大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 平成9年(行ウ)71号 判決

原告

池亀長信

原告

富澤花枝

原告

池亀長生

原告

池亀長光

右四名訴訟代理人弁護士

坂井興一

山口泉

被告

北沢税務署長 後藤賢三郎

右指定代理人

加藤裕

下岡守彦

屋敷一男

伊藤浩視

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告らの平成四年一〇月二二日相続開始に係る相続税につき、

1  原告池亀長信(以下「原告長信」という。)に対して平成七年四月二四日付けで行った更正処分のうち課税価格五一億四二〇六万八〇〇〇円、納付すべき税額三一億一四八三万〇〇〇〇円を越える部分

2  原告富沢花枝(以下「原告花枝」という。)に対して同日付けで行った更正処分のうち課税価格五〇〇〇万円、納付すべき税額三〇二八万七七〇〇円を越える部分

3  原告池亀長生(以下「原告長生」という。)に対して同日付けで行った更正処分のうち課税価格五億五五三八万七〇〇〇円、納付すべき税額三億三六四二万八〇〇〇円を越える部分

4  原告池亀長光(以下「原告長光」という。)に対して同年五月二九日付けで行った更正処分のうち課税価格五億五五四六万七〇〇〇円、納付すべき税額三億三八八九万九五〇〇円を越える部分

をいずれも取り消す。

第二事案の概要

被告は、原告らの相続税の算定に当たり、東京都調布市緑ケ丘二丁目六八番地二ほか所在の地下一階付七階建の延床面積七七八五・五六平方メートルの建物(家屋番号六八番二の二、以下「本件建物」という。)及びその付属設備(以下「本件付属設備」という。)の評価について、平成八年法律第一七号による改正前の租税特別措置法六九条の四(相続開始前三年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)の規定(以下「本件特例」という。)を適用した上で、次の一5の各再更正処分を行った。

本件は、原告らが被告に対し、本件建物及び本件付属設備(以下、これらを併せて「本件建物等」という。)の評価について本件特例を適用することを争って、右各再更正処分のうち前記第一の各金額を超える部分の取消しを求めている事案である。

一  課税処分等の経緯(当事者間に争いがない。)

1  原告らは、平成四年一〇月二二日死亡した池亀武徳(以下「亡武徳」という。)の相続人であり、右相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について法定申告期限内である平成五年四月二一日に申告をしたところ(別表一ないし四の各符号1欄)、被告は、平成六年二月二日、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(別表一ないし四の各符号2欄)。

2  原告らは、同年四月一日、右更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を不服として異議申立てをするとともに(別表一ないし四の各符号3欄)、本件相続税につき更正の請求をした(別表一ないし四の各符号4欄)。

3  右異議申立てに対して、被告は、同年七月五日、原告長信及び同長生について一部取消しの、同花枝について棄却の各決定を行い、同月二五日、原告長光について一部取消しの、決定を行ったところ(別表一ないし四の各符号5欄)、原告らは、同年八月五日、これらを不服として審査請求をした(別表一ないし四の各符号6欄)。

4  被告は、平成七年四月一四日、前記2の更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたので(別表一ないし四の各符号7欄)、原告らは、同年五月二二日、これを不服として異議申立てをした(別表一ないし三の各符号9欄、別表四の符号8欄)。

5  被告は、同年四月二四日(原告長光については同年五月二九日)、本件相続税について再更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに原告長信及び同花枝に対する過少申告加算税の再賦課決定処分をしたので(別表一ないし三の各符号8欄、別表四の符号9欄)、原告らは、同年六月二三日、これを不服として異議申立てをした(別表一ないし四の各符号10欄)。

6  前記4、5の各異議申立ての異議申立書等が、同年八月二四日、国税通則法(以下「通則法」という。)九〇条一項により、国税不服審判所長に送付されたので、同条三項により審査請求がされたものとみなされ(別表一ないし四の各符号一一欄)、同年一一月一〇日付けで、前記3の審査請求と併合審理される旨当事者双方に通知された(別表一ないし四の各符号一二欄)。

7  そして、国税不服審判所長は、平成八年一二月一八日、審査請求をいずれも棄却する裁決をした(別表一ないし四の各符号一三欄)。

二  本件特例について

相続税においては、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時(相続の場合でいえば相続開始の時)における時価により評価するのが原則である(相続税法二二条)。

しかし、昭和六三年法律第一〇九号により創設された本件特例は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、その相続開始前三年以内に被相続人が取得又は新築(以下「取得等」という。)をした土地等又は建物等(被相続人の居住の用に供されていた土地等又は建物等ほか一定の要件に該当するものは除く。)がある場合には、相続税法一一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、同法二二条の規定にかかわらず、その土地等又は建物等の取得価額として政令で定めるものの金額とする旨規定するものである。

そして、右取得価額は、建物等にあっては建物等の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額から建物等の取得の日から相続開始の日までの期間に係る減価償却費の額に相当する金額(所得税法施行令一二〇条一項一号イに規定する定額法に準じて計算した金額を一二で除し、これに当該建物等の取得の日から当該相続開始の日までの期間の月数を乗じて計算した金額)を控除した金額とされている(平成八年政令第八三号による改正前の租税特別措置法施行令四〇条の二第三項、同年大蔵省令第一八号による改正前の租税特別措置法施行規則二三条の三第二項)。

三  課税根拠についての被告の主張及びこれに対する原告らの認否

被告は、原告らの相続税の課税価格及び納付すべき相続税額は、別表五及び別表六記載のとおりであり、その内訳等は次の1及び2のとおりであると主張する。

これに対し、原告らは、右主張のうち、1(一)(1)アの本件建物の価額及び同イの本件付属設備の価額を争っている。

なお、括弧内に「争いがない。」と表記したものは、当事者間に争いがない。

1  課税価格の合計額(別表五の符号16) 七五億〇五二五万八〇〇〇円

次の(一)の金額から、(二)の金額を控除し、(三)の金額を加算した。ただし、通則法一一八条一項により、各原告ごとに課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた。

(一) 相続により取得した財産の総額(別表五の符号9) 一〇二億一七〇九万五二五八円

(1) 家屋の価額(別表五の符号2) 一九億六五八四万六五二四円

ア 本件建物の価額 一七億二八六三万八三八〇円

本件特例を適用して、次の〈1〉の金額から〈2〉の金額を控除した。

なお、本件建物は原告長信が相続した(争いがない。)。

〈1〉 本件建物の工事代金 一八億一一八〇万〇〇〇〇円

亡武徳が、本件建物の工事代金として株式会社間組(以下「間組」という。)に支払った金額であり、その内訳は(別表七の(1)記載の通りである。

〈2〉 減価償却費の額に相当する金額 八三一六万一六二〇円

本件建物の取得の日である平成元年一一月一日から相続開始の日である平成四年一〇月二二日までの期間に係る減価償却費の額に相当する金額であり、平成八年大蔵省令第一八号による改正前の租税特別措置法施行規則二三条の三第二項により、次のとおり算定した。

(算式)

一八億一一八〇万円×〇・九×〇・〇一七×三

イ 本件付属設備の価額 四一七六万四九八九円

本件特例を適用して、次の〈1〉の金額から〈2〉の金額を控除した。

なお、本件付属設備は原告長信が相続した(争いがない。)。

〈1〉 本件付属設備の工事代金 五〇八二万一三五四円

亡武徳が、本件付属設備の工事代金として支払った金額であり、その内訳は別表七の(2)記載のとおりである。

〈2〉 減価償却費の額に相当する金額 九〇五万六三六五円

本件建物等の取得の日である平成元年一一月一日から相続開始の日である平成四年一〇月二二日までの期間に係る本件付属設備の減価償却費の額に相当する金額であり、平成八年大蔵省令第一八号による改正前の租税特別措置法施行規則二三条の三第二項により、次の通り算定した。

(算式)

五〇八二万一三五四円×〇・九×〇・〇六六×三

ウ その他の家屋・構築物の価額(争いがない。) 一億九五四四万三一五五円

原告長信 一億五三六〇万七一一五円

原告長生 一九五一万四四一八円

原告長光 二二三二万一六二二円

(2) その他の取得した財産の価額(別表五の符号1、3ないし8。争いがない。) 八二億五一二四万八七三四円

(3) 遺産分割に係る代償金(争いがない。)

亡武徳の相続に係る遺産分割協議の結果、原告、原告長信が同長生及び同長光に対して負担することになった代償金合計二〇四五万三一二二円は、別表五の符号8の原告池亀長信欄で控除し、原告長生及び同長光が受領した代償金は、それぞれ、別表五の符号8の原告池亀長生欄及び原告池亀長光欄に加算した。

(二) 控除すべき債務等の額(別表五の符号10ないし13。争いがない。) 二七億一二五三万六四三七円

(三) 純資産に加算される贈与財産価額(別表五の符号15。争いがない。) 七〇万〇〇〇〇円

2  原告らの納付すべき相続税額

相続税法一五条、一六条、一七条及び一九条の二(15条、一六条及び一九条の二は、平成六年法律第二三号による改正前のもの。以下同じ。)により、次のとおり算定した。

(一) 原告らの課税価格の合計額(別表六の符号1、前記1の金額) 七五億〇五二五万八〇〇〇円

(二) 遺産に係る基礎控除額(別表六の符号2。争いがない。) 八六〇〇万〇〇〇〇円

(三) 課税遺産総額(別表六の符3) 七四億一九二五万八〇〇〇円

右(一)の金額から(二)の金額を控除した。

(四) 法定相続分に応じた取得金額(別表六の符5)

原告ら 各一八億五四八一万四〇〇〇円

相続税法一六条により、原告らが右(三)の金額を法定相続分に応じて取得したものとした場合の取得金額であり、右(三)の金額に四分の一をそれぞれ乗じた。ただし、通則法一一八条一項により各原告ごとに一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた。

(五) 相続税の総額(別表六の符号6) 四六億五九二七万九二〇〇円

右(四)の各金額について相続税法一六条によりそれぞれ算出した金額を合計した。ただし、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた。

(六) 原告らの相続税額(別表六の符号8)

原告長信 三九億三六一三万五五〇四円

原告花枝 三一〇四万〇一〇〇円

原告長生 三億四四七八万五三六二円

原告長光 三億四七三一万八二三四円

右(五)の金額に、相続税法一七条により、按分割合(別表六の符号1の各相続人欄の金額を同符号の合計額欄の金額で除した割合)を乗じた。

(七) 原告らの納付すべき各相続税額(別表六の符号9)

原告長信 三九億三六一三万五五〇四円

原告花枝 三一〇四万〇一〇〇円

原告長生 三億四四七八万五三〇〇円

原告長光 三億四七三一万八二〇〇円

ただし、右(六)の各金額について通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた。

四  当事者双方の主張

(原告らの主張)

1 本件特例の違憲性

(一) 本件特例は、昭和六〇年代以降の全国的な地価の上昇傾向の中で、特に都市部を中心とする地価の急騰地域において、不動産の実勢価額と、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六ほか国税庁長官通達、平成五年六月二三日付け課評二-七ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)に基づく路線価等による相続税評価額との乖離に着目して、借入金による不動産取得を行い、将来の相続税の負担の回避を図る事例が見受けられるようになったことから、このような租税負担回避行為を阻止する目的で定められたものである。

したがって、本件特例のような規制は、積極的政策目的の達成のためのものではなく、租税負担回避行為の横行による税負担の不公平という弊害を除去するためのものであり、かつ、対象となる国民から現実に税を徴収するという財産権の侵害を伴うものであるから、このような場合の規制は必要最小限度のものでなければならず、その必要性、合理性については、立法事実に基づいて厳格に審査されなければならない。

ところが、取得価額をもって課税価格とする合理性は、不動産価格が上昇していることを前提に、相続開始時において路線価、固定資産税評価額等相続税評価額による評価を行うことが当該不動産を不当に低く評価することになり、取得価額による評価がその時点の実勢価額と概ね一致しており適切な課税評価と言えること、かつ、取得時の取得価額は相続時の実勢価額を上回ることは絶対にないということの各前提が満たされてはじめて認められるものである。

しかし、平成二年以降の不動産価格の下落という現象のもと、遅くとも本件相続開始時である平成四年一〇月二二日には、本件特例を支える立法事実は失われており、本件特例により相続税評価を過去の取得価額とすることは、相続開始時の時価を超える評価に基づいて課税をすることになるので、相続税法二二条の時価主義に反し、国民の財産権を侵害するから、憲法二九条に違反する。

(二) また、不動産価格の下落という状況の下、被相続人が相続開始三年よりも前に不動産を取得していたならば、申告時の実勢価額で評価を受け、かつ、路線価等に基づく評価額が時価を上回っていた場合には、右時価により評価されることになるのに対し、相続開始三年以内に不動産を取得していた場合は、本件特例により申告時の時価を大幅に超える取得価額で評価されることになる。

さらに、相続開始三年以内に株式等の他の資産を取得した場合には、取得時より値下がりした申告時の時価により評価されるにもかかわらず、不動産の場合は、取得時より相当値下がりしているにもかかわらず、取得時の価額により課税される。

このように、本件特例は、納税者間に著しい不公平を生じさせるので、憲法一四条に反する。

2 本件特例を本件建物等の評価に適用することの違憲性

仮に、本件特例自体が違憲でないとしても、本件建物等の評価に本件特例を適用することは、次のとおり違憲違法である。

(一) 本件建物等は、亡武徳が自ら所有する土地に、地域の社会経済の発展とともに多額の固定資産税への充当を図るために、資産の有効活用として建築したものであり、右建築に相続税の負担回避の目的はなかった。

(二) 本件建物等の価格は、新築時に比して、相続開始時である平成四年一〇月二二日当時には、大幅に下落しているにもかかわらず、本件特例を適用して、本件建物等を取得価額で評価することになると、相続開始時の時価を大幅に上回る評価に基づいて課税することになる。

これは、不当に過大な税負担を課して、財産権を侵害するとともに、相続開始時において同額の他の資産を相続した場合に比して過大な税負担を課すこととなるなど課税の不平等が生じるものであるから、憲法一四条に反する。

3 本件建物等の取得等をした日

本件建物等は、遅くとも平成元年一〇月二〇日には完成し、同時に亡武徳が所有権を取得するとともに、亡武徳に対する実質的な引渡し、少なくともこれに準ずることが行われ、亡武徳及びその賃借人が本件建物等につき事実としての使用を開始しているので、遅くとも同日には、亡武徳が本件建物等を取得した。

したがって、亡武徳が本件建物等の取得等をしたのは、相続開始の日の平成四年一〇月二二日の前三年よりもさらに前の時点であるから、本件建物等の課税価格の計算に本件特例を適用するのは誤りである。

4 本件建物等の評価額

前記1ないし3のとおり、本件建物等の評価に当たって本件特例は適用されるべきではないから、本件建物等は平成四年度の固定資産評価額に借家権価額として三割を控除した額の五億七〇五七万六五四七円と評価すべきである。

5 本件特例の適用による相続開始時の時価を超える評価が許されないことについて

本件特例は形式上は相続税法二二条の時価主義の例外という形をとっているが、実質は評価基本通達による評価額に代わる合理的な評価額として取得価額を位置付けているので、あくまで原則は同条の定める時価主義である。

取得価額による課税が肯認されるのは、不動産価格が上昇し続けているなど評価基本通達による課税が不合理であり、かつ、取得価額によっても相続開始時における時価を上回ることがなく、同条の時価主義の原則に基づく評価と認めることができるからである。

したがって、相続税課税における価額の算定に当たっては、右時価主義の原則に基づき、相続開始時における当該不動産の時価を超えることは許されないので、本件建物等の評価については、相続開始時である平成四年一〇月二二日の時価である一四億七〇〇〇万円に借家権価額として三割を控除した額の一〇億二九〇〇万円を超えて評価することは許されない。

6 借家権価額の控除

仮に本件建物等の評価に本件特例を適用するとしても、本件建物等は賃貸されているので、借家権価額を控除すべきである。

相続財産の担税力を超えて過度な課税がされるならば、それは国家による個人の財産の不当な収奪であり、課税評価に当たっては担税力に応じた適正合理的な評価がされなければならない。

評価基本通達において、不動産が賃貸されている場合に借家権価額の控除が行なわれるのは担税力が落ちるからであり、借家権価額を控除することは担税力に応じた適正合理的な評価である。この理は、当該不動産の取得が相続開始前三年以内であるか否かを問わないはずである。

本件特例が、取得価額として通常借家権価額の控除をしないような文言になっているのは、本件特例が想定する相続直前の不動産取得の場合に、当該不動産が賃貸に付されているならば、借家権価額を控除した価額で売買され、取得価額は借家権価額を控除した価額になるので、不都合はないとされたからである。

したがって、仮に、価格の評価を評価基本通達によらずに、本件特例により取得価額に基づいて行うことを肯認するとしても、被相続人が相続開始三年以内に空き家を取得し、あるいは自ら建物を建築した後に賃貸に付し、相続開始当時も賃貸に付されている場合には、取得価額は借家権による減価が反映していないのであるから、時価主義の原則、担税力に基づく適正合理的な評価、課税の公平などの点からして、借家権価額の控除が行われるべきである。

(被告の主張)

1 本件特例の合憲性

(一) 憲法二九条に反しないこと

憲法二九条一項は、私有財産制を保証するとともに国民の個々の財産権を基本的人権としているが、同条二項は、立法府が社会全体の利益を図るために財産権に規制を加えることを認めている。そして、私有財産制を採用する民主主義国家においては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであって、憲法も、かかる見地の下に、国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(憲法三〇条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(憲法八四条)。

以上によれば、憲法は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続を法律で明確に定めることにより国民の財産権を制約することを認めているが、憲法自体は、その内容について特に定めることをせず、これを法律の定めるところにゆだねていると解される。これは、租税が、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政、経済、社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることに基づくものである。

したがって、租税法の定立については、立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重し、その立法目的が正当なもので、その立法による具体的な規定内容が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法二九条に違反するということはできない。

本件特例は、不動産の実勢価額と相続税評価額との乖離を利用した相続税の負担回避行為を抑制し、適正、公平な税負担を実現するという趣旨で制定されたもので、その立法目的は正当であり、その内容は右目的達成のための手段として相当であるが、さらに、被相続人の居住の用に供されていた土地建物等のほか、一定の要件に該当するものは本件特例の適用対象から除かれていることや、納税の面でも、一定の要件の下に物納が認められており(相続税法四一条)、その際の物納財産の収納価額は、課税価格計算の基礎となったその財産の価額(本件特例の場合には取得価額)によることとされている(同法四三条一項)ことなどからみて、不合理なものではなく、憲法二九条に違反するものとはいえない。

(二) 憲法一四条に違反しないこと

憲法一四条は、合理的な理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的な取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、右規定に違反するものではないというべきところ、租税特別措置法は、特定の政策目的のために特定の者に対して例外的に租税を重課し、あるいは軽減することを目的として制定されたものであるから、同法の適用がない場合と比較して租税負担の不公平が生じるのは当然のことであり、本件特例を適用した結果、相続税法二二条を適用した場合と比較して相続税の負担が重いものとなったとしても、本件特例の立法目的が正当であり、かつ、その内容が合理的なものである以上、憲法一四条に反するものではない。

2 本件特例を本件建物等の評価に適用することの合憲性

原告らは、本件特例を適用して本件建物等を取得価額で算定すると、相続開始時の時価を大幅に上回る評価に基づき課税することになり、財産権を侵害するとともに、憲法一四条に反する旨主張する。

しかし、本件建物等は、建築した当時と比べて相続開始時における建築費が値下がりしたとはいえず、本件建物等の取得価格が相続開始時における相続税法二二条の時価を上回るとはいえないから、原告らの主張は失当である。

3 本件建物等の取得等をした日

本件特例にいう取得等の日は基本的に所有権取得の日と解すべきところ、本件建物等の取得等の日は、請負工事残代金の支払並びに本件建物、鍵及び備品等の亡武徳への引渡しが行われた平成元年一一月一日である。

したがって、亡武徳は、相続開始(平成四年一〇月二二日)前三年以内に本件建物等の取得等したのであるから、本件建物等の課税価格の算定については、本件特例の適用があるというべきである。

4 借家権価額の控除をしないことについて

本件特例は、相続税法二二条の規定にかかわらず、当該土地等又は建物等に係る取得価額として政令で定めるものの金額とする旨規定するだけで、借家権価額の控除を行なうべきものとはしておらず、政令(平成八年政令第八三号による改正前の租税特別措置法施行令四〇条の二第三項)の定める取得価額の計算方法においても借家権の有無により区別を行うべきこととはされていない。

すなわち、本件特例は、相続税法二二条の時価主義の原則の特例であり、一律にその取得価額をもって課税価格とすることにより、相続税の負担回避行為を抑制することを目的としているから、評価基本通達による借家権価額の控除を行なうべき評価額とは、立場を異にするものである。

本件特例の場合には、取得又は新築後の利用状況の違いによる価格差を考慮すると、そのこと自体が税負担回避を容認することにつながることから、相続税の負担回避行為の抑制と、適正、公平な税負担を実現するという目的のために、相続開始前三年以内に取得又は新築された建物に限り、借家権の有無を考慮することなく、あえて取得価額をもって、課税価格に算入する価額としているのである。

したがって、借家権の価額を控除しないことは、特例制定上の見地から必要なことであり、また、格差が生じることに合理性が存する。

四  争点

したがって、本件の争点は、本件相続税の課税価格の算定に当たって本件建物等の価額をどのように評価すべきかであり、具体的には次の各点である。

1  本件特例自体、又はこれを本件建物等の評価に適用することが、憲法二九条または憲法一四条に違反するか否か。(争点1)

2  本件特例を適用して相続開始時の時価を超える評価をすることが、相続税法二二条の定める時価主義に反して許されないか否か。(争点2)

3  亡武徳が本件建物等の取得等をした日が相続開始(平成四年一〇月二二日)前三年以内であるか否か。(争点)

4  本件建物等の評価に本件特例を適用する場合に借家権価額を控除すべきか否か。(争点4)

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  本件特例が憲法二九条又は憲法一四条一項に反するか否かについて

(一) 租税は、今日においては、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加えて、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについては、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件を定めるについても極めて専門技術的な判断を必要とするものである。そのため、租税法の定位については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかなく、裁判所は、基本的には立法府の裁量的判断を尊重せざるを得ないものである。

したがって、租税法の分野における課税要件の取扱いを区別する規定が、財産権を保証した憲法二九条に違反するか否か、合理的理由のない差別を禁止する憲法一四条一項に違反するか否かを判断するに当たっては、その立法目的が正当なものであり、その立法による具体的な規定内容が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、当該立法が憲法二九条又は憲法一四条一項に違反するということはできないと解するのが相当である。

(二) そこで、本件特例の立法目的及び規定内容について検討する。

証拠(乙二ないし同四)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 相続税の財産評価は、評価基本通達に従って行われているが、相続税課税における土地の評価水準は、課税上の評価であること、評価の安全性の見地から、従来から、公示価格や、市場価格(実勢価格)に比べて低い水準に押さえられてきた。しかし、昭和六〇年代当初、地価高騰の結果、不動産の相続税評価額と実勢価額との乖離が顕著になり、その価額の乖離を利用して、相続直前に不動産を取得することにより相続税の負担回避を図る事例が多くみられ、税負担の公平上看過し難い問題となった。

(2) このような相続税の負担回避の問題については、昭和六三年四月二八日の税制調査会の「税制改革についての中間答申」において、借入金による不動産取得等の相続税の負担回避行為について、税負担の公平を確保する観点から必要な対応策を講ずべきことが提言され、また、地価適正化等土地対策の関連でも、同年六月一五日の臨時行政改革推進審議会の「地価等土地対策に関する答申」において、土地対策の一環として土地税制の活用が取り上げられ、その中で借り入れ金による土地取得等を通ずる税負担回避行為に対処し、併せて、土地の仮需要を抑制するため、所要の税制上の歯止め措置を検討すべきことが提言され、右答申を受けて同月二八日閣議決定された政府の「総合土地対策要綱」において、右の税制上の歯止め措置を講ずることが決定された。

(3) 右のような経緯により、借入金による不動産取得の場合に限らず、例えば、金融資産の売却による不動産取得の場合も念頭に置き、不動産の相続税評価額と実勢価額との乖離を利用した税負担回避行為に対処し、税負担の公平を確保するため、昭和六三年末の税制の抜本改革の際に、被相続人が相続開始前三年以内に取得又は新築をした土地等または建物等については、相続税評価額ではなく、取得価額により課税することを内容とする本件特例が租税特別措置として制定された。

(三) 右認定のとおり、本件特例の立法目的は、不動産の相続税評価額と実勢価額との乖離を利用した税負担回避行為が横行している状況において、これに適切に対処し、税負担の公平を確保することにあるが、公平な税負担は租税法の基本原則というべきものであり、本件特例の立法目的は正当なものということができる。

また、本件特例の規定内容は、被相続人が相続開始前三年以内に取得又は新築をした土地等又は建物等について取得価額により課税することを定めるものであり、これによって、相続税評価額と実勢価額との乖離を利用した税負担回避行為を抑制し、税負担の公平を確保することを可能とするものである。そして、本件特例は、被相続人の居住の用に供されていた土地等又は建物等については適用を除外するなどして、税負担が過酷となることがないような配慮もされていることも併せ考えると、その規定内容が立法目的との関連で合理性を欠くということはできない。

そうすると、本件特例は、立法府に許された裁量の範囲内で制定されたものであり、本件特例が憲法二九条又は憲法一四条一項に違反するということはできない。

(四) ところで、原告は、不動産価格の下落という現象の下で、本件特例により相続税評価を過去の取得価額とすることは、相続開始時の時価を超える評価に基づいて課税をすることになるので、本件特例は憲法二九条に違反する旨主張する。

確かに、個人が相続により本件特例適用対象の土地等を取得した場合、その土地等の実勢価額が下落し、その取得価額が相続開始時の実勢価額より上回る場合には、その不動産の相続税については、他の同額の資産価値の資産を取得した場合に比べ、税負担が過大となり、その意味で課税の不公平が生ずることになるが、本件特例創設当時の経済情勢の下では、相続税評価額と実勢価額との乖離を利用した税負担回避行為に対処して税負担の公平を図ることは緊急の課題となっていたものであり、経済情勢の変化、地価の動向を将来にわたって予測することの困難さをも考慮すれば、昭和六三年法律第一〇三号が、右のような事態について特別の配慮をせずに、相続開始前三年以内に被相続人が取得した土地等について本件特例を一律に適用することとしていることをもって、直ちに著しく合理性を欠くものということはできず、なお立法の裁量の範囲内の事柄というべきである。

2  本件特例を本件建物等の評価に適用することが憲法二九条又は憲法一四条一項に違反するか否かについて

(一) 本件特例が憲法に違反するものとはいえないことは前記のとおりであるから、単に、亡武徳に租税回避の目的がなかったとか、本件特例を適用すると個人が相続等により取得した不動産の取得価額がその相続開始時の時価を大幅に上回るというだけでは、本件特例を本件建物等の評価に適用することが憲法二九条又は憲法一四条一項に違反するとは認められない。

もっとも、相続税が相続による財産の取得に担税力を認めて課する税であることからすれば、右の取得価額が相続開始時の時価を上回る程度が著しく、そのため、本件特例を適用した場合の当該人の相続税額が相続等により取得した財産の相続開始の時価を超えるような程度にまで達するとすれば、そのような事態にまで本件特例を適用することは、相続税課税の趣旨を逸脱し、著しく合理性に欠けるというべきであり、憲法二九条、憲法一四条一項に違反する疑いがあるというべきである。

(二) このような観点から、原告らの納付すべき相続税額と原告らが相続により取得した財産の相続開始時の時価とを比較すると、本件特例を適用した場合の原告らの納付すべき相続税額は、前期のとおり、

原告長信 三九億三六一三万五五〇〇円

原告花枝 三一〇四万〇一〇〇円

原告長生 三億四四七八万五三〇〇円

原告長光 三億四七三一万八二〇〇円

となるところ、鑑定結果により認められる本件相続開始時である平成四年一〇月二二日当時の本件建物等の評価額一四億七〇〇〇万円に基づき、各原告が相続により取得した財産の相続開始時の時価を計算すると(別表五の符号2の原告池亀長信欄を一六億二三六〇万七一五五円として、符号16の課税価格欄を計算することになる。)、

原告長信 六〇億四〇〇〇万一〇〇〇円

原告花枝 五〇〇〇万〇〇〇〇円

原告長生 五億五五三八万七〇〇〇円

原告長光 五億五九四六万七〇〇〇円

となるので、本件特例を適用した場合の各原告の相続税額が、各原告が相続等により取得した財産の相続開始時の時価を超えるものではない。

(三) したがって、本件特例を適用した場合の各原告の相続税負担は、憲法二九条、同一四条一項に違反する疑いが生じるまでに過大であるとはいえないから、本件特例を適用して原告らに相続税を課税することが、違法であるとは認められない。

二  争点2について

原告らは、相続税課税における価額の暫定に当たっては、相続税法二二条の定める時価主義の原則に基づき、相続開始時の不動産の時価を超える評価をすることは許されないと主張する。

しかし、本件特例は、相続税法二二条の規定の特例を定めたものであり、前記のとおり、本件特例自体が憲法に反するものではなく、これを本件建物等の評価に適用することも憲法に違反するものではない以上、このような場合に、相続開始時の不動産の時価を超える評価に基づいて相続税課税における価額を算定することを内容とする特例を法律で設けることが許されないと解すべき理由はないから、原告らの右主張は採用できない。

三  争点3について

1  本件特例は、相続開始前三年以内に被相続人が取得又は新築(取得等)をした土地等又は建物等がある場合について規定しているところ、相続税法において、相続財産等の「取得」とは所有権の取得を意味するのが通常であり(同法二条等)、本件特例も相続税法の特例であることからすれば、本件特例にいう「取得等」とは、所有権の取得を意味すると解される。

そして、「租税特別措置法(相続税法の特例のうち農地等に係る納税猶予の特例及び延納の特例関係以外)の取扱いについて」(平成元年五月八日付け国税庁長官通達直資二-二〇八)六九の四-三が、他に請け負わせて建設又は製作した建物等については、当該建物等の引渡しを受けた日を取得等の日として取り扱っているのは、慣例上完成した建物等を引き渡すことによって注文者が所有権を取得する場合が多いことによるものであり、所有権の移転時期が引渡し時期と異なる場合には、所有権移転時期をもって「取得等」の日とすべきものと解するのが相当である。

2  そこで、亡武徳が本件建物等の所有権を取得した日について検討するに、証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 亡武徳と間組との間で締結された昭和六三年六月一四日付け本件建物の工事請負契約書においては、本件建物の完成は昭和六四年(平成元年)一〇月三一日、本件建物の引渡し時期は完成の日から一五日以内、請負残代金の最終支払時期は本件建物の完成引渡し時とする旨約定され、右契約書添付の工事請負契約約款二二条(1)では、公示完了後の監理者の検査に合格したときは、建物引渡し及び請負代金支払を完了する旨約定されている。

また、契約上は、本件建物の引渡し前に本件建物の所有権を移転する旨の約定は存在しない。

(二) 本件建物について、東京都火災予防条例五六条三項に基づく消防検査は平成元年一〇月二〇日に、建築基準法七条に基づく完了検査は同月二三日に、それぞれ実施された。

(甲三の一、二、同四の一、二、同五)

しかし、間組は、同月二〇日より後にも、外部の廊下の塗床作業、駐車場スロープの手すりの吹付け作業、エレベーター及びハロンガスの調整作業を行った。

(乙九、証人清水)

(三) 亡武徳は、平成元年一〇月中旬に、間組より本件建物のうち株式会社カーフラワーフジの事務所の二一四号室部分、一階ショールーム部分及び社宅部分並びに原告長信の自宅部分の専用の鍵の引渡しを受け、使用を始めたが、これは、目的物の一部について工事中であっても間組の同意を得て部分使用をすることができる旨の工事請負契約約款二一条(1)の定めによるものであった。

また、同じころから、本件建物の賃借人である株式会社すかいらーく及び野村不動産株式会社も、各賃借部分において開店準備行為を始めているが、これも右部分使用の約定に基づくものであり、契約上は両社が亡武徳から賃借を開始した日は平成元年一一月一日とされている。

(甲七、同八、同一二、乙一〇、証人清水、証人大谷)

(四) 間組作成の工程表上、平成元年一〇月三〇日に注文主の検査が、同月三一日に竣工引渡しが予定されていたところ、間組は、同年一一月一日、亡武徳に対し、竣工図書一式、本件建物のマスターキー、各室の鍵及び備品を引渡し、亡武徳は、同日、間組に対し、残代金七億四一八〇万円を支払い、本件建物を受領した旨の間組あての受領書を同日付で作成した。

なお、右残代金は請負代金総額一八億一一八〇万円の約四〇・九パーセントに当たるものである。

また、間組作成の法務局あての建物工事完了引渡証明では、工事完了年月日及び引渡年月日の日付は、いずれも平成元年一一月一日とされている。

(乙六の一ないし四、同七ないし同九、証人清水)

(五) 工事請負契約約款一七条(1)では、工事の完成引渡しまでは間組が損害を負担し、同一九条では、間組が損害保険等を負担する旨約定されているところ、平成元年一〇月三一日までは、間組が本件建物に対する保険料の負担をしていた。

(乙一〇、証人清水)

3  右2で認定した各事実、殊に、亡武徳と間組との間の請負契約には、本件建物の引渡し前にその所有権を移転する旨の特約はなく、引渡し前に請負工事代金の全額ないしそれに近い金額の支払も行われていないこと、右請負契約では、本件建物完成後に、本件建物の引渡しが、残代金支払と引換えに行われることが予定されており、残代金支払と引換えに、竣工図書一式、本件建物のマスターキー等の引渡しが行われたのは平成元年一一月一日であったこと、請負契約の当事者作成の前記関係書類上、本件建物引渡しの日が平成元年一一月一日とされていること。それより前の亡武徳あるいは亡武徳からの賃借人の本件建物使用は、間組の承諾を得た上での仮の使用にすぎないとみられることを総合すると、本件建物の引渡しは平成元年一一月一日に行われたと認められ、本件建物の所有権も右引渡しの時に亡武徳に移転したと解するのが相当である。

4  よって、亡武徳が本件建物等の取得等をした日は、相続開始(平成四年一〇月二二日)前三年以内の平成元年一一月一日であると認められる。

四  争点4について

評価基本通達九三項は、借家権の目的となっている家屋の価額について、借家権価額を控除して評価するとしているが、これは、相続税法二二条に規定する価額の算定において、現実的には賃借人がいることにより家屋の借家権を消滅させるために立退料の支払を要する場合があることや、借家権が付着していない場合との譲渡時の価額に格差があることを考慮したものである。

しかし、本件特例は、相続税法二二条の規定にかかわらず、当該土地等又は建物等に係る取得価額として政令で定めるものの金額とする旨規定しているだけであり、平成八年政令第八号による改正前の租税特別措置法施行令四〇条の二第三項の定める取得価額の計算方法においても、建物等にあっては建物等の取得に要した金額等の合計額から減価償却費の額に相当する金額を控除した金額とする旨規定しているだけであって、いずれも借家権価額の控除を行なうべきものとする規定はない。

これは、本件特例は、相続税法二二条の時価主義の原則の特例であり、一律にその取得価額をもって課税価格とすることによって相続税の負担回避行為を抑制することを目的とするものであることから、取得又は新築後の利用状況の違いによる価格差を考慮した場合には、そのこと自体が税負担回避の容認につながることも懸念されるため、借家権の有無は考慮することなく、一律に取得価額をもって課税価格に算入する価額としているものと解される。

このように、本件特例による評価は、評価基本通達による借家権価額の控除を行なうべき評価額とは、その立場を異にするものと解されるから、借家権価額を控除して評価すべきとする原告らの主張は採用できない。

五  以上のとおり、本件建物等に係る相続税の課税価格に算入すべき価額の算定に当たって、本件特例が適用されるので、本件特例に基づいてこれを算定すると、本件建物等の工事代金は別表七のとおりであるから(乙六の一ないし四、弁論の全趣旨)、本件建物等の価額は被告主張のとおりと認められる(前記第二の三1(一)(1)ア、イ)。

そして、右価額に基づき原告らの納付すべき相続税額を算定すると、前記第二の三のとおり、いずれも本件各更正処分に係る原告らが納付すべき相続税額を上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

六  よって、原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

別表一

本件課税処分等の経緯(池亀長信)

〈省略〉

別表二

本件課税処分等の経緯(富澤花枝)

〈省略〉

別表三

本件課税処分等の経緯(池亀長生)

〈省略〉

別表四

本件課税処分等の経緯(池亀長光)

〈省略〉

別表五

課税価格等の計算明細表

〈省略〉

別表六

税額算出表

〈省略〉

別表七

本件建物及び本件建物の付属設備に係る工事代金

(1) 本件建物に係る工事代金

〈省略〉

(2) 本件建物の付属設備に係る工事代金

〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com