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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)3416号 判決

原告 堀口薬品株式会社 外九名

被告 株式会社金鳳商会

主文

一、訴外日進工業株式会社が昭和二十五年六月五日同会社及び訴外藤野良雄両名の被告に対する共同債務金四百万円の売渡担保として別紙物件目録記載の(イ)、(ロ)、(ホ)の各物件の所有権を被告に移転した行為は原告堀口薬品株式会社、同東洋ブラシ工業株式会社、同藤井興業株式会社、同ヒラヰ薬品株式会社、同合資会社大内齊茂商店、同近藤惇平、同滝沢逸平及び同小柳勇治郎(以上原告等八名を以下「第一原告」と略称する。)と被告との間においてこれを取消し、訴外藤野良雄が同日同人及び訴外日進工業株式会社両名の被告に対する共同債務金四百万円の売渡担保として別紙物件目録記載の(ハ)、(ニ)の各物件の所有権を被告に移転した行為は原告鈴木仁三郎及び同藤野美咲(以上原告二名を以下「第二原告」と略称する。)と被告との間においてこれを取消す。

二、被告は第一原告に対し別紙物件目録記載の(イ)の不動産について東京法務局台東出張所昭和二十五年六月九日受付第六七六〇号を以て、同目録記載の(ロ)の不動産について同法務局北出張所同年同月十三日付第五五〇九号を以て、それぞれ被告のためなされた訴外日進工業株式会社との間の売買による所有権移転登記の各抹消登記手続をなし、且つ、第一原告に対し同目録記載の(ハ)の動産の引渡をせよ。

三、被告は第二原告に対し同目録記載の(ニ)の不動産について同法務局北出張所同年同月十三日受付第五五〇八号を以て、同目録記載の(ホ)の不動産について同法務局台東出張所同年同月九日受付第六七六二号を以て、それぞれ被告のためなされた訴外藤野良雄との間の売買による所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、訴外日進工業株式社会(以下「日進工業」と略称する。)はゴム製品の製造を業とする会社、訴外藤野良雄はその代表取締役、被告はゴム履物等の卸売を業とする会社である。

二、日進工業は昭和二十四年十一月頃被告との間にゴム短靴の継続的売買契約を結び、その取引関係において昭和二十五年六月五日現在、被告より受領した代金前受金合計約金四百万円に相当する商品引渡債務を負担していたが、日進工業は被告に対する右債務のほか、同日現在において、別紙第一債権者目録記載のとおり第一原告を含む債権者二十六名に対し合計金八百七十八万五千七百八十七円、うち第一原告に対し合計金四百万九千百五十円の債務を負担しており、又藤野良雄は、同日現在において、別紙第二債権者目録記載のとおり第二原告を含む債権者五名に対し合計金二百二十五万円、うち第二原告に対し合計金六十五万円の個人債務を負担していた。

三、しかるところ日進工業は同年三月中旬頃から債務がかさみ、支払の資力が減じ、資産としては別紙目録記載の(イ)、(ロ)の各不動産及び(ハ)の動産が唯一のものであり、又藤野良雄も同目録記載の(ニ)、(ホ)の各不動産が唯一の財産で、それぞれ他に資産がないという状態になつていたにも拘らず、日進工業及び藤野良雄は同年六月五日被告との間に、それぞれ他の債権者を害することを知りながら、日進工業は被告に対する右債務金四百万円に基き、藤野良雄はその引受をなす意味において、新たに被告に対し共同債務金四百万円を負担すべき旨の和解をなし、その共同債務の担保として、日進工業は右(イ)、(ロ)の各不動産及び(ハ)の動産、藤野良雄は右(ニ)、(ホ)の各不動産の所有権をそれぞれ被告に移転し、日進工業及び藤野良雄において昭和二十六年五月末日までに右金四百万円を支払つたときは右各物件の返還を受け得る旨の所謂売渡担保契約を締結して、右(イ)の不動産については東京法務局台東出張所同年六月九日受付第六七六〇号を以て、(ロ)の不動産については同法務局北出張所同年同月十三日受付第五五〇九号を以て、(ニ)の不動産については、同法務局北出張所同年同月十三日受付第五五〇八号を以て(ホ)の不動産については同法務局台東出張所同年同月九日受付第六七六二号を以て、それぞれ被告のため売買名義による所有権移転登記を了し、且つ(ハ)の動産を被告に引渡した。

四、ところで日進工業に対する債権で現存するものは、右被告の債権を除けば、別紙第一債権者目録記載のとおり第一原告を含む債権者二十六名については合計金八百三十万八千八百三十七円、うち第一原告については合計金三百九十七万七千百五十円、藤野良雄に対する現存債権は、同じく右被告の債権を除けば別紙第二債権者目録記載のとおり第二原告を含む債権者五名については合計金百五十万円、うち第二原告については合計金六十五万円であり、日進工業及び藤野良雄において今日までにその資産を恢復した事実はない。

五、してみると、日進工業及び藤野良雄と被告との間の前記売渡担保契約は同訴外人等の唯一の資産である別紙物件目録記載の不動産及び動産につき被告のためにのみ優先的担保責任を生ぜしめ、その反面一応他の債権者等に対する担保能力を喪失せしめ、以て共同担保を皆無ならしめたものというべきであるから、他の一般債権者を詐害するものとして、原告等は民法第四百二十四条に基き被告に対し主文第一乃至第三項掲記のとおり右売渡担保契約の取消、不動産についての登記抹消手続、及び動産についての引渡を求める。」

と述べ、被告主張の抗弁事実を否認し、

立証として、甲第一乃至第五号証、同第六号証の一、二、同第七号証の一乃至三を提出し、証人藤野良雄(第一乃至第三回)、同福本清治、同関川弘道、同石川光三郎、同川島博の各証言及び原告近藤惇平本人尋問の結果を援用し、「乙第二号証、同第六乃至第十号証、同第十二、十三号証の各成立は認めるが、同第十一号証の成立は不知。その他の同号各証の成立は否認する。」と述べた。

被告訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として、

「一、原告等主張の請求原因第一項は認める。

二、同第二項のうち、被告が昭和二十四年十一月頃日進工業との間にゴム短靴の継続的売買契約を結んだこと、及び被告が日進工業に対し昭和二十五年六月五日までに約金四百万円を手渡し、それにより同額の債権を有することは認めるが、右約金四百万円が前記契約に基く代金前渡金として手渡されたことは否認する。日進工業及び藤野良雄が被告以外に原告等主張のような債務を負担していたことは知らない。

三、同第三項のうち、日進工業及び藤野良雄の資産が原告等主張のとおりであること、及び同訴外人等が昭和二十五年六月五日被告との間に共同して債務金四百万円を負担すべき旨の和解をなし、右債務につき同訴外人等の所有する原告等主張の不動産及び動産について原告等主張のような売渡担保契約を結び、そのうち不動産についてはそれぞれ原告等主張のような登記を了、且つ動産の引渡をなしたことは認めるが、その他の事実は否認する。

四、同第四項は知らない。

五、被告が日進工業及び藤野良雄との間に前記売渡担保契約を結んだ事情は次のとおりである。

すなわち被告は昭和二十四年十一月頃日進工業との間にゴム短靴の継続的売買契約を結び、その取引関係において、昭和二十五年二月七日現在商品代金の前渡残合計金百四十二万円余を存したが、同日日進工業は被告に対し工場設備拡張費に充てるためと称し日進工業所有の工場設備一切(別紙物件目録のうち(イ)、(ロ)、(ハ)の各物件)及び代表取締役藤野良雄個人所有の不動産(別紙物件目録のうち(ニ)、(ホ)の各物件)を担保に約金四百万円の新規借款を申込んで来た。被告は当時日進工業の業績の優秀なことを信じていたし、工場設備拡張の必要も認めたので、日進工業の申込を承諾し、同日現金を以て金百万円を貸与し、残金三百万円は手形を以て貸与することとして同日被告振出の同年三月、四月、五月の各末日を満期とする額面金百万円宛合計三通の約束手形を交付した。なお被告はその後も日進工業の要請によつて同会社に対し同年二月十五日に金三十万円、同月二十六日に金五十万円、同年三月二十五日に金二百万円、同年四月二十四日に金五十万円及び同年五月二十九日に金二十二万円をそれぞれ融通したので、それまでに同会社から引渡を受けた商品相当額を差引くときは、同年六月五日現在において被告が日進工業に対して有する債権額は合計金四百十七万一千百三十六万円四十銭となつた、そこで、被告は同日日進工業及び藤野良雄との間に、前記申入の趣旨に従い、右債権を金四百万円に打切り、新たに藤野良雄を債務者に加えて、日進工業及び藤野良雄をその共同債務者とする旨の和解をなすとともに、原告等主張の不動産及び動産について原告等主張のような売渡担保契約を結んだのである。

以上のような次第であつて、前記売渡担保契約は日進工業の営業上の資金獲得の必要のためなされたものであるから、詐害行為を以て目すべきではない。

仮に、右契約が日進工業及び藤野良雄の一般債権者を害する行為に当るとしても、その当時、被告は同訴外人等が他に原告等主張のような多額の債務を負担していることは知らなかつたものであるから、被告に詐害の意思はない。

従つて、原告等の本訴請求は失当である。」

と述べ、

立証として、乙第一乃至第十三号証を提出し、証人平尾東策、同大覚次郎、同箱崎丈助の各証言及び被告会社代表者西尾貞治郎本人尋問(第一、二回)の結果を援用し、「甲第一乃至第四号証の成立は認めるが、その他の同号各証の成立は知らない。」と述べた。

理由

一、先ず原告等及び別紙第一、二各債権者目録記載の債権者が日進工業に対して有するという債権の存否について判断する。証人藤野良雄(第一回)の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第五号証、証人藤野良雄(第一回)、同石川光三郎、同川島博の各証言を綜合すれば、「もと日進工業に勤務し帳簿関係を取扱つていた石川光三郎が、昭和二十六年四月同会社の代表取締役藤野良雄からの依頼により、昭和二十五年六月五日現在及び昭和二十六年四月三十日現在の日進工業及び藤野良雄個人の被告以外に対する債務につき帳簿等に基いて調査し、その明細を報告したところによれば、右各債務は別紙第一、二各債権者目録記載のとおりであつた」。ことが認められ、昭和二十六年四月以降現在に至るまで右各債務につき増減のあつたことを窺わしめるに足る証拠はないから、日進工業に対し第一原告を含む別紙第一債権者目録記載の債権者二十六名の有する債権は、昭和二十五年六月五日現在において、同目録記載のとおり合計金八百七十八万五千七百八十七円、うち第一原告の債権は合計金八百七十八万五千七百八十七円、それらの債権で現存するものは、右債権者二十六名の債権としては合計金八百三十万八千八百三十七円、うち第一原告の債権としては合計金三百九十七万七千百五十円、藤野良雄に対し第二原告を含む別紙第二債権者目録記載の債権者五名の有する債権は、昭和二十五年六月五日現在において、同目録記載のとおり合計金二百二十五万円、うち第二原告の債権は合計金六十五万円、それらの債権で現存するものは、右債権者五名の債権としては、合計金百五十万円うち第二原告の債権としては合計金六十五万円であることが認められる。

二、次に、日進工業及び藤野良雄が別紙物件目録記載の不動産及び動産を被告のため売渡担保に供した行為が果して「一般債権者を害する行為」にあたるかどうかを判断する。

日進工業及び藤野良雄が昭和二十五年六月五日現在においてそれぞれ原告等主張のような不動産及び動産を所有していたこと、及び右は当時同訴外人等の唯一の資産であつたこと、並びに同訴外人等が同日被告に対し金四百万円の共同債務を負担すべき旨の和解をなし、その共同債務の担保として、右不動産及び動産の所有権を被告に移転し、同訴外人等において昭和二十六年五月末日までに右金四百万円を支払つたときは右各物件の返還を受け得る旨の所謂売渡担保契約を締結して、そのうち不動産についてはそれぞれ原告等主張のような所有権移転登記を了し、又動産についてはその引渡を了したことは当事者間に争なく、その後今日に至るまでの間において同訴外人が資産を恢復したと認むべき証拠はない。

而して、成立に争のない甲第二乃至第四号証、前記同第五号証証人藤野良雄(第一、二回)の証言により真正に成立したものと認められる同第六号証の一、二、証人平尾東策及び被告会社代表者西尾貞治郎本人尋問(第一、二回)の結果により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人藤野良雄(第一乃至第三回)、同関川弘道、同福本清治、同石川光三郎、同川島博、同平尾東策の各証言、原告近藤惇平及び被告会社代表者西尾貞治郎(第一、二回)の各本人尋問の結果を綜合すれば、次のような事実が認められる。

「日進工業は昭和二十四年九月頃より再生ゴムを使用してゴム短靴等を製造し、同年十一月頃から被告との間にゴム短靴についての継続的売買契約を結び、当初は代金、現物引換の取引であつたのを、当時未だ一般ゴム靴の統制中で右再生ゴムを原料とするゴム短靴の売行が好調であつたところから、被告側より進んで前渡金交付の方式に改め、かくて昭和二十五年一、二月頃にはゴム短靴の月産約三百万円のうち約八割を被告に納入するまでに至り、同年二月七日当時前渡金の残合計金百四十万円を存していたが、日進工業は同日被告から更に前渡金として現金百万円及び約束手形で合計金三百万円の交付を受け、その後同じく前渡金として同月十五日現金三十万円、同月二十六日同じく百五十万円、同年三月二十五日同じく二百万円の各交付を受けた。もつともその間、日進工業も被告に右前渡金に対する商品を引渡していたので、同年六月一日現在では帳簿上右前渡金が合計金三百五十二万円余となり、別に負担していた債務約七十万円と合わせ、当時日進工業が被告に負担する債務は合計約金四百二十万円となつた。ところで一方同年一月に生ゴムの統制が解かれ、次いで同年三月にはゴム製品の統制も解かれたので、その頃から生ゴム及びゴム製品が市場に氾濫するようになり、日進工業の製品は再生ゴム使用のため、売行が激減し始め、資金の融通も円滑を欠き、日進工業は同年六月始め頃は被告に対する前記債務のほか、別紙第一債権者目録記載のとおりの債務を負担し、又藤野良雄も個人として別紙第二債権者目録記載のとおりの債務を負担するに至つた。そこで日進工業としては被告に対しもし資金の融通を受けられるならば被告に対するそれまでの債務の担保として日進工業の工場設備一切(別紙物件目録の(イ)、(ロ)、(ハ)の各物件)の所有権を移転するほか、藤野良雄個人の不動産(別紙物件目録の(ニ)、(ホ)の各物件)の所有権を移転することも辞せない旨申込み、被告も日進工業に対する債権の確保に努力していた折柄とて同年六月二日日進工業及び藤野良雄との間に、日進工業申出の融資の条件を容れそれまでの日進工業に対する債権を確保するため、藤野良雄を新たに債務者に加え日進工業及び藤野良雄の両名が共同して被告に対し金四百万円の債務を負担することとし、その共同債務の担保のため同訴外人等より前記各物件の所有権の移転を受ける旨の覚書(甲第二号証)を取り交したうえ、同月五日その趣旨で東京簡易裁判所において和解(甲第四号証)をなし、前記売渡担保契約を成立せしめた。もつとも日進工業の右物件は当時合計金一千万円の価値を有し、藤野良雄の右物件も合計約金三百万円の価値を有していたのであるから、被告に対する債務金四百万円の担保のためならば、日進工業の右物件だけで十分であつたのであるが、そのほかに藤野良雄の右物件をも担保に入れたのは、被告から受けるべき融資の額をできるだけ多くするためになされたものである。しかるに所期に反し被告は殆んど融資らしい融資をしなかつた。」

以上のような認定がなされる次第であつて、証人平尾東策の証言及び被告会社代表者西尾貞治郎本人尋問(第一、二回)の結果中、右認定に反する供述部分は措信し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定の事実に先に認定した事実を併せ考えれば、日進工業及び藤野良雄は、前記売渡担保契約当時、すでに被告に対する債務約金四百万円のほか、それぞれ別紙第一、二各債権者目録記載のとおりの債務を負担しており、一方日進工業及び藤野良雄の資産といえば、別紙物件目録記載の各不動産及び動産が唯一のもので、他に資産なく、右資産のみが他の一般債権者の唯一の共同担保をなしていたのであるから、右売渡担保契約締結の結果他の一般債権者はその唯一の共同担保を喪失するに至つたものといわなければならない。なんとなれば売渡担保にあつては、期限に債務の履行がない場合債権者において担保物件を換価処分して自己の債権に充当し残余があればこれを債務者に返還するのを原則とするが、この場合においても担保物件の換価処分は一に債権者に委され、他の債権者の介入を許さないものであるから、一旦売渡担保に供させられた物件は、それ自体としては、もはや他の債権者に対する関係においては担保能力を失うものといい得るからである。而して、その後今日に至るまで右訴外人等において資産を恢復したとみるべきものゝないことは前記認定のとおりである。しからば右売渡担保契約は独り被告の利益のために、他の一般債権者を害する行為に該当するものというべきである。

三、次に、詐害の意思の有無について判断する。

先ず、債務者たる日進工業及び藤野良雄の詐害の意思については、証人藤野良雄もその供述において自認するところであるのみならず、先に認定した事実から判断して、これを肯定するに十分である。

次に、受益者たる被告は詐害の意思の有無につき善意であつた旨主張し、被告会社代表者西尾貞治郎本人尋問(第一、二回)の結果中には右主張に副う供述部分があるけれども、同供述部分は措信し難く、他に右主張を認めるに足る何等の証拠なく、却つて、先に認定した事実に証人藤野良雄(第一乃至第三回)の証言を併せ考えれば、被告も詐害の意思があつたものと認められる。

四、よつて最後に、取消の範囲について考えてみる。詐害行為取消権に基き、債権者が取消し得る範囲は、原則として取消権を行使せんとする債権者の債権額の限度に限られ、しからざるも自己の債権の保全に必要な限度に限らるべきところ、先に認定したように日進工業の前記不動産及び動産の価格は当時合計約金一千万円、藤野良雄の前記不動産が同じく合計約金三百万円であり、その後現在までに右物件の価格が先に認定した第一、二各原告の債権現存額以下に下落したと認められる証拠はないから、本件において右現存債権額を超える範囲において取消権を行使し得るかについて論議の余地はある。しかし、先ず第一原告の取消し得る範囲については、日進工業の右各物件が別紙物件目録(イ)、(ロ)、(ハ)の各物件以上には分割し得ないものであるのみならず、仮に、分割し得る範囲内で第一原告の債権額限度で取消をしても、取戻した日進工業の財産はそのまま第一原告の債権の弁済に充てられることなく、他の債権者(その債権者には別紙第一債権者目録記載の第一原告以外の債権者のほか被告も含まれ、その債権総額は第一原告のそれと合わせ優に一千万円を超過する。)もその財産から弁済を求めることとなり、結果第一原告はその債権全部の救済を求め得ないことになるから、右不動産及び動産の全部に及ぶもものと解すべきである。次に、第二原告を含む別紙第二債権者目録記載の債権総額で現存するものは金百五十万円で、うち第二原告の債権は金六十五万円であるから、合計約金三百万円の不動産全部について取消を求める必要はないと一応はいい得るが、同不動産は別紙物件目録(ニ)、(ホ)の各物件以上に分割し得ないものであるのみならず、右物件のいずれか一方のみで右債権金百五十万円の救済を求め得ると認むべき証拠はないから、結局第二原告の取消し得べき範囲も右不動産全部に及ぶと解せざるを得ない。

如上説示のとおりとすれば原告等の本件詐害行為取消請求は正当であるから、日進工業及び藤野良雄と被告との間の売渡担保のためにする前記不動産及び動産の所有権移転行為はこれを取消すべく、従つてそのうち不動産についてなされた所有権移転登記の抹消登記手続及び動産の引渡を求める請求も理由ありとして認容せらるべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古山宏)

物件目録

(イ)、工場(日進工業株式会社所有)

東京都台東区三ノ輪町百五番地所在

家屋番号 同町百五番の四

一、木造瓦亜鉛交葺二階建工場 一棟

建坪 九十六坪二合五勺 外二階六坪

附属

一、木造瓦葺平家建事務所 一棟

建坪 三坪七合五勺

(ロ)、工場(日進工業株式会社所有)

東京都荒川区尾久町六丁目四百八十七番地所在

家屋番号 同町四百八十七番

一、木造瓦葺平家建工場電機室 一棟

建坪 六十四坪

以下附属

一、木造木皮葺平家倉庫 一棟

建坪 十坪

一、木造瓦葺平家建事務所 一棟

建坪 十四坪

一、木造ルーヒング葺平家建宿直室 一棟

建坪 三坪七合五勺

一、木造ルーヒング葺平家建便所 一棟

建坪 五合

一、木造ルーヒング葺平家建湯場 一棟

建坪 一坪五合

(ハ)、〈イ〉、工場設置機械設備工具(日進工業株式会社所有)

品名          数量

1  プレス(十屯ハイドリツクプレス)   二台

2  同 (スチームハンドプレス)   三十四台

3  ボイラー(コルニツシユ三、五×八尺) 一基

4  煙突(八十尺鉄筋コンクリート)    一基

5  裁断機(大小)            二台

6  セーバー(二十吋)          一台

7  ボール盤(大小)           二台

8  グラインター             一台

9  シンガーミシン            八台

10 アリアンズ機             二台

11 ガソリンエンヂン付発電機       一台

12 焼プレス               七台

13 日進式圧着布靴金型         十一面

14 同 タルマ靴金型          四十面

15 同 タルマ靴ニユーム金型(特殊)  三十面

16 スリツパ金型             二面

17 草履花緒共金型            八面

18 張付布靴金型(子供)        五百足

19 同 (大人)            二百足

20 日進式長靴金型            百足

21 同 スリツパ及び短靴サンダル金型  五十足

22 自転車タイヤ金型           八面

23 靴打抜型              二百個

24 輸出用ゴム玩具金型          八面

25 金型原型木型             百個

〈ロ〉、工場設置機械設備工具(日進工業株式会社所有)

品名          数量

1 製錬用ゴムロール(十二吋×二十四吋)  二台

2 ロール(十四吋×三十二吋)同ロールに附帯せる一切の設備

三台

3 ボイラー及びこれに附帯せる一切の設備  一基

4 煙突                  一本

5 蒸釜                  二基

6 自家用変電設備             一式

7 井戸タンク輸水管及びこれに付帯する設備

8 裁継機                 一基

(ニ)、工場敷地(藤野良雄所有)

東京都荒川区尾久町六丁目四百八十七番地の二

一、宅地 百七十六坪五合三勺

(ホ)、居宅(藤野良雄所有)

東京都台東区三ノ輪町百十四番地所在

家屋番号 同町三百四十一番

一、木造瓦葺二階建店舗 一棟

建坪 三十坪五合外二階十坪五合

第一債権者目録(債務者日進工業株式会社)〈省略〉

第二債権者目録(債務者藤野良雄)〈省略〉

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