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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)215号 判決

原告

池谷キワ子

被告

あきる野市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

小野沢森松

右訴訟代理人弁護士

近藤智孝

鈴木仁

主文

一  被告が平成七年四月二七日付けで原告に対してした別紙物件目録記載の各土地の土地課税台帳に記載された価格に関する審査申出を棄却する決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)に係る固定資産税の納税義務者である原告が、東京都西多摩郡五日市町長によって決定され、土地課税台帳に登録された本件各土地の平成六年度の価格について、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号、以下「評価基準」という。)を適用していない違法な評価であるなどとして審査の申出をしたが、右申出の棄却決定を受けたために、その取消しを求めて出訴した事案である。

二  本件訴訟に至る経緯等(当事者間に争いがない事実及び本件に係る固定資産の価格の決定手続)

1  土地の評価に関する地方税法(以下「法」という。)の規定等

(一) 土地に対して課する基準年度(本件では平成六年度である。)の固定資産税の課税標準は、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の一月一日、本件では平成六年一月一日である。法三五九条)における価格、すなわち「適正な時価」で土地課税台帳等に登録されたものである(法三四一条五号、三四九条一項)。

(二) 登録価格の決定に際しての固定資産の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされ、評価基準が告示されている。そして、市町村長は評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならず(法四〇三条一項)、右価格決定が評価基準によって行われていないと認められるときは、道府県知事は登録価格を修正して登録するよう勧告するものとされ、自治大臣は右勧告をするよう指示するものとされている(法四一九条一項、四二二条の二第一項)。

2  本件各土地はいずれも地目の現況が山林であり、近傍の宅地、農地等との評価の均衡上近傍地比準方式によって評価すべき山林には当たらないところ、かかる山林につき評価基準が定める評価方法の概要は、以下のとおりである(評価基準第1章第7節)。

(一) 山林の評価は、各筆の山林について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の山林の価額を求める方法による。なお、本件での評点一点当たりの価額は一円である。

(二) 評点数の付設方法の概要は、以下のとおりである。

(1) 状況類似地区の区分

地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる山林の所在する地区ごとに状況類似地区を区分する。状況類似地区は、小字の区域ごとに認定するものとし、相互に当該状況が類似していると認められる小字の区域は合わせ、小字の区域内において当該状況が著しく異なると認められるときは、当該状況が異なる区域ごとに区分するものとする。

(2) 標準山林の選定

状況類似地区ごとに、位置、地形、土層、林産物の搬出の便等の状況からみて比較的多数所在する山林のうちから、標準山林を選定する。

なお、市町村長は、標準山林のうち、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況からみて上級に属するもののうちから一の標準山林を基準山林として選定する。

(3) 標準山林の評点数の付設

売買の行われた山林の売買実例価額について、正常な条件の下での価格を求め、これと標準山林の位置、地形、土層、林産物の搬出の便等の相違を考慮して、標準山林の適正な時価を評定する。その際、基準山林との評価の均衡及び標準山林相互間の評価の均衡を総合的に考慮する。

(4) 各筆の山林の評点数の付設

各筆の山林の評点数は、標準山林の単位地積当り評点数に、山林の比準表により求めた各筆の山林の比準割合を乗じ、これに各筆の山林の地積を乗じて付設する。市町村長は、山林の状況に応じ必要があるときは、山林の比準表について所要の補正をして、これを適用する。

なお、山林の比準表の内容は、別表1のとおりである。

3  原告は、平成六年五月二日付けで、五日市町固定資産評価審査委員会(以下「旧委員会」という。)に対し、法四三二条一項に係る審査の申出をしたが、旧委員会は、平成七年四月二七日付けで、右申出を棄却する決定(以下「本件決定」という。)をした。

なお、平成七年九月一日、地方自治法七条一項の規定に基づいて東京都秋川市及び同西多摩郡五日市町(以下「旧五日市町」という。)が廃され、その区域に東京都あきる野市が置かれたため、被告が旧委員会の事務を承継した(同法施行令五条一項)。

第三  争点に係る当事者の主張

本件の争点は、本件決定が採用した本件各土地の評価方法に、評価基準に違反する等の違法があるか否かの点であるところ、この点に関する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。

一  被告の主張

1  状況類似地区の区分

昭和四五年度の固定資産評価替えに際し、旧五日市町では、山林を評価するための現地調査(以下「本件現地調査」という。)を行った。本件現地調査は、公図を参照しながら山の尾根づたいに歩き、そこから山を見下ろす等の方法で、搬出地点までの距離、架線の取り方、そり使用の有無、標高の高低や搬出地点の利便性等の経済的条件、表土の厚さによる樹種、岩石の有無等の自然的条件を対象として行われ、右調査を基に、小字の全筆ごと、あるいは小字の中の数筆ごとに評点数が付設され、その価格が算定された。

そして、昭和六〇年度の固定資産評価替えに際し、旧五日市町長は、右調査に基づき、基本的には小字を基準とし、価格が同一である小字同士はこれを一つの状況類似地区とし、小字の中で価格が異なる筆については同一価格の筆同士を合わせて一つの状況類似地区に区分し、旧委員会も、本件決定において右区分を採用した(大字乙津地区及び同養沢地区における右区分は、乙二号証のとおりである。)。

確かに、右の方法は、評価基準が定める山林の状況類似地区の区分方法とは異なるが、山林を現地調査して評価した価格を根拠として区分したものであるから、本件に係る状況類似地区は適正である。

2  標準山林の選定

1のとおり、旧五日市町では状況類似地区の選定が本件現地調査に基づく価格を基準としてされたことから、同一価格帯の状況類似地区が各所に点在することとなったが、かかる地区内においては、地勢、土層及び林産物の搬出の便等に共通性が多く、収益可能性についてもそれほど差が認められないことから、旧委員会は、標準山林を各状況類似地区に一つずつ選定せず、原則として同一価格帯を代表する一つの状況類似地区に一か所の標準山林を選定することとし、標準山林の選定がされていない状況類似地区については、標準山林の選定されている別の状況類似地区の標準山林を比準する方法を採用した。

確かに、かかる方法は、評価基準が定める標準山林の選定方法とは異なるが、本件現地調査による価格評価に基づくものであるし、仮に各状況類似地区ごとに標準山林の選定がされたとしても、その価格は右方法によった場合と同一になり、当該地区の各筆の評価には影響しないはずであるから、本件に係る標準山林の選定は評価基準には違反していない。

また、本件各土地に係る基準山林(旧五日市町大字戸倉字釜の沢一四三二番地一、以下「本件基準山林」という。)は、旧五日市町内に所在する標準山林のうち、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況から、上級に属するものとして選定したものであり、その選定に違法はない。

3  標準山林の評点数の付設

旧委員会は、本件基準山林並びに本件各土地に係る標準山林(以下「本件標準山林」という。)である旧五日市町大字養沢字養沢四三番地(以下「A標準山林」という。)及び同字上養沢一〇四〇番地(以下「B標準山林」という。)等の価格につき、東京都基準地、杉の上昇割合並びに財団法人日本不動産研究所の用材素地平均価格、薪炭林素地平均価格及び山元立木平均価格を考慮して決定した。

また、本件基準山林の価格(一〇〇〇平方メートル当たり三万七五〇〇円)は東京都から指示された価格であり、被告においてこれと異なる価格を決定することはできない。

なお、本件各土地周辺の売買実例としては、一〇〇〇平方メートル当たり二〇万円、同三一万円及び同六〇万円の三例があるが、いずれも価格が余りにも高く、かつ価格差が大きいので、標準山林の価格算定に係る参考資料とすることは困難である。

したがって、本件標準山林及び本件基準山林の評点数の付設に違法はない。

4  各筆の山林の評点数の付設

評価基準は、山林の比準表について、市町村長は山林の状況に応じ、所要の補正をしてこれを適用するものとしていることから、旧委員会は、状況類似地区内の各筆の価格について、山林の比準表による補正をせず、本件標準山林の価格をそのまま比準することとした(本件各土地と本件標準山林の対応関係は、別表2のとおりである。)。

旧委員会がかかる方法によったのは、各筆の境界の確認が困難であり、標高差の判断が難しい一方、旧五日市町内の山林は搬出地点から道路への距離等について地域的な共通性が多いことから、各筆ごとに山林の比準表によって比準補正しなくてもそれほど差がないからであり、現に、本件各土地について本件標準山林との標高や幹線道路距離等について比準補正して評価した結果は別表2のとおりであって、本件各土地の合計で価格において本件決定より四〇万〇七四五円、税額において五六一〇円下回っているものの、本件各土地の地積や筆数からすれば、それほど大きい差であるとはいえない。また、各筆の山林の価格は、本件現地調査の結果を根拠とするものである。

したがって、本件各土地について山林の比準表による比準をしていない点も、評価基準に照らして違法とはいえない。

二  原告の主張

1  状況類似地区の区分

本件現地調査については、その方法や対象を明らかにした資料は何ら示されていない。そして、旧委員会は、評価基準が原則として小字ごとに状況類似地区を定めることとしており、大字乙津地区には六七、大字養沢地区には二六の小字が存在するにもかかわらず、各小字ごとの地勢、土層、林産物の搬出の便等の確認をしないで、両地区内をわずか九種類の状況類似地区に区分したのである。

また、被告主張によれば、昭和四五年度評価替え以降は現地調査が行われていないようであるが、昭和四五年から昭和六〇年までの間における材木価格の下落と人件費の著しい高騰は、状況類似地区の区分における搬出の便の重要性を高めているから、仮に昭和四五年度に同一の状況類似地区としては、適正に区分されていても、平成六年度においてはいくつもの状況類似地区に細分化される場合も生じるはずである。

さらに、昭和四五年ころに雑木林として薪炭材や腐葉土の採取地となっており、低価格と評価された山林の中に、現在においてはスギ、ヒノキ等の人工林となっている山林も存在する。

したがって、旧委員会の行った状況類似地区の区分は大雑把にすぎ、山林が置かれている位置、土層、林産物の搬出の便等の相違が全く無視されているから、評価基準に違反する。

2  本件基準山林の選定

評価基準は、基準山林は標準山林のうちから山林の生産力条件が上等に当たるものを選定することとしているところ、本件基準山林は、標高差が一六〇メートル、幅約四〇〜六〇メートルの細長い土地であるから標準山林としての適格性が無く、土層を除き、位置や林産物の搬出要素では上級ではなく中級に属するから、基準山林として選定するのは妥当ではない。

3  標準山林の評点数の付設

評価基準は、標準山林の適正な時価を評定する場合においては、基準山林との評価の均衡及び標準山林相互の評価の均衡を総合的に評価するものとしているところ、旧委員会はA標準山林の評点数を本件基準山林及びB標準山林の各八九パーセントとなるように付設しているが、別表5のとおり、A標準山林の評点数は本件基準山林と比較すればその六三パーセント、B標準山林と比較すればその五八パーセントとなるべきであるから、A標準山林の価格は一〇〇〇平方メートル当たり二万二七〇〇円ないし二万三六〇〇円とすべきである。

また、旧委員会は、本件基準山林とB標準山林とに同一の評点数を付設しているが、本件基準山林は檜原街道に約五〇メートル接していて、搬出地点が林内に設置できる地形であるのに対し、B標準山林は檜原街道より五キロメートル余り一般都道に入り、さらに一キロメートル以上の都林道を入った地点から大岳沢を隔てた向かい側の林地であるから、両者に同一の評点数を付設するのは評価の均衡を考慮した結果とはいえない。

そもそも、固定資産税が毎年課税されるものである以上、固定資産評価額は収益価格を基準として算出すべきであり、特に山林の場合、標準山林の適正な時価を算定する根拠としての売買実例価格は、林地を林地として引き続き木材生産の場として活用するための取引のみとし、雪害の頻発化や人件費の高騰などの悪条件の下においても林業を経済的に維持していくことのできるような評価をすべきであるが、本件決定に係る評価は右要請を満たしてはいない。

したがって、旧委員会のした本件標準山林及び本件基準山林の評点数の付設は、評価基準に照らして違法である。

4  各筆の山林の評点数の付設

旧委員会は、境界の確認及び標高差の判断の困難性、旧五日市町内の山林における地域的共通性を理由に山林の比準表による補正をしていない。

しかしながら、標高差と番地の入った五千分の一の地図があれば、これらの要素は充分に確認できるし、道路際の山林と架線を複雑に架けなければ木材が搬出できない山林との間では、地域的共通性があるとはいえないし、山林の比準表は、林産物の搬出の便を指数化したものとして山林の比準評価上欠かすことのできない重要なものである。

さらに、向養沢地区の山林については、材木の搬出が直線の架線ではできない地形で岩地の部分も多いことから、山林の比準表に所要の補正をして適用すべきである。

そして、本件決定において示された標準山林の選定及び価格が共に適正であると仮定した場合に、本件各土地について搬出の便の指数、位置の指数、傾斜方向等の指数、岩地減指数を基に標準山林から比準した価格は、別表3ないし5のとおりである。

したがって、旧委員会が、何らの合理的理由なく山林の比準表を適用せず、岩地等についての補正もしなかったのは、評価基準に反する。

第四  争点に対する判断

一  「適正な時価」について

固定資産税は、固定資産の所有者に対して、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産から生じる現実の収益に着目して課税される収益税とは異なる。すなわち、資産が山林である土地の場合には、山林の所有という事実に着目して課税するのであって、個々の所有者が現実に山林から収益を得ているか否か、収益の帰属が何人にあるか、山林が用益権又は担保権の目的となっているか否かを問わず、山林として利用することのできるその土地の価格に着目して、賦課期日における所有者を納税義務者として課税されるのである。このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又は算定基礎となる土地の「適正な時価」とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち客観的な交換価値(以下「客観的な時価」という。)をいうものと解すべきである。

もっとも、固定資産税が、譲渡等により現実化した価値ではなく、所有資産の価値に着目していることに照らし、固定資産の利用による利益に担税力の根拠を求めるべきことからすると、固定資産税の基礎とすべき適正な時価は取引価格とは別異のものとして観念できるとの見解も考えられるが、「時価」という概念は、通常、正常な取引条件の下に実現される所定の時点における取引価格を意味すること、投機目的又は将来の期待による価格形成要因が不正常な条件として排除される場合の価格は当該土地の利用利益に接近すること、評価基準は標準山林の適正な時価をその正常売買価格から評定するとしていることに照らせば、「時価」という概念について、通常と異なる意義が与えられていると解する根拠はない。

すなわち、法は、課税標準又はその算定基礎となるべき固定資産の価格を客観的な時価としたうえ、税率の決定又は課税標準若しくは税額の調整によって、固定資産税の性格に応じた適正な課税を実現しようとしているものと解すべきである。

したがって、標準山林の適正な時価を評定すべき根拠としての売買実例価格は期待利益を排除した価格にすべきであるとの原告の主張はその限りで正当であるが、固定資産の評価はもっぱらその使用時価に着目して収益価格を基礎として算出すべきであるとする主張は、採用することができない。

二  評価基準による評価と客観的な時価との関係

1  適正な時価の意義を前記のように解すると、土地の適正な時価の算定は、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法ということになる。

しかしながら、課税対象となる土地は全国に大量に存在するのであり、これらについて、限りある人的資源を活用して、反復・継続的に、それぞれ一定の期間内に課税の基礎となるべき価格の評価を実施することは困難を極めることから、法は、これらの諸制約の下において、その評価方法を自治大臣の定める評価基準によらしめることとし、もって、大量の土地について反復・継続的に実施される評価を可及的に適正に行い、統一的な評価基準による評価を行うことによって、各市町村全体の評価の均衡を確保するとともに、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものということができる。

2 法は、固定資産の評価については、評価基準によることを求めているから、法にいう「適正な時価」とは、評価基準によって評定された価格ということになる。

しかしながら、評価基準は、各筆の土地を個別評価することなく、諸制約の下において大量の固定資産について可及的に適正な評価をする技術的方法であって、固定資産の価格に影響を及ぼすべき全ての事項を網羅するものでもないから、山林の評価についていえば、状況類似地区の区分、標準山林の選定、標準山林の評点数の付設及び評価基準が定める比準の手続に従った各筆の山林の評点数の付設が適正でも、個別的な評価と同様の正確性を有しないことがあることは、制度上やむを得ないものというべきであり、評価基準に基づいて算出された台帳登録価格と客観的な時価とが一致しない場合が生じることも当然に予定されているものというべきである。

すなわち、評価基準に基づく台帳登録価格が客観的な時価を下回ったとしても、それが課税処分の謙抑性の現れとみることのできる範囲内にある限り、法の予定する「適正な時価」と解することができる。しかしながら、「適正な時価」とは本来客観的に観念されるべき事項であって、自治大臣の裁量又は市町村長の裁量に属する事項と解することはできず、法が自治大臣の策定する評価基準に委ねたものは「適正な時価」の算定方法であるから、評価基準に基づく台帳登録価格が客観的な時価を上回る場合には、その限度において、右価格は法に反するものということになる。

三  台帳登録価格の違法に関する判断の枠組み

以上の説示に照らせば、山林に係る台帳登録価格の違法に関する判断は、次の判断順序に従うことになる。

すなわち、台帳登録価格につき、第一に、状況類似地区の区分、標準山林の選定、標準山林価格の算出方式(基準山林価格との均衡及び標準山林価格相互間の均衡)並びに標準山林の評価額から対象山林への比準の方式が評価基準に従ったものであること(基準適合性)、第二に、右評価基準が一般的に客観的な時価への接近方法として合理性を有すること(基準の一般的合理性)、第三に、評価基準よる評定の基礎となる数値、すなわち標準山林価格の評価が賦課期日における適正な時価であること(標準山林の価格の適正さ)を審理すべきことになる。

なお、具体的な土地の特殊性に照らして評価基準の個別的定めが合理性を欠くとしても、評価基準による価格評定方法は、価格形式の諸素因の積み重ねによるものであって、個別的厳密性を確保するものではなく、右評定の過程を通じて客観的な時価に接近する方法であることを考慮すれば、個別算定要素が具体的実情に必ずしも沿うものではなかったとしても、評価基準による評価額が客観的な時価を超えないときは、右評定をもって違法ということはできない。そして、客観的な時価との乖離の程度における個別的差異は、評価基準による評価の誤差の範囲内にあるとして許容されるものと解すべきであるから、客観的な時価を超えない場合においてかかる差異があるとしても、評価基準に適合した評価は公平の原則にも適合するものということになる。

一方、統一的な評価基準による評価によって各市町村全体の評価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとする法及び評価基準の趣旨に照らすと、台帳登録価格が評価基準によらずに評定されている場合には、右土地を評価基準に従って評定した価格が台帳登録価格を上回るものと認められない限り、仮に台帳登録価格が客観的な時価を下回ることが明らかであるとしても、評価の公平の観点から、右登録価格に係る決定は違法となるものと解される。

四  本件各土地に係る基準適合性の有無

1  状況類似地区の区分について

被告は、旧委員会による状況類似地区の区分は、本件現地調査による山林の価格評価を反映したものであるから、かかる区分は評価基準に照らし適正である旨主張する。

ところで、評価基準による山林の評価は、地勢、土層、林産物の搬出の便等の要素を共通にする一定の連続的範囲にある土地を状況類似地区とし、右地区中の標準的山林の価格から右地区内の山林の価格を比準評定するものであり、右諸要素を状況類似地区の区分で考慮しつつ、林産物に係る運搬経費等の経済的側面については更に山林の比準表による調整を行うことで、全体として山林の適正な時価を評定しようとするものであるから、これら諸条件の総和として求められるべき山林の価格から逆に状況類似地区を区分することは異例というべきであるが、右評価が適正なものであり、地勢、土層、林産物の搬出の便等を反映した結果であるといい得るのであれば、区分の方法として右評価額を採用することにも合理性があり、実質的にみて評価基準に違反していないと解する余地はある。

しかしなから、乙一(昭和四五年度山林評価調査表)及び三号証(平成六年度基準地・標準地一覧表)並びに弁論の全趣旨によれば、大字乙津地区及び同養沢地区内の本件現地調査における評価額の分布は二三段階に及んでいるのに、状況類似地区の価格帯が九種類しかないことが認められるから、本件現地調査による評価額がそのまま状況類似地区の区分に反映したものではないことが推認できるが、右区分の際、価格以外にどのような要素をいかなる方法で考慮したのかは前記証拠からは明確ではないうえ、本件全証拠によっても、本件現地調査の具体的な方法、対象及びその精度は何ら明らかではない。

また、原告本人尋問の結果、甲一七(雪害発生状況表)及び一九号証(山林・林道等の位置図)並びに弁論の全趣旨によれば、昭和四五年以降、両地区内には鏡沢林道・石原林道が新たに開通したこと、昭和四五年ころには腐葉土や薪炭等を採取するための雑木林であった山林が、現在ではより評価額の高いスギ等の人工林に変わっている例もあること、昭和四五年ころから昭和六〇年ころまでの間に山林作業員の人件費は約四倍から五倍程度に上昇し、これを受けて状況類似地区の区分に当たり考慮すべき要素のうち運搬費用を反映する搬出の便の比重が相対的に高まっていること、昭和六一年に両地区で比較的大規模な雪害が発生したが、その被害状況は山林ごとに大幅な開きがあり、本件各土地においても、再度の造林を要した山林がある一方、ほとんど被害を受けなかった山林も存することがそれぞれ認められ、以上の事実を総合すれば、仮に本件現地調査に基づく価格評価が昭和四五年ころにおける客観的な時価であったとしても、これのみに基づいてされた状況類似地区の区分が、本件決定の賦課期日において地勢、土層、林産物の搬出の便等を適切に反映した結果であると解することはできない。

したがって、本件決定における状況類似地区の区分が、評価基準の定めに適合しているものと認めるに足りる証拠はない。

2  標準山林の選定について

既に適示したとおり、評価基準によれば、標準山林は、状況類似地区ごとに、位置、地形、土層、林産物の搬出の便等の状況からみて比較的多数所在する山林のうちから選定するものとされているところ、乙二(旧五日市町全図)及び三号証並びに弁論の全趣旨によれば、旧委員会は、標準山林を各状況類似地区に一つずつ選定せず、原則として同一価格帯を代表する一つの状況類似地区に一か所の標準山林を選定し、右標準山林から同一価格帯の各状況類似地区内の山林に比準する方法を採用したことが認められる。

この点につき、被告は、本件決定が標準山林の選定の点で評価基準に従っていないものであることは認めつつ、本件現地調査に基づく価格評価が信頼できるものであることを前提に、仮に各状況類似地区ごとに標準山林を選定したとしても、その価格は本件標準山林と同額になるはずであるから、標準山林の選定は評価基準に照らし適正である旨主張する。

しかしながら、既に説示したように、本件現地調査に基づく価格の分布が、本件決定の賦課期日における山林の価格の分布と正確に一致するものと認めることはできないから、被告の主張はその前提において失当といわざるを得ない。

そして、既に説示したように、評価基準は、山林の価格形成要因のうち地勢、土層等の自然的条件、林産物に係る運搬経費等の経済的条件について状況類似地区の区分で考慮しつつ、後者について山林の比準表も併用する建前を採っているものと認められるから、各状況類似地区内において山林の比準表による比準を適正に行うためには、各状況類似地区ごとに標準山林を選定することが要請されるものというべきである。

したがって、本件決定における標準山林の選定は、その方法において評価基準の要求する手続を履践していないものというほかない。

3  各筆の山林の評点数の付設について

既に適示したとおり、評価基準は、各筆の山林の評点数は、標準山林の評点数に山林の比準表により求めた各筆の山林の比準割合を乗じて評定するものと定めているところ、弁論の全趣旨によれば、旧委員会は、本件標準山林から本件各土地に比準するに当たって山林の比準表によることなく、全て比準割合1で比準したことが認められる。

この点につき、被告は、各筆の境界の確認が困難であり、標高差の判断が難しい一方、旧五日市町内の山林は地域的共通性が多いことなどを根拠に、かかる取扱いも評価基準違反とはいえない旨主張する。

しかしながら、統一的な評価基準による評価によって各市町村全体の評価の均衡を図りつつ、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとする法及び評価基準の趣旨に照らせば、単に境界の確認が困難であるとか、標高差の判断が難しいとの理由で評価基準の一部を適用しないことは許されないものといわざるを得ない。また、既に説示したように、山林の比準表は林産物の搬出の便を指数化したものであり、搬出地点までの標高差及び搬出道路の距離を基準にした右指数には合理性があるものと認められるし、乙五号証(審査決定取消請求訴訟事件山林一覧表、別表2)によれば、本件各土地(但し、同表中物件番号28に係る訴えは取り下げられており、別紙物件目録二六記載の土地は同表から欠落している。)について本件標準山林から山林の比準表を用いて比準した場合、本件決定より評価額にして四〇万〇七四五円、税額にして五六一〇円減少することが認められることに照らしても、各状況類似地区内には地域的共通性が多いから比準割合は1で足りるとする被告主張は何ら説得的とはいえず、これをもって山林の比準表に対する所要の補正であるとみる余地もない。

したがって、本件決定における各筆の評点数の付設の方法は、評価基準に従ってされたものとはいえない。

なお、この点につき原告は、旧委員会が山林の比準表を適用しなかったことと並んで、これに岩地等に係る所要の補正をしなかった点も違法であり、本件各土地の評価は正しくは別表5のとおりである旨主張する。しかしながら、評価基準第1章第7節二5が「山林の比準表」の適用に当たって所要の補正を命じる趣旨は、評価基準の具体的適用において生じる不合理性を市町村長の補正という裁量的判断による調整に委ねたものであるから、補正をするかどうかを含めて、補正に関する取扱いが評価基準の適用における一般的合理性を害しないときは、評定された山林の価格が客観的時価の範囲内にあり、補正をしない旨の裁量的取扱いによって著しい不均衡が生じない限り、なお、評価基準に従ったものというべきである。もっとも、評価基準別表第7は、山林の比準表の適用において、標高差による補正及び搬出道路との距離による補正に加えて、岩石地、崩壊地を含む山林を例示して、実情に応じて比準割合を補正すべき旨を規定しており、また、岩石地、崩壊地が山林としての経済的価値を害することは容易に推認することができるから、標準山林と比較して無視できない程度に岩石地、崩壊地を含むと認められる山林については、評価基準はこれらの事情を減価要因として補正することを予定しているものと解される。したがって、標準山林と比較して無視できない程度に岩石地を含むものと認められる山林について補正をしていないとすれば、この点においても評価基準の適用を誤ったものということになる。

4 以上みたところに照らせば、本件決定は、状況類似地区の区分、標準山林の選定及び山林の比準表による比準を行っていない点において(標準山林に比較して無視できない程度に岩石地を含むものと認められる山林について所要の補正をしていないとすれば、その点においても)評価基準に適合していないことが明らかであるから、仮に本件基準山林の選定及び各標準山林に対する評点数の付設が適正に行われていたとしても、本件各土地に対する評価方法は全体として評価基準適合性を満たしていないものといわざるを得ない。

したがって、本件決定には、公平の原則に反する違法があるものというべきである。

なお、原告は、本件決定に係る違法事由として、本件基準山林が標準山林のうちの上級に属する山林とはいえないこと、本件標準山林に対し付設された評点数が適正ではないことについても主張する。しかしながら、既に説示したように、本件決定に係る状況類似地区の区分が評価基準に適合しているものとはいえない以上、本件標準山林も標準山林としての適格を有するかどうか明らかではないし、後述のように、本件決定を全体として取り消して再度被告による判断をさせるのが相当であるから、本件決定における標準山林の選定が適正であると仮定して右の点を判断する必要はないものと解される。

また、弁論の全趣旨によれば、本件各土地の台帳登録価格は本件各土地の客観的な時価を相当程度下回っていることがうかがえないではない。しかしながら、固定資産税納税義務者は評価基準による価格に基づいて納税義務を負担するのであって、評価基準に準拠して本件各土地を評価した場合の価格が台帳登録価格を上回ることの証明もない本件においては、右事情がうかがえるとしても、原告は本件決定に係る前記違法事由を主張できない(行政事件訴訟法一〇条一項参照)ものではない。

五 ところで、固定資産評価審査委員会の決定が違法である場合、その違法が賦課期日における適正な時価を上回る価格を算定した点にのみ存するようなときには、右超過部分のみを取り消すことが可能であり、また、かく解することが紛争の早期解決という点でも便宜である。しかしながら、本件決定のように、その違法が評価基準不適合に基づく公平原則違反の点にあり、かつ、右違反が単に補正率の適用の誤りや標準山林の評価の違法等の個別的事由に止まらず、状況類似地区の区分、標準山林の選定の違法など、評価基準による評定過程の根幹に及ぶときは、判断資料が限られざるを得ない裁判所が改めて評価基準に従った評定を行うことは不可能ないし著しく困難であるから、具体的に決定中の違法事由を指摘した上で、その取消判決の拘束力(行政事件訴訟法三三条一項)に従い、固定資産評価審査委員会に再度審査のやり直しを求める方が紛争解決方法としてより合理的であると考えられる。

六  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は理由があるので全部認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官竹野下喜彦 裁判官岡田幸人)

別紙物件目録、別表一ないし五〈省略〉

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