大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 平成9年(ワ)26495号 判決

原告

橋本多衣子

ほか二名

被告

市原勝

主文

1  被告は、

原告橋本多衣子に対し、金四六七万八九〇七円、

同原告を除くその余の原告らに対し、各金二八二万八九〇七円

及びこれらに対する平成九年三月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

4  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告らの申立(請求の趣旨)

1  被告は、原告らに対し、各金三三三三万円及びこれらに対する平成九年三月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求めた。

二  事案の概要

本件は、原告らが、民法七〇九条に基づき後記の本件事故による損害賠償を被告に訴求する事案である。なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

1  争いのない事実等

亡黄宏志(一九四四年一月一四日生れ〔中国国籍〕)が次の交通事故(以下「本件事故」という。)のため死亡した(当時五三歳)。被告は、前方不注視のまま被告車両を運転したため本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、本件事故によって原告ら(亡宏志の妻子)に生じた損害を賠償する責任がある。また、亡宏志の本国法によると、配偶者と子供が死亡者にいる場合の遺産相続は平分するべきものとされているところ、原告らが同人の配偶者と子供であるから、亡宏志の権利義務は、原告らが平分承継することになる。

(本件事故の内容)

〈1〉 日時 平成九年三月四日午前零時一〇分頃

〈2〉 場所 東京都新宿区富久町九番先路上

〈3〉 被告車両 自家用普通乗用自動車(足立33て一六一二)(被告連転)

〈4〉 事故態様 道路横臥中の亡宏志に被告車両が衝突し、その衝撃による頭蓋内損傷の疑いにより、同人が死亡した。死亡の日時は、本件事故の短時間後であり、死亡場所は、本件事故現場付近と推定される。

(当事者間に争いがない事実、証拠〔甲第一号証ないし第三号証、第五号証の一・二、第六号証ないし第一二号証〕及び弁論の全趣旨により認める。)

ところで、被告は、本件事故はいわゆる二重轢過事故であり、被告車両の先行車両が道路上で横になっていた亡宏志を轢死させた後、被告車両が同人に接触した可能性があると主張するが、本件においてこれを窺うに足りる資料はなく、かえって、右証拠に照らせば、本件事故のために亡宏志が死亡したことは優にこれを推認することができる。被告所論を採用することはできない。

2  争点

(一)  原告らは、本件事故による損害額について次のとおり主張し、その内金各三三三三万円を被告に訴求する。

(1) 亡宏志に生じた損害

逸失利益二億一五六一万七六四二円

基礎年収を、〈1〉 亡宏志の不動産収入二〇八六万五六〇〇円と、〈2〉 給与報酬等一〇二五万一二〇〇円(便宜、本邦における賃金センサス平成七年第一巻第一表企業規模計産業計男子労働者の大学卒業者・五〇歳ないし五四歳の平均年収額で計算した。)、以上〈1〉、〈2〉の合計額である三一一一万六八〇〇円とし、生活費控除率三割、就労可能年数一四年分のライプニッツ係数九・八九八六(年五分)を用いて算定すべきである。すなわち、〈1〉は、亡宏志の生前の不動産収入が、同人の死後は原告らが取得できていない現実にかんがみ、逸失利益と同視すべきであり、また、〈2〉は、亡宏志の現実収入が不明であるから、右の基準によるべきである。

なお、予備的に、〈2〉のみを基礎年収とする七一〇三万三六四〇円を主張する。

(2) 原告らに生じた損害

〈1〉 葬儀費用 六二九万二三四〇円(原告多衣子が出捐)

〈2〉 慰謝料 各一〇〇〇万円

(3) 既払金の処理と弁護士費用

以上から既払保険金二七九九万一〇〇〇円を控除し、弁護士費用(原告多衣子が二〇〇万円、その余の原告らが各一〇〇万円)を加えた額が損害となる。

(二)  被告は、本件事故について1末尾のとおり主張するが、その趣旨は過失相殺の主張を含むものである。

三  当裁判所の判断

当裁判所は、損害に関する原告らの主張(二2(一))のうち(1)の点を採用することはできないと判断する。

すなわち、〈1〉については、亡宏志の不動産収入を同人の死後原告らが事実上取得できない状況にあるとしても、その収入の全額を亡宏志の逸失利益の基礎収入とするべき筋合はなく、また、右の状況を是認すべきことを前提として原告らの被扶養利益の侵害とすべき根拠もない。更に、証拠(甲第四号証、第一四号証、原告橋本多衣子本人尋問の結果)によると、亡宏志は台湾を生活の本拠とし、台湾において不動産収入と給与収入を得ていたことが認められる以上、本邦における賃金センサスを利用して同人の基礎収入を推認すべきでないことは、多言を要しない。

しかしながら、証拠(甲第四号証、第一三、一四号証、第一六号証、原告橋本多衣子本人尋問の結果)によると、(一) 亡宏志は、生前、正裕營造工程有限公司から年額一八万二四〇〇台湾ドル(この額を、本件口頭弁論終結前日の平成一〇年一二月七日の仕向送金用暫定レート〔三・六七円〕に基づいて計算すると、邦貨六六万九四〇八円相当となる。)を給与として得ていたこと、(二) 亡宏志は、そのほか、少なくとも月額四二万台湾ドル(邦貨一五四万一四〇〇円相当)の不動産収入を得ていたこと、(三) 亡宏志は、原告らの生活費や学費として相当額の出捐をしていたが、その原資が何かも、同人の収入の全貌がどのようなものであったかも原告らにとって明確ではないこと、以上の事実を認めることができる(なお、原告橋本多衣子本人は、亡宏志には(一)以外にも給与収入を得ていた旨の供述をし、甲第四号証及び第一四号証にも同様の記載があるが、これについての的確な裏付がないので、この供述ないし記載を採用することはできない。)。

以上を要するに、亡宏志の収入の全貌は、本件において明らかではなく、亡宏志が給与収入のほか相当程度の不動産収入を得ていたことが認められるにとどまる本件においては、亡宏志の死亡そのものによって同人が喪失した得べかりし利益は、(一)の給与収入全部(年額六六万九四〇八円)及び(二)の不動産収入のうち亡宏志の労務寄与分(弁論の全趣旨により、年額二八〇万円を下らないものと認める。)の合計である年額三四六万九四〇八円を超えることはないというべきである。そして、亡宏志の前示家族構成に照らし生活費控除率を三割・就労可能年数を原告ら主張どおり一四年(年五分のライプニッツ係数九・八九八六)として同人の逸失利益を算定すると、その額は、二四〇三万九六〇一円となる(前示相続分によると、原告らにつき各八〇一万三二〇〇円となる。)。

次に、証拠(甲第四号証、第一五、一六号証)によると、原告多衣子は亡宏志の葬儀費用として少なくとも一六九万二八〇五円と五五万台湾ドル(邦貨二〇一万八五〇〇円相当)を支出したほか、亡宏志の親族の交通費を支弁したことが認められる。当裁判所は、これらの内容に照らし、本件事故と因果関係のある葬儀費用は二四〇万円をもって相当と判断する。

また、後記本件事故の態様・結果等、本件に現れた状況に照らすと、原告らの慰謝料は、後記過失相殺前の額としては各九〇〇万円が相当であり、以上の損害額の合計は、原告多衣子分が一九四一万三二〇〇円、同原告を除くその余の原告ら分が各一七〇一万三二〇〇円となる。

ところで、二1掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、〈1〉 本件事故は、亡宏志が、夜間、幹線道路に横臥中、被告が制限速度(六〇キロメートル毎時)を超える約一〇〇キロメートル毎時の速度で被告車両を運転して引き起こしたものであること、〈2〉 被告は、本件事故当時、脇見運転をしており、本件事故現場の約一〇・八メートル手前で道路上に横臥している亡宏志を「白い固まり」と認織したが、被告としては、本件事故現場の約三七・七メートル手前でこの「白い固まり」が人間であることを確認し得ること、以上の事実が認められ、右事実に基づき双方の過失を検討すると、過失割合を亡宏志が三〇・被告が七〇とするのが相当である。そして、原告らに右の過失相殺をすると、原告多衣子の損害額は一三五八万九二四〇円、同原告を除くその余の原告らのそれは各一一九〇万九二四〇円となる。そして、原告らが自陳する既払金二七九九万一〇〇〇円(前記相続分で按分すると、各九三三万〇三三三円)を控除した残額は、原告多衣子分が四二五万八九〇七円、同原告を除くその余の原告ら分が各二五七万八九〇七円となる。また、原告らが本件訴訟を原告の代理人に委任したことは、記録上明らかであり、本件事案の内容・審理経過、認容額等の事情に照らし、原告多衣子分につき四二万円、同原告を除くその余の原告ら分につき各二五万円を弁護士費用として認めることとし、これを右残額に加算すると、原告多衣子分が四六七万八九〇七円、同原告を除くその余の原告ら分が各二八二万八九〇七円となる。

右認定判断を動かすべき資料はない。

以上によれば、原告らの本訴請求は、右各金額とこれに対する平成九年三月四日(本件事故の日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を被告に求める限度で理由があるが、その余の部分は失当として棄却を免れない。よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条、仮執行の宣言について同法二五九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部秀穗)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com