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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)196号 判決

東京都世田谷区深沢六丁目一七番九号

原告

小島梅吉

原告訴訟代理人弁護士

原希世巳

小松雅彦

東京都世田谷区玉川二丁目一番七号

被告

玉川税務署長 阿部武夫

被告指定代理人

植垣勝裕

吉越満男

田部井敏雄

北川侑司

神谷信茂

笹崎好一郎

日野原浩

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成五年一月一九日付けでした原告の平成元年分から平成三年分の所得税に対する各更正のうち別表一の1ないし3の各確定申告欄に記載する総所得金額及び所得税額を超える部分並びに同表記載の各年分の各過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、造園業を営む白色申告書である原告が、平成元年分から平成三年分まで(以下「本件各係争年分」という。)の所得税について確定申告をしたところ、被告が、原告の事業所得について、取引先に対する調査をしてその収入金額を把握し、同業者の収入金額に対する所得金額の比率を用いてその所得金額を推計した上、更正及び過少申告加算税賦課決定を行ったことから、被告の税務調査は違法であり、推計の必要性も合理性もないし、被告が推計により算出した事業所得の金額は原告の実際の所得金額を上回っているとして、右各更正及び過少申告加算税賦課決定の取消し求めている事案である。

二  課税処分の経緯等(争いのない事実)

1  税務調査の経緯

(一) 原告は、頭書肩書地において、造園業を営む個人事業者である。

(二) 原告は、本件各係争年分の確定申告書について、所得金額の計算欄に、専従者控除額及び事業所得の金額を記載したものの、収入金額及び必要経費の額を記載せず、また、所得税法一二〇条四項所定の事業所得に係る収支内訳書の添付をしないで、それぞれ申告期限内に提出した。そのため、右確定申告書からは、事業所得の金額を計算した根拠は不明であった。

(三) 被告所部の斉内利光国税調査官(以下「斉内係官」という。)は、平成四年七月二八日午前一一時三〇分ころ、原告宅を訪れ、原告の妻小島春江(以下「春江」という。)に対し、身分証明書を提示しながら、所属、氏名を名乗り、原告の本件各係争年分の所得金額を確認するための調査(以下「本件調査」という。)に来た旨を告げたところ、春江は、原告が仕事で不在である旨を答えるとともに、事業内容及び記帳している帳簿についての質問に対して、自分が記帳しているが、突然なので今日は困るなどと答えるだけであった。そこで、同係官は、春江に対し、改めて調査のために来訪するので原告の都合を電話で連絡してくれるように依頼し、原告宅を辞去した。

(四) 春江は、平成四年七月三〇日午後四時一五分ころ、斉内係官に電話をして、同年八月二〇日午前一〇時から正午ころまでの時間なら都合がよいことを伝えた。

(五) 斉内係官は、平成四年八月二〇日午前一〇時ころ、原告宅を訪れ、春江に案内されて一階の部屋へ入室したところ、民主商工会の藤井と名乗る男性(以下「藤井」という。)及び春江の友人の女性が既に待機していたものの、原告は不在であり、春江の説明によれば、原告は急用のため出掛けてしまったとのことであった(なお、右訪問日については、第三、一、(三)において検討する。)。

同係官は、春江に対し、改めて原告の本件各係争年分の所得金額を確認するための調査に来た旨を告げ、公務員に課せられた守秘義務との関係上、第三者の立会いの下で税務調査を行うことはできないし、税理士資格のない者が税務調査に立ち会うことは税理士法に抵触するおそれがある旨を告げ、立会人を退席させた上で調査に協力するよう再三にわたり要請した。これに対し、春江は、同係官に対し、自分から立会いを頼んだとして立会人の退席を拒否した上、原告から申告のどこがどうおかしいのかを聞いておくように言われたことを話したり、領収証がない現場経費や雑費などが必要経費として認められるかどうか聞いたりした。また、藤井は、同係官に対し、立会いや質問検査についての意見を述べて、立会いを認めるよう求めた(なお、その際の具体的な発言内容等については争いがある。)。

右のようなやり取りの後、同係官は、春江に対し、同年九月二日ころに改めて訪問する旨を告げて原告宅を辞去した。

(六) 斉内係官は、平成四年九月二日午前一〇時ころ、原告宅を訪れると、前回と同じ部屋に通されたが、そこには原告、春江及び藤井が待機していた。

同係官は、原告に対し、身分証明書を提示しながら、所属、氏名を名乗り、原告の本件各係争年分の所得金額を確認するための調査に来た旨を告げた上、第三者の立会いがあると公務員に課せられた守秘義務に抵触するおそれがあるので、調査を進めることができないことなどを告げ、藤井を退席させた上で帳簿書類を提示するよう再三にわたり要請した。しかし、原告は、立会人の退席を拒絶した。また、藤井は、同係官に対し、税務調査の対象に原告が選ばれた理由や第三者の立会いと税理士法との関係に関する質問をした。同日一一時ころ、原告は、調査については春江に任せる旨を告げ、仕事があるからといって退席した。

同係官は、春江に対し、藤井を退席させた上で帳簿書類を提示し、調査に協力するように要請したが、春江は藤井を退席させることを拒んだ。

同日午前一一時一五分ころ、同係官は、春江に対し、調査に応ずる気になったら同月四日までに連絡をしてくれるように伝え、原告宅を辞去した。

(七) 平成四年九月四日を過ぎても原告から斉内係官への連絡はなかった。その後、被告は、原告の取引先に対する調査を実施し、平成五年一月一九日付けで本件各係争年分についての課税処分を行った。

2  原告の本件各係争年分の各所得税の確定申告、課税処分及び不服申立ての経緯は、別表一の1ないし3のとおりである(以下、各年分の更正及び過少申告加算税賦課決定のそれぞれを総称して「本件各更正」及び「本件各賦課決定」といい、これをまとめて「本件課税処分」という。)。

三  本件課税処分の課税根拠についての被告の主張

1  本件各係争年分の所得金額及びその算出根拠

本件各係争年分の原告の事業所得の金額(総所得金額)及び納付すべき税額等は、別表二の1ないし3の各被告欄記載のとおりであり、その算出根拠は、以下のとおりである。

(一) 平成元年分について

(1) 総収入金額 二二九二万七四五八円

右金額は、原告の営む造園業に係る平成元年分の収入金額について、原告の取引先の調査により把握し得た金額であり、その内訳は別表三の1の平成元年分欄記載のとおりである。なお、これに対する原告の認否は別表三の2の同欄記載のとおりである。

(2) 比準同業者の平均特前所得率 四五・四三パーセント

右率は、原告の事業所のある世田谷区において、原告と同様に造園業を営み、かつ、その事業規模が原告の事業規模と類似する個人事業者から後記四、3、(一)、(2)記載の基準により抽出した者(以下「比準同業者」という。)の平成元年分の事業所得に係る総収入金額に対する特前所得金額(総収入金額から売上原価及び経費の額を控除して算定した青色申告特典控除前の所得金額をいう。以下同じ。)の割合(以下「特前所得率」という。)の平均値(ただし、小数点第五位以下四捨五入、以下同じ。)であり、その算出過程は別表四の1のとおりである。

(3) 事業専従者控除額控除前の所得金額 一〇四一万五九四四円

右金額は、右(1)の総収入金額に(2)の平均特前所得率を乗じて算出した金額である。

(4) 事業専従者控除額 一二七万円

右金額は、春江及び原告の長男小島一郎(以下「一郎」という。)に係る平成六年法律第一〇九号による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という。)五七条三項所定の事業専従者控除額の合計額である。

(5) 事業所得の金額 九一四万五九四四円

右金額は、右(3)の事業専従者控除額控除前の所得金額から右(4)の事業専従者控除額を差し引いた金額である。

(6) 所得控除の合計額 八五万七九四四円

右金額は、社会保険料控除の額四五万四九四四円、生命保険料控除の額五万円、損害保険料控除の額三〇〇〇円、基礎控除の額三五万円を合計した金額であり、原告が提出した確定申告書に記載された金額である。

(7) 課税総所得金額 八二八万八〇〇〇円

右金額は、右(5)の事業所得の金額から右(6)の所得控除の合計額を差し引いた金額である。

(8) 納付すべき税額 一五八万六四〇〇円

右税額は、右(7)の課税総所得金額に旧所得税法八九条一項を適用して算定した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)一一九条一項により百円未満の端数を切り捨てた後の金額、以下同じ。)である。

(二) 平成二年分について

(1) 総収入金額 二二〇三万三〇六〇円

右金額は、原告の営む造園業に係る平成二年分の収入金額について、原告の取引先の調査により把握し得た金額であり、その内訳は別表三の1の平成二年分欄記載のとおりである。なお、これに対する原告の認否は別表三の2の同欄記載のとおりである。

(2) 比準同業者の平均特前所得率 四九・九八パーセント

右率は、比準同業者の平成二年分の特前所得率の平均値であり、その算出過程は別表四の2のとおりである。

(3) 事業専従者控除額控除前の所得金額 一一〇一万二一二三円

右金額は、右(1)の総所得金額に(2)の平均特前所得率を乗じて算出した金額である。

(4) 事業専従者控除額 一二七万円

右金額は、春江及び一郎に係る旧所得税法五七条三項所定の事業専従者控除額の合計額である。

(5) 事業所得の金額 九七四万二一二三円

右金額は、右(3)の事業専従者控除額控除前の所得金額から右(4)の事業者専従者控除額を差し引いた金額である。

(6) 所得控除の合計額 八七万三七〇〇円

右金額は、社会保険料控除の額四七万〇七〇〇円、生命保険料控除の額五万円、損害保険料控除の額三〇〇〇円、基礎控除の額三五万円を合計した金額であり、原告が提出した確定申告書に記載された金額である。

(7) 課税総所得金額 八八六万八〇〇〇円

右金額は、右(5)の事業所得の金額から右(6)の所得控除の合計額を差し引いた金額である。

(8) 納付すべき税額 一七六万〇四〇〇円

右金額は、右(7)の課税総所得金額に旧所得税法八九条一項を適用して算定した金額である。

(三) 平成三年分について

(1) 総収入金額 二二五六万六三二九円

右金額は、原告の営む造園業に係る平成三年分の収入金額について、原告の取引先の調査により把握し得た金額であり、その内訳は別表三の1の平成三年分欄記載のとおりである。なお、これに対する原告の認否は別表三の2の同欄記載のとおりである。

(2) 比準同業者の平均特前所得率四六・九二パーセント

右率は、比準同業者の平成三年分の特前所得率の平均値であり、その算出過程は別表四の3のとおりである。

(3) 事業専従者控除額控除前の所得金額 一〇五八万八一二二円

右金額は、右(1)の総所得金額に(2)の平均特前所得率を乗じて算出した金額である。

(4) 事業専従者控除額 一二七万円

右金額は、春江及び一郎に係る旧所得税法五七条三項所定の事業専従者控除額の合計額である。

(5) 事業所得の金額 九三一万八一二二円

右金額は、右(3)の事業専従者控除額控除前の所得金額から右(4)の事業者専従者控除額を差し引いた金額である。

(6) 所得控除の合計額 九〇万四六〇〇円

右金額は、社会保険料控除の額五〇万一六〇〇円、生命保険料控除の額五万円、損害保険料控除の額三〇〇〇円、基礎控除の額三五万円を合計した金額であり、確定申告書に記載された金額である。

(7) 課税総所得金額 八四一万三〇〇〇円

右金額は、右(5)の事業所得の金額から右(6)の所得控除の合計額を差し引いた金額である。

(8) 納付すべき税額 一六二万三九〇〇円

右金額は、右(7)の課税総所得金額に旧所得税法八九条一項を適用して算定した金額である。

2  本件各更正の適法性

被告が本訴で主張する原告の本件各係争年分の事業所得の金額(総所得金額)及び納付すべき税額は、右1記載のとおりであるところ、本件各更正に係る原告の総所得金額及び所得税額は、別表一の1ないし3の各更正・賦課決定欄記載のとおりであって、いずれの年分も被告が本訴で主張する金額の範囲内であるから、本件各更正は適法である。

3  本件各賦課決定の適法性

被告は、本件各更正によって原告が納付すべき税額(ただし、通則法一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てた金額)を基礎として、同法六五条一項及び二項の規定に基づき、次のとおり計算した過少申告加算税をそれぞれ賦課決定したものであるから、本件各賦課決定は適法である。

(一) 平成元年分について 一六万二五〇〇円

右金額は、右年分の所得税の更正により、原告が新たに納付すべきこととなった税額一二五万円に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一二万五〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき右一二五万円のうち五〇万円を超える部分に相当する金額七五万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額三万七五〇〇円との合計額である。

(二) 平成二年分について 一六万八五〇〇円

右金額は、右年分の所得税の更正により、原告が新たに納付すべきこととなった税額一二九万円に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一二万九〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき右一二九万円のうち五〇万円を超える部分に相当する金額一七九万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額三万九五〇〇円との合計額である。

(三) 平成三年分について 一五万〇五〇〇円

右金額は、右年分の所得税の更正により、原告が新たに納付すべきこととなった税額一一七万円に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一一万七〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき右一一七万円のうち五〇万円を超える部分に相当する金額六七万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額三万三五〇〇円との合計額である。

四  争点

本件においては、本件課税処分の適法性が争われているが、本件の争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は、以下のとおりである。

1  推計の必要性

(一) 被告の主張

前記二、1、(二)記載のとおり、原告の本件各係争年分の事業所得の計算根拠が不明であったことから、被告は、原告の申告内容が適正であるか否かについての調査を行う必要があると判断し、斉内係官に本件調査を命じたところ、同(三)ないし(七)のとおり、本件調査の際、同係官が再三にわたり第三者を退席させた上で帳簿書類を提示するなどして、調査に協力するよう求めたにもかかわらず、原告及び春江は、全くこれに応じようとせず、非協力的な態度に終始していたものである。右のような状況の下では、被告において、原告に対する質問検査等によって原告の収入金額及び必要経費の具体的な数額を把握することは到底不可能であり、原告の取引先に対する調査によって把握し得た収入金額を基礎としてその所得金額を推計する方法を採らざるを得なかったものであって、本件において推計の必要性が存したことは明らかである。

(二) 原告の主張

推計課税をすることができるのは、〈1〉 帳簿書類等の備付けが全くなく、他の実額課税を行うだけの資料が存在しない場合、〈2〉 帳簿書類等の備付けがあっても、その記載の全体について真実性が疑わしく、他に実額課税を行うだけの資料が存在しない場合、〈3〉 適法な税務調査に対して帳簿書類等の提示が行われず、他に実額課税を行うだけの資料が存在しない場合に限られるところ、本件においては、斉内係官が調査に来訪した際、原告は資料を備えて待機しており、資料の調査をしようとすれば容易にできたにもかかわらず、同係官は、立会人がいることのみを理由に資料を調査すること自体を放棄したのであって、推計課税を行うことができる要件を満たしていない。

2  税務調査の適法性

(一) 被告の主張

所得税法二三四条による税務調査において、質問検査権の範囲、程度、時期、場所、調査理由の開示の可否、開示の程度等実定法上特段の定めのない実施の細目については、権限ある収税官吏の合理的な選択、裁量に委ねられているものであり、また、第三者の立会いを認めるかどうか、取引先に対する調査の時期、範囲、程度等についても同様に解すべきであるところ、本件における斉内係官の判断及び処置は、以下のとおり、合理的な選択又は裁量の範囲内であることは明らかである。まず、斉内係官は、調査に先立って原告あるいは春江に対し、調査の目的は原告の本件各係争年分の所得金額の確認である旨を告げており、調査理由の開示として不足はない。次に、本件調査をするに当たっては、調査の内容が被調査者のみならず、その取引先等の営業上の秘密等に触れるおそれがあったのであるから、同係官が原告の要求する第三者の立会いを拒絶したことは、もとより正当な処置である。さらに、原告の承諾を得ずにその取引先に対する調査を行ったとしても、当然に違法となるものではない。

(二) 原告の主張

(1) 〈1〉 申告納税制度の下では、納税者は第一次的に納税義務確定権を有し、課税庁の課税処分は第二次的・補完的であること、〈2〉 質問検査権の行使は、権力的作用であり、被調査者に対して様々な事実上の影響を与えること、〈3〉 質問検査権の行使は罰則によって担保されていること(所得税法第二四二条八号、九号)などからすると、税務調査の必要性の要件は厳格に解すべきであり、税務調査に際しては調査の合理的必要性があることを具体的に開示しなければならない。したがって、当該調査について被調査者側において調査の合理的必要性を納得し得るだけの具体的な理由を開示をしないで行った税務調査は違法になるというべきである。本件調査においては、前記二、1、(三)及び(五)各記載のとおり、斉内係官は、原告の本件各係争年分の所得金額を確認するために来た旨を告げただけであって、それ以上の具体的な理由を一切告げていないから、その調査が違法であることは明らかである。

(2) 税務調査の実態として、税務職員が法的知識に乏しい被調査者を威圧して修正申告をさせるということがままあり、公正な税務調査を行わせるためにも第三者の立会いは不可欠であるし、被調査者が第三者の立会いを求めることは当然の権利であるというべきである。本件調査においては、原告が依頼した第三者の立会いが拒絶されているのであるから、その調査が違法であることは明らかである。

なお、調査の内容が、被調査者の取引先等の営業上の秘密等に触れるおそれがあるとしても、そもそも右秘密いは、被調査者のプライバシーであって、被調査者が第三者に立会いを依頼する以上、被調査者はこの限度においてプライバシーを放棄しているであるから、立会いを拒絶する理由にはなり得ない。そして、右秘密が取引先のプライバシーに該当する場合であるとしても、第三者に立会いを依頼することは、被調査者が自ら第三者に取引先のプライバシーを開示するのと変わりはなく、そのことが取引先との関係で問題になるとしても、被調査者と取引先との間で解決すべき問題であって、立会いを拒絶する理由にはならないはずである。

(3) 被調査者にとって取引先との関係は重要であり、税務署が取引先に対する調査を不用意に行えば、被調査者が取引先を失う等の不利益を被るおそれが高いのであるから、取引先に対する調査は、被調査者の調査をしただけでは資料が不十分である場合に、その承諾を得て初めて行うことができると解すべきである。本件調査において、原告の帳簿書類等の調査が全く行われないまま、原告の承諾なしに取引先に対する調査が行われており、この点からしても本件調査が違法であることは明らかである。

3  推計の合理性

(一) 被告の主張

(1) 本件各更正における推計の方法は、前記のとおり、原告の収入金額を取引先に対する調査により把握し、これに比準同業者の平均特前所得率を乗じて原告の事業所得金額を算出したものである。

(2) 右算出の基礎とした比準同業者の抽出方法は次のとおりである。

原告の事業所がある世田谷区において、原告と同様に造園業を営む個人事業者のうち、本件各係争年分ごとに、次の〈1〉ないし〈6〉の基準(以下「本件抽出基準」という。)のすべてに該当する者を比準同業者として別表四の1ないし3のとおり抽出した。

〈1〉 造園業を営み、青色申告の承認を受けている個人の事業所得者

〈2〉 玉川税務署長、世田谷税務署長及び北沢税務署長のいずれかの税務署長に所得税の確定申告書を提出し、かつ、所得税の確定申告書を提出した税務書管内に事業所を有する者

〈3〉 造園業に係る総収入金額が次の範囲内(原告の収入金額の二分の一以上、二倍以内、以下「倍半基準」という。)にある者

ア 平成元年分については、一一四六万三七二九円以上、四五八五万四九一六円以下の者

イ 平成二年分については、一一〇一万六五三〇円以上、四四〇六万六一二〇円以下の者

ウ 平成三年分については、一一二八万三一六五円以上、四五一三万二六八円以下の者

〈4〉 青色事業専従者給与の受給者が二名の者であること

〈5〉 年を通じて造園業を営んでいる者

〈6〉 次のいずれにも該当しない者

ア 災害等により経営状態が異常であると認められる者

イ 税務署長から更正又は決定処分を受けている者のうち、当該処分について通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間が経過していない者及び当該処分に対して不服申立中又は訴訟中である者

(3) 被告は、本件各係争年分ごとに本件抽出基準のすべてを満たしている者を比準同業者として機械的に漏れなく抽出したものであり、右抽出に恣意が介在する余地はなく、また、その抽出地域も原告の事業所がある世田谷区内の玉川税務署、世田谷税務署及び北沢税務署の各税務署管内に限定していることから、地域の類似性も担保されており、かつ、抽出された比準同業者は原告と業種及びその事業規模が類似する青色申告者であるから、右のような推計方法には合理性があり、これにより算定された所得金額は、原告の実際の所得金額に近似した数値であるということができる。

(二) 原告の主張

(1) 行政処分の適法性が訴訟において争われている場合には、憲法三一条の適正手続の保障の趣旨からしても、処分時に判明していた事情のみによって、その適法性の主張立証ができなければ、当該処分を違法と判断すべきであって、処分後の事情を適法性の理由付けとすることを許すべきではない。また、本件各更正時に比準同業者の対象として抽出されなかった業者を本訴において追加していることは、比準同業者の選定基準が合理性を欠いていたことの証左にほかならない。また、被告は、原告からの求釈明にもかかわらず、比準同業者の名称、業態等を明らかにしていないことからしても、本件各更正のつじつま合わせをするために、恣意的に比準同業者を追加した疑いが強く、抽出過程の合理性が担保されていない。

(2) 被告は、造園業については、「その他の職別工事」、「その他の設備工事」及び「植木、庭石」に分類していると主張するが、そもそも右の分類の基準自体が明らかではない。また、造園業は、仕事の種類(個人宅の剪定、大規模な造園工事)、仕事の内容(材料持込みの仕事、手間だけの仕事)、受注方法(元請け、下請け、孫請け)、受注先(官庁、民間、法人、個人)、従業者の多寡等によって、その業態、営業収支が大きく異なる。例えば、原告が所属している玉川造園組合の組合員をみても、外柵工事をしているもの、植木を中心に扱っているもの、庭石を中心に扱っているもの、庭造り中心のもの、販売中心のものなど、様々であって、原告のように、専ら元請けから依頼されて現場に職人を出す「人工出し」を中心とし、受注方法の大半が孫請けであり、人工代、手間賃を主たる収入源としている形態の業者は他にいない。したがって、本件において抽出された比準同業者が原告の事業形態と類似した業者であるか疑問であり、業種の類似性があるということはできない。また、本訴において抽出された比準同業者の特前所得率の分布をみると、平成元年分では三七・〇〇パーセントないし六三・六四パーセント、平成二年分では三四・〇三パーセントないし六七・一四パーセント、平成三年分では二九・九八パーセントないし六〇・八六パーセントであって、最低の業者と最高の業者との間で約二倍もの差異があり、そのような差異は事業形態の違いによるものとしか考えられず、事業形態の異なる特前所得率を平均したとしても、原告に適用すべき合理的な特前所得率が算出されるわけではなく、被告の主張する平均特前所得率には合理性がない。

(3) 造園業界では職人の数が不足しており、原告のような「人工出し」中心の事業形態の場合、腕のいい職人を確保するために、手間賃、外注費を惜しむわけにはいかず、また、仕事の後の懇親会など慰労のための費用もかけざるを得ない特別の事情がある。したがって、原告が平均特前所得率のような高い利益率を上げることは不可能であり、特前所得率の高い比準同業者は、仮に造園業者であったとしても、原告とは異なる事業形態であることが明らかであって、そのような事業形態の異なる業者の特前所得率を前提として、原告の所得を推計することに合理性はない。

4  原告の主張する本件係争年分の実額による事業所得金額等

(一) 本件各係争年分の原告の事業所得の金額(総所得金額)等は、別表二の1ないし3の各原告欄記載のとおりであり、右金額が実額であることについては、以下のとおりである。

(二) 総収入金額について

総収入金額(売上金額)は、平成元年分が二三三〇万二五九六円、平成二年分が二四一五万四〇八九円、平成三年分が二三〇三万三四八四円であり、その内訳は別表五記載のとおりである。右金額は、原告が証拠として提出した請求書控え、納入伝票控え、領収証控え、入金伝票等(甲九号証ないし一八号証、四一号証ないし五四号証)を集計したものであって、売上金額のすべてである。そのことは、右請求書控えの綴りが、基本的に継続した一冊の用紙が使用されていること、請求書を発行したもののすべてが銀行送金によって入金されていることからも裏付けることができる。なお、売上金額の実額は、被告の調査した金額よりも高くなっているが、これは銀行送金の金額に若干の現金払いによる売上げを加算したことによるものである。

(三) 必要経費について

必要経費の合計額は、平成元年分が一七六一万七四八九円、平成二年分が一八六一万五六五八円、平成三年分が一八三三万八三五〇円であり、その内訳は別表六のとおりである。右金額は、外注費及び現場費(ドリンク代)を除けば、大部分の支出について領収証等(甲二〇号証、二一号証、二四号証ないし三八号証、四〇号証、五五号証、五六号証、五八号証ないし七〇号証、七二号証ないし七四号証、七六号証ないし八八号証、九〇号証、九一号証)があり、その記載内容、金額からしても、それらが原告の営業のために支出されたことに疑問の生ずる余地はない。外注費については、領収証がないものが多いが、継続して雇った職人に対しては給料明細(日計票)を作成して交付し、その控えを保存してある(甲二二号証、五七号証、七五号証)。外注費の支出が売上げに比較して高額となっているのは、継続して一定の仕事を確保するために、廉価で孫請けせざるを得ないという事情があるからである。現場費(ドリンク代)の出費は、現場近くの自動販売機で缶飲料を購入するのが通常であり、領収証を受け取っていないが、出金伝票(甲三九号証、七一号証、八九号証)の支出金額をみても、特段問題となる金額ではない。

なお、春江作成のノート(甲九四号証ないし九六号証、以下「人工帳」という。)は、原告が現場ごとの職人の数、主要な材料費などを日々記載したメモを基に作成したものであり、これによって注文者への請求金額や職人に対する外注費の計算をしていたのであって、人工帳さえあれば会計帳簿を作成しなくとも日々の営業には何ら支障がないのである。したがって、原告が現金出納帳又はこれに代わる帳簿を作成していなかったとしても、人工帳がその代わりとなるのであるから、日々の経理処理が杜撰であるとはいないことが明らかである。

第三当裁判所の判断

一  推計の必要性について

1  本件調査の経緯は、前期第二、二、1記載のとおりであり、これに加えて、括弧内に掲記する証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 斉内係官は、平成四年七月中旬、田子和男統括国税調査官から、原告の本件各係争年分の確定申告書には、収入金額及び必要経費の額の記載がなく、また、収支内訳書の添付もないため、所得金額の計算根拠が不明であり、申告内容が適正であるかどうかについて確認する必要があるとして、原告の所得税調査を行うよう命じられた(斉内証言、斉内陳述書・乙一号証)。

(二) 斉内係官は、平成四年七月二八日に原告宅で春江に対面した際及び同年九月二日に原告宅で原告に対面した際、税務署職員であることの身分証明書と併せて質問検査権限を有することの証明書である質問検査章(所得税法二三六条、国税質問検査章規則二条)を提示した(斉内証言、斉内陳述書・乙一号証)。原告は、右質問検査章の提示について、「不知」と答弁するが、斉内係官は、身分証明書入れの片側に税務署職員であることの身分証明書を片側に質問検査章を入れており、原告及び春江に対して二つを併せて提示した旨を証言し、右証言に不自然な点はなく、身分証明書は提示しながら質問検査章をあえて提示しないことも考え難く、他に右認定を覆すに足りる証拠もない。

(三) 斉内係官が平成四年八月に原告宅を訪問した日時について、原告は被告主張の同月二〇日であることを認めていたものの、春江及び藤井はそれぞれ同月七日である旨を証言する。しかし、藤井の証言は手帳(甲五号証)の記載を根拠とするものであるところ、同号証中の同月七日、九月二日の記載に照らし、八月二〇日欄の記載が空欄であることから、直ちに同人の証言を採用することはできない。また、春江は、原告代理人の質問に対して、八月七日であるとする根拠として、平成四年七月二八日午前中、同年八月七日一〇時、同年九月二日一〇時にそれぞれ斉内係官が来訪した旨の記載のあるノート(甲九七号証)を指摘し、右各記載はそれぞれ斉内係官が来訪した当日中に記載したものである旨の証言をした(春江の第一回申請に係る証言)。ところが、右ノートの製造年月日は平成五年二月一六日である旨の製造会社からの回答(乙三号証)が被告から提出された後に提出された陳述書(甲一〇〇号証)では、一旦メモ用紙にメモをしておいたものを後日ノートに書き移したものであり、そのメモ用紙は捨ててしまったと右証言を訂正している。右訂正によれば、メモを作成してから半年以上も経過した本件課税処分の後の時点でノートを買い求め、メモ自体を保存するのではなく、同一内容をノートに書き移した上メモ自体は廃棄したということになり、その経過が不自然であることを否定することはできないから、右春江の証言を措信することはできない。

(四) 斉内係官が、原告宅を訪問した際、春江あるいは原告に対し、原告の本件各係争年分の所得金額を確認するための調査に来た旨を告げたことは当事者間に争いがなく、また、同係官は、春江及び藤井から調査の具体的な理由を示すように求められた際、第三者である藤井が在席している状態でそれ以上の理由を告げれば、守秘義務に抵触するのではないかと考えて、原告の本件各係争年分の確定申告書に、収入金額及び必要経費の額の記載がなく、また、収支内訳書の添付もないため、所得金額の計算根拠が不明であるいうことを告げなかった(斉内証言)。

(五) 藤井及び春江は、斉内係官の右調査理由の説明に納得せず、また、藤井の立会いを認めるよう強く主張し、立会人を退席させた上で帳簿書類等を提示して欲しい旨を要請する斉内係官と対立し、斉内係官は、第三者が立ち会ったままでの調査は守秘義務との関係及び税理士法の関係から問題があると判断し、調査することを断念した(斉内証言)。

2  前記争いのない事実及び右認定事実を総合すれば、斉内係官は、平成四年七月二八日、同年八月二〇日及び同年九月二日の三回、原告宅に臨場し、原告あるいは春江に対し、本件各係争年分の所得金額を確認するための調査である旨を告げ、同年八月二〇日及び同年九月二日の調査においては、再三にわたって、調査に関係のない第三者を退席させた上で帳簿書類等を提示するよう要請したにもかかわらず、原告及び春江は、藤井の立会いに固執して、斉内係官の退席要請を拒絶し、本件調査に非協力的な態度をとり続けていたものと認めることができ、被告が、原告の所得金額について、原告に対する質問調査等によりこれを把握することができないと判断して、原告の取引先に対する調査を行い、その結果を基に推計の方法によって原告の所得金額を算出したことはやむを得なかったものであるということができるから、本件においては、推計の必要性があったものというべきである。

なお、原告は、本件調査の際に資料を備えて待機し、資料の提示自体を拒絶していたわけではないのに、斉内係官が資料の調査をしなかっただけであるから、推計の必要性はないし、推計課税を行うことは許されない旨主張するが、右主張は、本件調査が違法であることを前提とするものであるから、次項に併せて検討することにする。

二  本件調査の適法性について

1  所得税法二三四条一項の規定は、所得税についての調査において、当該調査の目的、調査事項、申告の体裁及び内容、帳簿等の記入保存状況、事業の形態等の諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要があると判断される場合には、右調査の一方法として、同項記載の質問又は検査を行う権限を認めたものであって、過少申告の疑いが存する場合のみならず、そのような疑いが当初から明らかでない場合でも、申告の真実性、正確性を確認する必要がある場合には右必要が認められると解すべきところ、本件においては、原告の提出した本件各係争年分の確定申告書に収入金額及び必要経費の額が記入されておらず、収支内訳書の添付もなかったのであるから、その所得金額の計算根拠が不明であって、被告において、原告の申告内容が適正であるかどうかについて確認する必要があると判断したことはむしろ当然であって、調査について客観的必要性があったことは明らかである。

2  所得税法二三四条一項に基づく税務調査において、質問検査の範囲、程度、時期、場所、調査理由の開示の要否、開示の程度、第三者の立会いの可否等の実施の細目については、法律上特段の定めがないところ、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているものと解すべきである(最高裁判所昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。

3  右の点を本件についてみると、本件では、調査理由の開示の程度、第三者の立会いの可否及び取引先に対する調査についての被調査者の承諾の要否が問題とされている。

(一) まず、調査理由については、斉内係官が本件各係争年分の所得金額を確認するための調査である旨のみを原告あるいは春江に告げ、それ以上に個別、具体的な調査理由を告げなかったとしても、そのことによって本件調査が社会通念上相当な限度を超えているということはできない。この点に関して、原告は、斉内係官が開示した調査理由は本件各係争年分の所得金額を確認するための調査であるということだけであって、原告の本件各係争年分の確定申告書には、収入金額及び必要経費の額の記載がなく、また、収支内訳書の添付もないため、所得金額の計算根拠が不明であり、申告内容が適正であるかどうかについて確認する必要があるということについては一切開示していないのであるから、本件調査は違法であると主張する。しかしながら、前述のとおり、調査理由の開示の程度は、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているというべきであって、前記認定のとおり、斉内係官は、平成四年八月二〇日調査及び同年九月二日調査の際、第三者である藤井が在席している状態で本件各係争年分の確定申告書の記載内容又は収支内訳書の欠如といった具体的な理由を開示することは、公務員の守秘義務に抵触するのではないかと判断して、守秘義務の関連で同人の退席を求めることを説明し、同人が在席する場では右の具体的な調査理由を告げなかったのであって、本件確定申告書に不備があることは提出した原告が当然認識している事柄であると考えられることからしても、調査理由が、確定申告書からは判明しない収入、経費の聴取調査、資料確認を要することにあったことは、本件において明らかであり、斉内係官の判断及び説明は、合理的な裁量の範囲内であるといえるから、原告の右主張を採用することはできない。

(二) また、質問検査は、被調査者の資産、営業上の秘密等に立ち入るのみならず、取引先の右秘密事項にも調査が及ぶおそれがあることなどを考慮すれば、斉内調査官が、税理士でもなく本件調査内容にも直接関係のない藤井の立会いの下での調査を拒否したことは、税務職員の裁量に委ねられた権限の範囲内の行為であり、これをもって右社会通念上相当な限度を逸脱した行為ということはできない。この点について、原告は、被調査者が第三者の立会いを求めることは当然の権利であり、被調査者及び取引先の営業上の秘密やプライバシーは、被調査者が立会いを要請する以上、その限度でプライバシーを放棄していると考えられるし、また、被調査者と取引先との間で解決すべき問題であるから、守秘義務を理由に立会いを拒絶することはできないと主張する。しかしながら、前述のとおり、第三者の立会いの可否については、法律上特段の定めがなく、調査理由の開示の問題と同様に、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられている事項の一つであるところ、税務調査において一般私人の立会いを認めれば、被調査者及びその取引先の営業上の秘密ないしプライバシーに質問検査が及んだ場合には、税務職員と異なり守秘義務を負わない一般私人がその内容を聞知することになり、被調査者の取引先等の営業上の秘密を守るという守秘義務を定めた法の趣旨が実質的に損なわれる事態が、税務職員の質問検査を契機として生ずるおそれがあり、税務職員としての守秘義務が納税者の要請の故に免除されるものでもないから、税務職員がこうした事態を考慮して、調査に関係のない第三者の立会いを拒否したとしても、これは税務職員の裁量に委ねられた権限の範囲内の行為であるというべきであり、また、被調査者自らが行う営業上の秘密ないしプライバシーの開示と税務職員の質問検査を契機とする開示とを同視することはできないから、原告の右主張を採用することはできない。

(三) さらに、原告の承諾を得ないでその取引先に対する調査をしたとしても、取引先に対する調査(所得税法二三四条一項三号)の要件として原告の承諾を要求する根拠をみいだすことはできないから、その点においても本件調査手続に違法があったということはできない。この点について、原告は、被調査者の調査だけでは資料が不十分である場合に、被調査者の同意を得て初めて反面調査ができると解すべきであると主張する。しかしながら、所得税法二三四条一項三号の規定から、取引先に対する調査を被調査者本人に対する調査の補充的手段であり、また、被調査者の承諾を要すると解することはできない。しかも、取引先に対する調査の時期、方法、対象者の設定等は、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられている事項の一つであるところ、本件調査において取引先に対する調査がされたのは、原告の調査に対する協力が得られないことが明確になった後であるから、本件における取引先に対する調査が合理的裁量を逸脱してされたものということはできず、原告の右主張も採用することはできない。

以上のとおりであるから、本件調査が違法であるとする原告の主張はいずれも失当というべきである。

三  推計の合理性について

1  被告は、本訴において、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を算出するに当たっては、玉川、世田谷及び北沢の各税務署に確定申告書を提出している造園業を営む個人事業者で、提出した税務署管内に事業所を有し、青色申告の承認を受けている者のうち、本件各係争年分の各年分ごとに、それぞれの総収入金額による倍半基準及びその余の本件抽出基準のすべてを満たす比準同業者を抽出して、その特前所得金額から特前所得率を算出し、その平均値を用いて原告の事業所得の金額を推計した旨主張する。

そして、乙九号証及び一〇号証の各一、二の一ないし三、一一号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、本件における比準同業者の抽出は、東京国税局長が、玉川、世田谷及び北沢の各税務署長に対し、それぞれ本件抽出基準を満たす対象者すべてについて課税事績報告書の作成を求める通達を発し、各税務署長から右報告書の提出がされるという方法で行われ、右通達に対する各税務署長の報告書により、別表四の1ないし3のとおり、平成元年分については八件、平成二年分については九件、平成三年分については八件がそれぞれ抽出され、それに基づいて本件各係争年分の平均特前所得率を算出したことが認められる。(なお、乙四号証以下の乙号各証の成立について、原告は官署作成部分を除いて認否しない旨の答弁をしているが、これは、右乙号各証が最終弁論期日(第一六回弁論)において提出されたことから、確認をする余裕がなく、また、確認をなしうるものについて不知と答弁することを避けたものである。そこで、原告において確認調査の上、弁論の再開の必要がある場合には、平成九年五月末日までに行うこととしたが、同日までになんらの申し出等はなかった。以上の経過は、当裁判所に顕著な事実である。そして、右乙号各証にうち認定に供したものは、他の引用書証と同様、特に、成立についての判断を示していないが、その趣旨、方式及び弁論の全趣旨から真正に成立したものと認めたものである。)

右認定によれば、本件抽出基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理性を有するものというべきであり、また、被告は、本件抽出基準に該当する者のすべてを抽出したものであって、その抽出過程に特に被告の恣意等が介在する余地も認められない。さらに、抽出された比準同業者は、いずれも帳簿等の書類の裏付けを有する青色申告者であって、経営状態が異常であると認められる者や更正等に対して不服申立て等をしている者が除外されていることに照らすと、その総収入金額及び必要経費の算出根拠となる資料の正確性を担保されているということができる。そして、抽出された件数は、右のとおり、平成元年分については八件、平成二年分については九件、平成三年分については八件であって、いずれも比準同業者の個別性を平均化するに足りる件数であるということができ、また、各年分ごとの平均特前所得率は、平成元年分が四五・四三パーセント、平成二年分が四九・九八パーセント、平成三年分が四六・九二パーセントであって、その差異が五パーセント未満に止まっていることからしても、右比率の合理性に疑問を抱かせるような事情は見当たらない。

したがって、被告の推計方法には合理性があるというべきである。

2  これに対して、原告は、被告が本訴において抽出作業をやり直して、比準同業者を追加したことに捉えて、本件各更正時において比準同業者の対象として抽出されなかった業者を本件訴訟の段階において追加することは許されない旨主張する。しかしながら、課税処分の取消しを求める訴訟における審判の対象は、課税処分によって確定された税額の適否であり、審理の範囲は右税額が総額において処分時に客観的に定まっている税額を上回るか否かを判断するに必要な事項の全部に及び、その数額の計算の根拠となる事実は単なる攻撃防御の方法にすぎず、税務署長は、処分時の認定理由に拘束されることなく、訴訟の段階で、その後に新たに発見した事実を追加し、あるいは右事実と交換することによって、処分理由を差し替えることが可能であると解すべきであるから、抽出作業をやり直して、比準同業者を追加することを許さないとする理由はなく、原告の右主張を採用することはできない。また、本件訴訟において比準同業者が追加された過程に不自然な点は窺えないから、恣意性を指摘する原告の主張も採用の限りではない。

次に、原告は、被告の造園業の分類基準は明確ではないし、比準同業者が特定されていない以上、原告と比準同業者との間で事業形態に共通性があるかどうか確認できないし、造園業の事業形態には様々な形態があり、事業形態ごとに所得率は大きく異なるのであるから、比準同業者の特前所得率を平均したとしても合理性のある所得率が算出されるわけではない旨主張する。しかしながら、本件における抽出の方法及び過程、抽出件数並びに平均特前所得率は右認定のとおりであり、合理的な抽出基準に従って比準同業者が抽出されている以上、それら各業者の具体的な事業形態が明らかにされないからといって、そのことを理由に同業者比率を用いた推計の方法が合理性を欠くことになるものではないというべきである。また、比準同業者の個別性・特殊性を平均化するに足りる抽出件数であることは右のとおりであり、抽出された比準同業者の特前所得率の分布状況についてみると、なるほど原告が前記第二、四、3、(二)、(2)で主張するように、最大値と最小値との差異は大きいものの、平成元年分についてみると、最大値及び最小値の比準同業者(A及びB)を除く残りの六業者の特前所得率の差異は一〇パーセント未満にとどまっていること、平成二年分についてみると、特前所得率が六〇パーセントを超える二業者(A及びI)と四〇パーセント未満の二業者(B及びH)を除く五業者の特前所得率の差異は約一一・二パーセントであること、平成三年分についてみると、最大値及び最小値の比準同業者(D及びH)を除く残りの六業者の特前所得率の差異は比較的大きいものの一八・七二パーセントにとどまっていること、すべての比準同業者二五業者のうち二〇業者の特前所得率が三四パーセント以上五七パーセント未満に分布していることからすれば、事業形態の差異によって特前所得率に差異が生ずるであろうことは推認できるとしても、その差異が推計の合理性を失わせるほど大きいということできず、平均特前所得率を推計に用いることには合理性があるというべきである。

さらに、原告は、その事業形態が職人の派遣が中心であり、しかも、孫請けが大半であって、原告の利益率は二〇パーセント程度にとどまっていると主張し、本人尋問においても、受注先から支払を受ける手間賃よりも高い手間賃を職人に支払う場合もあると供述するなどして、四〇パーセントを超える平均特前所得率を原告に適用することの不当性を強調する。しかしながら、右主張は、結局のところ原告の主張する実額計算における利益率の低さをいうものであって、その主張の当否は実額立証の成否に係わるものであり、それ自体で推計の合理性を覆す理由にはならないというべきである。また、本件抽出基準においては、業種の特定を「造園業」という形でしており、その具体的な事業形態が様々であることは原告主張のとおりであるとしても、前記認定のとおり、比準同業者二五業者のうち二〇業者の特前所得率が三四パーセント以上五七パーセント未満に分布していることからすれば、具体的な事業形態は異なっても、「造園業」として分類された業種における利益率の一般的傾向は十分窺うことができるのであって、原告の事業形態が本件の比準同業者のいずれとも全く異なる事業形態であると認めるには足りないから、本件において推計の合理性を覆すような特別の事情があると認めることはできない。

3  被告は、本件において推計の基礎とされた収入金額について取引先に対する調査によって把握した金額である旨主張し、原告は、その一部を否認しているものの、各年分の総収入金額について被告主張金額よりも多額である旨の主張をしている。

被告の主張する本件各係争年分の収入金額の内訳及びこれに対する原告の認否並びに原告の主張する本件各係争年分の収入金額の内訳は、別表三の1及び2並びに別表五のとおりであり、これによれば、原告の主張する総収入金額は被告の主張するそれを上回る、双方が主張する金額の差は、平成元年分について三七万五一三八円(被告主張の金額の約一・六パーセント)、平成二年分について二一二万一〇二九円(被告主張金額の約九・六パーセント)、平成三年分について四六万七一五五円(被告主張金額の約二・一パーセント)となる。ところで、課税庁が納税者の協力なしにその収入金額を網羅的に把握することは困難であることからすれば、被告の主張する収入金額は少なくともその金額を下回ることはないという趣旨のものであると解されるし、また、収入金額の増加が所得金額の減少の契機となることは通常考えられないから、所得金額を推計するための基礎資料としては、その捕捉漏れが著しく、その営業実態を適切に反映したことにならないと考えられる程度の開差がない限り、被告が調査によって捕捉した収入金額を推計の基礎とすることで推計の合理性を損なうことはないというべきである。そして、本件における各年分における右の主張金額の差異からすると、平成二年分の差異がやや大きいものの、いずれの年分についても、収入金額の捕捉漏れが著しく、その営業実態を適切に反映したことにならないと考えられる程度の開差があるということはできないから、仮に原告主張の収入金額が実収入金額であるとしても、それによって推計の合理性が損われるわけではないというべきである。

4  そこで、本件において推計の基礎とされた原告の本件各係争年分における収入金額について検討する。

(一) 平成元年分について、原告が被告主張の金額を否認している収入先は、別表三の2のとおり、株式会社創研ガーデン(以下「創研ガーデン」という。)、中都建設株式会社(以下「中都建設」という。)、武蔵野造園土木株式会社(以下「武蔵野造園土木」という。)、利恵産業有限会社(以下「利恵産業」という。)、兼松ハウジング株式会社(以下「兼松ハウジング」とう。)、有限会社牧野工務店(以下「牧野工務店」という。)、株式会社ニチヤス(以下「ニチヤス」という。)及び呉羽日出子の八件である。そのうち兼松ハウジング、牧野工務店及びニチヤスについては、被告主張の金額よりも原告主張の金額の方が多額である。利恵産業については、同社からの回答書(乙六号証)によれば、被告主張の金額の取引があったことが認められる(なお、原告は、「助川」に対する請求書控(甲一四号証の一一及び三一)に基づいて、別表五の「助川恵子」に対する合計一三万八一〇〇円の売上げを計上しているものと考えられるが、右乙六号証によれば、利恵産業の代表取締役は「助川恵」であり、原告は平成元年分に利恵産業に対する売上げを計上していないこと、金額差が五〇〇円しかないことからすると、原告の主張する「助川恵子」に対する売上げと被告主張の利恵産業に対する売上げとは同一の取引であると考えられる。)。呉羽商事株式会社(以下「呉羽商事」という。)と呉羽日出子について、被告はそれぞれに対する売上げを別個に計上しているが、原告は両者を併せて計上しており、被告主張の呉羽商事と呉羽日出子に対する売上げの合計額と原告主張の金額とを比較すると、いずれも原告主張金額が被告主張金額よりも多額である。そうすると、被告主張金額が原告主張金額を超えているのは、創研ガーデン、中都建設及び武蔵野造園土木の三件であり、このうち創研ガーデン及び中都建設については、両社からの回答書(乙四号証、乙五号証)によれば、被告主張の金額の売上げがあったと認めることができる。武蔵野造園土木について検討すると、原告作成の同社に対する納入伝票控え三通(甲一六号証の二ないし四)によれば、右納入伝票控え三通の合計請求金額は被告主張の五五万八六〇〇円であるものの、その請求中には昭和六三年一〇月ないし一二月分の請求が含まれており、それを控除すると原告主張の四五万二八〇〇円になることが認められる。

以上によれば、平成元年分所得に関する被告の推計において基礎とすべき収入の数値は被告主張額よりも一〇万五八〇〇円少ない二二八二万一六五八円となり、その事業所得の金額(総所得金額)は九〇九万七八七九円、課税総所得金額は八二三万九九三五円、納付すべき税額は一五七万一七〇〇円と算出されるところ(別紙一参照)、これが、同年分の更正に係る総所得金額及び所得税額を上回ることは明らかである。

(二) 平成二年分については、別表三の2のとおり、創研ガーデン、中都建設、株式会社西村建設工業(以下「西村建設工業」という。)、兼松ハウジング及び辻寿律子の五件について金額の争いがあることになる。しかしながら、右五件について原告の主張する金額はいずれも被告主張金額を上回る金額である。したがって、少なくとも被告主張に係る収入をもって推計の基礎としたことに違法はない。

(三) 平成二年分については、別表三の2のとおり、創研ガーデン、中都建設、西村建設工業、呉羽商事及び呉羽日出子の五件について金額の争いがあることになる。しかしながら、創研ガーデンについては原告主張金額の方が多額であり、呉羽商事と呉羽日出子については、平成元年分と同様にその合計金額では原告主張金額の方が多額である。中都建設については、同社からの回答書(乙五号証)によれば、被告主張金額が認められる。西村建設工業については、原告の預金口座元帳の写し(乙八号証)によれば、平成三年九月三〇日に被告主張金額一〇万円の送金があったことが認められるから、少なくとも被告主張の収入があったことを推認することができる。したがって、被告主張に係る収入をもって推計の基礎としたことに違法はない。

四  実額主張について

1  被告の主張する推計課税に対して、原告は、本件各係争年分の事業所得に係る収入金額及び必要経費の実額は、別表五及び別表六のとおりである旨主張する。

ところで、推計による更正は、その必要性があるときに合理的と認められる方法をもって各種所得の金額を推計するものであり、収入の金額、控除すべき経費の金額等を個別的に推計するものではないから、このような推計課税に対して、原告が実額による課税をすべき旨主張する場合には、原告は、収入又は支出の一部についてではなく、その収入金額と必要経費の全部についての実額及び必要経費が収入金額に対応するものであることについて立証する必要があることはいうまでもない。

2  そこで、まず、収入について検討するに、原告は、銀行送金によるもの以外に現金払いの収入があることを自認し、その場合には領収書控えを保存するか入金伝票を作成していたと春江は証言する(第一回申請に係る証言)。他方、原告は現金出納帳を作成していないことを自認するとともに、人工帳及び請求書控え等が現金出納帳に代わるものであると主張するが、次に述べるとおり人工帳の作成に関する春江の証言に変遷があること、その記載内容と領収証あるいは出金伝票とに齟齬があることからして、春江の証言及び人工帳の記載内容を措信することはできず、人工帳をもって請求書等の原始資料が全収入であることを補強立証するものとはいえず、他に原告の主張に係る収入金額が原告の当該年分の収入金額のすべてであることを認めるに足りる証拠はない。

3  なお、必要経費についてみるに、原告は、人件費又は外注費に係る書証として人工帳(甲九四号証ないし九六号証)を提出し、これには現場ごとの職人の数を記載して注文者への請求金額や職人に対する外注費の計算をしており、これさえあれば日々の営業に支障はなく、現金出納帳又はこれに代わる帳簿と同視できるものである旨を主張する。そして、人工帳の記載方法について、春江は、原告から聞いた内容を自分が、毎日記載していたものであるとしてその記帳の正確性を証言していたが(第一回申請に係る証言)、被告から甲九四号証及び九六号証のノートは平成三年三月に製造されたものである旨の書証(乙二号証)が提出されると、実際は毎日記載していたものではなく、原告が作成した下書きを貯めておいて月に一回まとめて書き移していたこと、平成元年分の人工帳については紛失してしまったので、平成四年一月ころに請求書控えや日計票等から復元したこと、平成三年分の人工帳は、それまで記載していたノートの罫が細くて書きにくいので別のノートを購入して書き移したことを証言するなどして、従前の証言内容を変更している(第二回申請に係る証言、甲一〇〇号証)。このように作成時期、方法に関する証言は変遷しており、人工帳をもって、その余の原始資料を補強するものとは到底いうことはできない。

なお、春江は、人工帳の記載内容が正確である旨の証言を維持しており、そうすると、人工帳の記載内容は請求書控え、領収証等の書証と一致しなければならないことになる。しかしながら、まず、人工帳の記載と旅費交通費に関する書証として提出した首都高速道路公団発行の領収券等を対比してみても、人工帳では全員が休みとなっているにもかかわらず交通費が計上されているものが多数あり(平成元年分について、二月九日、二四日、三月五日、二八日、三一日、四月二日、一六日、一八日、五月五日、七日、二三日、六月一九日、七月一六日、二三日、甲三〇号証の五、八、一三、二五ないし二八、三六ないし三九、四三、四五、六〇ないし六二、六七ないし六九、八九ないし九一、平成二年分について、一月二八日、二月二日、五日、一五日、四月二日、六月二日、五日、二四日、七月三日、一三日、九月二日、一五日、一一月二八日、二九日、甲六四号証の一三ないし一五、一八、二〇ないし二二、二七、二八、五八、一〇三ないし一〇六、一一一、一二四、一二八、一三八ないし一四一、一六七、一七四、一七五、二〇四ないし二〇七、平成三年分について、二月一一日、三月一〇日、二三日、二五日、四月二八日、五月六日、六月二日、一六日、二三日、二四日、三〇日、八月一四日、一六日、二〇日、九月二三日、一〇月八日、一一月二八日、一二月三一日、甲八一号証の二〇ないし二三、四五ないし四八、五九ないし六五、八四ないし八八、九七、一〇二、一〇八ないし一一二、一一四、一一五、一三二ないし一三四、一四〇、一四一、一四四、一六三ないし一六八、一七一、一七二、一八五、一九六)、この中には、原告自身が休日に原告の事業のために移動を要した場合の費用が含まれている可能性もあるというべきであるが、右支出のすべてが事業関連であると認めるには足りず、人工帳をもって、現金出納帳又はこれに準ずる帳簿と同視することは困難というべきである。

また、現場費(ドリンク代)についてみると、人工帳では全員が休みとなっているにもかかわらず、ドリンク代が計上されているものがあるほか(平成元年分について、四月一六日、七月一九日、二〇日、甲三九号証の六四、一一九、一二〇、平成三年分について、七月三〇日、甲八九号証の八四)、平成二年三月五日は同一現場に職人が三名なのに二〇〇〇円のドリンク代が二回支出され(甲七一号証の二七、二八)、同年九月二三日は同一現場に職人が三名であるのに五〇〇〇円及び二〇〇〇円のドリンク代が支出され(甲七一号証の一一一、一一二)、平成三年一二月一八日は職人が二現場、各二名の四名であるのに一〇〇〇円及び五〇〇〇円のドリンク代が支出されているなど(甲八九号証の一四九、一五〇)、現実にその金額が支出されたのか疑問を生ずる出金伝票が存在する。

そして、平成元年分人工帳(甲九四号証)について、春江は請求書、支払伝票、給料明細書等から再現したものであるとするから(甲一〇〇号証)、人工帳自体は、右各原始資料を補強するものということはできない。しかも、右のとおりであるとするなら、請求書等が存在していないのに人工帳に記載されているものはないはずであるが、請求書等との対応を欠く記載があることからすれば、かかる帳簿そのものの信憑性が疑われることになるのである。

以上の点及び右一、1、(三)で認定した春江の証言内容の不自然性を考慮すると、人工帳の記載方法及び記載内容の正確性に関する春江の証言内容を措信することできないといわざるを得ない。

4  したがって、原告の収入金額及び必要経費についての実額の主張は、その余の点について判断するまでもなく、これを採用することはできないといわざるを得ない。

五  以上のとおり本件推計課税においては、その税務調査に違法はなく、推計の必要性及び合理性が認められ、本件各更正の総所得金額及び課税総所得金額は、右推計により算出した本件各係争年分の総所得金額及び課税総所得金額の範囲内であるから、本件各更正に何ら違法な点はなく、また、これに基づく本件各賦課決定にも何ら違法な点はない。よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決することとする。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官竹野下喜彦は退官につき、裁判官岡田幸人は填補につきそれぞれ署名捺印することができない。裁判長裁判官 富越和厚)

別表一の1

平成元年分 更正処分等の経緯

所得税額は、所得税法第一二〇条第一項第三号の規定に基づき計算した金額である

〈省略〉

別表一の2

平成二年分 更正処分等の経緯

所得税額は、所得税法第一二〇条第一項第三号の規定に基づき計算した金額である

〈省略〉

別表一の3

平成三年分 更正処分等の経緯

所得税額は、所得税法第一二〇条第一項第三号の規定に基づき計算した金額である

〈省略〉

別表二の1

平成元年分

〈省略〉

別表二の2

平成2年分

〈省略〉

別表二の3

平成3年分

〈省略〉

別表三の1

収入金額明細表

〈省略〉

別表三の2

収入金額明細表

〈省略〉

別表四の1

平成元年分同業者率算定表

〈省略〉

別表四の2

平成2年分同業者率算定表

〈省略〉

別表四の3

平成3年分同業者率算定表

〈省略〉

別表五

収入明細表

〈省略〉

別表六

〈省略〉

別紙一

〈省略〉

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