大判例

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東京地方裁判所 平成6年(ワ)18525号 判決

原告

マック・ビジネス株式会社

右代表者代表取締役

岩永達也

右訴訟代理人弁護士

加藤克朗

被告

孝商株式会社

右代表者代表取締役

田島孝之

被告

田島孝之

右両名訴訟代理人弁護士

高木茂

山下善久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載一の建物(以下「本件建物」という)を明渡し、かつ平成六年一月一日から右明渡し済みまで一か月金一五万円の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載四の工作物(以下「本件工作物」という)を収去せよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

二 請求の原因

1  建物賃借権に基づく明渡請求

(一)  (賃借権の設定)

訴外日本ソフト開発株式会社(以下「日本ソフト」という)は、本件建物を所有しているところ、原告は、平成四年二月一二日に、日本ソフトとの間で、本件建物について、同日設定の根抵当権の確定債権の債務不履行を条件として、条件付賃貸借契約を締結し、同年一一月一一日にその仮登記を得た。

(二)  (賃借権の登記)

平成五年一〇月ころ、(一)の条件が成就し、原告は、(一)の賃借権につき本登記を得た。

(三)  (被告らの占有)

被告らは、平成五年一一月末ころから一二月初めにかけて、本件建物に入り、これを占有している。

2  土地賃借権に基づく工作物収去請求

(一)  (賃借権の設定)

原告は、平成四年二月一二日、日本ソフトから、日本ソフト所有の別紙物件目録記載二の土地(以下「本件工作物敷地」という)を1(一)と同様の条件で賃借し、同様に仮登記を得た。

(二)  (賃借権の登記)

その後、1(二)と同様に条件が成就し、原告は、右2(一)の賃借権について、本登記を得た。

(三)  (工作物の設定による土地の占有)

ところが、被告らは、平成五年一二月末ころ、本件工作物敷地に本件工作物を半ばまで建築し、右土地部分を占有している。

3  (請求の法律上の根拠)

原告は、日本ソフトに融資する際に、日本ソフトに対し、本件建物(なお、その敷地が別紙物件目録記載三の土地である。)及び本件工作物敷地について、1(一)及び2(一)記載の根抵当権を設定させた上、被告らの如き者の登場を防止しようとして併せて条件付賃借権の設定を受け、その仮登記を得た。

本件建物、その敷地及び本件工作物敷地は現在競売中であるが、被告らによる賃借の外形があるために、原告は、金二億円から金三億円の被害を受けようとしている。

4  よって、原告は、被告らに対し、本件建物及び本件工作物敷地の対抗力ある賃借権に基づく妨害排除請求として、本件建物の明渡しおよび明渡し済みまでの賃料相当損害金(一か月金一五万円)並びに本件工作物敷地上の本件工作物の収去を求める。

二 請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(一)の事実のうち、日本ソフトが本件建物を所有していることは認め、その余は不知。

同項(二)の事実のうち、原告が本件建物の賃借権について本登記を得ていることは認め、その余は不知。

同項(三)の事実は認める。

2  同2項(一)の事実のうち、日本ソフトが本件工作物敷地を所有していることは認め、その余は不知。

同項(二)のうち、原告が本件工作物敷地の賃借権について本登記を得ていることは認め、その余は不知。

同項(三)の事実は認める。ただし、本件工作物が未完成であるとの点は否認する。本件工作物は完成している。

3  同3項は争う。

原告の賃借権は、抵当権と併用され、債権担保のみを目的としたものであるから、本登記を経由しても、妨害排除請求権は発生しない。

なお、本件建物は、訴外池崎真(以下「池崎」という)が、平成五年一〇月二六日に日本ソフトから賃借し、さらに、被告孝商株式会社(以下「被告会社」という)が、同日、右池崎から右賃借権を譲り受け、同年一一月末ころから占有している。被告会社の代表者である被告田島は、本件建物を住居として使用しているものである。

4  同4項は争う(賃料相当損害金の額は不知。)。

第三  証拠関係は本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の賃借権の目的

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第五、第六号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立がともに認められる甲第二号証から第四号証、成立に争いのない甲第一〇号証及び第一一号証によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、平成四年二月一二日に日本ソフトと取引約定書を取交し、日本ソフトに対し金八億円及び金一億七〇〇〇万円を貸し付け、これを担保するために日本ソフト所有の本件建物、本件建物の敷地及び本件工作物敷地の三個の不動産に極度額を金九億六〇〇〇万円と金二億〇四〇〇万円とする二個の根抵当権を設定した(日本ソフトが右三個の不動産の所有者であることは争いがない。)。

(二)  さらに、原告は、日本ソフトとの間で、右同日、右三個の不動産につき、右根抵当権の確定債権の債務不履行を条件とする賃借権を設定し、同年一一月一一日その旨の条件付賃借権設定仮登記をし、同月二日ころの条件成就を理由に平成六年一月一三日右条件付賃借権仮登記の本登記をした(原告が右賃借権の本登記をしていることは争いがない。)。

2  以上のように、原告は、貸金債権を担保するために債務者所有の不動産に根抵当権を設定させ、それと同時に根底当権の確定債権の債務不履行を条件として同一不動産に賃借権を設定させたものである。このことと弁論の全趣旨によれば、右賃借権は、抵当権と併用されたいわゆる併用賃借権であり、抵当権の執行保全を目的として、専ら後順位の短期賃貸借を排斥せんがために設定されたものということができる。現に、被告らが本件建物を占有し、本件工作物敷地に本件工作物を設けていること(争いがない)からすると、原告の本件建物及び本件工作物敷地部分についての賃借権は、原告自らが用益する目的のものではないと認められる。

二  被告の賃借権の性格

1  前掲甲第一、第一〇、第一一号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第九号証、日本ソフト作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分につき弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一号証、成立に争いのない乙第二、第三、第五、第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証によれば、訴外池崎が、平成五年一〇月二六日に、日本ソフトに対し、金一二〇〇万円を貸し付け、同日、その担保として、日本ソフトから本件建物につき期間三年、本件工作物敷地につき期間五年(但し、登記上の期間は三年)としてこれらを賃借し、同日被告会社に対して右賃借権を譲渡したこと、ついで、被告会社が、同年一一月三〇日に、右賃借権について、賃借権設定仮登記手続きを経ていることが認められる。

2  以上からすると、被告会社の賃借権は、当初は池崎の日本ソフトに対する貸金の担保として設定されたものであり、これを譲り受けた被告らが主として用益的理由に基づいて占有しているとまではうかがわれない。

三  併用賃借権と妨害排除請求

1  前記一のとおり、本件建物及び本件工作物敷地についての原告の賃借権は、債権担保のための抵当権と併用され、後順位の短期賃借権者の出現を防止しようとする目的で設定されたものであり、目的物に対する実質的な利用を目的をするものではない。

2  ところで、民法三九五条は、債権を保全するために抵当権が設定された不動産について、債務者に対し右不動産を短期間賃貸する権能を是認し、併せて右賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときは債権者に対し裁判所にその解除を申立てる権能を認め、もって、担保権と用益権の利用の調和を図ることとしている。

このような立法政策の当否については、さまざまな意見もあるが、最高裁平成元年六月五日第二小法廷判決(民集四三巻六号三五五頁)は、現行法の右のいわば調和主義ともいうべき立法政策を是認し、抵当権と併用された賃借権設定予約契約とその仮登記は、抵当不動産の用益を目的とする真正な賃借権ということはできず、単に賃借権の仮登記という外形を具備することにより第三者の短期賃借権の出現を事実上防止しようとの意図のもとになされたものにすぎないというべきであるから、予約完結権を行使して賃借権の本登記を経由しても、対抗要件を具備した後順位の短期賃借権を排除する効力は認められない、旨を判示している。

したがって、併用賃借権の設定を合意することによって、一律に機械的に後順位賃借権者はもとより権限のない占有者を排除しようとすることは、調和主義と相容れないものであって許されないといわざるを得ない。抵当権者は、民法三九五条但書の解除請求または所有権に基づく妨害排除請求の代位行使等によって後順位賃借権者及び無権限占有者を排除するのが法の予定するところといわなければならない。また、占有権限がないと認められる者に対しては、民事執行法八三条の引渡命令によって、対処することもできると解される。

それらに加え、抵当権それ自体によって妨害排除請求をすることができれば、債権者は右請求または後順位賃貸借に対する解除請求で目的を達成することができるが、その当否に関する実務の運用が必ずしも一義的でない。したがって、抵当権者は、後順位占有者等に対し一律機械的に対処することがなお困難なこともあり、競売が思うように進まず、競売代金が廉価となって、債権回収の実効を簡易迅速に上げられないこともあるかもしれないが、それは、運用が一定のものとなる状態が達成されるまでの間のやむを得ないことといわなければならない。

3  よって、いずれにしても本件建物及び本件工作物敷地についての原告の賃借権により、被告らに対し、本件建物の明渡し及び本件工作物の収去を求めることは認められないといわざるを得ない。

三  結論

以上のとおり、原告の請求は失当であるといわざるを得ないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官岡光民雄)

別紙物件目録〈省略〉

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