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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)108号 判決

東京都新宿区四谷四丁目二八番二〇号

パレ・エラルネル九〇四

原告

武節子

右訴訟代理人弁護士

角田昌彦

角田雅彦

東京都新宿区三栄町二四番地

被告

四谷税務署長 田巻達也

右指定代理人

仁田良行

松原行宏

市川幸次

寺島進一

三井広樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が原告に対し平成四年三月一三日付けでした次の各課税処分をいずれも取り消す。

1  原告の昭和六三年分の所得税に係る更正のうち、総所得金額四七五六万六六五一円及び納付すべき税額一七四三万七四〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定

2  原告の平成元年分の所得税に係る更正のうち、総所得金額四三七五万九二九〇円及び納付すべき税額一五九五万一八〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定

3  原告の平成二年分の所得税に係る更正のうち、総所得金額五五三〇万三二七一円及び納付すべき税額二一六五万九九〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定

第二事案の概要

一  本件の事案

本件は、原告が、昭和六三年、平成元年及び平成二年の各年分の所得税について、モナコ公国(以下「モナコ」という。)内で同国法人の営業しているレストランFUJIモナコ店(以下「レストランフジ」という。)の実質的な経営者は原告及び川野泰彦(以下「川野」という。)であり、レストランフジの経営から生ずる所得は原告の事業所得に該当するとして、その金額の計算上生じた損失(以下「本件損失」という。)の金額について所得税法(以下「法」という。)六九条一項の規定による損益通算を行って確定申告をしたところ、被告から、レストランフジに係る原告の所得は事業所得ではなく雑所得に該当し、本件損失は、雑所得に係る損失となるので、所得税法六九条一項の規定によって損益通算することは認められないとして、右各年分の所得税についての更正(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」といい、本件各更正処分とあわせて「本件各処分」と総称する。)を受けたために、本件各処分の取消しを求める事案である。

二  関係法令の定め

1  我が国の居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とされ(法二二条一項)、右のうち総所得金額は、次に掲げる金額の合計額とされる(同条二項、なお、総所得金額を構成する各所得金額の各所得の金額並びに退職所得金額及び山林所得金額を、以下「各種所得金額」と総称する。)。

(一) 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(法三三条三項一号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額の合計額

(二) 譲渡所得の金額(法三三条三項二号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び一時所得の金額の合計額の二分の一に相当する金額

2  右課税標準たる金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上損失を生じたときは、一定の順序により、これを他の各種所得金額から控除して損益通算することとされている(法六九条一項)が、配当所得の損失の金額、一時所得の損失の金額及び雑所得の損失の金額は、損益通算の対象とはされていない。なお、事業所得の計算上生じた損失の金額については、まず他の利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額及び雑所得の金額から控除することとされている(所得税法施行令一九八条一号)。

三  争いのない事実等

1  当事者

原告は、東京都新宿区新宿一丁目九番一号に納税地(居所)を有し、株式会社武事務所(本店所在地同所。以下「武事務所」という。)及び株式会社タケビル(本店所在地同所)の代表取締役であり、また、同所に貸しビルを所有して不動産の貸付業を営んでいる青色申告者である。

2  レストランフジの開業の経緯(甲第一号証、第三号証、第八、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一三号証、乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六、第七号証)

(一) 原告は海外で日本食レストランを経営したいという希望を持っていたところ、フランスに在住し、仕事上の知人でもあった小泉達博(以下「小泉」という。)に株式会社プロダクションゆりーか(以下「ゆりーか」という。)の代表者である川野を紹介された。

(二) 原告及び川野は、小泉を案内人として、レストランを開業する場所を探していたところモナコのホテルの中に、アメリカ人Kenneth Theodore Marak(以下「テッド」という。)が開店準備を進めていた日本食レストランの店舗(以下「本件店舗」という。)が、資金繰りが付かなくなったために工期半ばの状態で売りに出されていることを知り、本件店舗を購入することとした。

(三) 原告及び川野は、本件店舗においてレストランフジを開業することとし、フランスのホテルでシェフをしていた小寺広昭(以下「小寺」という。)をシェフとすることとして開業の準備を進めた。

(四) 原告、川野、小泉及び小寺(以下「原告ら」と総称する。)は、レストランフジの開業に当たり、原告及び川野が本件店舗の購入代金及び開業資金等を負担(いわゆる共同出資)することとし、小泉はマネージャーとして小寺とともにモナコにおいて本件店舗の購入及びその他の開業準備に当たることとした。

(五) 昭和六三年七月一日、テッドを売主、小泉及び小寺(以下、右両名を「小泉ら」と総称する。)を名義上の買主(実質的な買主が誰かについては争いがある。)として、本件店舗を代金二二六万二五〇〇フランで譲渡する旨の仮契約が成立した(本件店舗は賃貸借物件であり、右譲渡の対策には本件店舗における営業権、リース契約、家具、備品及び内装が含まれる。)(乙第四号証の一、二)。なお、右代金は、平成元年四月一〇日、テッドが小泉らから受領している。

(六) レストランフジの開業準備を進めるうち、モナコの法律の規制から、モナコにおいてレストランを経営するためには、モナコにおいて法人を設立する必要が生じた。

(七) 原告らは、昭和六三年一一月一七日、テッドが設立していたモナコ法人の持分の譲渡を受け、右法人の名称KODERA ET CIE(以下「コデラカンパニー」という。)と変更し、その上で、小寺をコデラカンパニーの業務執行者として、アジア料理とりわけ日本料理のレストランの営業を行うこと及びアジア料理に関する物品又は付帯品の売買を行うことについての許可をモナコより受け、同国の商業許可ライセンスが小寺に交付された。

(八) レストランフジは、平成元年二月八日開業した。

(九) 原告は、平成元年三月一四日、被告に対し、レストランフジを昭和六三年一一月一五日にオープンした旨の個人事業の開業届出書(甲第三号証。以下「本件開業届出書」という。)を提出した。

(一〇)コデラカンパニーは、一九八九年(平成元年)二月七日にモナコの商工台帳に登録された資本金三〇万フランの合資会社であり、小寺を業務施行者として、日本料理レストラン等を事業活動とするモナコの法令に従って商法に設立された法人である。

社員の持分は、設立時においては、原告及び川野がそれぞれ二五パーセント、テッドが一〇パーセントであり、各社員の地位は、小寺が無限責任社員、原告、川野、小泉及びテッドは代理権の有無に関係なくいかなる業務執行にも関与しない資本提供者たる有限責任社員である。

(一一) その後、武事務所の代表者である原告、ゆりーかの代表者である川野及び割烹及びレストラン経営を業務内容とする株式会社江戸川の代表取締役岡本靱彦(以下「岡本」という。)と小泉らとの間で、一九九〇年(平成二年)五月九日付け覚書(乙第二号証。以下「本件覚書」という。)が交わされたが、本件覚書には、〈1〉原告及び川野については各二・五パーセント分ずつ、小泉らについては各八・七五パーセント分ずつのコデラカンパニーの社員持分を、額面金額にて、岡本に譲渡すること、〈2〉株主出資中に、原告及び川野の各出資金二二七万五〇〇〇フランから各七万五〇〇〇フランを差し引いた金額及び原告、川野及び岡本の各貸付金二二万フランが含まれ、岡本が出資完了後、原告、川野及び岡本が、全出資金及び貸付金の合計の三分の一ずつを出資する形に三者間で、調整することを前提に、小寺において、コデラカンパニーの代表者として、右の旨を証明する書類を発行し、決算書に適法に計上する手段を講じること、〈3〉小泉らが原告、川野及び岡本に対して一二万フランの借入金を返済すること、〈4〉小泉らは、原告、川野及び岡本に対して、レストランフジ等につき定期的に売上報告を行うこと、〈5〉レストランフジの事業が成功した場合株式配当を行うか、他の事業への投資に使用うするかにつき協議して決定すること等を条件として、原告、川野及び岡本が、小泉らが提出した一九八九年度決算書を承認する旨の記載がある。

(一二) コデラカンパニーの各年分の売上高は、平成元年が四二二万二一五二・四七フラン(日本円に換算すると一億六七七万八二三六円。ただし、平成元年の東京銀行最終営業日(一二月三〇日)における外国為替市場の電信売相場の金額一フラン=二五・二九円を適用。)、平成二年が四二三万八四二〇・三七フラン(日本円に換算すると一億一四〇九万八二七六円。ただし、平成二年の東京銀行最終営業日(一二月三一日)における外国為替相場の電信売相場の金額一フラン=二六・九二円を適用。)である。また損益については、いずれの年分も欠損が生じている。

3  原告の送金状況

原告は、小泉らからの連絡等を受けて、いずれも株式会社第一勧業銀行東新宿支店から、次の〈1〉ないし〈8〉の合計二二五万二五〇〇フランについては小泉を受取人として、次の〈9〉についてはレストランフジを受取人として、それぞれ送金した。なお、次の〈1〉ないし〈9〉の送金を領収した旨の小寺の署名のあるレストランフジ名義の原告宛領収書(甲第七号証)が発行されているが、〈8〉の領収日は、平成元年四月、〈9〉の領収日は同年五月とされている。

〈1〉 昭和六三年 七月 一日 二八万二五〇〇フラン

〈2〉 同年 七月一八日 五〇万フラン

〈3〉 同年 八月二五日 三五万フラン

〈4〉 同年一〇月三一日 二三万フラン

〈5〉 同年一二月一五日 二三万フラン

〈6〉 平成元年 一月一〇日 四五万フラン

〈7〉 同年 二月 三日 六万フラン

〈8〉 同年 二月二三日 一五万フラン

〈9〉 同年 六月 二日 二〇万フラン

4  原告に対する更正等の経緯

(一) 原告の昭和六三年分の所得税の申告及びこれに対する更正の内訳は別表一の1ないし3の各同年分欄記載のとおりであり、これらの経緯は、別表二のとおりである。また、証人滝本の証言及び弁論の全趣旨によれば、レストランフジに係る事業所得の青色申告の内訳は別表五の同年分の欄のとおりであったと認められる。

すなわち、原告は、同年における本件損失七四二万六五〇六円を事業所得の計算上生じた損失とし、不動産所得四三九三万八一五七円及び給与所得八六六万五〇〇〇円(総所得金額四五一七万六六五一円)、納付すべき税額一六三二万六〇〇〇円として法定申告期限内である平成元年三月一四日に確定申告し、平成三年二月二一日、右のうち不動産所得を四五一八万八一五七円、給与所得を九八〇万五〇〇〇円、総所得金額を四七五六万六六五一円、納付すべき税額を一七四三万七四〇〇円にそれぞれ訂正して修正申告したところ、被告は、平成四年三月一三日付けで、原告がレストランフジを個人経営として行っているとは認められず、したがって、右本件損失は事業所得の計算上生じた損失には該当しないから、法六九条一項の規定による損益通算は認められないとして事業所得金額を〇円と認定した上、総所得金額を五四九九万三一五七円とし、これから法七二条ないし八七条所定の所得控除の合計額一九六万三八〇六円(昭和六三年分修正申告書記載額と同額。)を控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項を適用して求めた課税総所得金額五三〇二万九〇〇〇円に法八九条一項の税率を乗じて課税総所得金額に対する税額二二九一万七四〇〇円を算出し、この金額から源泉徴収税額一四六万三六〇〇円(昭和六三年分修正申告書記載額と同額)を控除し、通則法一一九条一項を適用して、納付すべき税額を二一四五万三八〇〇円とする更正を行い、右更正により、原告が新たに納付すべきとされた所得税額について、通則法一一八条三項、六五条一項を適用して、過少申告加算税額を四〇万一〇〇〇円とする賦課決定をした。

(二) 原告の平成元年分の所得税の申告及びこれに対する更正の内訳は別表一の1ないし3の各同年分欄記載のとおりであり、これらの経緯は、別表三のとおりである。また、証人滝本の証言及び弁論の全趣旨によれば、レストランフジに係る事業所得の青色申告の内訳は別表五の同年分の欄のとおりであったと認められる。

すなわち、原告は、同年における本件損失一六〇七万一八〇三円を事業所得の計算上生じた損失とし、不動産所得四九七七万六〇九三円及び給与所得八六六万五〇〇〇円(総所得金額四二三六万九二九〇円)、納付すべき税額一五三三万七二〇〇円として法定申告期限内である平成二年三月七日に確定申告し、平成三年二月二一日、右のうち不動産所得を五〇〇二万六〇九三円、給与所得を九八〇万五〇〇〇円、総所得金額を四三七五万九二九〇円、納付すべき税額を一五九五万一八〇〇円にそれぞれ訂正して修正申告したところ、被告は、平成四年三月一三日付けで、前同様に右本件損失は事業所得の計算上生じた損失には該当しないから、法六九条一項の規定による損益通算は認められないとして事業所得金額を〇円と認定した上、総所得金額を五九八三万一〇九三円とし、前同様の所得控除及び源泉徴収税額の控除をし、納付すべき税額を二三九八万七八〇〇円とする更正を行い、右更正により原告が新たに納付すべき所得税額につき、通則法一一八条三項、六五条一項を適用して、過少申告加算税額を八〇万三〇〇〇円とする賦課決定をした。

(三) 原告の平成二年分の所得税の申告及びこれに対する更正の内訳は別表一の1ないし3の各同年分欄記載のとおりであり、これらの経緯は、別表四のとおりである。また、証人滝本の証言及び弁論の全趣旨によれば、レストランフジに係る事業所得の青色申告の内訳は別表五の同年分の欄のとおりであったと認められる。

すなわち、原告は、同年における本件損失二〇六〇万七九一〇円を事業所得の計算上生じた損失とし、不動産所得六五一二万二八六一円、給与所得九九九万五〇〇〇円及び短期譲渡所得七九万三三二〇円(総所得金額五五三〇万三二七一円)、納付すべき税額二一六五万九九〇〇円として法定申告期限内である平成三年三月一五日に確定申告したところ、被告は、平成四年三月一三日付けで、前同様に右本件損失は事業所得の計算上生じた損失には該当しないから、法六九条一項の規定による損益通算は認められないとして事業所得金額を〇円と認定した上、総所得金額を七五九一万一一八一円とし、前同様の所得控除及び源泉徴収税額の控除をし、納付すべき税額を三一九六万三九〇〇円とする更正を行い、右更正により原告が新たに納付すべき所得税額につき、通則法一一八条三項、六五条一項を適用して、過少申告加算税額を一〇三万円とする賦課決定をした。

5  本件各処分等に対する不服申立ての経緯

原告は、本件各処分に対し、平成四年四月一〇日付けで課税標準及び税額はいずれも申告額どおりであるとして被告に対する異議申立てを行ったが、被告は、同年七月三日付けでいずれも棄却する旨の決定をした。そこで原告は、同年八月三日付けで課税標準及び税額はいずれも申告額どおりであるとして、本件各処分につき国税不服審判所長に対する審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成七年二月二〇日付けでいずれも棄却する裁決をした。

第三争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

本件の争点は、レストランフジの経営に係る損失をもって原告の事業所得の計算上生じた損失ということができるか否か、換言すれば、レストランフジの経営に関して原告が取得する収入の原因として原告の関与をもって法二七条一項に規定する「事業」ということができるか否かにある。

二  当事者の主張

1  被告の主張

(一) 我が国の所得税法は、法人の設立準拠法主義の立場から、国外で設立された法人につき、外国法人としてその法人格を認めていると解されるから、居住者が外国法人(内国法人以外の法人)の株式や持分権を取得し、あるいは外国法人に出資した場合には、それら外国法人の会計計算を経て居住者に分配される配当やその他の利得は、原則として、我が国において居住者の配当所得や雑所得などとして総所得金額に算入して申告すべきものであって、コデラカンパニーが、モナコの法律に基づく法人であるからといって、所得の種類を判断する場合に我が国の法人と別異に解すべき理由はない。

(二) 前記争いのない事実2の(七)、(一〇)及び(一一)等の事実に照らせば、レストランフジの現実の業務を遂行しているコデラカンパニーは法人としての通常の経営形態を有し、個々の社員から独立した、実体を有する法人であって原告と同視する余地はないから、レストランフジの経営を原告の事業であると認めることはできない。また、実質的な見地から判断しても、従業員の採用や仕入れ関係等の人事、営業は、いずれも小寺の責任で行われ、本件店舗はコデラカンバニー名義で借りられ、材料の仕入れの買掛債務等のレストランフジの経営に係る債権債務はすべてコデラカンパニーに帰属していること、原告が共同経営者であると主張する川野はレストランフジの経営をコデラカンパニーが行っていたと認めていること、レストランフジの開業当時においても、原告のコデラカンパニーの社員持分は二五パーセントのみであったこと、原告が平成元年五月までの間に、送金した金員は当事者間では「出資金」及び「預り金」として扱われていること等に照らせば、レストランフジの経営主体が原告でないことは明らかである。

2  原告の主張

(一) 我が国の居住者がモナコにおいて事業を行い、その事業により収入を得たといい得るか否か(当該収入が所得税法上野事業所得に該当するか否か)は、我が国とは異なる法制度によるモナコにおける当該事業が、我が国の所得税法上の観点からみて右居住者の経営に係るものであると解し得るかどうかを具体的、実質的に判断すべきである。すなわち、ある事業が、モナコの法規制に基づき、外国法人の経営に係るような外観を有する場合であっても、モナコとは税法上の体系を異にする我が国の所得税法上、当然に当該外国法人が法人格を有するものではなく、特に事業主体の選択において真の意図とは異なる形式がとられることの多いモナコの実状に照らせば、当然に右事業の経営主体が当該外国法人であると解すべきではないから、具体的、実質的な見地から右事業の真の経営者を判断すべきである。

(二) モナコの法律では、レストランを開業するためには事前の許可を得る必要があり、そのためには経営主体がモナコに在住することが事実上要求されているところ、原告がモナコに在住することは、非常に困難であったため、このようなモナコの法規則に適合させるために原告は現地法人を買収ないし設立し、これにレストランフジを経営させるという形式を便宜上とることとしたに過ぎない。

そして、小泉らをシェフ及びマネージャーとして選任し、営業費用を送金し、レストンフジの内装についての指示及び什器備品多数の選定、送付を原告が行い、小泉らも、当初より原告がレストランフジの実質的経営者であることを認めていたこと、レストランの名称も、長女の名(富士子)に因むものであったこと、小泉らは原告にレストランフジの事業内容を逐次報告し、原告も、一年に四、五回の割合でモナコに赴いては長期間同所に滞在してレストランフジの経営に当たったこと、平成元年三月一四日、レストランフジに関する個人事業の開業届書を被告に提出していること及びコデラカンパニーの登録されている業務執行者が小寺であるのは、原告がモナコ国籍を有せずモナコ内に居住していなかったために、モナコ法の規制上、原告が業務執行者となることが不可能だったからに過ぎないことに照らせば、原告は、レストランフジの開業準備段階、開業及びその後の経営という一連の流れを通じて、同レストランを自己の個人事業として経営していく意思を有し、自らレストランを経営し、あるいはコデラカンパニーを実質的に経営していたものであるから、レストランフジの経営に係る所得又は損失は原告の事業に係るものというべきである。

三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で所得税法施行令六三条で定めるものから生ずる所得をいい(法二七条一項)、右各事業はいずれも対価を得て継続的に行う事業(所得税法施行令六三条一二号参照)ということができる。そして、右にいう事業から生ずる所得とは、当該個人の危険と計算において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解すべきである(最高裁判所第二小法廷昭和五六年四月二四日判決・民集三五巻三号六七二頁参照)。

そして、右にいう「事実」又は「事業所得」該当性の判断は、当該個人の意図又は認識といった主観的事情のみによって決せられるものではなく、所得を生ずる業務の内容、当該業務に係る危険と計算の帰属、経営判断の主体、方法及びこれらへの当該個人の関与の内容等の客観的事情等を総合考慮して行われるべきものである。

二1  原告のレストランフジへの関与について

証リ拠(甲第四号証、第八、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一三号証、乙第三号証、証人川野、原告本人。ただし、証人川野及び原告本人については、後記採用しない部分を除く。以下同じ。)によれば次の事実が認められる。

(一) 第二、三、2(一)ないし(四)及び3記載のとおり、原告及び川野は、モナコ内で日本食レストランを共同で経営しようと考え、昭和六三年から平成元年六月初めまでの間に、数回に分けて日本円にしてそれぞれ合計約五〇〇〇万円の資金を小泉名義の口座に送金した。

(二) 原告及び川野は、小泉らから、モナコ法の規制により、モナコに在住していない原告及び川野が直接レストランを経営することはできないこと、右規制に対応するためには、既にモナコで日本料理店経営の許可を得ていた合資会社の持分権をテッドから譲り受けて、同社がレストランフジを経営するという形式をとるのが望ましいこと、同社の代表者は営業ライセンス取得の都合上モナコに住むことが必要であるとの提示を受けた。

(三) なお、モナコ法によれば、モナコ内でレストランの営業を行うにはモナコ政府の事前の許可が必要であり、他方、モナコの合資会社における業務執行者は、同人が外国籍(ただし、フランス国籍を除く。)を有する場合にはモナコに居住することが必要である。

(四) 原告及び川野は、個人事業という形式をとれないことを知り、当初は困惑したが、既に相当額の資金をモナコに送金していたこと及び当時は小泉らを信頼していたこともあって、右提案を認めることとし、その結果前記のとおり昭和六三年一一月一七日、テッドから合資会社の持分権を取得した。

(五) その後も、原告は、什器備品多数を自ら選んで日本から送り、レストランの名称について原告の長女の名(富士子)をとって「レストランFUJIモナコ店」とすることを提案し、川野と相談してレストランフジのロゴのデザインを考案するなどして、レストランフジの開店まで尽力した。なお、当初、原告及び川野は、右合資会社の名称を「レストランフジ」とすることを希望していたが、小泉らは、前記のとおり合資会社の持分権をテッドから譲り受けると社名をコデラカンパニーとし、平成元年二月七日、モナコにおいて同社を合資会社として登録した。

2  コデラカンパニーの内部関係について

証拠(甲第一一号証、第一三、第一四号証、乙第二、第三号証、第六ないし第九号証、証人川野、同滝本遵一及び原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 第二、三、2(一〇)記載のとおり、コデラカンパニーの社員持分権の割合は、原告及び川野がそれぞれ二五パーセント、小泉らがそれぞれ二〇パーセント、テッドが一〇パーセントであったが、コデラカンパニーの資本金は、すべて、原告及び川野が送金した資金が充てられており、テッド及び小泉らが持分権を取得しているのは、テッドについては温情によるものであり、小泉らについては、コデアラカンパニーに利益が出れば、小泉らに対しても持分に応じた配当がされることによって、その意欲を高めるためであった。

(二) 平成元年初めころに、原告からの依頼により、岡本がコデラカンパニーに対して、原告及び川野と等分の出資をし、その経営にも参加する旨の計画が持ち上がり、岡本は、約四八〇〇万円の資金を小泉の口座に送金し、またはパスポート送金するなどした(右金額にはコデラカンパニーがカンヌで経営していたレストランフジカンヌ店に対する出資も含まれていた。後にコデラカンパニーは同店の経営から撤退している。)。その際、口頭で、岡本に対して、出資した金額の七パーセントが、コデラカンパニーから月々支払われる旨の約束がされた。

(三) 平成二年五月九日ころ、岡本が右資金を送金してから一年以上経過しても岡本への持分譲渡が行われなかったこと及び小泉らからの営業報告が遅れがちになったことから、基本的な関係を明確にするため、前記のとおり、原告、川野及び岡本並びに小泉らの間で、本件覚書が交わされた。本件覚書には、前記のとおり、原告、川野及び小泉らが、岡本に対し、社員持分権を、額面金額で譲渡する旨の記載があり、原告が送金した金額と同額の金額が、原告がコデラカンパニーに対して有する「出資金」、「貸付金」として記載されている。

なお、原告は、本件覚書につき、実体を反映したものではなく、当事者間で無効であることを確認している旨主張し、川野及び原告の各供述(陳述書中の記載も含む。)中にも、右主張に沿う部分が存するが、第二、三2(二)記載のとおり、本件覚書の内容は、小泉らの提供した一九八九年度決算書を、一定の条件が満たされたときに、原告、川野及び岡本において、承認するというものであって、仮に、本件覚書が無効とされているとしても、効力を失うのは、右各条件の履行に係る部分であって、本件覚書の法的効力が失われることによって、原告らの拠出した出資金又は貸付金に係る事実の存否が左右されるものでないことは言をまたないところであり、証拠(乙第二、第三号証、第六、第七号証、証人川野、原告本人)によれば、本件覚書は、小泉らのモナコにおける行動に対して不信感を持った原告、川野及び岡本が、弁護士のアドバイスに従い、自らの権利を確保する目的で締結したものであり、岡本に対する持分権の移転は、本件覚書記載のとおり実行されていることが認められるのであって、そのような状況のもとで、あえて、実体を反映しない合意をした旨の前記川野及び原告の各供述部分は不自然であって、採用することはできないものというべきである。

(四) 平成元年六月ころには、コデラカンパニーから、岡本との経営する株式会社江戸川に対して、原告、川野及び岡本がコデラカンパニーに対して有する貸付金の利息(七パーセント分のうち五パーセント分)の支払として送金がされ、岡本は、原告に対し、右を三当分した金額である三五万八九二七万円を、同年九月七日に送金した。また同年一一月七日には、原告は、一八万七八三〇円をコデラカンパニーから受け取っている。

(五) 川野はレストランフジの経営主体が法人であること、同人の資金提供の性質が出資であることの認識を有していたが、出資者をもって実質的経営者とも理解していた。

3  レストランフジの経営について

2掲記の証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、当初メニュー及び仕入先の決定に関与し、レストランフジの開業当初から平成二年の終わりころまでの間、合計三、四か月モナコに滞在し、レストランフジの営業を手伝ったが、その後に原告がメニューや仕入先等を決定したことはなく、小泉らがこれら営業面を行っていた。

(二) レストランフジの店舗は、コデラカンパニー名義で借入れられ、レストランフジの従業員の賃金や仕入れ等のラ支払については、レストランフジの売上金の中から賄われており、その他のレストランフジの経営に係る債権債務は、いずれもコデラカンパニーに帰属しており、原告自身が、レストランフジの経営により生じ債務について、債権者から直接請求を受けた事実は存在しない。

(三) 平成元年二月八日の開業当初から半年位の間及び平成二年五月ころから数か月位の間、小泉らから、原告及び川野に対し、レストランフジの営業報告書及び月報等が送られてきたことがあるが、その後は途絶えたままになっている。

(四) 原告は、平成四年の夏ころ、レストランフジの様子を調査するためもあって、レストランフジの従業員として、訴外西園寺夫婦を選任し、モナコに派遣したことがあるが、それ以外の従業員の選任・雇傭は、いずれも小泉らが行っていた。

(五) レストランフジ開業以来、コデラカンパニーは赤字続きであり、そのため継続的に営業資金を投入する必要があったが、平成元年六月三日以降は原告からコデラカンパニーに対し送金が継続的に行われた事実はない。

4  右認定事実1によれば、原告は、レストランフジの当初の計画段階から少なくともテッドから合資会社の持分権を取得することを決定する時点までの間は、レストランフジを個人事業として開業し、営んでいこうという意思を有しており、その後もレストランフジの開業に向けて積極的に関与していたものということができる。

しかし、事業であるかどうかの判断は、原告の主観的事情にのみよるべきものでないことは既に指摘したとおりであり、原告と同様の資金提供をしている川野は右資金提供自体をもって料理店業であるとは認識していないのである。そして、原告において、本件開業届出書に前記のとおりレストランフジの実際の開業日である平成元年二月八日ではなくテッドから合資会社の持分権を取得する直前の昭和六三年一月一五日を開業日として記載し、また、原告が、青色申告書に添付して提出した所得税青色申告決算書には、レストランフジに係る総収入金額や売上原価を記載していないことに照らせば、原告自身も、レストランフジの経営主体がコデラカンパニーであることを前提としていたことが窺えるのであって、原告の主張する事情はレストランフジへの思い入れから、単なる資金提供以上の関与をしていたことを推認させるものであるとしても、そのことから、資金提供の性質が川野らと別異になると解することはできないのである。

そして、3(二)記載のとおり、レストランフジの経営に係る債権債務は、本件店舗の賃貸借契約も含め、すべてコデラカンパニーに帰属し、原告が営業上の責任を負うものではなく、2(一)ないし(四)記載のとおり、レストランフジに資金を提供した原告、川野及び岡本並びにレストランフジのモナコにおける実際の運営に当たっていた小泉らに対して、レストランフジの経営により得た利益は、貸付金利息又は配当という形で配分されることが予定されていたのであるから、コデラカンパニーは、単なる形式を整えるためだけのものではなく、権利義務の帰属主体である合資会社としての実質を有する法人であるというべきであるし、原告は、コデラカンパニーに対する出資者又は債権者としての地位を有するに過ぎず、レストランフジの実質的な経営主体はコデラカンパニーであるというべきである。したがって、原告が自らの危険と計算において独立して飲食店業又は料理店業としてレストランフジを経営していたと認めることはできず、3記載の事実関係を総合しても、原告が実質的にレストランフジを経営していたということはできないのである。この点につき、原告は、小泉らは、原告を実質的経営者と認めており、月報及び営業報告書を送付するなどして逐次事業内容の報告をしていたと主張し、小泉らの上申書(甲第八、第九号証)中には右に沿う記載が存在するが、前記のとおり、原告が、レストランフジの実質的経営主体であるコデラカンパニーの貸付者又は出資者であったことと、前記のような報告があったという事実とは何ら矛盾するものではなく、小泉らが原告を「実質的な経営者」と考えていたとしても、資金提供者の発言力の強さを示す通俗的表現以上に、原告にレストランフジの経営に係る損益が帰属し、原告の計算と危険において右経営が行われていたことを示すものではないというべきである。

また、原告らのレストランフジの経営への最大の関与は資金提供にあるが、2(一)によれば、テッド及び小泉らの持分相当分の金額は原告らの提供した資金によるものであり、これに相当する資金はテッド及び小泉らの処分に委ねられたことになるから、かかる資金提供をもって営利性、有償性を有する業務ということはできない。また、出資又は貸付金の名目で資金を提供してレストラン経営から生ずる利益の分配を受けることによる所得は、配当所得又は雑所得に属するとしても事業所得と解することはできないから、本件損失を事業所得の計算上生ずる損失ということはできないのである。

三  本件各処分の適法性

以上のとおり、本件損失は事業所得の計算上生ずる損失ということはできず、その金額につき法六九条一項の規定による損益通算は認められないというべきであるから、いずれも事業所得の金額を〇円として、前記第二、三、4「原告に対する更正等の経緯」に記載した計算によってなされた本件各更正処分に違法はなく、また、これを前提とする本件各賦課決定にも違法はない。

第五結論

以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

別表一

1.確定申告(各決定申告期限までに申告)

〈省略〉

2.修正申告(平成3年2月21日)

〈省略〉

3.更正決定(平成4年3月13日)

〈省略〉

別表二

昭和六三年分課税処分等の経緯

〈省略〉

別表三

平成元年分課税処分等の経緯

〈省略〉

別表四

平成二年分課税処分等の経緯

〈省略〉

別表五

事業所得の金額

〈省略〉

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