月金七万九五〇〇円を下らない。

(三) よって、被告は、原告組合に対しては所有権に基づき、原告新幹線地本に対しては便宜供与の解除に基づき、本件事務所の明渡し及び賃料相当損害金の連帯支払を求める。

(原告らの主張)

原告らの無断使用はごく軽微なものであるのに対し、被告には本件事務所を含めて本件建物を利用すべき業務上の必要性が全く存在せず、原告らは被告に対し、A部屋及びB部屋の無断使用の事実を認めて物品類を撤去し、被告がA部屋及びB部屋を封鎖したことにより原告らの無断使用状況は解消したこと、しかしながら、被告は、高輪警察署に被害届を提出して刑事事件にしつつ本件解除を行ってきたこと、その後の原告らの再三再四にわたる団体交渉の申し入れに対しても被告はこれに応じない不誠実な態度をとっていることからすれば、本件解除は、原告らの組合活動の拠点を奪い、組合を破壊する意図のもとになされた不当労働行為であり、権利の濫用として無効というべきである。

3  期間満了による明渡請求の可否

(被告の主張)

(一) 仮に、本件解除が無効であるとしても、本件事務所の便宜供与は平成六年九月三〇日の期間満了をもって終了した。

(二) よって、被告は原告新幹線地本に対し、予備的に便宜供与の期間満了に基づき、本件事務所の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める。

(原告らの主張)

本件事務所の便宜供与は、その性質上、民法の使用貸借に関する規定の適用はないと解すべきであり、仮にその適用又は準用があるとしても、原告らと被告は、平成五年四月一日以降六か月毎に便宜供与を更新してきており、右2で述べた事情及び被告が本件解除をしなければ平成六年一〇月一日以降も便宜供与が更新されるはずであったことを考慮すれば、期間満了を理由とする被告の明渡請求は権利の濫用であり、許されないというべきである。

第三  争点に対する判断

一  本件事務所の便宜供与の契約当事者(争点1)について

1  乙第一号証の二、第二号証の一ないし四、第三号証の一ないし四、第五、第一八号証、証人小林清、同伊林敏及び同田中栄六の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件協約は被告と原告組合が当事者ではあるが、下部組織である原告新幹線地本に対しても適用されるものであること、被告における労働組合の対応窓口は、従前から原告組合は本社、原告新幹線地本は新幹線鉄事とされていたこと、規定上、組合事務所としての会社の施設の使用許可申請は所属長に対して行うものとされ(労働関係事務取扱細則五条)、本件事務所については所属長である新幹線鉄道事業本部長に対して行うものとされていたこと、便宜供与に至る経緯については、当初原告組合は被告の本社に対して申し入れたが、被告が東京都内で有する施設は新幹線鉄事が管理していたことから、被告の指示によりこれに対応して、原告新幹線地本が新幹線鉄事に対して、同原告及び原告組合中央本部の各組合事務所の便宜供与を申し入れて候補場所の選定に入り、結局本件事務所に決定したこと、本件事務所の使用許可願は原告新幹線地本が提出し、これに対応して新幹線鉄事から出された使用許可書も原告新幹線地本あてに出されており、本件覚書も原告新幹線地本と新幹線鉄事との間で交わされていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定の事実によれば、本件事務所は、原告新幹線地本及び原告組合中央本部の各組合事務所として使用する目的で便宜供与されたものであるが、契約上は被告と原告新幹線地本が当事者として締結したものであって、原告組合は契約当事者として本件事務所を直接使用占有する権利を取得したものではなく、原告新幹線地本の使用占有権に基づき、本件事務所の使用を許されているに過ぎない関係であると認められる。

二  本件解除の有効性(争点2)について

1 本件覚書一項、便宜供与の許可条件一二条三号及び本件協約二二五条三項によれば、原告らが使用を許可されている以外の部分を使用した場合には、被告において便宜供与を解除することができると規定されているところ、前記争いのない事実等記載のとおり、原告らは使用を許可された以外の部分を使用していたのであるから、右各条項の文言上、解除が可能な場合に該当することは明らかである。

2  そこで、原告らは、本件解除は不当労働行為であり、権利の濫用として無効であると主張するところ、証人小林清、同伊林敏及び同田中栄六の各証言によれば、本件解除の当時、被告において本件事務所を含めて本件建物を現実に利用する計画は有していなかったこと、無断使用が発覚した後、原告らは被告の求めに応じてA部屋及びB部屋の使用を認める書面を被告に提出し、各部屋内にあった物品類を全て撤去したこと、被告は高輪警察署に対して被害届を提出し、本件解除に先立つ平成六年五月二三日、同警察署が被疑者不詳、建造物侵入の容疑でA部屋及びB部屋を家宅捜索したことが認められる。

しかしながら、前記争いのない事実等、乙第八号証、証人小林清、同伊林敏及び同田中栄六の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは、遅くとも平成六年二月ないし三月から施錠されていたA部屋及びB部屋を被告に無断で常時使用していたこと、しかも、使用の態様は、単に本件事務所に収納しきれない荷物を一時的に置いていたというにとどまらず、テーブルや椅子を持ち込んで会議を行ったり、果ては床に畳を敷いて組合員が寝泊まりしていたことが窺われるなどの状況にあったこと、無断使用していたA部屋及びB部屋の面積も便宜供与された本件事務所の面積の約2.5倍にあたること、入口扉に檄布を貼ったり、窓を厚手のカーテンで覆い遮光するなど、無断使用の事実を被告に知られないための方策を講じていたと窺われること、無断使用発覚後、被告から無断使用の自認書の提出を求められた原告らは、右各部屋の使用を認める書面を提出して物品類を撤去したものの、その使用が無断であることを書面化することは一貫して拒んだのみならず、却って、同書面に「会社が二部屋の使用に関し一度の『警告』もしない中で一方的に封印をしたということは社会通念から逸脱しています。」と記載するなど、被告の対応を非難さえしていることが認められる。また、本件解除の撤回について被告が団体交渉に応じないとする原告らの主張については、本件解除の撤回が原告らと被告との間の団体交渉事項に含まれるとは解されない上、被告は平成六年六月一日及び九日に原告らに対して被告の考えを説明しているし、また、同月二三日に労使双方で構成される業務委員会でも本件解除の撤回に関する協議をしたことが認められる(乙第一号証の二、証人小林清の証言及び弁論の全趣旨)から、被告がこの問題についてことさら不誠実な態度をとっていたということはできない。

ところで、原告らは、本件解除は、原告らの組合活動の拠点を奪い、原告らを崩壊させる目的でなされた不当労働行為である旨主張し、その理由として、被告の経営陣がJR東海労組を御用組合化すべく、これに反対した当時の佐藤政雄執行委員長ら佐藤派を排除するためのシナリオを用意する等、数々の策を弄して佐藤派を排除し、その後、佐藤派で結成された原告らに対しても、組合掲示板への介入や脱退慫慂、新幹線運転士の不当配転などの不当労働行為を行い、原告らを敵視していたことをあげている。なるほど、原告らが主張するシナリオが記載されているとする甲第一二号証の存在のほか、甲第一〇、第一一、第一三ないし第一七号証、証人伊林敏及び同田中栄六の各証言によれば、原告らは平成三年九月以降、被告を相手方として不当労働行為の救済申立てを行い、東京都及び静岡県の各地方労働委員会では原告らの救済申立てを認める命令が発せられたこと、また、原告らは平成四年五月以降、東京、大阪の各地方裁判所に対して訴訟の提起や仮処分の申立てを行い、大阪地方裁判所では配転命令の効力停止を命じる仮処分決定がなされたことが認められる。しかしながら、これらの事実から直ちに、被告が原告らを嫌悪し、組合活動の拠点を潰すことを意図して本件解除を行ったと認めることは困難であり、他に本件解除が不当労働行為にあたることを認めるに足りる証拠はない。

右に検討した諸事情を総合すれば、原告らのA部屋及びB部屋の無断使用の態様及び発覚後の対応は、労使間の信頼関係を著しく損ねるものであるといわざるを得ず、被告が当時本件事務所を現実に利用する計画を有していなかったことや原告らが空き部屋の使用を認める書面を提出して物品類を撤去したこと、さらには被告が被害届を提出し、本件解除前に警察が家宅捜索を実施したことなどを考慮しても、本件事務所の便宜供与の解除が権利の濫用にあたり、無効であるということはできない。

三  賃料相当損害金について

原告らが平成六年六月二四日以降も本件事務所を占有していることは争いがなく、乙第二〇号証及び証人小林清の証言によれば、当時の本件事務所の賃料相当額は一か月金七万九五〇〇円を下らないことが認められるから、原告らは被告に対し、右同日から本件事務所の明渡済みまで連帯して一か月金七万九六〇〇円の賃料相当損害金を支払う義務がある。

四  結論

以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、被告の反訴請求はいずれも理由があるから認容して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官萩尾保繁 裁判官片田信宏 裁判官島岡大雄)

別紙物件目録〈省略〉

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