大判例

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東京地方裁判所 昭和27年(行)138号 判決

原告 石塚芳雄

被告 下谷税務署長

主文

被告が訴外同盟印刷株式会社に対する国税滞納処分として昭和二十七年四月十二日別紙目録記載の物件についてなした差押処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求めその請求原因として、被告は訴外同盟印刷株式会社(以下同盟印刷と略称する)の滞納税金を徴収するため同会社に対する国税滞納処分として昭和二十七年四月十二日別紙目録記載の物件(以下本件物件と略称する)を差押えた。然しながら本件物件はもと同盟印刷の所有であつたが、同盟印刷は昭和二十五年十月一日訴外綿谷喜一郎こと白川喜一郎から金三十四万円を同年十月二十五日限り弁済する約束で借受け同時にその債務担保の趣旨で本件物件及びその他印刷機三台を右綿谷に対して譲渡し、同盟印刷が右債務を弁済期迄に完済したときには本件物件を含む右譲渡物件を取戻し得るが、その完済がないときは債務弁済の代償として、取戻権を失う旨の譲渡担保契約を結んだのであるが、同盟印刷は弁済期迄に債務を弁済することができなかつたので取戻権を喪失したので綿谷は昭和二十五年十月三十一日訴外原ひさに対し本件物件その他の印刷機三台を代金二十二万円で売渡し、更に右各物件は右原から同年十一月二十五日訴外小川寿雄に対し代金二十二万円で売渡された、そして原告は昭和二十七年二月七日右小川から本件物件を代金八十五万円で買受け同日内金三十五万円同年三月三十日残金五十万円を支払いその所有権を取得したが当時本件物件は訴外三興印刷株式会社で保管していたので小川の指図により同会社は爾後原告のため占有することになつたものである。従つて本件物件が同盟印刷の所有に属するものと誤認して為された本件差押は違法であり、取消さるべきものである。被告の答弁事実中小川寿雄が同盟印刷の代表取締役であることは認めるが元来小川は本件物件の所有であつたのを同盟印刷設立の際同会社にこれを譲渡したという縁故があつたので、すでに述べたように本件物件が原ひさの所有に帰したとき、これを再び自己の手に戻すため、昭和二十五年十一月二十五日、その所有に係る東京都台東区車坂町四十八番地所在家屋番号同町四十八番の三、木造瓦茸二階建工場一棟を担保として綿谷から四十六万円を借受け、その借用金の一部で本件物件を原から買取つたものであつて、被告主張のような関係ではない。と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告の主張事実中、被告が訴外同盟印刷の滞納税金徴収の為め、同会社に対する国税滞納処分として昭和二十七年四月十二日本件物件を差押えたこと、本件物件が同盟印刷の所有であつたこと並びに同盟印刷が本件物件を原告主張の如き譲渡担保として訴外綿谷喜一郎から資金を借受けた事実のあることは認めるがその余の事実はすべて否認する。同盟印刷は昭和二十五年十月十二日訴外綿谷喜一郎から金二十万円を同月二十六日迄に返済する約束で借り受け、その担保として本件物件を右綿谷に譲渡した。然して同盟印刷は期限迄に返済できなかつたが綿谷から弁済の猶予を得、訴外原ひさから同年十月三十一日に同年十一月十五日迄に返済する約束で金二十二万円を借受け、同日これで綿谷に対する借入金の元利を返済して担保物であつた本件物件を取戻し更に原に対し右物件を譲渡担保に差入れることゝしたが、その取戻並びに差入れの方法として綿谷から原に対し直接本件物件を売却した形式をとつたのである。原からの借入金は同盟印刷の代表取締役である訴外小川寿雄が同盟印刷の代表者として別に綿谷喜一郎から弁済資金を借りてその借用金で原に対し同年十一月二十五日元利金全部を返済し、同盟印刷は本件物件の所有権を取戻したものである。仮にそうでなく、原告がその主張のように小川から本件物件を買受けて所有権を取得したものだとしても本件差押に先立つて原告が本件物件の引渡を受けたことはないのだから、原告はその所有権取得を被告に対抗することはできないと述べた。(立証省略)

理由

被告が訴外同盟印刷の滞納税金を徴収するため同会社に対する国税滞納処分として昭和二十七年四月十二日本件物件を差押えたことは本件当事者間に争がない。そこで本件物件が原告の所有に属するものであるかどうかについて考える。

本件物件がもと同盟印刷の所有であり、同会社が右物件を原告主張の内容の譲渡担保として訴外綿谷喜一郎より資金を借受けたことも本件当事者間に争がない。(従つて成立に争のない甲第八号証からすれば本件物件を一旦同盟印刷が綿谷に売つたものを、同盟印刷が買戻す契約をしたように見えるが、譲渡担保であることは当事者間に争がないので甲第八号証の記載内容は採らない。但し実質的には担保として同様の作用をするにしても、譲渡担保、買戻約款附売買、再売買の予約等は法律構成並に法律上の効果を異にし、当事者が法律上何れの構成を採用したかにより、その採用の形式による法律上の効果が生ずることは言うまでもないので後記認定事実もこの点が要点となる。)ところで当事者間に争のない上叙事実と確定日附の成立に争なく、その余の部分は証人原ひさ、白井義守の各証言によつて真正に成立したと認められる甲第九号証、日附印の成立に争なくその他の部分について証人白井義守の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証証人小川寿雄、原ひさの各証言により真正に成立したと認められる甲第五、第七号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三号証、証人小川寿雄の証言並びに原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第四号証の一、二、証人小川寿雄、原ひさ、白川喜一郎の各証言並びに原告本人尋問の結果を綜合すれば、同盟印刷は訴外波多野勝から四十八万円の借入金があり、昭和二十五年十二月二十三日頃迄に弁済することになつていたところその資金がなかつたのでこれを調達するため本件物件及び四六全版オフセツト刷版機一台、三号オフセツト製版機二台を譲渡担保として訴外綿谷喜一郎に譲渡すると共に同人から金三十二万円(内十二万円は訴外白井義守の同盟印刷に対する債権を肩がわりしたもの)を弁済期昭和二十五年十月二十五日と定め右弁済期までに弁済すれば前示各物件を同盟印刷において取戻し得るが、弁済期までに弁済しないときは弁済の代償として担保物件の取戻権を失うという約旨の下に借受けたが右弁済期迄に同盟印刷は右借入金の支払をしなかつたため取戻権を失つたので綿谷は昭和二十五年十月三十一日右物件を訴外原ひさに代金二十二万円で売渡したところ本件物件はもともと訴外小川寿雄の所有であつたのを同盟印刷設立に際り、出資のため同盟印刷に譲渡した関係があり、小川としては同盟印刷に嫌気がさして居たので将来個人で印刷業をはじめるため本件物件を再びその手に収めたいというので原ひさに買取方を申入れ、同人から昭和二十五年十一月十五日までに代金二十二万円を支払へば前示物件(五台共)を小川に売渡すとの承諾を得たけれども買取資金に窮しその所有の東京都台東区車坂町四十八番地の木造瓦茸二階建工場一棟坪三十坪二階三十坪を担保にして綿谷喜一郎から新に四十六万円借受けその借用金の一部で昭和二十五年十一月二十五日原ひさから右物件を二十二万円で買受けたが、その後借財整理の必要上昭和二十七年二月七日原告に対し本件物件を八十五万円で売渡し、同日内金三十五万円、同年三月三十日残金五十万円の支払を受けその所有権を原告に譲渡したけれども、当時本件物件は小川寿雄が訴外三興印刷株式会社に賃貸していたことが認められる。証人白井義守の証言中右認定に副わない部分は上叙認定の各証拠に照して措信できないし他に右認定を左右できる証拠はない。

被告は本件物件を原告において取得したものとしても原告に対する引渡がないからその所有権取得を以て差押債権者である被告に対抗できないと主張するので、この点につき考へると、(本来私法上の取引安全確保のための対抗要件の民法の規定が、徴税等の公法関係にそのまま適用さるべきものかどうかの点を暫く措くとして)被告は少くとも本件物件が担保のためにもせよ差押前に同盟印刷から綿谷に譲渡されたことを認めている(対抗要件はそれがなくとも対抗される地位にある者が認めるときは対抗要件がなくともよいことは言うまでもない。)のであり、その後同盟印刷が本件物件の所有権を回復した事実のないことはすでに認定したところによつて明であるから被告は原告の本件物件の取得を仮に否定し得たとしても、被告の差押そのものは同盟印刷以外のものの所有件を差押へたことの違法性を脱却することはできないわけである。ところで物権変動の対抗要件の欠缺の場合、その物権変動を否定することによつて、自己の物権関係を適法化することのできるものでなければ正当な利益を有する第三者とはいえないので対抗要件の欠缺を主張できないのであり、被告は原告の本件物件の取得を否定しても、納税義務者のものでないものを差押へたという違法を適法化できないのであるから、引渡のないことを理由として原告の所有権の取得を否定できないと言わなければならない。して見れば被告の本件差押を違法として取消を求める原告の本訴請求は正当であるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯山悦治 荒木秀一 鈴木重信)

(目録省略)

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